幕末黒船来航を機に外国の脅威にさらされた日本。
郷土を守るため長州藩に常識破りの軍隊が生まれました。
その名も「奇兵隊」。
戦いは武士というこれまでの常識を覆し奇兵隊はさまざまな身分から有志を募って結成されました。
名乗りを上げたのは下級武士や農家の次男三男といった当時やっかい者とされていた人々。
多くは厳しい身分制の中で将来に希望を見いだせないでいた若者たちでした。
自分たちだって世に出て活躍できる。
決意に満ちた若者たちはさまざまな経験を経て徐々に成長。
やがては明治維新を成し遂げる原動力になります。
おお!
(写真屋)いごかんで下しゃんせよ。
はい!今宵は人生の一発逆転を夢みて幕末を駆け抜けた若者たちの青春物語です。
かつて長州と呼ばれていた山口県の下関。
今から150年ほど前奇兵隊はこの地で結成されました。
活動していたのは6年半。
その間隊に所属した人たちの記録が今も大切に残されています。
これが「長藩奇兵隊名鑑」といって各人の名簿になっております。
奇兵隊士となった若者たち816人の名簿です。
「御細工人」と記された職人や町人「庄屋支配」は農村の出身者です。
家を継ぐ事ができず当時「やっかい者」などと呼ばれた次男や三男らも少なくありませんでした。
そういう人たちを…10代から20代の多感な若者が多かった奇兵隊。
隊での生活や戦への思いなどを日記や手記に書き残した者も少なくありません。
多くは断片的な記述ですがそこからは悩み戸惑いながらも懸命に生きようとした若者たちの本音が浮かび上がってきます。
今回はそうした記述をつなぎ合わせ架空の主人公を立てて奇兵隊士たちの物語を構成しました。
(虎之助)ひっひふっふほ〜い!お〜い大ごとじゃ〜!どひょうしもねえ事じゃ!お〜い!新さ新さ!大ごとじゃ。
えれえ事になったど。
何けえやまたどこぞのおなごにでも振られたんか?違うっちゃ。
ごっぽうえれえ事なんじゃ。
そんなら兄さまが肥つぼにはまって溺れたんじゃろ?そねえな事じゃねえでよ!今のお上がようけ兵を集めよるらしいでよ!それが何けえや?俺らにゃ関わりはなかろうが。
それが関わりあるんじゃ!誰でもええちゅうんじゃ!百姓でも町人でも誰でもええんでよ!誰でもて…ほんとか?ほんとでよ。
俺らも侍になれるんじゃ!殿様の兵隊になって異国と戦うんじゃ!異国て…。
詳しい事は俺もよう分からん。
じゃが金も米ももらえるちゅうんじゃ。
ほいで侍にもなれるんでよ。
侍じゃ侍!新さこれで俺ら二度とバカにされんで済むんじゃ。
大えばりじゃ!どねえなおなごじゃろうが思いのままでよ。
俺らもてまくりじゃ〜!アハハハハ!虎!そねえな話あるわきゃなかろうが。
新さ俺らこのままで終わってええんか?行くど。
どこへじゃ?いざ下関じゃ!下関?ちょっと待て!虎!はよう来い!庶民に対して長州藩が突然行った兵士募集。
家々が焼かれるなど…そこで考え出されたのがやる気さえあれば身分は問わないという新しい軍隊の創設でした。
あえて庶民を起用しようという大胆なアイデア。
発案者は長州藩士高杉晋作。
当時の日本で海外の実情を見聞していた数少ない男でした。
これは兵士同士に身分の差が無く簡潔な指揮系統がある事で初めて実現できる戦い方でした。
大名の家臣である武士たちは家柄で上下に何層にも分けられた伝統的な身分秩序に縛られていたからです。
そうしたしがらみのない農民や町人なら西洋に対抗できる軍隊を作れるかもしれない。
高杉や藩にはそうした思いがありました。
しかしそこまで考えていた人たちばかりが奇兵隊に入ろうとしたわけではありませんでした。
(隊長)今こそ我ら立ち上がる時である!武士じゃろうが百姓じゃろうが町民じゃろうがそねえなものは一切関わりはねえ!皆身命を賭して遠からず攻めてくる異国の者どもを打ち払うんじゃ!金も米ももらえるっちゅうのは本当かえの?本当じゃ。
(一同)おお〜!ええか皆の者!攘夷の志を持て!ジョウイ…?おい虎ジョウイちゅうのは何じゃ?へ?知らん。
ハハハ…お前ら攘夷も知らんのか?ええか?これからは攘夷じゃ。
攘夷ができりゃ侍にもなれる。
何でもできる。
おなごも思いのままじゃ!本当か?新さジョウイじゃ!ジョウイ…。
今日ここへ集まった我らが攘夷の先駆けとなるんじゃ。
我ら日の本一の奇兵隊じゃ!
