愛知県豊明市で2004年9月、加藤利代さん(当時38)ら母子4人が殺害され自宅が放火された事件は、9日で発生から10年を迎えた。現場となった民家は既に取り壊され、周囲に事件をうかがわせるものはほとんどないが、遺族らの悲しみは今も深いまま。捜査を続ける愛知県警は「ささいなことでも連絡を」と情報提供を呼びかけ、一日も早い解決を誓った。
同日午後に事件現場で開かれた献花式。参列した遺族や警察署員ら約50人は犠牲者の冥福を祈り、静かに手を合わせた。事件後に取り壊された自宅の跡地には10センチほどの雑草が茂り、4人が生活していたころの面影はない。
利代さんの姉、天海としさん(52)の心には、いまも事件当時と変わらぬ妹たちの姿が刻まれている。子供思いだった利代さん、わんぱくな子だった長男の佑基さん(当時15)、おしゃれが好きだった長女の里奈さん(同13)、甘えん坊だった次男の正悟君(同9)。「子供たちの成長した姿をイメージしようとしても、どうしても頭に浮かんでこない。みんなあの時の姿のまま」
10年を経ても家族を失った悲しみは薄らぐどころか、むしろ強くなっていくといい、「犯人は自首してください」と訴えた。
同日、思いがけない“プレゼント”もあった。正悟君が幼稚園時代に埋めたタイムカプセルが届けられたのだ。将来の目標を書く紙に書かれていたのは「けいさつかん」。「生きていれば、立派な警官になっていただろうね」と、利代さんの母、渕村信子さん(76)は残念がる。
献花式には被害者の知人も多く駆けつけた。
佑基さんにボクシングを教えていた伊藤清さん(45)は献花式のあいさつで「『事件が解決したよ』と報告できる日は必ずくる」と涙ながらに話した。事件後、独自に地域のパトロール活動を始めたことにも触れ、「絶対に、二度と同じような事件を起こさせない」と決意を新たにした。
事件当時、近所に住んでいた主婦(33)は「子どもたちの元気な声がよく聞こえ、仲が良さそうなきょうだいだった」。今は2人の幼い子供を持つ母親となり、「10年間は本当にあっという間だと感じる」と話す。
同日夕方の名鉄前後駅では、県警愛知署の署員らが情報提供を求めるビラ約2600枚を通行人に配った。宇佐美孝一署長は「(この事件は)県警にとっても最重要課題の一つ。何とか犯人を捕まえないといけない」と強調した。
ビラ配りにも参加した天海さんは「悲しみに向き合って、戦っていかないといけない。自分たちも何か行動しないと」と自らに言い聞かせるように話した。
▼豊明市の母子4人殺人放火事件 2004年9月9日午前4時25分ごろ、愛知県豊明市沓掛町の民家が全焼。焼け跡から加藤利代さん、佑基さん、里奈さん、正悟君が遺体で発見された。事件当時、利代さんの夫は残業で自宅にはいなかった。
利代さんと里奈さんには複数の刺し傷が、佑基さんと正悟君には鈍器で殴られたような痕があった。自宅には物色の形跡があったが、金品は盗まれていなかった。県警愛知署特別捜査本部が殺人や現住建造物等放火容疑で捜査を続けている。情報提供は同本部((電)0561・39・0110)へ。
伊藤清、事件