【コラム】『零』シリーズを振り返って
ハロウィーンの時期には、毎年必ず様々なホラー・ゲームの特集記事が組まれている。今年は、記者が「最恐のゲーム」と呼ぶ『零』シリーズを取り上げたGame Informerのコラムをお届けする。
心底震え上がったゲームは幾つあるかな?『零』シリーズは幅広い客層を獲得するには至っていないかもしれないが、経験者なら、最も印象的なホラー・フランチャイズの一つであることは否定できないだろう。実際、私は『零』シリーズが最恐のゲームだと考えているし、それは私だけではないはずだ。ディレクターの柴田 誠氏は、1作目をプレーした人の殆どが、あまりの恐怖からクリアできなかったことを認めている。恐ろしい人影から狂った物語まで、背筋も凍るアドベンチャーには手に汗握る。
このハロウィーンには、プレーヤーの精神を弄び、内なる恐怖に立ち向かわせることを楽しむ、このフランチャイズを祝福したい。『零』シリーズは、PS2で発売された3本の本編とスピンオフが北米で発売されている。残念ながら、Wiiで発売された4作目は北米市場では発売されず、Wii Uの5作が欧米でリリースされることもなさそうだ。
1作目を起動した際に画面に表示される「実話に基く」という一文を、私は忘れることができない。現実を基にしたホラー・ゲームというのはプレーしたことがなかったせいか、余計に怖くなった。どうやら、陰惨な殺人事件と超自然的な現象で日本では有名な氷室邸を基にしているらしい。『零 zero』のリリースでより伝説的な側面が強まったものの、スタート・ボタンを押す前からプレーヤーの潜在意識に植え付けられるという事実に変わりはない。このフランチャイズは古代の儀式を描いており、それが非常に恐ろしい。1作目では、手足を縛られた犠牲者が体をバラバラにされてしまう「裂き縄の儀式」について知ることになる。行方知らずとなった兄を探して邸宅を探索していると、縄のような痣が手首に現れ、次の犠牲者は自分だということを示唆。事情が飲み込めてくると、事態は意外な方向へ。
『零〜紅い蝶〜』では、「紅贄の儀式」をメインのプロットラインとして用いている。10年に一度、双子の兄もしくは姉が、弟もしくは妹を絞め殺さなければならないという、呪われた村が物語の中心。犠牲者の魂は紅い蝶となり、村を守るのだ。この村の残酷な要求に囚われた双子の姉妹を主人公に話は二転三転、エンディングによっては極めて恐ろしい展開を見せる。『零〜刺青の聲〜』の土台となるのは、「刺魂の儀」。1人の人間が世界の悲しみ全てを刺青という形で背負っていくという儀式だが、その人物が君の夢に侵入し、体に傷をつけ始めたら?
どの物語もとにかく怖いのだが、『零』は人間関係を掘り下げるのが実に上手く、登場人物たちが大切にしているもので苦しめるのである。虐げられた霊たちが恐ろしいのは、彼らが受けた仕打ちと復讐心が理解できるからだ。情け容赦ないのも当然である。幽霊に追われる理由、主人公が大局的にどう関わってくるのかを解明していくことが、このシリーズの面白さでもある。状況やその結果は決して紋切り型ではなく、予期せぬ(より悲惨な)どんでん返しが常に待ち受けている。脚本には一切手加減がなく、それを正々堂々と見せ付ける。一歩進んだ次の瞬間には、誰かの手が肩に置かれたり、恐ろしい拷問のフラッシュバックが展開したりするのである。
巧みなカメラ・メカニックに触れずして、『零』を語ることはできない。幽霊に対する唯一の対抗手段がカメラというのは馬鹿げて見えるかもしれないが、『零』はこのフィーチャーを用いて恐怖を増幅させる。
敵にダメージを与えるためには、プレーヤーが恐怖を正面から見据え、自らを無防備な状態に置かなければならないのだ。大きなダメージを与えたければ、冷酷な幽霊にピントを合わせる必要がある。幽霊がプレーヤーに近いほど、大きなダメージを与えることができる。その結果、プレーヤーは常に自らを危険に晒し、幽霊が向かってくるように仕向け、タイミングを待って写真を撮ることになる。これが戦闘に緊迫感をもたらしており、ミスへのプレッシャーを感じることになる。ミスをしてしまうと、ダメージを食らうだけでなく貴重なフィルムを無駄にしてしまうことになるからだ。
カメラも幽霊との遭遇を知らせてくれる。幽霊が近くにいると青、攻撃的な幽霊の場合は赤く光り、即座に危険を知らせてくれるのだ。カメラ要素は実に素晴らしい。ここまで無防備な状態で恐ろしいクリーチャーとの対決を強いられることがあるだろうか?逃げたり隠れたり、腕力や銃に頼ることが得になるホラー・ゲームは多い。対決には充実感があり、かなりの部分で、それこそ『零』の真骨頂。己の恐怖心から逃げるのではなく、立ち向かわせるのだ。
『零』フランチャイズ最大の魅力は、マインド・ゲームだろう。その不明瞭さこそがこのシリーズの真髄。今、目の端に何かが見えたのだろうか?このシリーズが引き出す純粋な恐怖心こそ、私が一番気に入っている部分だ。次に向かう場所を探していると、突如として眼下の部屋に幽霊が見える。近づきたくないにもかかわらず、近づかなければならないのだ。
サウンドとビジュアルは素晴らしく、恐怖を安売りすることは決してない。歩いている時は自分の足音だけが聞こえるが、往々にして一瞬何か物音が聞こえたり、血の痕が見えることで異常を知らせる。何もない部屋に足を踏み入れた途端死体だらけになるなど、名状しがたい演出が恐怖を盛り上げるのである。誰に見られているか、何が待ち受けているのか、全く分からない。幽霊は突如として頭上に現れ、最悪の場合は背後に立っているのだ。
『零』はサスペンスが全て。危険が訪れるとコントローラーが心拍のように振動すらするのである。それでも、幾ら身構えようとも、遂にその瞬間が訪れた時には不意を突かれてしまう。『零』ほど容赦なくプレーヤーを弄ぶゲームは殆ど存在しない。
ソース: Game Informer