(伊丹織枝)お母さん醤油ないみたい。
(伊丹聡子)買い置きがあるはずよ。
あっあったあった。
うちも減塩にしたんだ?
(聡子)お父さん最近血圧高いから。
お父さんどう?カボチャ味薄すぎたかしら?食事の時ぐらい仕事のこと忘れたら?お母さん作り甲斐ないって。
(伊丹秀一)うん?そんな調子だと離婚されちゃうから。
誰が?お父さんがよ。
厚生年金の分割制度ができたお陰で熟年離婚増えてるらしいし。
何?その分割制度って。
例えば専業主婦が離婚したらそれまでは旦那さんの厚生年金がもらえなかったの。
でも今は最高で半分までもらえるのよ。
あらいいじゃない!その時は私が離婚調停してあげるから。
何を言ってるんだ。
弁護士1年生に調停なんかできるのか?できますよそのくらい。
あっお母さんも心配。
またお母さんまで。
そんなことないよ〜!そう?ふふふ…。
おいしそう!ほらおいしいわよこれ。
(ドアの開く音)
(ドアの閉まる音)
(パトカーのサイレン)
(無線)「ガイシャは谷山しのぶ。
“たに”は谷川岳の谷…」主任!遺留品です。
主任!これ。
(宮本忠)おう。
事件の日階段ですれ違ったのはこの男ですかね?そうそうこの人です。
大槻和夫さんいらっしゃいますか?
(大槻貞子)あっはい…。
あなた!
(大槻和夫)うん?
(貞子)何か…。
大槻和夫さんですね?はい。
谷山しのぶさんの殺人容疑で逮捕状が出ています。
ええっ!?
(本多和美)おかえりなさい。
お父さんまた国選引き受けてきたの?おいおい。
伊丹先生…。
うちの事務所が今そういう状態じゃないってことおわかりのはずです。
(和美)もう少し経営のことも考えてくださらないと。
確かにイソ弁を置いておく余裕はないね。
(加瀬直人)すいません…。
いやいや加瀬君はもう一人前の弁護士だよ。
伊丹君。
頼んでいてもらってるわけじゃないからね。
よその事務所に行ったほうが勉強になるんじゃないの?人の気も知らないで…。
気にしない気にしない。
私達で絶対にもうかる事務所にしましょう。
はい。
今度はどんな事件なんですか?先月磯子区のアパートで主婦が殺された事件あったろ?はい。
テレビのワイドショーでも話題になってましたよね。
社長が元部下と不倫関係になって結婚話がもつれてそれで…殺しちゃったのよ確か。
被告人は大槻和夫57歳被害者は谷山しのぶ38歳。
被害者も被害者の夫も以前被告人の会社で勤めていたらしい。
会社も話題になってましたよね。
何とかっていう最新技術を使って新素材の開発してるの。
何だっけ?な…な…。
ナノテクノロジーですか?あっそうそれ!じゃあ結構大きな会社じゃないですか。
ああ…それで何で国選なのかしら?普通顧問弁護士くらいいるわよね。
顧問弁護士がいないんだったらうちが食い込めませんかね?あら…。
僕も何かお手伝いしましょうか?いや君のほうの案件まだ大変なんだろう?いやもうヤマは越えましたから。
今回ね伊丹君に手伝わせようと思ってるんだ。
ああ〜。
迷惑かけるけど頼むよ。
いや別に迷惑なんて。
あっお手すきの時に最終弁論の原稿を読んでいただけますか?ああもちろん。
お願いします。
大槻貞子さんでいらっしゃいますか?はい。
ご主人の国選弁護人になりました伊丹と申します。
こちらでインテリアコーディネーターをなさってらっしゃるんですか?ご用件は?ええ。
まずご主人の会社に顧問弁護士の方がいらっしゃるんじゃないかと思いまして。
さあ…存じません。
そうですか。
お越しいただいて申し訳ないんですけど私にあの人のことを訊かれても困るんです。
それは現在ご主人と離婚協議中だからということですか?仕事が立て込んでおりまして。
失礼します。
(貞子)お待たせしました。
私は谷山しのぶさんを殺したりしていません。
殺してない?はい。
警察は谷山しのぶさんの部屋からあなたのライターを押収していますね。
あなたの指紋も採取されています。
ライターは彼女の部屋を訪ねた時に忘れたんだと思います。
検察はあなた方が不倫関係にあったとみています。
そんなこと絶対にありません。
ではどうして谷山さんの部屋を訪ねたんですか?谷山君達にも離婚話が出ていてそれで相談に乗ってやっていたんです。
私が2人の仲人をしたものですから。
仲人?はい。
谷山しのぶさんが殺害されたと思われる時刻にあなたが谷山さんの部屋から出て来るのをアパートの住人に見られていますね。
私は彼女を殺したりしていません。
本当です。
信じてください。
(宮本)まだそんなことを言ってるんですか。
取り調べの時も否認していたんですか?ええ。
例の凶器を突きつけてもやってないの一点張りでね。
ホットプレートに使う電気コードですね?
