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赤瀬川原平も見抜けなかった“新解さん”に隠された秘密のメッセージ

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2014.10.29
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赤瀬川原平『新解さんの謎』の深層とは?(画像は『文藝別冊 赤瀬川原平』河出書房新社)

 作家で美術家の赤瀬川原平が26日死去した。「老人力」「トマソン」など様々なブームを巻き起こした赤瀬川だが、なかでも『新解さんの謎』(1996年刊、現在はちくま文庫)の印象が強いという人も多いのではないだろうか。『新明解国語辞典』(以下、新明解)の個性的すぎる語釈にスポットを当てた同書により、『新明解』の人気は社会現象にまでなり、以来現在に至るまでベストセラー辞書となっている。

 実はこの『新明解』に、『新解さんの謎』以上のさらなる秘密のストーリーが隠されていることをご存知だろうか。

 2月に発売され、今年ナンバー1のノンフィクションとの呼び声も高い『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』(佐々木健一/文藝春秋)。書名にある“ケンボー先生”とは、『三省堂国語辞典』(以下、三国)を編纂したことで知られる見坊豪紀氏。そして“山田先生”というのが、赤瀬川『新解さんの謎』によりブームとなった『新明解』の編纂者である山田忠雄氏のこと。空前絶後の用例採取を行い、燦然たる業績を残した見坊氏と、赤瀬川いわく「魚が好きで苦労人、女に厳しく、金はない」という人格を持つ前代未聞の辞書をつくり上げた山田氏。じつはこの2人には、知られざる出会いと決別の物語があったのだ。

 そもそも、2人の個性は、その手がけた辞書を読むだけで大きく違うことがよくわかる。たとえば、〈恋愛〉という言葉にしても、語釈はこんなにも違う。

「男女の間の、恋いしたう愛情(に、恋いしたう愛情がはたらくこと)。恋。」(『三国』三版)

「特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。」(『新明解』三版)

「出来るなら合体したい」という欲望までフォローするあたりが“新解さん”ブームを巻き起こしたゆえんでもあるが、“新解さんの中の人”である山田氏が辞書の編纂に関わったのは、見坊氏の誘いがあったから。時は昭和14年、大学院生であった24歳の見坊氏が三省堂発行の『明解国語辞典』(以下、明国)を編纂することになった際、東大国文科の同期だった山田氏に声をかけたのだ。しかし、山田氏の仕事の内容は“助手”。「あらゆる面で見坊一人の超人的な能力と判断によって押し進められた辞書」だったという。

 だが、戦後の『明国』の改訂作業では、山田氏も「日陰者に甘んじず、自ら積極的に語釈の改良を提案」し、見坊氏にとっても山田氏は“大切な「共同編纂者」”となっていた。そうして出来上がった『明国』改訂版(昭和27年発行)は売れに売れ、さらなる改訂のために新たな仲間も加え、4人の編者は新宿で定期的に編集会議を開催。「理想の国語辞書を目指してことばについて意見を闘わせる日々」は、戦争中に20代を過ごした2人にとって“遅れてきた青春”でもあった。ちなみに、熱い議論を交わしたあとは、会議場所の喫茶店の店長の計らいで非合法のポルノ映画や裏ビデオである「ブルーフィルム」鑑賞会を行っていたという。辞書づくりとブルーフィルム……意外すぎる組み合わせだが、しかし山田氏だけは「頑なに見なかった」そうだ。

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辞書になった男 ケンボー先生と山田先生

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