(一同)おお〜!隊士たちに任されたのは下関の防衛。
外国軍を迎え撃つ最前線です。
入隊を決めた若者たちの気持ちを伝える貴重な品が残されています。
弁当箱の側面には筆で書かれた文字。
おお!貧しい上に長男以外は嫁をとる事もできない農民の暮らし。
厳しい身分制の下で生きる若者たちは奇兵隊が人生を切り開く一大チャンスになると見たのです。
こちらは隊士たちが身につけたそろいの袖印。
「奇兵隊」と書かれた横には隊士の名前が記されています。
お前いつからそねえな名字になったんかい。
新さも勝手に村の名前付けちょるじゃねえか。
ハハハハ!隊士となった者は刀を持つ事を許され名字を名乗る事も黙認されました。
さぞかしうれしかったでしょうね。
侍のような身分に有頂天。
若者たちの行動は次第にエスカレートします。
着物の背に大きく文字を記した派手な身なりで町へ繰り出すとこれ見よがしに刀を見せつけ通りを闊歩。
方々でケンカやいたずら三昧の毎日でした。
灯籠を勝手に持ち出して怒られたりお寺の池のコイを盗んで食べたり温泉に刀を持ち込んで大騒ぎ。
更には国のためと偽り町の人にお金をせびって酒や女に使い果たす。
町の人々は次第に奇兵隊を煙たがりならず者の集団として避けるようになっていきました。
そんな中下関では奇兵隊と武士の小競り合いも目立つようになります。
あっ。
のけ。
のかん。
あ?貴様ら何者じゃ?俺ら奇兵隊じゃ!何が奇兵隊じゃ。
貴様らただの百姓じゃろうが。
百姓の分際でふざけた格好じゃのう。
何じゃその朱ざやは?刀を何じゃと思うちょる!刀はただの飾りじゃ。
お前らと同じじゃ。
のう!
(笑い声)こんならぁ!やるんか。
さすがにこれには長州藩も大激怒。
奇兵隊ごときが図に乗りおって…。
あの者らを捨て置いちょっては天下に示しがつかん!攘夷を旗印に人生の一発逆転を夢みた若者たち。
しかし結成僅か3か月でその先行きには暗雲が垂れこめてきたのです。
ようこそ「歴史秘話ヒストリア」へ。
今夜は幕末に活躍した奇兵隊の若者たちについてお送りしております。
武士とのトラブルから奇兵隊は結成早々外国軍と戦うという本来の役目を外されてしまいました。
その待遇も持ち場の異動だけでなく給料は半分食事も白米から玄米とされます。
この時すっかりやる気をなくし隊を辞めた者も数多くいたとか。
何ともつらい立場になってしまった奇兵隊の若者たち。
しかし時代のうねりはそうした状況を一変させます。
奇兵隊が下関を離れて3か月余り。
町は風雲急を告げていました。
異国の軍勢がまた下関攻めてくるそうじゃ。
何じゃと!また戦じゃ。
恐ろしいのう。
外国との戦いには兵は少しでも多い方がよい。
隊士たちにとって名誉挽回のチャンス。
日記にはこのころ隊士たちが以前と一変。
自ら剣やヤリなどの厳しいトレーニングを開始した事が記されています。
よっしゃあ!「きっと敵を倒してみせるでよ」。
敵は強大な外国の大艦隊。
しかしこの機会を逃せば二度と名をあげる事はできないかもしれない。
若者たちは結成以来初めて本気で戦士になる志とその覚悟を持ち始めていました。
いよいよ外国の艦隊が瀬戸内海にさしかかるとの報告が入ります。
決戦に備え奇兵隊は皆である書面をしたためました。
え〜こちらが奇兵隊の盟約書というものです。
命を懸けて戦う事を誓い合った血判状です。
「こたびの戦どねえでも勝たんにゃならん」。
「皆一戦のもと敵をちりにせちゃるぐれえの覚悟を持って臨むんじゃ」。
しかしその一方で戦いが現実のものとして迫る中隊士たちの心には別の感情も芽生えていた事が日記には残されています。
(喜作)うう…ああっ!