(宮本の声)そうです。
レジ袋からも電気コードからも大槻の指紋が出ています。
これ以上の証拠はないでしょう。
物証にしろ状況証拠にしろ大槻さん真っ黒じゃない。
でも本人は殺してないって言ってるんです。
冤罪っていう可能性もあるんじゃないですか?被害者の谷山しのぶさんにも離婚話が出てたって言ってたよね。
そのことで旦那の谷山信行さんともめてたってことは?警察も谷山さんに何度か事情聴取してシロって判断したんです。
でももう一度その谷山っていう人を洗ってみたほうがいいんじゃないですか?ねえその人も以前大槻さんの会社にいた人なんでしょ?何かにおいますよね。
おいおいいつから探偵事務所になったんだ?本多さん請け書出してきてくれた?ああ忘れてました。
裁判所行って来ます。
ああ一緒に出よう。
はい。
頼むよ。
いってらっしゃい。
(大槻晴見)母にはこれからは自分のために人生を送ってもらいたいんです。
せっかくインテリアコーディネーターの資格も取ったんですし。
熟年離婚には大賛成です。
私は母を応援します。
(貞子)晴見もういいわ。
ご主人に離婚の話を持ち出した時はどうでしたか?何言ってるんだってまったく話になりませんでした。
同意しなかったということですか?そうですね。
それだとつじつまが合わないなぁ。
何がですか?検察はご主人が谷山しのぶさんに結婚を迫りそれを断られたためにカッとなって首を絞めたと結論づけてます。
もしご主人が本当に谷山さんとの結婚を考えているのならすぐ離婚に応じるはずですよね。
大槻はワンマンでプライドの高い人なんです。
私から離婚を言い出されたことがよっぽど屈辱だったんじゃないですか?なるほど…。
ご主人のお友達をどなたか紹介していただけませんか?友達と呼べる人はほとんどいません。
そうですか。
あの食事なんですけど…。
はい。
主人が今いるところはどうなってるんでしょうか?普通官弁という食事が支給されますが指定業者から買って食べることもできますよ。
差し入れをされますか?大槻は食物アレルギーがあるんですよ。
それもかなりひどい。
(晴見)あんな人のこと今さら心配することないわよ。
あっ…ははっそうね。
ついクセで。
(池田雅人)「その時被告人はかねてから交際中であった谷山しのぶを殺意を持って死に至らしめようと思いグリル鍋用の電気コードを使用し首を絞めもって同女を死亡するに至らしめたものである」。
罪名及び罰条殺人。
刑法199条。
以上につきましてご審理願います。
(室井真一)今検察官が読み上げた控訴事実の中で何か間違ってることがありましたか?私は谷山しのぶさんを殺しておりません。
弁護人の意見はいかがですか?弁護人は被告人の無罪を主張します。
今日の公判私のほうがヒヤヒヤしちゃった。
織枝がヒヤヒヤすることないだろう。
だって検察側に物証と目撃者の証言があるのにこれからどうやって公判を維持していくつもりなの?検察の主張どおり大槻さんと被害者が不倫関係にあったかどうかがポイントだ。
私は真犯人を突き止めたほうが早いと思う。
被害者の夫はやっぱり怪しいわよ。
何度も面会を求めてるのにまったく応じようとしないんだから。
まだそんなことやってるのか?私は弁護士として事件の真相を知りたいだけよ。
似たもの親子ね。
(織枝・秀一)えっ?2人とも仕事には熱いってこと。
おみそ汁は冷めちゃったけど…まあ温めてきましょうね。
ごめんお母さん。
私がやるよ。
いいわよ。
座って。
いただきま〜す。
私1人で大丈夫なのに。
駆け出しの頃の自分を見てるようですが。
男のお節介はモテませんよ。
仕事が恋人ですから。
まいりました。
失礼ですけど谷山信行さんですか?
(谷山信行)そうですけど…。
何度かお電話を差し上げた弁護士の伊丹と申します。
ちょっとだけお話聞かせてもらえませんか?
(谷山)大槻社長のところからここに来たのは3年前です。
大槻さんにはどのような印象を持ってらっしゃいますか?結婚する時に仲人をしてもらいました。
印象って言われても…。
とにかく仕事熱心で仕事には厳しい人でした。
大槻さんが奥さんを殺したと聞いた時どう思われましたか?最初は信じられませんでした。
でも後から2人が不倫関係だったって聞いてそういうことだったのかって…。
奥さんが不倫していることは気づかれてたんですか?
(谷山)何となくは…。
でも相手が大槻社長だなんて思いもしませんでしたけど。
奥さんとは離婚しようと思ってたわけですよね。
原因は何だったんですか?
(谷山)彼女が勝手に出て行ったんです。
出て行った後も時々会ったりしてたわけですか?何を聞き出したいんですか?いや…大槻さんの裁判のためにその…。
奥さんが殺された夜ご主人はどちらにいらしたんですか?あなた方に関係ないでしょう。
言えないような場所にいらしたんですか?あなた方弁護士でしょう?何でそんなことまでいちいち訊くんですか?訊かれて困るようなことなんですか?答える必要はないと思います。
仕事なので。
ちょっと待ってください!今日はお仕事何時に終わりますか?まだ他にもお訊きしたいことがあるんです!
(津野吾一)谷山君どうした?あっ何でもありません。
会議なんで…。
うん。
谷山の上司の津野といいます。
正確には元上司なんですが。
谷山が何か?
(和美)やっぱり谷山信行が真犯人よ。
動機としては十分じゃない。
大槻さんに不利な証拠がそろっているのも谷山が意図的に罪を被せているとしたら納得できます。
大槻さんはそのことをわかってるのかしら?わかっているんじゃないですか?だったらどうしてそのことを黙ってるの?こういうふうに考えられませんか?やっぱり大槻さんと谷山しのぶさんは不倫関係にあった。
だから罪を被せられているとわかっていながら谷山信行のことは告発できない。
ああ大槻さんとしても谷山に負い目があるもんねぇ。
加瀬君。
はい。
最終弁論よく書けてるよ。
ありがとうございます。
詰めをしっかりね。
はい。
悪いね伊丹君の付き合いをさせて。
あんまり無理しなくていいよ。
いえ。
無理してるわけではありませんから。
この人…。
ねえ加瀬さんはどう思います?谷山信行の印象は限りなくクロですよね。
推測だけでは証拠にはならないよ。
この人朝会った人じゃない?ああっ!そうですよ!津野って言ってましたもん。
(和美)「ナノテクノロジーの世界的権威の献身愛」ってすごいタイトル。
へえ〜。
この人末期ガンの奥さんを看病するために早期退職したんですって。
ふ〜ん。
だから元上司って言ってたのか。
大槻さんの弁護をよろしく頼むってこの津野っていう人に言われたんですよ。
どうして?大槻さんとは大学時代からの友人だって言ってました。
ちょっと見せて。
はい。
(津野栄子)貞子…やっぱり来ないわね。
(栄子)まだ私のこと…。
そんなことないよ。
貞子嫉妬深いから…。
(ノック)失礼します。
はい。
一日中ずっと付き添ってらっしゃるんですか?
