来期以降のプレイオフ導入など、Jリーグが曲がり角に来ている現状で、4ワールドカップ前の惨事を振り返るのは、それなりに意味がある事にも思える。
あの時、散々毒づいたが、あの悲劇において、事実上の撤退を表明した親会社側の責を問うのは違っていると思っている。もちろん、当時の親会社に不満はある。しかし、彼らは彼らでビジネスを行っているのであり、ビジネスの原理から投資や出資は避ける選択肢は否定できない。問題はそれを甘んじて受け入れてしまったサッカー側にあったのだ。あくまでも、サッカーにはサッカーの文脈がある。撤退を決意したい親会社がライバルクラブの出資者に期間限定でなるスキームは、サッカーの常識に反していたのだ。サッカーには無限の愉しさがある。愛するクラブが経営に失敗し、七転八倒しながら勝ち点を失い、下位に沈んでいく事そのものも、最高の至福の1つだ。それを否定し、トップクラブにしがみつこうとする姿勢をとられては、それはサッカーではないのだ。
だから、サッカー側が彼らの提案を拒絶すればよかった。それだけの事だったのだ。しかし、サッカー側がそれを認めてしまい、トップクラブの消滅が現実となった。やってはいけない唯一の禁忌を冒してしまったのだ。おそらく、今後を含め日本サッカー史最悪の愚行と言う事になるだろう(これ以上の愚行が行われない事を祈りつつ)。
あの消滅騒動の余波として、私たちは横浜FCと言う「ある意味において明確にフリューゲルスと言うクラブの後継クラブ」を入手した。しかし、今更言うまでもなくフリューゲルスと横浜FCは全く異なるクラブだ。それはレッズが三菱重工あるいは三菱自動車であり、サンフレッチェが東洋工業あるいはマツダであり、ヴェルディが読売クラブである事とは、全く違う。
その横浜FCも4ワールドカップの長きに渡り丁寧に生をはぐくみ、1度はJ1にも登場した事を含め、Jクラブの中で美しい彩りを放っている。これもまた歴史だ。
そして、私たちは今とても素敵なサッカー界を所有している。
ワールドカップでは苦杯を喫し、多くの一般国民に失望を与えてしまった。
Jリーグは、観客動員で苦戦している。
若年層代表チームがアジアでの苦闘に思い悩む人が多い。
でも、冷静に現状を見据えよう。
ブンデスリーガやセリエAの得点王を争おうとする日本人スタアがいる。
Jリーグは、毎週毎週知性にあふれた選手達が創意工夫を重ね、見事な戦いを演じてくれている。
若年層育成の失敗を標榜されても、後から後から次々と優秀な若手スタアが登場している。
ゆっくり、ゆっくりであるが、我々は常に前進しているのだ。わかる人が見れば、着実な前進は容易に理解できる。
10ワールドカップ以上、サッカーに浸り切っているが、やはり今ほど幸せな時代はなかった。もちろん、日本代表の戦闘能力が頭打ちになる時はいつか来るだろう。いや、もう来ているのかもしれない。けれども、そんな事は些末な事だ。サッカーがサッカーとして今日ほど愉しまれた時代はなかった。インタネットや有料テレビの発達にも助けを受け、ほんの数年前では考えられないほどのサッカーに関する情報を得る事が可能となる、皆がありとあらゆる形態で、これまで以上にサッカーを愉しんでいる。そして、毎年毎年、皆がサッカー経験を積み、どんどんと新たな愉しさを発見し、それが深堀されて行く。この駄文を読まれている方1人1人に、己のサッカーに関する愉しみを振り返っていただきたい。いずれの方々にも、この魅力あふれる玩具の愉しさが、年齢を重ねると共に次第次第に深まってきた事に同意いただけると思う。その愉しさを、少しずつでも多くの人に展開すれば、長い目で見れば必ず友は増えていく。
ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、イタリアなどとの本質的な差は、ネイマール、メッシ、ラーム、ピルロではないのだ。いや、我々は遠藤や岡崎や本田を抱えており、この分野の差は着実に埋まっている(もちろん、埋まっているがまだまだ決定的に差はありますがね)。本質的な差は、ブンデスリーガとJ1の観客動員であり、換言すれば、この愉しさを把握している友の質と量なのだ。
この質と量の差を埋めるのは大変な仕事だし、容易には叶わない。しかし、4ワールドカップ前にこれほどの大愚行を犯しても、我々の進歩は止まらなかった。粘り強く丁寧に進んで行けばよいのだ。時には後退を余儀なくされる事もあるだろう。現実的に悲しいチェアマンを抱いているのは、典型的な後退劇だ。けれども、このような過ちも、あのフリューゲルス消滅に比べれば小さなことに過ぎない。我々が皆で丹念に積み上げてきたものは、3つのお願いやプレイオフ導入やさらなる日程破綻推進くらいでは揺らがない。
我々は、サッカーと言う、少々理不尽だが、汲めども尽きぬ魅力に満ち溢れた玩具を愛し続ければよいのだ。
だからこそ、愛するものを守るために、執拗に執拗に繰り返す。私はあの悲劇を絶対に忘れない。
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