川中商事が運営する、ある店舗について書き込まれた口コミ(グルメサイト「食べログ」より)

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 真偽のほどはさておき、世間で「ブラック企業」の代名詞かのように語られるワタミ。同社を筆頭に、居酒屋業界はどうしてもその労働時間や労働環境、賃金の問題から、世間ではブラックだと認識されやすく、「白木屋」を展開するモンテローザ、「庄や」を展開する大庄などもしばしば批判の対象となっている。

 そんな居酒屋業界において、一般的にはあまり名を知られていない川中商事という企業がある。

「竹取御殿」「竹取百物語」「竹取桜めぐり」「竹取の楽宴」「竹取の音色」「竹取の眞ぼろし」「和花の宝石箱」「花のたまて箱」「月のかけはし」「和花の扉」「柚柚〜yuyu〜」「柚庵〜yuan〜」「ゆずの庭」「京の町に夢が咲く」「楽宴の贈りもの」「さくらさくら」「桜坂」「和桜ひとひら」「CASA」「パスタベラ」「若の台所」「赤鶏御殿」「かまくら御殿」「北海御殿」「青の洞窟物語」「源氏のこころ」「水都の饗宴」「お祭り御殿」「寿司よろしくでぇ〜す」(ちなみに「赤鶏御殿」と「若の台所」は「三代目若乃花プロデュース」、「寿司よろしくでぇ〜す」は「オリエンタルラジオ藤森プロデュース」を銘打っている)

 川中商事が展開する居酒屋はこのように多岐にわたり、駅前ビルの地下や3階以上のフロアに大きくきらびやかな看板とともに入居しているケースが多いのだが、気になるのは同社の実態がほとんど不明なことである。

 そもそも、会社のホームページが存在せず、インターネットで調べても店舗を紹介する「ぐるなび」や「食べログ」のページか、アルバイト求人サイトの情報がちらほら見えるのみだ。その求人サイトでわずかながら確認できる情報によると、設立は2006年(「とらばーゆ」による情報。「マイナビ転職」では「07年」となっている)。グループ全体の従業員数は6000名(正社員500名、アルバイト5500名)という規模で、全国で380店舗もの居酒屋やレストランを展開しており、年間40店舗のペースで新規開店中。目標店舗数は500店舗であり、国内のみならず、タイ、マレーシア、アメリカ本土、ハワイ、香港、インドネシア、カンボジアへの進出を計画しているという。

 また待遇面をみると、求人サイトに掲載されているモデル年収例では

「年収1200万円 経験2年/(月給80万円+業績給)」
「年収1800万円 経験4年/(月給100万+業績給)」

などとなっており、全店舗黒字経営とのこと。

●組織的問題点が露呈

 これらの情報によれば、急拡大中の黒字企業で高待遇という印象だが、少し調べてみただけでも次のように川中商事にとって負の情報も多い。

(1)ネット上に書き込まれた店舗への評判

・京の町に夢が咲く 京都駅前店
「料理はすべて冷凍食品レベル。枝豆、サラダ、刺し盛、焼き鳥、からあげを頼んだのですが、すべてスーパーの冷凍食品を調理したような味でした。刺身はかなり傷んでました。有名チェーンの居酒屋のほうがよっぽどおいしいぐらいです」

・赤鶏御殿 河原町店
「料理ひどすぎで10分で帰りたくなった。刺身の色が淀んでて、間違いなく、2〜3日前のもの。コースなのに初めの4品が同時に出てきて、次の品が出てくるまで1時間かかる。店員にお腹空いたんだけどって言ったらムスっとして」

・さくらさくら 京橋店
「正直言って料理は最悪!!生もの、サラダ系はまったく新鮮さは感じられずむしろ え!!コレでお金取るのと思ってしまうほど見た目も味も残念でした」

・若の台所 本町店
「鍋で鶏肉がひとりあたりひとかけら。しかも、パサパサの鶏肉。かといって野菜が多いわけでもない。
締めのラーメンも、ひとりあたり、4分の1人前。(スーパーとかである30円くらいの生麺の4分の1くらい)。そのくせ、飲み放題のグラス交換だけはきっちり」

(2)食中毒事件が多発

・川崎区の飲食店で21人が食中毒、ノロウイルス検出(11年10月)
「川崎市健康福祉局に20日までに入った連絡によると、同市川崎区砂子2丁目の飲食店『川崎個室物語 竹取御殿』を利用した20〜70代の男女計21人が、下痢や嘔吐(おうと)、発熱など食中毒の症状を訴えた。川崎保健所が検査した結果、患者の便からノロウイルスが検出されたため、同店を20日から22日まで営業停止とした」(神奈川新聞より)

