引用
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リアクション
"前回私はカフカの『変身』の変身した姿のことをうっかり「甲虫」と書いてしまいましたが、「虫」としておくべきでした。あのあとたまたま、カフカに詳しいドイツ文学者と話をする機会があって、日本語で「虫」ないし「毒虫」、英訳でinsectとなっている元々の単語は何かと訊いたところ、Ungezieferという言葉でした。意味は「神への供え物としてふさわしくない汚れた小動物全般を指す言葉」だそうで、「虫だけでなくて蛇や鼠なども含まれる」ということでした。
彼によると、原文には明確に「虫」と特定できる言葉は一度も出ていなくて、全体の文意から推測して「まあ甲虫のような姿なんだろう」という風な解釈に落ち着いているそうです。
またそれから、Ungezieferは十九世紀末に一般的に使われていたユダヤ人を指す蔑称だったそうでUngezieferはカフカのオリジナルではなくて、逆に当時使われていた言葉を『変身』に持ち込んだというのが真相のようです。"