(虎之助)何じゃ?どねえせたんじゃ。
(喜作)嫌じゃ!嫌じゃ!
(順蔵)落ち着け喜作!喜作落ち着くんじゃ!落ち着け。
(順蔵)一体どねえしたんじゃ。
近ごろずっとこうじゃ。
大丈夫じゃ。
のう?恐ろしいんじゃ戦が。
あ?新さほんとはの俺も恐ろしいんじゃ。
じゃけどそねえな事言うちゃいけんと思うちょった。
そねえな事今頃気がついたんか?うん?皆同じじゃ。
ついにその日がやって来ました。
下関沖に姿を現した外国艦隊。
翌5日午後。
外国軍の砲撃により戦闘が開始されます。
戦いは隊士たちの想像をはるかに超えるものでした。
「敵の軍艦が撃った大砲の弾に当たって奇兵隊士が即死」。
「体粉々になり拾い集める事もできん」。
隊士たちは必死で防戦します。
しかしいくら撃っても弾丸は敵艦に届きすらしません。
なぜ一方的に砲撃されてばかりだったのでしょうか?幕末期の武器を研究している保谷徹さんです。
実はこの時期西洋の大砲や銃にはある革新的な工夫が施されるようになっていたといいます。
こちらがですね…この溝によって弾丸に回転を加え…現在でも多くの火器に用いられているこの技術は銃や大砲を使った戦い方を大きく変える革命的なものでした。
実用化されたのはこの戦いの僅か10年ほど前の事。
世界的な武器の急激な進歩が戦力に決定的な差を生み出していたのです。
「敵兵が次々と上陸せてきた。
山の上や田の溝。
あっちこっち散らばって四方から弾を撃ち込んでくる」。
(銃声)敵は正面にいるはずなのに突然四方八方見えない場所から飛んでくる銃弾の雨。
思いも寄らない攻撃に隊士たちは次々と倒れていきます。
来たど!
(銃声)虎!虎!虎!圧倒的な兵力と武器そして戦術の差を前に戦いは僅か4日で終了します。
心の声なんぼ攘夷攘夷と言うちょっても今のまんまじゃ勝てん。
心の声虎お前の朱ざやは俺が受け継ぐ。
敵は必ずとる。
大勢の仲間を失ったこの戦いは奇兵隊に大きな意識変化をもたらします。
隊はこの戦いの直後から新たな武器や技術の導入を急ピッチで進めるようになります。
構え!ライフルを施した最新の銃などを大量に買い付けその扱いに習熟する訓練を徹底的に行いました。
狙え!撃て!よし!自分たちが翻弄された思いも寄らない場所から敵を撃つという外国軍の戦術。
外国軍は小さなグループごとに上陸。
すぐさま分散してそれぞれが個別に敵を狙い撃つという戦術をとっていました。
これは「散兵戦術」と呼ばれる最新の銃の性能を生かした戦い方でこのころ世界の軍隊で主流になりつつありました。
「あの負けをただの負けにゃあせん」。
「俺ら必ず強うなってみせる」。
屈辱的な負けを味わわされた敵の戦術を今度は自分たちの武器にする。
若者たちの新たな戦いが始まりました。
戦いの現実を身をもって知り成長した奇兵隊の若者たち。
外国軍には負けてしまいましたがそれでも奇兵隊は「武士よりも果敢に戦い命懸けで長州を守った」と庶民の支持を集めるようになります。
ところが長州藩は彼らに驚くべき命令を下します。
「歴史秘話ヒストリア」。
それは「隊を解散せよ」というものでした。
外国との戦争は長州藩が幕府の意向に逆らって始めたもの。
これ以上勝手な行動を許しておけない。
迫り来る幕府軍はおよそ15万。
それは幕府に敵意がない事を示すため外国との戦いで最前線に立った奇兵隊を解散させる事でした。
解散令は奇兵隊を深刻な事態に陥れます。
これまで藩が賄ってきた食糧や給料の支給が全て打ち切られてしまったのです。
はあ…どれぐらいもう何も食べちょらんかのう?