(津野)ええまあ。
あっ時々仕事の引き継ぎで会社へ行くこともありますが。
なかなかできませんよね。
そんな偉そうなもんじゃありません。
罪滅ぼしですよ。
自分が好きな仕事のことだけを考えてやってこれたのも妻の支えがあったからなんです。
まあ今頃気がついても遅すぎますけどね。
大槻とは大学時代からの友人なんです。
学部も同じでしたしテニスのサークルでも一緒になりましてね。
そうでしたか。
大槻さんと谷山しのぶさんとの関係については何かご存じでしたか?いえまったく…。
しのぶさんのご主人の谷山君がうちの会社へ入ったのは私が大槻に頼まれたのがきっかけなんです。
技術者としての谷山君の将来を考えたら自分のところへ置いておくのはもったいないからと言って…。
じゃあ大槻さんは谷山信行さんのことをかわいがっていた。
ええ仲人もしていましたしかわいがっていたと思います。
そんな大槻が谷山君の奥さんとそんな関係になると思いますか?ましてや…。
殺してしまうなんて考えられない。
私には考えられません。
大槻さんご夫婦が…。
離婚話ですか?ご存じですか?大槻から聞いてました。
原因も聞いていますか?いえ。
大槻もよくわからないと言っていました。
そうですか。
大槻さん。
あっ…。
へえ。
じゃあ4人とも同じテニスサークルだったんですか。
当時から皆さん仲がよかったわけですね。
大槻は当時女子部員のあこがれの的でした。
じゃあ奥さんも?うーん…。
何となく4人でグループ交際みたいな感じになって気がついたら2組に分かれていて。
そうですか。
その後もずーっと家族ぐるみのお付き合いを?栄子とは卒業以来会っていません。
大槻はずっと栄子のことが好きだったんですよ。
きっと今でも…。
貞子嫉妬深いから…。
確かに学生時代にはそういうことがあったかもしれませんがご主人はあなたとの結婚を選んだわけですよね。
海外赴任したかったんですよ。
結婚当時大槻が勤めてた会社は妻帯者じゃないと海外赴任させなかったんです。
だからまあとりあえず…。
とりあえずで結婚はしないと思いますが…。
大槻は私に心を開いてくれたことは一度もありません。
(店内の音楽)
(テーブルをたたく音)加瀬さん行きましょう。
うれしいわ来てくれて。
(貞子)ホントに?学生の頃私と大槻さん何もなかったわよ。
もちろんその後も。
よかったわ…。
死ぬ前にあなたに伝えられて。
ただいま。
先生!織枝さんから携帯に電話いきませんでした?あっ電源切れてる。
谷山さんが警察に任意同行を求められたそうです。
えっ?
(加瀬)先生!どうしたの?谷山が若い男を殴ったの。
若い男?はい。
僕も目にしました。
出てきた。
伊丹法律事務所の伊丹です。
またあなた達ですか。
何かあったんですか?関係ないでしょう。
じゃあ気をつけて。
(八木等)どうもお世話になりました。
どうも。
また何か?今出て行かれたのは被害者の夫の谷山信行さんですね。
そうですけど。
2人が何かしたんですか?はあ。
今帰った人とホテルの駐車場でちょっとした口論があったようです。
別に大したことじゃありません。
口論ですか?ええ。
まあ両人ともそう言ってますしそれ以上はこちらがかかわることではありませんので。
ところで大槻まだ否認してるんですか?ええ。
ははっ。
弁護士さんも大変だ。
ははは…。
加瀬君…。
2人してさっきの若い人を脅してたように私には見えた。
脅してた?あなたの奥さんや周囲の方々からいろいろ話を聞きました。
でもどうもわからないことが多すぎます。
検察側が出してくる証拠はあなたにとって圧倒的に不利です。
しかしあなたは殺してないと言う。
大槻さん。
私にまだ話してくれていないことがあるんじゃないんですか?先日あなたの親友である津野吾一さんに奥さんの入院先でお会いしました。
栄子さんの具合はどうなんですか?詳しいことは…。
訊いてもらえませんか?
(貞子の声)大槻はずっと栄子のことが好きだったんですよ。
お願いします!この後病院に寄ってみましょう。
(貞子の嗚咽)
(嗚咽)1時間ほど前に…。
(貞子)私の知ってる津野さんは会社を早期退職して奥さんの看病をするような人じゃなかった。
最後の最後にあんなことできた津野さん偉いですよ。
栄子もこんなに早く旅立つのは悔しかっただろうけど最後に津野さんに見送ってもらって幸せね。
そうですね。
私が栄子と同じようになったら…。
ふふっ…考えるだけムダですよね。
あの人はいつも自分のことしか考えないんですよ。
昔から。
ご主人が本当に殺人を犯したと思いますか?ご主人はずっと犯行を否定しています。
正直困ってるんです。
大槻さんほとんど何もしゃべってくれない。
しかし私にはご主人が嘘をついているようには思えない。
このままだと間違いなく有罪です。
しかも実刑を覚悟しなければなりません。
弁護人としては情状酌量を求めていくことも視野に入れています。
そこで奥さんにお願いなんですがご主人のために一度法廷で証言を…。
お断りします。
どうしてですか?私は彼のために有利な証言何もできません。
本多さんこれファクスしておいて。
はい。
伊丹君は?午前中から出たきりなんですけど…。
(ドアの開く音)
(和美)どうしたの?
