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2014年10月29日 (水)

大坂洋さん on L型大学

かつて本ブログでも何回もコメントしていただいたことのある大坂洋さん@富山大学が、御自分のブログで「L型教員を目指しま」という冷静な文章を書かれています。

http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20141027/p1

冨山氏の悪口いう人が多いが、大学の外や学生の平均的な認識はこんなもんなんじゃないだろうか。要するに人文・社会系の大学の職業的意義は自動車学校以下。

ちょっとだけ、冨山さんに注文。(多分、読まんだろうがこんなブログ)G型教員ダメならL型教員みたいなのあったけども、これは絶対に反対。かつて、教養部が学部の下みたいな意識が、変な教養部改革に結びついて、教養教育をダメにした。L型がG型の下という位置付けでやれば、絶対に多くの教員はついてこないことが予想される。むしろ、君、L型だめなの?仕方ないから役にたたないG型でもやっとけ、くらいの感じで文科省が始めないとダメでしょう。(L型への反発に一部には、かつての学部の下僕のような教養部への扱いを思いださせる部分があるかもしれない。)

それに関連してだけど、まっとうな職業的な意義のある教育にはちゃんとした学問的裏付けが必要となるし、ちゃんとした高度なL型教育ができる教員は研究者であるかどうかは別として、関係分野の学問的動向くらいわかってないといけない。この辺りは本田由紀さんの本を参照のこと。

あと、こっちのほうがより真剣な注文なんですが、大学の職業的な意義のある教育を企業が評価することなしに、L型大学は成功しない。せめて、経済学部で簿記3級とか、ITパスポートとっている学生をTOEIC650点(ささやかすぎますか?)くらいにはみなしてくれないと。さらにいえば、今の職業的意義のない大学の現状であっても3年後期の成績、できれば、4年前期や卒論の準備もしっかりやっていることをしっかり見て企業が内定を出してくれるような下地がないと、L型への移行も難しくなるんじゃなかろうか。運動部やっているほうが、勉強やっているより評価されるようじゃ学生のほうも安心して勉強できない。そのあたりは、冨山さんがぜひ経団連にはたらきかけてもらわなければならない。

いずれにしてもL型の教育実績や教育成果、L型学問をちゃんとやった学生が社会や企業にちゃんと評価されないとうまくいかない。冨山さんの議論には、このあたりの危惧を感じている。

冨山さんが出した例はたしかにちょっと変だけど、逆に文句いっている(特に大学の教員)は職業的素養がないまま、労働市場に放置されている若い人のために何ができるか考えてんだろうか。専門学校化とかいうけど、専門学校以上のことを今の大半の大学は学生に提供できていなんじゃなかろうか。

ただ、大学の教員がこの手の話に気軽に賛成できない理由はよくわかる。自分のことでもあるし。私だって職業的意義のある教育なんてやれていない。この手の話は人文・社会系の教員は自虐なしにはきちんとした議論ができないのだ。それでもその自虐にたえることなしに、大学の状況を放置していれば、ますます、職業的素養がないまま、キャリア形成ができないまま、労働市場に若者が放置される状況がつづくのだ。

ほぼ全面的に同感です。職業的レリバンスのある教育が存立しうるためには、雇用システムの側がそれを重視するようになっていなければ意味がないわけで、この議論はまさにそういう雇用システムを含めた社会システムの転換を論ずる議論であるのに、そんなの今の世の中で受け入れないよ、と言えば反論したつもりになっているアカデミックな方々の水準は残念なものがありました。そういう、もはや維持しがたくなっている今の社会のあり方の上に乗っかって学生の卒業後の職業生活に関わらない教育をすることで生計を立てている人々を若干からかった表現に、異常なほどの反発があったのも、そのあたりの構造が浮かび上がる感じでした。

そこの冷厳な構造が見えている大坂さんは、「自虐」まじりにその姿を描き出すわけですが、多くのアカデミックな方々には、せめてこの程度の「自虐」的な客観的姿勢が欲しかったな、という思いがします。

冨山さんのペーパーのどうしようもないところばかりをあげつらえば、何かその冷厳な構造から目を背けていられるかといえば、もちろんそうではないわけですから。

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