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嫦娥五号試験機、月との往復航行を終え地球に帰還 約40年ぶりの快挙
November 2 - 2014 - 科学衛星
Image credit: 国家国防科技工业局
月から探査機を帰還させる技術の試験のために打ち上げられた、中国の「嫦娥五号試験機」が、11月1日に地球への帰還に成功した。これにより中国の月探査計画「嫦娥」は、新たな段階に向けて大きく前進した。また、月からの探査機の帰還に成功したのは実に約40年ぶりのこととなる。
嫦娥五号試験機は、2017年に打ち上げを予定している「嫦娥五号」の開発に役立てるため、地球と月との往復航行や、第2宇宙速度に匹敵する高速で地球の大気圏に再突入する技術などの実証を目的としていた。
試験機は長征三号丙改二型ロケットに搭載され、中国標準時2014年10月24日2時00分(日本時間2014年10月24日3時00分)、四川省にある西昌衛星発射センターの2号発射台から離昇した。そして自由帰還軌道(Free return trajectory)と呼ばれる、大きなエネルギーを使うことなく地球と月との間を往復することができる軌道へ投入された。この軌道は過去にソヴィエトのゾーント計画でも使われた他、アポロ計画でもミッション中に事故などが発生した際に、月周回軌道への投入や月への着陸を行わずに帰還するための軌道として設定されており、実際にアポロ13ミッションで使用されたことは有名だ。
そして28日の夜に月の裏側を回り、今度は地球へ向けて飛行を続けていた。
試験機はスラスターや太陽電池パドル、通信機器などを搭載するサービス・モジュールと、帰還カプセルの、大きく2つの部分から構成されており、公開されている想像図によれば、サービス・モジュールは「嫦娥一号」、「嫦娥二号」と同じ、通信衛星「東方紅三号」の衛星バスが使われているようだ。また帰還カプセルは有人宇宙船「神舟」のものを小さくしたような形をしている。
帰還カプセルは11月1日6時53分(日本時間、以下同)、地球から約5,000km離れた場所で分離された。そしてカプセルは7時10分に大気圏に再突入し、大気圏の上層部をスキップするように飛行し速度を落としつつ飛行、やがて7時22分に完全に大気圏内に入った。その後7時32分、高度10kmでパラシュートを展開し、7時42分に地表へ着陸した。
月からの探査機の帰還に成功したのは、1976年8月22日に帰還したソ連のルナー24以来、約38年ぶりのこととなる。ただしルナー24は、月面に着陸して石を採取して持ち帰ってくるという、嫦娥五号試験機より数段上の技術力を要するミッションであった。今回と同じような自由帰還軌道を使ったミッションは、1970年10月27日に帰還したゾーント8以来、約44年ぶりのこととなる。
なおいくつかの報道によれば、サービス・モジュールはカプセルの分離後、スラスターを噴射して軌道を変え、地球と月のラグランジュ2(L2)へ向かい、さらにその後、月軌道に入り、嫦娥五号の運用に向けた実績を積むとのことだ。
中国は長期的な月探査計画を持っており、またミッションの目的に応じて、その内容は大きく3段階に分かれている。その第1期は月軌道の周回、第2期では月面への着陸、そして第3期は月面に着陸してサンプル採取し、地球へ持ち帰るサンプル・リターンを実施する。
第1期は嫦娥一号と嫦娥二号の成功によって完了し、第2期も嫦娥三号が成功し、現在も着陸機と探査車の両方が活動中だ。また同型機の嫦娥四号が計画されている。
そして第3期として現在、嫦娥五号の開発が進んでいる。嫦娥五号は月への航行、月周回軌道への投入、月面着陸とサンプル採取、そして月からの離陸と周回軌道上でのカプセルと軌道器とのドッキング、そして月周回軌道からの離脱と地球への帰還という複雑な工程を経る。だが、月への探査機の打ち上げや、軌道上での無人機同士のドッキングなどはすでに実績があり、そして今回、試験機がミッションに成功したことで月からの帰還技術も手に入れ、嫦娥五号の実現可能性は大きく高まった。
なお、打ち上げに使われた長征三号丙改二型ロケットの第3段も試験機とほぼ同じ軌道に乗っており、やはり月の裏側を回り、地球へと帰ってくる。それを利用し、第3段にはルクセンブルクの宇宙企業Luxspace社が開発した4M(Manfred Memorial Moon Mission)と呼ばれる、質量14kgほどのビーコンを発信する装置が搭載されている。試験機と同様、第3段とこの装置も地球へ再突入する見込みだ。ただし第3段は軌道修正を行えないため、約10%ほどの確率で、大気圏に跳ね返され、別の軌道に乗る可能性もあるという。現時点でこの第3段、4Mに関する情報はない。
■探月工程三期再入返回飞行试验获得圆满成功
http://www.sastind.gov.cn/n112/n117/c431526/content.html
Written by 鳥嶋 真也
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