・姫路の居酒屋「竹取御殿」で食中毒 ノロウイルス検出 (12年12月)
「姫路市保健所は22日、同市駅前町の居酒屋『竹取御殿』で飲食した21〜65歳の男女28人が下痢や嘔吐などの食中毒症状を発症したと発表した。2人からノロウイルスが検出され、同店での飲食による食中毒と断定。入院者はおらず、全員が快方に向かっている。市保健所は食品衛生法に基づき、同店を24日までの3日間、営業停止処分にした」(毎日新聞より) 

・仙台の飲食店の客31人が集団食中毒(14年1月)

「仙台市は、青葉区中央の『和食個室の都 京の町に夢が咲く仙台駅前店』で食事した客31人が食中毒の症状を訴え、うち6人が医療機関で治療を受けたと発表した。店は3日間の営業停止処分。従業員の便からはノロウイルスが検出されたという」(日テレNEWS24より)  

(3)労働環境について指摘されている問題点

・Twitterに書き込まれた情報(13年12月)
「バイト先の社員が上司にパワハラ受けてるなんて絶対言わない。川中商事ってことも言わない。不特定多数の人が見てるTwitter上では絶対言わない。#パワハラ」

・元従業員の証言(12年頃)
「入社後は即店舗に配属。これは配属される店舗の店長にもよるのだが、未経験だと言っているにもかかわらず、そんなこともできないのかとか自分で考えろとか言う店長」
「お店の雰囲気もとても悪く、料理も美味しくないです。安物ばかりを使っているのにもかかわらず、値段は高い。給料はとても良いですか、最悪なことばかりです」

・同(13年頃)
「社内のやる気がまったく感じられません。暇な時間や暇な日は携帯をいじりながらゴロゴロしていたり、バイトに仕事を押し付けて遊びに行ったりする店長もいます」
「休暇は少ない、バイトがいなければ何日も連続勤務が続く。月に一回の昼間からの会議、新店オープン手伝いで閉店後の深夜にお手伝いもあります」 

・現社員
「社長や上のものに気に入られる人が出世するシステム。売り上げを第一に考えており、売り上げをとるためなら手段を考えない会社」

(4)違法行為が疑われる点

・「Yahoo!知恵袋」への投稿(10年2月)
「川中商事という会社の居酒屋で働いているのですが、1月20日に入るはずの給料が今になっても入ってきません。なんども店長に言っているのですが、すぐ入れる。と言うだけで一向に入ってきません。
そして2月に店長が代わったのですが、アルバイトはいままで5時間ほど入れていたのに、1時間か2時間。ひどい人は30分であがらされます。そしてシフトを4日間書いたのにもかかわらず、来週のシフトを週0にされているアルバイトが10人近くいます。そして、求人雑誌にはまかない有と書いているのに、昨日急にまかない制度がなくなりました。これは法律違反ではないのですか?」

・Twitterへの書き込み(14年5月30日)
「ありえないありえないありえないありえないありえない!上の店から水漏れてきた。座敷1カ所水浸しなんだけど。呼びに行かなきゃ見に来ないし見に来てもスイマセンの一言もない。ムカつきすぎて涙出そうだわ!」

・同(14年5月31日)
「雇われ店長が何も出来んから上を出せって言ったら浜松にいるから来れないって。いや、普通来るだろ!一時間だろ!車ないとか免許ないとか言い訳にならんし。掃除しに来たバイトの態度も悪すぎだし。挙げ句終電だから帰るとかフザケンナ!あー!本当にムカつくなー!!」

・同(14年6月17日)
「ねぇ、そろそろぶちギレてもいいですか?なんでこっちが連絡しないといけないの?昨日着信あったら今日かけてくるでしょ?今日も出ないし。本社も名古屋の支店も出ないし。本当に補償する気あんの?誠意がまったくない」

・同(14年6月17日)
「経緯は、5/31水漏れ。翌日謝罪に来る。工事見積もりを6/7に渡す。保険屋に確認して連絡しますとのこと。1週間たっても連絡なし。こちらから16日連絡する。当初の予定の来週工事の発注間に合わず。間に合わない事を連絡しようと電話する。電話出ない。←今ココ。工事先伸ばし。補償額上がる」