(和美)いらっしゃいませ。
(加瀬)何でしょうか?それはこっちが訊きたいですよ。
どうされました?あなたが尾行させてるんですか?ごめんなさい。
尾行ではありません。
(佐川俊彦)いい加減なこと言ってるんじゃねえよ!いい加減なことは言ってませんよ。
先生。
警察呼びましょうか。
いいよ。
呼んでみなよ。
誤解を招くような行動をしたことはお詫びします。
谷山さんからきちんとお話を伺いたいと思っただけで。
この前も彼女に言ったはずですよ。
話すことはないって。
わかりました。
もう二度とこのようなことはさせません。
申し訳ありません。
お願いしますよ。
加瀬君!何でそんなとこボケッと突っ立ってるのよ!先生申し訳ありません。
僕がついて行ってれば…。
加瀬君のせいじゃないよ。
君には君の仕事がある。
まったく…あれほど言ったのに。
でも聞いて。
わかったの。
きっと保険金殺人よ。
保険金殺人?そう。
この前ホテルで脅されてた相手ハートフル損保の外交員だったのよ。
きっと保険会社も疑っていて谷山しのぶさんの保険金が下りてないんだと思う。
それで何度も外交員に詰め寄っていたのよ。
保険金殺人に間違いないと思います。
今の段階では断定できない。
明日直接保険会社に行って訊いてみます。
やめなさい。
でも…このままだと大槻さん有罪になっちゃうでしょ?それとも他に裁判に勝てる方法があるんですか?もう一度だけ言う。
やめろ!平常心を忘れるな。
冷静さを少しなくしてた。
いただきます。
そうですか。
津野に看取られて…。
最後は苦しむこともなく眠るように旅立たれたそうです。
裁判の話ししていいですか?この前も言いましたけど知っていることを話してくれない限りあなたの不利な状況は変わりません。
私の口からはこれ以上話すことはありません。
私はまだあなたの口からほとんど何も聞いてませんよ。
次の公判に弁護側の証人として奥さんをお願いしようと思ってます。
あいつがうんと言ったんですか?いえそれはまだ。
私と離婚したがっている人間が私のために証言してくれるわけないじゃないですか。
今回の事件に奥さんが関わっている…。
それはありませんよね?どういう意味ですか?あっいえ…。
あいつのことを疑ってるんですか?そんなバカな…。
証人を呼ぶんなら津野を呼んでもらえませんか?いやあいつなら喜んで引き受けてくれるはずです。
(津野)ありがとうございます。
大槻さんからくれぐれもよろしくと言付かってきました。
そうですか。
あの大槻はどうですか?お元気ですよ。
実は今日大槻さんのことでちょっとお願いがあってまいったんですが…。
でしたら先生この後お時間のほうは?すいませんね。
家で1人で食事っていうのが何ともわびしくて。
先生裁判はそんなに不利ですか?それでも大槻さんは私に何も話してくれません。
話すことはあってもあえて黙ってる。
私にはそうとしか思えない。
こういう状況ですから公判では情状酌量を訴えていくしかないと思っています。
そこで大槻さんのために弁護側の証人として証言台に立っていただけないでしょうか?これが今日のお願いなんです。
そうでしたか。
いや私で役に立てることでしたら喜んで。
助かります。
いえ…。
加瀬さん来た!ああ…!会社としても保険金殺人を疑ってるんですか?そういうことはお話しできないんですよ。
でしたらうなずいてくれるだけでも結構です。
疑ってるんですか?谷山さんお金に困っているような事実もあるんですか?
(和美)どうしたの?2人とも。
思ったとおりだった。
(和美)何が?やっぱり保険金殺人みたいです。
まだ調べてたのか。
(加瀬)すみません。
あれほど言ったのに。
ごめんなさい。
でも聞いて。
谷山信行は今の会社に移ってから人間関係でうまくいってなかったようです。
そのストレスかどうかはわかりませんがギャンブルに手を出したんですね。
それもほとんど依存症になるぐらい。
この間一緒に来た佐川って男とはギャンブルで知り合ったようなんです。
当然借金もできました。
で今度は株にも手を出したようです。
それで借金をまた増やして…。
それで保険金殺人?谷山しのぶさんの死亡保険金を払うのを渋っているのは確かです。
保険会社としてもこの裁判の判決が出るのを待っているという感じでした。
状況から言って谷山しのぶさんを殺す一番強い動機があるのは夫である谷山信行です。
大槻さんは谷山にはめられたんじゃないでしょうか。
どうですか?伊丹先生。
(加瀬)先生。
(ドアの開く音)ごめんください。
(和美)はい。
あっどうも。
申し訳ありませんがこれを大槻に渡していただけませんでしょうか。
失礼します。
大槻の署名をもらっていただきたいんです。
裁判が終わってからでも遅くはないんじゃないでしょうか。
いえ。
私達はもう元に戻ることはありませんから。
あの人に伝えてください。
私を早く解放してって。
(池田)つまりあなたの奥さんが住んでいたアパートにあなたが訪ねた時ここにいる被告人が部屋にいたというんですね。
そうです。
その時被告人と被害者はどんな様子でしたか?妻は大槻社長のことを追い返そうとしていたように見えました。
(谷山しのぶ)帰ってください!頼む!もう関係ないじゃないですか!もう一度考え直して…。
結構です。
帰ってください。
(大槻)いやそれは…。
(池田)つまり2人は何かもめているような感じがしたわけですね?具体的に何でもめていたかわかりましたか?そこまではわかりません。
あなたがギャンブルや株で作った借金の総額はいくらになりますか?ちょっとわかりません。
相当の金額になることは間違いありませんよね。
その借金をあなたはどうやって返済するつもりですか?
(池田)異議あり!弁護人の一連の質問は審理とは関連がありません。
(室井)弁護人ご意見は?もう少し続けさせていただければ質問の意図をわかっていただけると思います。
異議を認めます。
弁護人は質問を変えてください。
大槻は確かに仕事人間かもしれませんが情に厚い面も持っています。
確かにあまり社交的なほうではないので普段はなかなかそういう面を見せませんが先ほど証言した谷山君の将来を考えて私が勤めていた会社に入れてほしいと頼みに来たのも大槻なんです。
被告人は谷山さん夫婦の離婚の相談にも乗ってあげていたそうですがそのことは聞いていませんか?私は聞いておりません。
では被告人が谷山しのぶさんと不倫関係になるようなことは考えられますか?私は大槻が谷山君をかわいがっているのを知っておりました。
奥さんとその…。
不倫関係になるようなことは考えられません。
証人は学生時代からの親友だそうですから被告人の人となりはよくご存じなわけですよね。
はい。
では今回の事件のことを聞いた時どう思いましたか?まずは信じられませんでした。
大槻はそんなことをするような人間ではありません。
