【スピーカー】
元スリ師 現セキュリティ・コンサルタント Apollo Robbins(アポロ・ロビンス) 氏
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Apollo Robbins: The art of misdirection
毎日見るものこそ盲目になる
アポロ・ロビンス氏(以下、ロビンス):みなさんは、人の注意力を操作することができると思いますか? また、人間の行動を予測することはどうでしょう? もしそれが可能なら、それは興味深いことだと思います。私にとっては、それは完璧な超能力です。実際は少し悪意がありますが……。
私は過去20年間、どちらかというと変わった方法で、人間の行動について勉強してきました。「スリ」をすることでです。ミスディレクションというと、他のものを見ることと考えますが、実際には、目の前にあるものこそが、1番見つけるのが難しいものなのです。毎日見るものこそが、私たちが盲目なものなのです。
例えば、みなさんの中で今、携帯電話を持っている人は何人いますか?
(会場のほとんどが挙手)
よかった。まだ持っているか、もう1度確認してください。事前に私が”ショッピング”をしましたからね。
(会場笑)
みなさん今日1日で、何回か携帯を見ましたよね。それについて今から質問をします。直接携帯を見ることなく、1番右下にあったアイコンを思い出すことができますか? 携帯を出してどれだけ正確だったか確認してみてください。……どうでしたか? 当たりましたか?
みなさんもう確認したと思うので、携帯を閉じてください。携帯電話には共通することがひとつあります。どんなにアイコンを整理しても、時計は待ち受け画面にありますよね。携帯を見ずに、今の時間がわかりますか? たった今、待ち受け画面を見たばかりですよね?
おもしろい考えですよね。今度はもう一歩踏み込んで、信頼ゲームをしてみましょう。目を閉じてください。今この部屋にスリがいると伝えたばかりで、なんて事をお願いしているんだ、というのはわかっています。でも目を閉じてください。
さあみなさん、30秒間くらい私を見ていましたね。目を閉じたままで、私は何を着ているか言えますか? 出来る限りの予想をしてみてください。私のシャツの色は? ネクタイの色は何だったでしょうか?
……では、目を開けてください。当たっていたら手を挙げてください。
(会場の一部が挙手)
おもしろかったですか? 私たちの中には、他の人より少し知覚が鋭い人がいるようです。
他人の注意力を操る方法
ロビンス:でも私はそれを「知覚が鋭い」とは考えません。これは注意力についての考え方です。それらの人は、変わった注意力を持っているのです。
それは、ポズナーの三位一体モデルと呼ばれます。私はそれをとてもシンプルな、監視システムのようなものだと考えています。ファンシーなセンサーを持っていて、脳の中に小さな警備員がいるようなものですね。
小さい警備員、”彼”をフランクと呼びましょう。フランクは机の前に座っています。彼の目の前にはいろいろな優れた情報、ハイテク機器、カメラ、電話があります。すべての感覚、すべての知覚があるのです。でも、注意力こそが知覚を操作するものであり、現実をコントロールするものなのです。それは意識への入り口なのです。もし注意を払わなければ、それに気付くことはできません。
しかし皮肉なことに、気付かぬうちに注意を払うこともできるのです。だからカクテル効果が起こるのです。パーティに参加し、誰かと会話しているにも関わらず、他の人が自分の名前を話しているとそれを認識できるのですが、自分がそれを聞いていたということには気付かないのです。
私の仕事では、これを悪用するためテクニックを使う必要があり、限られた資源として注意力を操る必要もあります。もし私が人の注意力を操ることができれば……もし人の気をそらして注意力を奪うことができれば……。
ミスディレクションや気をそらす代わりに、私が集中することとして選んだのはフランクでした。頭の中の小さな警備員であるフランクを使い、外部の感覚に集中させるのではなく、少しの間だけ内部に集中させるのです。
もし私が、記憶にアクセスするように頼むとします。これは何? 何が起こったの? 財布持ってる? 財布の中にアメリカンエキスプレスは入ってる? などと聞くのです。そうすると、人の頭の中にいるフランクは振り返ります。ファイルにアクセスするのです。彼はテープを巻き戻さなければなりません。
そして興味深いことに、フランクは新しいデータを処理するのと同時に、テープを巻き戻すことはできないのです。
会場を物色するアポロ・ロビンス氏
ロビンス:素晴らしい理論だと思うでしょう? 私はずっとこの話しをしていられます。たくさんのことを話しても、それは真実かもしれませんし、一部だけが真実かもしれません。でもここで実際にお見せしたほうが良いと思うのです。今から壇上から降りて行きます。私は”ショッピング”をしますから、今いるところでじっとしていてください。
こんにちは、お元気ですか? お会いできて光栄です。今日、ステージの上では素晴らしかったです。すてきな腕時計をしていますが、簡単には外れない時計ですね。
指輪もしていますか? 良いですね。ただ在庫確認をしているんです。ここは私にとって、食べ放題のようなものですね。どこから始めるか迷ってしまいます。良いものが多すぎて。
(会場笑)
こんにちは。立っていただけますか? 今いる場所で大丈夫です。あー、ご結婚されているのですね。指示に従っているということですね。お会いできてうれしいです。ポケットにはあまり何も入っていないですね。
こっち側のポケットはどうですか? ご着席下さい。ありがとうございます。
ロビンス:こんにちは、お元気ですか? お会いできてうれしいです。指輪と腕時計をしていますね。財布を持っていますか?