●火災事故が訴訟に発展

 ここで、筆者が(4)の被害者から直接話を聞いた、川中商事の火災事故について紹介する。

【事件概要】

 川中商事経営の居酒屋「さくらさくら 新小岩店」において火災が発生。消し止められたものの、同じビル内に入居するパチンコ店が水浸しとなり、遊技台・設備諸々が使用不能となった事件があった。被害総額は2億円超。捜査の結果、同社従業員による火の不始末が原因として当該従業員は逮捕されるが、証拠不十分で不起訴。同社は被害を受けた他のテナントに対して謝罪は行ったものの、「業務時間外の火災だから関係ない」と強弁し、一切の金銭的補償をしていない。

【火災発生以降の経緯】

 12 年3 月25 日(日)午前5 時56分。火災報知機が発報した。出火元は新小岩駅前の雑居ビル3Fで川中商事が経営する居酒屋「さくらさくら」であった。迅速な消火活動により延焼は免れたものの、階下にあるパチンコ店は水浸しとなり、遊技台、設備、内装が使用不能となってしまった。また同ビル4 階にある事務所も、火災の焦げ臭により2 週間以上使用不能となった。翌日、同社の関東営業部エリアマネジャーより謝罪の電話が入り、「ご迷惑をお掛けした、改めてお詫びしたい」との内容が伝えられた。
その翌月、被害を受けたパチンコ店を経営するA社本社に、川中商事の取締役と、「さくらさくら」を運営している子会社の社長が訪れて謝罪した。しかし、火災原因や捜査の状況といった情報はほとんど説明されなかったこともあり、A社側から「詫びるなら(川中商事の)社長が来るべきだ」と伝えた。そしてその翌週になって、川中商事の代表取締役である川中和幸氏らが訪れてきた。謝罪来訪であったが、その時に同社側から伝えられたのは次の内容であった。

・弊社(川中商事)店舗が火災発生場所になっているが、原因は調査中で、第三者による放火の可能性も否定できない
・弊社も今回の火災で多大な被害を受けた。損害保険適用が受けられるかどうかは、火災原因の結果次第
・弊社としては、現時点では法的責任を負うつもりはない

 さらにその翌月、同社代理人の弁護士から「通知」が届いたが、内容は社長訪問時に伝えられたものと同じであった。

【容疑者逮捕〜不起訴処分へ】

 火災発生直後から、原因は失火ではなく、放火の線が強いとのことで葛飾署の捜査が行われていたようだ。発生から半年以上経過した同年10 月10 日、放火容疑者Yが逮捕された。Yは同店に勤務していた従業員であった。警察によると、店の出入り口に設置された防犯カメラに、出火直後に店を出ていくYの姿が映っていたという。しかしYは警察の捜査に対し、「店内で酒を飲んでいただけで火なんてつけていない。証拠があるなら見せてみろ」と容疑を否認した。その後12 月18 日、容疑者Yは不起訴処分となった。非現住建造物等放火の容疑で逮捕されたものの、自白が取れず。再度、別件の横領罪で逮捕したが、それでも自白が取れなかったためだ。結果としてA社は、民事での損害賠償請求を起こすこととした。損害賠償額は約2億4000万円。

【川中商事の問題点】

 消防や警察の調べにより、同店の管理体制や従業員のモラルに関して次のように問題点が多々発覚した。

・店舗従業員であるYが営業終了後、午前1時頃から知人を店舗に招き入れ、午前5時50分(火災報知直前)に退店するまで飲食していたこと。店の鍵を持つ責任者が、このような行いを率先してやっている。しかもこれは当日のみの所業ではなく、日常的に行われていたようで、証拠画像も残っている。

・火災後の立ち入りで、同店舗では「消火栓の扉が開かない状態になっていた」ことが判明。当然ながら火災時に消火栓が使用できず、消火遅延の原因になったことが考えられる。ビルオーナーの話によると、同店舗の内装工事完了後に内覧した際には問題なかったはずだが、火災後の写真を確認すると、床上げ工事がなされており、消火栓扉が開かない状態であった。

 ちなみにその後の調査によって、従業員Yは同店の売上金を少なくとも2週間で3回にわたり窃盗していたことが判明している。同店舗が火災によって焼失し、異動となった別店舗において、顧客のクレジットカードを不正に利用した疑いにより「私電磁的記録不正作出、同供用、窃盗」の罪で実刑判決を受けているのだ。

 筆者はこれら一連の経緯と川中商事の対応に関して同社に取材を申し入れたが、期限までに回答を入手することができなかった。本件は現在でも裁判進行中であるので、また進展があり次第、続報をお伝えしたい。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)