それは私が一番よく知っております。
ただ…。
ただ何ですか?奥さんから離婚を切り出されて精神的…。
精神的に不安定になっていたというようなことはあったかもしれません。
質問を変えます。
先ほど証人もおっしゃいましたが谷山さんは会社ではあなたの部下だったわけですね。
はい。
谷山さんがギャンブルや株にのめり込み多額の借金を抱えていることはご存じでしたか?はい知っておりました。
どうして知ったんですか?谷山君から借金の申し入れがあったからです。
谷山さんからあなたに借金の申し入れがあった。
それはいつのことですか?半年ぐらい前です。
いくら貸してほしいと?1000万円だったと思います。
結局断りましたが。
1000万円をあなたから借りれなかった谷山さんはどうしたんでしょう?それはわかりません。
別の人から借りたりしたんでしょうか?わかりません。
質問を終わります。
(室井)これで審理を終えますが他に何かありますか?裁判長。
弁護人は谷山信行さんへの主尋問を要請いたします。
1000万もの借金があるそうですがその借金はもう返せたんですか?まだ返してません。
どうやって返すつもりですか?相当返済に困ってるんじゃありませんか?あなたに関係ないと思いますけど。
質問に答えてください。
(池田)異議あり!弁護人は審理とは関連のない質問を繰り返しています。
弁護人ご意見は?ただ今の証言でもおわかりのように証人は現在多額の借金を抱えております。
また被害者の死亡保険金をめぐって保険会社とももめております。
それは未だ保険会社が証人に対して死亡保険金を支払っていないからであります。
弁護人はなぜ保険会社が死亡保険金を証人に支払わないのかその点を質問によって明らかにしたいと考えております。
裁判長。
よろしいでしょうか?どうぞ。
弁護人の発言を聞いておりますと保険会社は保険金殺人を疑っているかのような印象を受けます。
しかもあたかも証人が保険金殺人を犯したかのような印象さえ与える尋問で不相当です。
ただ今の弁護人の発言の撤回を求めます。
弁護人ご意見は?実際保険会社が保険金殺人を疑っていることは間違いありません。
そのことを考慮すれば証人の借金問題と今回の事件との関連性を聞き出す尋問は相当であると考えます。
異議を認めます。
弁護人は質問を変えてください。
質問を終わります。
大槻さん昨日の公判の時いつもと様子が違いましたね。
ひょっとして谷山さんをかばってるんじゃないですか?谷山しのぶさんの死亡保険金が下りるまであなたは谷山信行さんの身代わりになろうとしてるんじゃないんですか?まさか。
違います。
本当に違いますか?私は谷山君をかばったりしていません。
もちろん彼女を殺してもいない。
信じてください。
これは私も迷ったんですが奥さんには裁判が終わってから改めて考えたらどうですかって言ったんですが…。
ああありがとう。
どうしたの?うん…大槻さんに渡した奥さんからの離婚届が気になってね。
仕方ないですよ。
あの夫婦は遅かれ早かれそうなったんですよ。
そうなるのかなぁ。
(電話)
(和美)はい伊丹法律事務所です。
いつもお世話になっております。
ええっ!?ご苦労さまです。
首をつったと聞いたんですが…。
上着を使いました。
大槻和夫の弁護人の伊丹です。
容体は?脈拍血圧ともに正常の範囲内に戻っています。
うっ血もありますがしばらく安静にしていれば4〜5日で退院できます。
面会できますか?長い時間でなければ。
ありがとうございます。
大槻さん…。
公判中のこんな時にあなたの気持ちも考えず離婚届を渡してしまって本当に申し訳ありませんでした。
先生…私の人生一体何だったんですかね。
独りぼっちになってしまった。
大槻さんが谷山しのぶさんを殺害していないことを私は信じてます。
しかしそれを証明するためには真犯人を捜すしかないんです。
お願いします。
知っていることは全て話してください。
でなければ真相にはたどり着けない。
お願いします。
大槻さん…。
お仕事中すいません。
(貞子)いえ…。
で大槻の容体は?命に別状はありません。
4〜5日で退院できるそうです。
ああ…そうですか。
ただ精神的にはかなり落ち込んでいるようです。
どうしてそんなことに…。
あの…何か理由は言ってましたか?いいえ。
あの…離婚届が原因でしょうか?わかりません。
ただ…。
離婚届にご主人のサインがしてありましたよ。
私なりに考えたんですが死を覚悟したご主人があえて離婚届にサインをしておいたのは…。
うまく言えないんですけどあなたに対する最後の思いやりじゃないですか?こんな時こそ夫婦としてご主人を支えてあげるべきじゃないんですか?私もそう思います。
でしたら…。
私も夫婦は支え合うものだと思ってました。
でも大槻は違ったんです。
どう違ったんですか?この前先生もお会いになった娘…。
晴見さんですね。
あの子は結婚8年目にやっと授かった子供です。
私はそれまでに二度流産してました。
だからあの時もまた…。
そうだったんですか。
でも生まれてきてくれたんです。
ちょっと早めに1000グラムにも満たない手のひらに乗るような小さな体で何か月も保育器に入って…。
私は不安で怖くて夫に助けを…支えを求めました。
でも大槻は医者に任せていれば大丈夫。
心配しすぎだと言って私の話を聞いてもくれませんでした。
私は絶望していました。
海外赴任のためにとりあえず結婚した相手にはこの程度なんだと。
あれから24年間私は一度も大槻に支えてもらったことはありません。
もう十分です。
別々に生きる時が来たんです。
お手数をかけました。
先生。
また津野さんが載ってますよ。
(加瀬)横浜工科大学の学長が津野さんを客員教授に迎え入れる予定だそうです。
ほお〜すごいね。
ナノテクノロジーの世界的権威なのに仕事をなげうってまで奥さんの看病をしたことに学長は感動したって書いてありますよ。
津野さんは受けたの?受けたみたいですよ。
親友なのに光と影ね。
大槻さんこのままでいいんですか?また変なこと考えるかもしれませんよ。
今度は谷山信行のアリバイの線から洗ってみたらどうですか?谷山しのぶさんの殺害時刻のアリバイだろう?それは警察だって確認してるよ。
だからそれをもう一度洗い直すんですよ。
警察だってそんないい加減な捜査はしてないさ。
(宮本)その夜は谷山さんは友人とその友人の彼女の部屋で3人で飲んでましたね。
その友人の名前は?佐川という人ですけど。
この間一緒にいた…。
その佐川さんの彼女の連絡先も教えてもらえますか?
(加瀬)ここで夜11時頃まで谷山さん達と飲んでたのは間違いないんですね?
(立花ひとみ)だから警察に話したとおりですよ。
飲む時のおつまみはあなたが作ったんですか?
(ため息)ピザ頼みました。
宅配ピザを頼んだんですね?
(ひとみ)そうですよ。
もう出かけるんで!
