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【社会】

派遣常態化…見えぬ希望 「女性活躍」どこへ

 「女性が活躍する社会」はどこへ−。労働者派遣法改正案が二十八日、臨時国会で審議入りした。「基本は正規雇用」との理念を覆す内容で不安定な派遣労働を増やしかねず、パートや派遣など非正規雇用が過半数を占める女性への影響はとりわけ深刻だ。安倍政権が掲げる看板に逆行するような中身に、当事者からは反発の声が聞かれる。 (柏崎智子、小林由比)

■ついにクビ

 「ついに私もか」。東京都江戸川区の松原令子さん(51)は一昨年末、三カ月更新の派遣契約を打ち切られた。二十四年間、家電メーカーで働いた。賞与はないがアルバイトより時給は良く、両親との生活を支えることができた。三年より長く働けたのは、ワープロの技術があり、法の例外規定の専門業務と扱われたからだった。

 松原さんは、更新時期が近づくたびに「職を失うのでは」と不安を感じていた。いざ契約が打ち切られると、勤務先は「派遣会社の問題」、派遣会社は「相手先に言われれば仕方ない」と取り合わなかった。

 現行法は、一部の専門的業務を除き、一つの仕事を派遣労働者に任せる期間は三年に限る。それ以降は同じ人を直接雇用した上で同じ仕事に充てるか、別の正社員を配属するかしなければならない。

 しかし改正案では、労働組合の意見を聴くことなどを条件に、すべての業種で同じ仕事を無期限に派遣労働者に任せることができる。派遣に委ねる業務は確実に拡大するため、「クビ」の不安におびえる労働者の増加につながりかねない。松原さんは「ふざけるなと言いたい」と憤る。

■正社員には

 兵庫県の派遣社員の女性(45)は昨年、勤務先のメーカーで、正社員として雇ってもらえないか上司に相談した。働き始めてから二年間、残業を含め正社員と同じように仕事に打ち込んできた。それでも賞与はなく、時給千三百円では、正社員の給与の半分以下だ。「働けば働くほど待遇の差がつらくなる」。やむにやまれぬ申し入れだった。

 しかし、答えは冷酷だった。「正社員になれると思ってるの」。派遣元の会社にも時給二十円アップを交渉したが、こちらもなしのつぶてだった。

 派遣社員として働き始めたのは七年前。言葉の暴力を繰り返す夫のモラルハラスメントに耐えかね、別居したのがきっかけだった。その後離婚し、今は貿易事務の仕事をしながら二人の息子を育てる。

 改正案は、三年間働いた派遣労働者が引き続き働くことを希望した場合、派遣元の企業に、新たな派遣先を提供することや従来の派遣先に直接雇用を依頼することを新たに義務付けた。

 しかし、派遣元が規定を守らなくても罰則はなく、実効性は未知数だ。女性は「派遣を使うのは正社員より安く、使い捨てできるから。改正で正社員化が進むとは思えない」と疑う。

 一方で、安倍政権が推進する「女性活躍推進法」が正社員しか対象にしていないことにも怒りを感じる。「非正規の立場で家計を担うような女性に目を向けていない。本当はそうした女性の環境改善こそ必要なはずだ」

 

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