JR山田線:「列車通学したいのに」不通長期化 岩手
毎日新聞 2014年11月01日 21時47分(最終更新 11月01日 22時04分)
東日本大震災で大きな被害を受け不通となった岩手県沿岸のJR山田線宮古−釜石(55.4キロ)間の運行再開の見通しが立たない。第三セクター・三陸鉄道(三鉄)が今年4月に全線復旧したのとは対照的だ。JR東日本は三鉄への経営移管を提案したが、JR東の支援策などで折り合いが付かないことが背景にある。地元住民は、混雑する並行路線バスの利用を余儀なくされている。【安藤いく子】
日が暮れた午後6時過ぎ。宮古市の宮古駅前バス乗り場には、帰宅する高校生約30人が列をなす。約15キロ離れた豊間根(とよまね)駅(山田町)近くまで乗る県立宮古高校3年、佐々木柚紀(ゆき)さん(17)は「いつも混んで疲れる。列車ならこんなことないのに」。バスに乗るとたちまち、混み合う乗客の人いきれで窓ガラスが曇った。
沿線には高校が5校あり、県教委によると、バス通学の生徒は約300人。宮古駅から沿線中間の陸中山田駅まででみると、震災前は上下で列車1日20本、路線バス16本。震災後はバスが48本と合計便数は増えたが、列車は1両の定員約80人で朝夕は2両編成以上で運行していた。バスは1台約50人が上限だ。
宮古駅から南約10キロの津軽石駅前バス停(宮古市)。ここを利用する生徒を対象にした、近くの県立宮古工高の調査では、回答者33人中20人が満員で乗れなかったことがあると答えた。バス会社は臨時便を出すこともあるが、「運転手不足などで大幅増便はできない」と話す。
山田線は全国有数の赤字路線で、JR東は運行から撤退する方針だ。今年1月、駅舎や線路を210億円で復旧させ三鉄に移管する案を地元に提案した。2月には10年分の赤字見込み5億円を補填(ほてん)する案も示したが、県や沿線4市町、三鉄は「その額では経営が成り立たない」と増額を求め、その後は進展がない。沿線4市町の住民は9月下旬、県に対し、JRと早期に交渉を進めるよう求めた。
震災があった2011年、佐々木さんは中学2年生だった。「震災前、膝が触れ合うボックス席で、友人と向かい合わせで勉強を教え合っていた兄がうらやましい」。高校生のうちに列車通学はかないそうにない。線路は赤くさび、雑草は伸び放題。その脇を満員のバスが通過する。「これが普通になったと思うと悲しい」とこぼした。