(ため息)ああそういえば昼飯食ってなかったな。
先に帰っててください!えっ?おいしいお茶。
ふふっ。
ありがとう。
(ドアの開く音)ただいま。
(和美)おかえりなさい。
(加瀬)どこ行ってたの?見て。
佐川の彼女が頼んだピザの注文伝票のコピー。
彼女は嘘をついてる。
これで真犯人を追い詰められるわ。
3人で飲んでいる時8時過ぎに宅配ピザを注文していますね。
はい。
それは当然3人で食べたんですよね?そうです。
甲七号証のピザの注文伝票を示します。
どうぞ。
これはあなたが注文したピザの注文伝票のコピーです。
間違いありませんね?はい。
このピザはあなた方3人で食べたんですね?はい。
注文したのはマルガリータのスモールサイズ1枚。
この1枚を3人で分けてつまみにしたんですか?ピザ以外にもつまみはありましたから。
だとしてもですよ大人が3人もいてピザのスモールサイズをたった1枚注文するっていうのは不自然じゃないですか?だから他にもつまみはありましたから!ピザを届けた店員に聞いたんです。
あなたはこの宅配ピザの常連だそうですね。
いつもはラージサイズのピザを2〜3枚注文すると聞きました。
しかも届けた時大抵酒盛りの最中でにぎやかだったそうですね。
しかしあの日の夜に限っては違った。
ピザを届けた時いつになく部屋が静かだったと言っています。
どうしてですか?本当はピザを食べたのは3人ではなくあなた1人だったからじゃないんですか?つまりあの日の夜あなたの部屋に谷山さんも佐川さんもいなかった。
いたのはあなた1人だけだった。
違いますか?
(池田)異議あり!弁護人の尋問は威嚇的で証人はおびえています。
異議を認めます。
弁護人は質問の仕方に注意してください。
証人も先ほど宣誓で述べたように良心に従って真実を述べてください。
ひとみさんもう一度訊きます。
頼んだピザは3人で食べたんですか?私1人で食べました。
つまりあの日の夜あなたの部屋に谷山さんと佐川さんはいなかったんですね?いませんでした。
では2人はどこに行っていたんですか?谷山さんと佐川さんは谷山しのぶさんを殺しに行っていたんじゃないですか?あなたはそれを知っていて2人をかばっているんじゃないですか?違う!そんな人殺しなんて…。
では2人はどこに行っていたんですか?お金を盗みに行っていたんです。
(佐川)嘘だ!お前いい加減なこと…。
(室井)傍聴人は静粛に!
(加瀬・和美)おかえりなさい。
(和美)どうでした?2人とも窃盗の容疑で逮捕された。
谷山しのぶさんが殺害された同時刻に大田区の町工場に忍び込んでいたそうだ。
完璧なアリバイってわけか。
ごめんなさい。
私が余計なことをしたばっかりに先生に恥をかかせてしまって。
謝ることないよ。
別件とはいえ逮捕につながった。
お手柄だよ。
そうよ。
お手柄お手柄!ふふっ。
でもね真犯人…誰?
(ため息)奥さんが気になるんだ。
大槻貞子さんですか?ご主人が不倫していると思い込み思わず…。
でも奥さんは大槻さんと離婚したいわけでしょ?うん…。
それにアリバイもありましたよね?ただ大槻さんは何か隠してる。
奥さんも…。
あなたが心を開いてくれない限りこれ以上裁判は続けられません。
どうして黙ってるんですか?そうやって心を開いてくれないあなたの態度に奥さんも絶望したんじゃないんですか?奥さんはあなたがずっと亡くなった津野栄子さんのことを好きだった。
自分と結婚したのも海岸赴任したいためにとりあえず結婚したんだと思い込んでます。
娘さんが生まれた時未熟児だったそうですね。
奥さんにとってそのことは大変な心労だったそうです。
でもあなたはまったく気遣ってくれなかったって奥さんは言ってました。
そのことに絶望したとも。
そんな…そんなこと今さら言われたって…。
妻は晴見のことで私に愚痴を言ったこともありませんでしたよ。
あいつがそんなに悩んでいたなんて…。
いや知っていたら私だって…。
栄子さんのことだってまったくの思い違いだ。
そりゃ学生時代にはそんな気持ちもあったかもしれませんが…。
妻と結婚したのは好きだったからです。
当たり前じゃないですか。
ましてや海外赴任したいから結婚しただなんてそんなわけないでしょう。
あいつはそんなことを思ってたのか…。
やっと私に話してくれましたね。
はあ?大槻がホントにそんなこと言ったんですか?ええ。
お2人は結婚されて何年ですか?32年です。
その間お2人できちんと向き合って話し合ったことはないんじゃないですか?大槻には大事な仕事があって私が話しかけても聞き流すだけで…。
最後はいつもうるさいって!確かにそういうご主人も悪いと思います。
しかしあなたもそれを理由にしてご主人ときちんと向き合うことを避けてきたんじゃないんですか?それがすれ違いを生みお2人のすき間をどんどん広げてしまった。
夫婦はもともと他人ですからね。
話し合わなければわからない。
どんな形をとっても対話は絶対に必要です。
はは…私も偉そうなことは言えませんが女房なんだから少しはこっちのことも察しろよなんてよく思います。
でも心の中ではいつも女房に手を合わせてるんです。
男って大抵そういうもんなんです。
言い訳じゃないんですけど。
だから大槻さんだって…。
一度ご主人に接見してみませんか?
(大槻)そういう意味では仕事人間だったのかもしれません。
娘からそう言われても仕方ないと思います。
質問を変えます。
あなたが奥さんから離婚を切り出された時の心境を聞かせてください。
妻から離婚を言い出された時はまさに青天の霹靂でした。
それまで妻や子供のために一生懸命働いてきたつもりですから。
家族がいたからこそ頑張ってこられたんだと思います。
それなのに…。
もし奥さんから離婚を切り出されなかったらこの後どんなふうに生きていこうと思っていましたか?
(大槻)あと数年働いたら会社を誰かに任せて老後は妻と2人で残りの人生をゆっくり楽しみたいと思っていました。
妻には家のことを任せっきりで申し訳ないという気持ちがありましたから。
妻が前から行きたいと言っていたイタリアに家具でも見に行こうかとそんなことも考えていました。
そこに突然の離婚話です。
考えてみたこともありませんでした。
あの時は言葉では言い表せないほどのショックでした。
奥さんから離婚を切り出されたことを誰かに相談したりしたんですか?はい。
津野にだけは話しました。
相談に乗ってもらったわけですね?そうです。
でも津野も奥さんが末期ガンに侵されていることがわかって私の相談に乗ってもらうどころではありませんでした。
反対にあなたが津野さんの相談に乗ってあげた。
ええまあ。
津野から奥さんを看病したいという話を聞いた時津野の真剣な思いが伝わってきましたから。
だからできることなら栄子さんの最期を津野に看取らせてやりたい…。
どうしました?いえ何でもありません。
大槻さん。
ああ…。
あの…。
あっごめんなさい。
失礼します。
今日の被告人質問の時何か気づかなかったか?ああ大槻さんが途中で証言やめたところでしょ?あれどうしたの?亡くなった栄子さんのことを思い出して急にこみ上げてきたって言うんだけど違うような気がする。
う〜ん。
それと大槻さんが自殺を図った理由何だと思う?そりゃあやっぱり奥さんから離婚届突きつけられたからでしょ。
違うの?その大槻さんっていうご夫婦前から離婚の話が出てたんでしょ?そうだよ。
だったらその離婚届を突きつけられたからってそれが自殺のきっかけってことにはならないんじゃない?聡子もそう思う?
