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総力特集! アニメ『ゆゆ式』(0)――導入コラム「『ゆゆ式』のルール」:高瀬司
2014
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2008年から「まんがタイムきらら」(芳文社)にて連載中の三上小又によるマンガ『ゆゆ式』は、野々原ゆずこ、櫟井唯、日向縁という「ゆ」から始まる仲良し3人組を中心に、特異な言語センスで交わされる掛け合いのテンポ感や、作品全体に通底する独特としか言いようがない空気感が魅力の日常系萌え4コマだ。
一般に萌え4コマというと、学校や部活動などの狭い生活空間を舞台に、劇的な展開や成長・葛藤といったドラマは排除されたまま、美少女キャラたちのゆるいコミュニケーションが描かれる――そんな作品が思い浮かべられがちだ。この『ゆゆ式』もその例に漏れない。しかしより正確には、『あずまんが大王』以降の萌え4コマの系譜から抽出されたそれら諸要素を、あえて徹底的に突き詰めることによって紡がれた作品と言うべきだろう。
学園ものの作品でありながら、恋愛や進路への悩みも描かれなければ、学園祭や体育祭や修学旅行といった学内イベントや、夏祭りやクリスマスや初詣といった学外イベントも完全にスルー。例外的にそれらが現れる回想(第3巻45〜46ページ)や海水浴(第4巻67〜71ページ)は、通常のイベントシーンというよりはむしろ、平常時におけるその不在を際立たせる役割を担うものだ。
同様に情報処理部の部活動も、努力や目標とは無縁のまま、「太陽」「水」「言葉」「犬」などと会話のお題となるネタや情報を提供する、コミュニケーションを回すための装置としての機能に限定されている。作品内で描かれるのは、教室で、唯の部屋で、情報処理部の部室でまったりと繰り広げられる他愛もないおしゃべりのみなのである。
この説明を聞いて、そんな作品のどこか面白いのかと訝しがる人もいるかもしれない。何の刺激も感動もないのではないかと。
ある。そしてむろん、『ゆゆ式』はとてつもなく面白い。
どこが。まず挙げられるのは、特異な(メタ)コミュニケーションの機微だろう。『ゆゆ式』は何の事件もないまま女の子たちのゆるいコミュニケーションだけが描かれる他方で、そのゆるいコミュニケーションの掘り下げ自体は全くゆるくない。むしろそこでの情報操作は複雑極まったものだ。空気への感度、気配りと距離感、ルールの解体と再構築、ロールプレイ。ファンの多くが「『ゆゆ式』は大好きだが独特な奥深さがあって人を選ぶ側面がある」と語る理由の一端はここに認められる。
また独特な難解さに拍車をかけるのが、作中における時系列の交錯ぶりだ。この点に関しては、ファンの間ですらあまり正しくは理解されていない特殊なものとなっているため詳しく説明を入れておきたい。
萌え四コマにおける時間構造は主に、線形的に流れるタイプと、俗に「サザエさん時空」とも呼ばれる同じ年が延々とループするタイプに分かれる。前者は近年で言えば『けいおん!』や、連載期間である3年間をもってヒロインたちが高校を卒業していく『あずまんが大王』などが、後者は進級していないことそれ自体がネタにされる『ゆるゆり』や、69年にTV放映を開始したそのものずばり『サザエさん』などが挙げられるだろう。しかし『ゆゆ式』は、そのどちらとも異なっている。
確かに『ゆゆ式』における季節の移り変わりは、「きらら」3月号(2月発売)では2月の話が、4月号(3月発売)では3月の話がというように、実際の連載時期と同期した時間経過を持ちつつ、5月号(4月発売)になると再び同年の4月へと立ち返る。そのため一見したところ単純なループ構造と誤解されかねないものだろう。しかし作品を丁寧に読み込んでいくほどに、ここでは同一の1年のなかから、その月ごとに任意の出来事がピックアップされているということが見えてくる。具体的に言えば、ゆずこたち3人と岡野・長谷川との交流はそれぞれ2年時の5月・6月に行われているため、毎年4月からそこまでのエピソードにはこの2人との絡みは描かれない――連載6年目に突入した現在、1年時を2回ループした後、この4月からは4回目の2年生が始まった『ゆゆ式』は、一貫してこの厳格なルールに則り営まれ続けている。
2013年4月から放映を開始したTVアニメ『ゆゆ式』は、原作が持つこの複雑な時間操作を巧みに再構成することで、季節とともにめぐる一つのリニアーな物語へとまとめあげた。そしてそれだけのアレンジを施していながら、原作のコアを捉えているがゆえに、むしろキャラクターたちが作品に息づいているという生々しい手触りをより一層強固なものとしている。
萌え四コマ『ゆゆ式』の深い理解や新たな魅力すらも照らし出すTVアニメ『ゆゆ式』。AniFavでは『ゆゆ式』のこの極めて特殊で独特な世界観の深部を、連続インタビューという形式で紐解いてゆく。萌え四コマの、そして日常系アニメの最先端を駆け抜ける『ゆゆ式』をめぐる、ゆずこ、唯、縁たちのルール=〈ゆゆ式〉の唯一無比の楽しさと、それを支えるスタッフたちの愛を感じ取ってほしい。
【アニメ『ゆゆ式』シリーズ構成・高橋ナツコ インタビューへ】
©三上小又・芳文社/ゆゆ式情報処理部
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