日本銀行が追加の金融緩和に踏み切った。

 市中に出回る現金と銀行の日銀への預金を合わせた金額(マネタリーベース)を、これまで年間60兆~70兆円増やすことを政策の目標にしてきたが、目標を80兆円に拡大する。そのために長期国債や、株価指数に連動する投資信託(ETF)などの買い入れ額を増やす。

 日銀は昨年4月、デフレ脱却を目指して「異次元緩和」を導入した際に「2年程度で、前年比2%の物価上昇を実現」という目標を掲げた。

 今年9月の物価上昇率は消費増税の影響を除くと1・0%。多くの民間エコノミストは15年度も1%強にとどまるとし、日銀の目標達成はほぼ不可能と見られていた。「2年で2%」の目標を掲げ続けるうえで、追加緩和が必要だったのだろう。

 追加緩和をしても、実体経済に与える影響がそれほど大きいとは考えにくい。これまで日銀は前年比数十%増のペースでマネタリーベースを増やしてきたが、銀行の日銀への預金が増えるばかりで、実際に世の中に出回るお金は数%増にとどまっているからだ。

 むしろ狙いは、物価が将来、どれほど上がると考えるのかという、消費者や企業、市場関係者らの期待(予想)に働きかけることにある。

 異次元緩和を導入した際には「市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる」としていたし、今回は「好転している期待形成のモメンタムを維持する」「今まさに正念場。揺るぎない決意を表明する」とした。とらえどころのない「期待」を変えようというだけに「不確実性が大きい」ことは日銀の岩田規久男副総裁も認めている。

 一方で、異次元緩和策は大きな危うさをはらんでいる。すでに日銀の大量購入で短期国債が足りなくなり、短期金融市場ではお金の出し手が損をする「マイナス金利」が広がっている。

 追加緩和で、買い入れる国債の償還日までの平均期間を、現在の7年程度から10年程度に延長する。国債を持ち続ければ、日銀はその分、膨らむ資産とともに大きなリスクを抱える。緩和策からの「出口」を探ることもより難しくなる。

 今回の政策決定に賛成したのは9人の委員のうち5人で、4人は反対した。それだけ効果とリスクのバランスの見極めが難しい賭けだと言える。

 「2年で2%」の目標を見直すべきではなかったのか。出口が遠くなったことだけは確かなようである。