(聡子)うん。
まあ離婚を言い出すタイミングもよーく考えないといけないわね。
やば〜いお父さん。
カレーの仕込みしてる場合じゃないわよ。
何?おいおい…何だよ?どうして自殺しようとしたんだ…?
(ドアの開く音)
(和美)いらっしゃいませ。
伊丹先生。
こちら谷山しのぶさんのお友達で佐々木さんです。
仕事で2か月ほど海外に行かれていて3日前に日本に戻られたそうなんです。
(和美)どうぞ。
(佐々木直子)すみません。
しのぶが不倫していたのは確かです。
たぶん3年くらい前からだったと思います。
相手の方はご存じですか?いえ。
ただその方の離婚が成立したら結婚するつもりだって聞いてました。
どうもご足労おかけしました。
失礼します。
谷山しのぶさんの不倫相手は大槻さんじゃなかったんだ。
どうして?検察は大槻さんが谷山しのぶさんに結婚を拒絶されてカッとなって首を絞めたと言っているんです。
ああそっか。
結婚したがってたしのぶさんが結婚を拒絶なんて矛盾してるわよね。
これで裁判何とかなりませんか?確かに検察の起訴事実はおかしい。
しかしだからといって大槻さんがシロということにはならないね。
証拠は圧倒的に大槻さんにとって不利ですからね。
じゃあどうすればいいのよ…。
またそんなにかけて。
お醤油ぐらい好きなようにかけさせてよ。
お醤油替えても意味なかったわね。
お父さんの体のことを思ってお母さん食事のことをいろいろ考えてるんだから。
でもお父さんまだ好き嫌いがないから楽なほうだけどね。
すみませんね好き嫌いが多くて。
(聡子)あっそう言うんだったら梅干し食べなさい。
はいはい。
お父さん?うん。
今の話間違いありませんか?ええ。
今おっしゃったことをぜひ法廷で証言してください。
お願いします。
申し訳ありません。
突然お邪魔して。
いえいえ。
私のほうこそまだ慣れなくてバタバタしてまして…。
お忙しいところ本当に申し訳ないんですがもう一度だけ大槻さんのために証言台に立っていただけませんか?いやまだ私で役に立てることがあれば喜んで。
ありがとうございます。
津野さんの好きな食べ物は何ですか?好きな食べ物ですか?そうです。
はあ…寿司は好きです。
まあ魚介類全般に大体好きです。
でしたらカニもお好きですか?はい好きです。
質問を終わります。
あなたはここにいる被告人のために妻として長年食事を作ってこられましたね。
はい。
食事を作るうえで何か気をつけていたことはありますか?ああ…大槻は食物アレルギーがあるのでアレルギーを引き起こす食品を入れないように神経を使ってきました。
被告人の食物アレルギーはどの程度のものなんでしょうか?知らないで食べたりするとひどい腹痛を起こしたり吐いたりすることも…。
つまりかなり重篤な食物アレルギーと言っていいんでしょうか?はい。
それだけにいつも神経を使ってきました。
具体的にはどんな食品が食べられないんでしょうか?ええ…イカイクラサバなどの魚介類。
ええそれと山芋おそばもダメです。
カニはどうですか?カニも食べられません。
それは例えばカニ鍋にした時などカニだけは食べずに他のものは食べることができるんですか?ああ…それもできません。
お鍋の中にカニが入ってるとエキスとか出るんでしょうか。
お鍋の中のもの全部食べられません。
ありがとうございました。
質問を終わります。
被害者の司法解剖の結果によりますと夕食後すぐに殺害されたとなっていますが間違いありませんか?間違いありません。
その夕食は被害者1人で食べていたんですか?いえ。
恐らく被告人と一緒に食べていたものと思われます。
被害者は被告人と一緒に夕食を食べていた。
間違いありませんね?恐らく一緒に食べていたものと思われます。
では被害者は夕食に何を食べていたんですか?カニ鍋です。
被害者は夕食にカニ鍋を食べていたんですね。
そうです。
おかしいですね。
先ほどの大槻貞子さんの証言をお聞きになったでしょう。
ここにいる被告人は食物アレルギーのためにカニはまったく食べられないんです。
おかしくありませんか?被告人は恐らくその時カニ鍋を食べなかったんです。
それはないでしょう。
常識的に考えてみてください。
本当に被害者が被告人と不倫関係にあって付き合っていたのならわざわざ被告人が食べられないカニ鍋を夕食に用意しますか?それは…。
そういう可能性もまったく否定はできないと思います。
ただ今の苦し紛れの証言でおわかりのように被告人は被害者である谷山しのぶさんと一緒にカニ鍋を食べてはおりませんでした。
さらに言うなら犯行が行われた日時被告人は犯行現場にはいなかったのであります。
つまり被告人は犯人ではない。
裁判長。
弁護人は津野吾一さんへの再主尋問を要請いたします。
私が今から話すことで間違っていることがあったら後で訂正してください。
3年ほど前あなたは谷山しのぶさんから夫谷山信行さんの借金問題について相談を受けた。
何度か相談に乗っているうちにあなたとしのぶさんは肉体関係を持ってしまった。
2人の付き合いはさらに深まりゆくゆくは妻である栄子さんと離婚ししのぶさんと再婚しようと考えるようになった。
そんな矢先突然栄子さんが末期ガンに侵されていることがわかってしまった。
衝撃を受けたあなたは栄子さんとの結婚生活を振り返り反省もし栄子さんに残されたわずかな時間を共に過ごすべきだと考え会社も早期退職をした。
そのけじめとして谷山しのぶさんとも別れようと思った。
しかししのぶさんは別れることを承知しなかった。
そこで困り果てたあなたは親友である大槻さんに全てを話した。
すでに大槻さんはあなたに自分の離婚問題について相談に乗ってもらっていたため親身になって相談に乗ってくれた。
大槻さんは相談に乗るだけではなく直接しのぶさんの説得にも乗り出してくれた。
しのぶさんのアパートの部屋を何度か訪ねたのもそのためだったんです。
その時大槻さんはうっかりしのぶさんの部屋に自分のライターを置き忘れてきてしまった。
言うまでもなくそのライターは警察に押収されました。
