コンビニ土下座事件 被告も営業時代に…「モンスター」生む顧客重視
一般市民が企業や店舗に暴力団まがいの態度で土下座のような過剰な謝罪を要求する“モンスター”クレーマーが近年、注目を集めている。
消費者意識の高まりとともに年々、企業へのクレーム数は増加しているとみられるが、際限なき要求を許す要因として「顧客重視」の企業姿勢が挙げられる。専門家は「企業側は顧客の要求に過大に応じてきた姿勢を改めるべきだ」と指摘している。
今回の土下座事件の舞台となった大阪府茨木市のコンビニでは事件後、毎日午後10時から午前5時まで警備員が常駐。類似事案の発生に警戒の目を光らせる。
同店の男性オーナー(51)は「同じような被害もなく、ようやく落ち着いてきた」と話し、加害者側との示談にも応じた。ただ、悪質クレームへの今後の対応策については「店側の努力だけではどうすることもできない。警察に頼る以外ない」と声を落とす。
これに対し、日本クレーム対応協会の谷厚志代表理事は「初期対応を間違え、モンスター化のきっかけを作るのは企業や店側。全国チェーンなどでは本部に対応マニュアルがあっても、浸透していないケースが多い」と警鐘を鳴らす。
特にコンビニや飲食店、量販店など接客が必要な業界では近年、「顧客重視」を強調する企業が増えた。客のクレームには「納得してくれるまで謝り続けるしかない」(コンビニ関係者)のが現状だ。
皮肉にも、この日の公判で野仲史晃被告の弁護側は「16年間にわたる営業の仕事で、被告も顧客に謝罪する際は土下座し、財物を渡していた」などと訴えた。
法律関連の検索サイトなどを運営する日本法規情報(東京)が今年2月、企業や店舗関係者1090人に客のクレームをどう感じたか聞いたところ、「内容に納得できた」としたのはわずか33%。一方、クレームへの対応について、40%が「ひたすら謝罪を行った」と回答し、「こちらに非がないことを説明した」は23%にとどまった。
「プロ法律家のクレーマー対応術」の著書がある横山雅文弁護士(東京弁護士会)は「ここ20年、消費者意識の高まりとともに顧客第一主義をうたう企業が増え、そこにつけ込む悪質なクレーマーも多くなった。土下座のような謝罪要求は人格権侵害で、強要罪などにも該当する。現状を改めるためにも、企業側は顧客第一主義を考え直す時期に来ている」と指摘する。