Tカード会員が「第三者への個人情報提供」の停止手続きを行う専用ウェブページ

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 大手レンタルビデオチェーンTSUTAYA(ツタヤ)の会員証Tカードは、約5000万人の会員数を誇るが、そのTカードの利用規約が11月1日に改訂されることが、一部インターネット上で炎上騒動にまで発展している。その改訂内容とは、「個人情報の提供方法を『共同利用』から『第三者提供』へ変更します」というものだが、これを受けて「名前、住所、電話番号などの個人情報を勝手に他社へも提供するのか?」などと波紋を呼んでいるのだ。

 ツタヤを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)広報部は、当サイトの取材に対し、次のように説明する。

「これまでも弊社グループや提携先企業などは、会員様の性別や商品の購入履歴をビッグデータ化し、商品開発などに活用してきました。今回の規約改定は、そうした活用法を明文化し透明性と安全性を高めるのが目的です。実はサイトにも明記しているのですが、氏名や住所、年齢などは今まで通り大切に保護します。目的はビッグデータ活用ですから、会員様の詳細な個人情報は今までもこれまでも、むしろ必要ないのです」(同)

 だが、「具体的にどのような個人情報を第三者へ提供するのかについては、CCC側は開示しない」などという誤った情報がネット上で流布され、怒りのコメントが増加している。ほかにも、「改訂日の11月1日の4日前、10月28日に発表するのは遅すぎる」との批判も出ているが、実はCCCは8月にすでに会員へメールで通知している。10月28日の発表は、あくまで(会員が自身の個人情報を第三者へ提供しないよう選択する)オプトアウトの開始日を11月1日から10月28日に前倒ししたことを告知するものであり、CCCとしては提供拒否の受け付けを早めたにもかかわらず、逆に批判を呼ぶ結果となったというわけだ。

 とはいえ、「第三者への個人情報提供」がデフォルト設定となっており、会員はそれを拒否する場合には個人ページにログインしてオプトアウトの手続きをしなければならないという仕組みについては、問題視する指摘も多い。なおかつ、会員ページ上の「提供先への個人情報提供の停止」というページには、「提供先への個人情報提供の停止をご希望の方は、以下提供先のチェックを外してください」という表記の下に、約80社に上る提供先企業リストとチェックボックスがずらりと並んでおり、それらをすべてひとつずつ手作業でチェックを外し、煩わしさを抱いたユーザーも多いだろう。ちなみに、リストの一番下に「すべてのチェックをはずす」というボタンが設けられている。少なくとも、個人情報の提供を許可する会員のみ許諾の手続きを取るという仕組みにすべきだ、という指摘も多い。

 IT関連企業で個人情報管理を取り扱う部署の社員は、今回のTカードの規約変更について、次のように疑問を投げかける。

「確かに会員情報からビッグデータを作成することに問題はありませんが、Tカードの規約では、例えば『ビッグデータをもとに特定会員への販促メールやダイレクトメールを送るのか』などという部分が曖昧になっています。本来であれば、はっきりと明記すべきです。『実際は個人情報を活用したいのが本音で、反発を招かないようわざとぼかした』と受け止められても仕方ありません」

●法をよく理解した上での“よくできた”対応

 今回の規約改定に法的な問題はないのだろうか。弁護士法人アヴァンセリーガルグループ執行役員の山岸純弁護士は、次のように解説する。

「CCCにとってTカード利用者全員、同社発表では約5000万人から『第三者への提供に関する同意』を取り付けるのは、あまりにも煩雑です。そのため『個人情報の第三者提供に反対する人はいつでも提供を停止するという制度を設けたから、必要があったら知らせてね』という方法を採用したわけです。これは個人情報保護法の観点からは合法です。法をよく理解した上での“よくできた”対応だといえます」

 では、合法であるにもかかわらず、なぜこれほどまでに批判を集める事態となったのだろうか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏が解説する。

「CCCは本気で個人情報を保護しようと思っているのかもしれません。しかし実際の運用は結局のところブラックボックスであり、一般消費者がチェックすることはできません。そこに究極的な『不快感』を感じる人は必ず存在します。結局、ビッグデータと個人情報保護の“いたちごっこ”はずっと続いています。確かに私たち消費者も、個人情報のビッグデータ活用でベネフィットを享受してきました。ですが一度、ここでリセットすべきなのかもしれません。民間ではなく行政が主導し、企業、専門家、消費者代表などが集まり、改めて利益と不利益を計算して、国民に示す必要が高まっているのではないでしょうか」

 活用が広がるビックデータと個人情報保護の両立という問題の難しさが、改めて露呈した今回の騒動といえるだろう。
(文=編集部)