谷山信行さんが目撃したのは大槻さんがしのぶさんを説得しているところだったんです。
度重なる大槻さんの説得にもかかわらずしのぶさんはあなたと別れることを承知しなかった。
そこで事件が起こったあの日あなたは久しぶりにしのぶさんの部屋を訪ねた。
2人でカニ鍋を食べながらもう一度別れ話を持ち出した。
しかし話し合いはこじれついにはいさかいとなりあなたは思わず…。
我に返ったあなたはわらをもつかむ思いで大槻さんを呼び出した。
(大槻)津野…。
(津野)こんなつもりじゃなかったんだ…。
妻を看取ったら必ず自首する。
それまで黙っていてくれ。
あなたは大槻さんにそう懇願した。
違いますか?あなたの奥さんへの気持ちをわかっていた大槻さんはあなたの言葉を信じその時が来るまで黙っていようと心に決めた。
大槻さんはあなたを先に帰しあなたのために証拠隠滅まで図った。
そのために大槻さんはアパートの住人に目撃されることにもなった。
そして事件発覚後自分の指紋を付けたままの凶器も警察に押収されました。
ほどなくして大槻さんは谷山しのぶさん殺害の容疑で逮捕された。
事件のことは黙っていると約束しただけの大槻さんにとってそれは予想外のことだった。
それでも大槻さんはまだ楽観していた。
しばらく我慢すればあなたが必ず自首してくれると信じていたから。
しかしあなたは奥さんが亡くなっても自首しようとはしなかった。
それゆえ大槻さんは被告人として未だにここに座っているんです。
それなら被告人自ら真犯人は津野吾一だと告発すればいいと誰もが思うでしょう。
しかし被告人は決してあなたの名前を口にしなかったのです。
なぜだと思いますか?被告人は長年連れ添った妻から離婚を切り出されました。
被告人も証言しましたがまさにそれは青天の霹靂でした。
そんな被告人にとって相談に乗ってくれたあなたの存在はどれだけ心強くありがたかったことか。
また末期ガンの妻を看取ってやりたいというあなたの純粋な気持ちに被告人が打たれたということもあったでしょう。
それゆえ自分自身が苦しい立場にもかかわらずあなたの身代わりになることを引き受けたのです。
そこまであなたを信頼しきっていた被告人をあなたは裏切った。
そのために絶望した被告人は自らの命を絶とうとしたのです。
違う!そんなきれいごとじゃない!被告人は静粛に!
(大槻)私は伊丹先生がおっしゃったようなそんなきれいな人間じゃありません。
私は金のために黙っていると約束したんです。
どういうことですか?自分の会社の負債を肩代わりしてくれと私から津野に持ちかけました。
もう自分の力ではどうにもならないほど追い詰められていたんです。
大槻…もういい。
(室井)傍聴人は静粛にしてください。
私がしのぶさんを殺しました。
黙っていてくれと…。
融資するから黙っていてくれと頼んだのも私です。
大槻…俺はお前を裏切った。
栄子が死んだのに俺は自首できなかった。
怖かった…。
大槻…。
許してくれ…。
すまない…。
(室井)傍聴人退廷を命じます。
大槻許してくれ…。
すまなかった…。
大槻さん…。
(貞子のすすり泣き)会社があんな負債を抱えて彼が苦しんでいたなんてまったく知りませんでした。
奥さんに心配かけまいとしたんでしょう。
でもよかったですね。
先生のお陰です。
礼を言うのは私のほうです。
ご主人の食物アレルギー。
それを知らなかったらカニ鍋なんて気にも留めませんでしたよ。
それを教えてくれたのは奥さんじゃないですか。
私が…えっ?いつですか?私がお宅を訪ねた時です。
ああ…。
大槻には食物アレルギーがあるんですよ。
それもかなりひどい。
あなたの思いやりがご主人を救ったんです。
思いやりですか…。
そうですよ。
ご主人の食事のことを気遣ったあなたの思いやりです。
あの時あなたは「ついクセで」って言ったんです。
32年という時間は相手への思いやりをクセに変えてしまった。
ああ…クセね。
素敵なことじゃないですか!2人で築き上げた時間にもう一度向き合ってみたらどうですか?
(大槻)津野の弁護どうかよろしくお願いします。
ええわかりました。
拘置所の食事大丈夫ですか?ええ。
何とかなってます。
奥さんが真っ先に心配していたのに申し訳ない。
あいつが心配?離婚したいって言い出したくせにおかしな奴ですね。
確かにつじつまが合いませんね。
でも夫婦ってそんなもんじゃないですか?どんなケンカをしてもなんだかんだ言っていつも心の中じゃ相手のことを思いやってる。
矛盾してますけどね。
うちもそういうところありますよ。
先生でも夫婦ゲンカするんですか?やりますよ。
いつも私が負けてますけどね。
ははは…。
(室井)主文。
被告人は無罪。
先生本当になんとお礼を言ったらいいか…。
ありがとうございました。
あなたを本当に救ったのは私じゃありませんよ。
お元気で。
先生も。
ありがとう。
お父さん…。
うん?いや伊丹先生…。
大槻さんあのご家族これから…。
それは私にもわからない。
互いに「らしさ」を取り戻してくれたらそれでいいんじゃないかな?お父さん…。
(加瀬)お疲れさまでした。
ご苦労さん。
加瀬です。
奥さん来ましたよ。
ホント?よかったじゃない。
お疲れさま。
加瀬先生。
お待ちどおさま。
お肉…。
お肉。
2014/10/17(金) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
事件13[再][字]
熟年離婚殺人 夫が愛人を殺した?妻が書いた離婚届が真相を暴く!ピザのアリバイトリック
詳細情報
◇出演者
北大路欣也、丘みつ子、松本莉緒、秋野暢子、あおい輝彦、国広冨之、緒形幹太、山下徹大、山下容莉枝、池田雅人
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ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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