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パチンコ、依存症、お金の教育! カジノ議論を機に今こそ向き合うべき問題

MONEYzine 10月30日(木)8時0分配信

■強引な三店方式により実質的にギャンブルに

 今回は、この国で最大規模のギャンブルであるパチンコの問題点と、現状日本が抱えるギャンブル依存の問題、ひいては国民全体のマネーリテラシーについて考えてみたいと思います。

 まずはパチンコの基礎的なところから解説していきましょう。すでにご存知の方も多いと思いますが、法律的にパチンコはギャンブルではありません。風営法に基づいて運営される、成績に応じた景品提供を許された遊技、それがパチンコの位置付けです。なおゲームセンターも風営法に基づきますが、こちらは景品を提供することが認められていません。

 いわば景品付きゲームセンターがパチンコなのですが、遊技者はその景品を買取業者に売却することで、実質的に換金が可能となっています。パチンコ店、買取業者、景品卸問屋の三者で成り立つこの換金システムは、三店方式と呼ばれており、事実上黙認されています。監督官庁である警察庁が「ただちに違法となるものではない」との見解を示しているのですから、とても根が深い問題だと言えます。

■日本最大規模のギャンブル、それがパチンコ

 日本では賭博行為は刑法185条によって禁じられているため、特別な法律を制定することで、競馬・競輪・競艇・オートレースという4種類の公営競技と、宝くじ・スポーツ振興くじの公営くじが合法となっています。

 公営競技のなかで、もっともメジャーなものといえばJRAが運営する中央競馬ですが、JRAが使う競馬場は全国に10場あるに過ぎません。それに対しパチンコは全国に11893店(2013年)と、文字通りケタ違いの施設数が存在します。1995年の17631店をピークにかなり減少したとはいえ、いまだ主要な駅の近辺や繁華街、国道沿いで多くのパチンコ店が経営を続けているのが現状です。

 また、すべてのギャンブル産業の粗利額において、パチンコの占める割合が全体の約7割に達するという計算もあり、規模においてもパチンコが日本最大のギャンブルであることは間違いありません。

 そんなパチンコ店ですが、実質的には入場制限がありません。年齢確認などはなく、それこそ誰でも入場できます。学生服を着ていなければ、高校生がそのまま入れてしまうのです。コンビニでお酒やタバコを買うときに年齢確認を求められる昨今、明らかなギャンブル施設であるにもかかわらず、パチンコ店はあまりにもカジュアルな存在です。  日本中のどこにでもあり、動くお金の規模が極めて大きく、それでいて誰でも入れてしまう…それがパチンコの実態であります。

■ギャンブル依存は脳の病気

 現在臨時国会で審議が始まっているカジノ法案ですが、反対派が主に掲げる主張に「ギャンブル依存症の問題」があります。要約すると「日本はすでにギャンブル依存大国であるのに、これ以上ギャンブル施設を増やすとはどういうことか」といったところです。こういった主張のベースになっている、諸外国とくらべて日本にはギャンブル依存者が多いというデータは、妥当性に疑問が残ります。ただし日本が諸外国とくらべ、ギャンブル依存への対策が遅れているのは事実です。

 その根底にあるのは、ギャンブル依存そのものへの理解や認知の不足ではないかと考えられます。私も親族にギャンブル依存で苦しんでいた者がいますが、つい最近まで誰かにそれを話すことはありませんでした。ギャンブルにハマってしまう人間が身近にいることを、なんとなく恥ずかしいと思っていたからかもしれません。

 しかし、このテーマについて勉強していくうち、ギャンブル依存が病気であることをすぐに理解できました。病気はなりたくてなるものではなく、また治すことができます。アルコール依存、ドラッグ依存などと同じく、ギャンブル依存という病気があり、それらは一定の割合の人間がやむなくかかってしまうものであり、やり方次第で予防や治療ができることを、国民全体で広く理解していく必要があります。