男性:いいえ。
ロビンス:それではあなたのためにそれを見つけてあげましょう。ジョーさん、こちらへお願いします。みなさん、拍手でお迎えください。ジョーさん、壇上へどうぞ。ゲームをしましょう。
(会場拍手)
世界最高のスリ師が見せる脅威のテクニック
ロビンス:ジョーさん、壇上へ上がってください。簡単なゲームをしましょう。前ポケットに何か入っていますか?
男性:お金があります。
ロビンス:お金ですね。それを試してみましょう。ここに立ってくれますか?
ロビンス:向こうを向いてください。私のものをあなたに渡します。これは私が持っていたポーカーのチップです。
ロビンス:手を伸ばしてください。
(男性の手のひらにチップをのせる)
ロビンス:注意して見ていてください。これはあなたが注目すべきあなたの仕事です。前ポケットのここにお金があるんですね?
男性:はい。
ロビンス:わかりました。あなたのポケットに実際に手を入れるようなことはしません。そういう類の深い関与には心の準備ができていません。あるとき、男性のポケットの中に穴があいていたことがありました。私のトラウマになっています。私は彼の財布を探していたのですが、彼は電話番号をくれました。大変なミスコミュニケーションでした。
(会場笑)
だからシンプルにいきましょう。(ポーカーチップの置いてある)手を握ってください。きつく握ってくださいね。手の中のポーカーチップを感じますか?
男性:はい。
ロビンス:もし私がそれをあなたの手の中から取ることができたら、驚きますか? はいと言ってください。
男性:はい。とても。
ロビンス:良いですね。手を広げてください。
(変わらずチップがある 会場笑)
ロビンス:チップがなくなるのを見ましたか?
男性:いいえ。
ロビンス:でもそれはもうそこにはありません。手を広げてみてください。ね、私たちが手に集中している間に、それはあなたの肩の上にありますよ。
ロビンス:どうぞそれを取ってください。もう一度やってみましょう。
ロビンス:手を前に平行に出して、手を完全に広げてください。もう少し手を上に挙げて、良く見ていてください。私がゆっくりやっても、それはまたあなたの肩の上にあります。
(会場笑)
ロビンス:ジョーさん、あなたが気付くまで私たちはこれをやり続けますよ。いつかはわかるようになります。あなたを信じていますよ。きつく握ってください。あなたは人間なだけです。けっして馬鹿なわけではありません。油断したら、またあなたの肩の上ですよ。あなたは手に集中していたから、気を取られていたのです。
ロビンス:あなたが自分の腕を見ているとき、あなたの時計を外すことはできませんでした。それは難しかったです。でも前ポケットに何か入っているんですよね。何だったか覚えていますか?
男性:お金です。
ロビンス:まだそこにあるか、ポケットを確認してください。まだありますか?
(ロビンス氏の右手には、男性が付けていたはずの腕時計が)
(会場笑)
ロビンス:そこにあったのですね。どうぞしまってください。私たちはショッピングをしているだけですからね。このトリックで重要なのは、タイミングなのです。
ロビンス:これ(ポーカーチップ)をあなたの手の中に入れてみますね。もうひとつの手を上に置いてくれますか? もうすでに明らかですよね。誰かがしていた時計にとても似ていると思いませんか?
(会場笑、拍手)
男性:すごいですね。とてもすごいです。
鮮やかすぎる手口
ロビンス:ありがとう。でもこれは始まりにすぎませんよ。今度は少し変えて、もう一度やってみましょう。両手を合わせてください。ひとつの手を上にのせて。この小さなチップを見ていると、明らかにこれが小さなターゲットになりますね。おとりのようなものです。
ロビンス:じっくり近くで見ていると、チップはどこかに行ってしまうようですね。
(手品のようにチップを消すロビンス氏)
ロビンス:もう肩の上にはありませんよ。上から落ちてきて、また手のなかに戻るのです。
ロビンス:(上からチップが落ちてきたのを)見ましたか? おもしろいですよね。(天井を指さし)彼の名前はユニオンといいます。あそこでずっと働いているのです。
もっとゆっくりやってみると、まっすぐ上にあがり、ポケットの中に入ります。このポケットの中にあると思いますよ。まだポケットに手を入れないでください。違う番組になってしまいます。
(ポケットの上から触ると、キュッキュッという音がする)
ロビンス:おかしいですね。それを直す注射がありますよ。みなさんに何かお見せしましょうか?
ロビンス:驚きですね。このチップはあなたのですか? どうやっておこったのか全くわかりません。向こうに置いておきましょう。
素晴らしいですね。次のことは手伝いが必要です。こちらへずれてください。逃げないでくださいね。ズボンのポケットに何か入っていましたよね。私は自分のポケットを確認してみたのですが、見つけられないのです。でもあなたのポケットに何かあるのに気付きました。上から触ってみていいですか?
ここに何かを見つけたのです。(エビのおもちゃが出てくる)これはあなたのものですか? 何でしょう、これはエビですね。
男性:え、ええ……後のためにとっておいたのです。
(会場笑)
ロビンス:あなたはここにいるみなさんを楽しませました。あなたが思っている以上にです。だからそのお礼としてこの時計を差し上げます。あなたの好みの時計だといいのですが。
(会場笑)
ロビンス:他のものもありますよ。
ロビンス:お金が少しと、他にもです。これはすべてあなたのものです。みなさん、彼に大きな拍手を。ジョーさん、どうもありがとうございました。
(会場拍手)
注目が現実を形作る
最初に私があなたたちにした同じ質問をします。目は閉じなくていいですよ。私は何を着ていますか?
(会場笑、拍手)
注目というのはとても力強いものです。私が言ったように、それはあなたの現実を形作るのです。だからこの質問をします。もし誰かの注目を操ることができれば、みなさんはそれを使って何をしますか? ありがとうございました。