■ギャンブル依存とカジノの問題は切り離すべき

 今私たちがすべきことは、2020年ごろにカジノが国内に数ヵ所できることの是非を、ギャンブル依存の問題と絡めて議論することではありません。国内にすでに1万以上のギャンブル施設があるのですから、施設の増減を論じても意味はないのです。ちなみにパチンコ店は年々減少傾向にあるため、カジノが合法化されるころには、国内のギャンブル施設は今よりも減っているはずです。

 またギャンブルに依存する人は、特定の種目にのみ依存するのではなく、似た刺激が得られればどんなギャンブルにでも依存するという説が有力です。パチンコに行けないなら競馬、競馬が開催されていなければ競艇と、複数のギャンブルを渡り歩くケースが多いのです。よって、ギャンブルの施設が完全に消滅したとしても、依存症は治らないでしょう。そういう意味で、新しいギャンブルの登場を阻止することは、ギャンブル依存への本質的な対策にはならないといえます。

 カジノができようができまいが、ギャンブル依存への対策は今すぐに拡充するべきです。2020年まで待つ必要はありません。まず手始めに、日本の環境や国民性を考慮したギャンブル依存の判定基準を作り、正確な調査をすることでしょう。

■いとも簡単に海外バイナリーに参加してしまう日本人

 これまで私たちは、お金のこと、数字のことについて、考え、意見を発信し、議論することを積極的にしてこなかったのではないでしょうか。そのツケが少なからず現れていると感じます。

 ひとつの例としてあげられるのが、海外FX業者の問題です。FXは外国為替証拠金取引の略称で、通貨同士の交換率(ニュースなどでよく耳にする「1ドルが100円」というあれです)を対象とした金融商品です。国内のFX業者は金融庁の管轄下にあり、最大レバレッジ規制や顧客資産の分別管理(ユーザーの運用資金をFX会社の資産と分けて管理する)など、しっかりしたルールのもとで運営されています。

 ただし金融庁未登録の海外FX業者が日本人を相手に商売を行っていることが、最近急激に問題化しています。金融庁の管理外にあるため、ギャンブル性が高いルールで取引ができてしまうのです。これだけならユーザーの不利益には必ずしもなりませんが、一部の海外FX業者は、特にバイナリーオプションと呼ばれるFXの派生商品において、ユーザーに入金はさせるものの出金をさせないなど、悪質な行為を行っていることが問題になっています。

 こういった海外FX業者は、射幸心を煽るインターネット上の広告で集客をしています。これに対して日本では金融や投資のことを学校では教えませんから、冷静に考えればうさんくさい広告でも、疑わずむしろ興味を持ってしまう人がたくさんいます。また、自分が入金したのが海外の業者であることすら気づかない人もたくさんいます。バイナリーオプションは本来は正当な金融商品ですが、あたかもギャンブルのような存在と見なしてしまい、結果として多くの参加者が資産を失います。

■大人がお金と向き合うことが教育充実の条件

 この海外FXの問題に現れているように、日本人の大人の多くは、これまでお金のこと、数字のこと、確率のこと、ギャンブルの性質などについて、真剣に考えてこなかったのではないでしょうか。だからこそ、自分が教える側になったとき、次世代を教育することができず、若者がパチンコ店に入り浸ったり、未成年が課金ガチャにハマったりすることにつながっています。海外FX詐欺の被害は、20代の若者にも多く見られます。

 すでに述べたように、ギャンブル店を減らすことは、ギャンブル依存への本質的な対策にはおそらくなりません。またパチンコを始めとするギャンブルは産業として完全に定着しているため、少なくともすぐに廃止することは不可能です。そもそも人間は太古の昔からギャンブルをたしなんできたわけですから、強引に禁じるより、性質や問題点を理解したうえで、うまくコントロールできるように教育体系を整備するほうが現実的です。

 ギャンブルや投資などすべてをひっくるめ、私たちがお金に振り回されるのではなく、それらをコントロールし、適正な距離感を持って付き合っていくのが理想です。そのためには、若年層への教育が不可欠。そして、彼らに教える側の大人たちが、まずお金に対する意識や常識を身につけていることが必須となります。


(鹿内 武蔵)

最終更新:10月30日(木)8時0分

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