(順蔵)握り飯じゃ…。
いけん…新兵衛俺は幻見えてきた。
違ういや。
これは本物じゃ。
うん!?
(女の子)これ…。
(庄屋)皆さんで食べて下さんせ。
米じゃ!食いもんじゃ!飯じゃ!喜作喜作飯!何で…。
あなた方は恐ろしい異国と戦こうて下された。
侍よりも長州の誰よりもあなた方が一番よう戦こうて下された。
そうですいの?じゃけど俺ら戦にゃ勝てんじゃったのに。
(庄屋)存じちょります。
お仲間がようけ亡くなった事も。
わしらにできる事はこれぐれえじゃ。
思いがけない農民たちからの助け。
奇兵隊士の心にはある思いが芽生えてきます。
元治元年の10月の19日に示されたものですね。
奇兵隊が新たに定めた「諭示」と呼ばれる7か条から成る隊の規則です。
自分たちは誰のために戦うのか。
武士中心の世の中にあって奇兵隊は自分たちが農民など庶民を守るための部隊である事をはっきりと宣言したのです。
最後じゃ。
一つ「強き敵は百万といえども恐れず」。
一つ「強き敵は百万といえども恐れず」。
(隊長)「弱き民は一人といえどもおそれ候事武道の本意といたし候事」。
「弱き民は一人といえどもおそれ候事武道の本意といたし候事」。
「弱き民は一人といえどもおそれ候事」。
(隊士)奇兵隊は民のもんでよ。
藩の言うように解散せたら一体誰が民を守るんか。
隊士たちは大きな決断をします。
幕府の大軍におびえ民を守ろうともしない藩は自分たちが倒すしかない。
俺ら弱き民のための奇兵隊じゃ。
俺らの手で長州を取り戻すんじゃ。
(一同)おお!その数300。
対する藩の兵力はおよそ3,000でした。
戦いが始まって程なく…どうする?「散兵戦術」じゃ。
使うのは今しかねえ!分散して戦う「散兵戦術」は守りは手薄になりますが成功すれば敵に大きなダメージを与え戦況を一変させる事もできます。
(順蔵)よし行くど!おう!隊士たちは山中に散って敵の部隊を一斉に狙撃するという一か八かの賭けに出ます。
心の声この一発で全てが決まる。
(銃声)思いも寄らない場所からの攻撃に敵の部隊は大混乱を来します。
(隊士)突っ込め〜!隊士たちは浮き足だった敵の陣地に突入。
(隊士たちの歓声)江戸城が明け渡され時代は明治へと移り変わっていきます。
6年5か月に及ぶ若者たちの青春は終わりを告げました。
こちらに。
おりゃ端でええわ。
(政吉)どねえな顔で写ればええんかの?わろうたらええんかの?ハハハ!お前ら全員表情がかてぇ。
順蔵が一番かてぇ。
何じゃと!?おい新兵衛そりゃ何か?えかろうが?俺が書いたんじゃ。
字が下手じゃから読めんのう。
(笑い声)ええか?こりゃあな「不肖新兵衛は長藩の士たり。
年十九にして奇兵隊に列す」。
Dialogue:0,0:38:30.42,2014/10/15(水) 00:40〜01:25
NHK総合1・神戸
歴史秘話ヒストリア「“奇兵隊”デビュー!〜幕末 若者たち一発逆転の夢〜」[解][字][再]
動乱の幕末。「戦いは武士」という常識を大きく覆し、庶民を交えて結成された「奇兵隊」。人生の一発逆転をかけた「はみ出し者」たちの胸の内をドラマ仕立てで描く。
詳細情報
番組内容
動乱の幕末。「戦いは武士」という常識を覆し、様々な階層から有志を募って結成された「奇兵隊」。名乗りを上げたのは、当時「やっかい者」とされた農家の次男三男など、厳しい身分制の中で将来に希望を見出せないでいた若者たちだった。番組では、日記や手記など残された断片的な記録をもとに、架空の奇兵隊士を主人公とするドキュメンタリー・ドラマを構成。人生の一発逆転を夢見て戦いに挑んだ名も無き若者たちの胸の内に迫る。
出演者
【キャスター】渡邊あゆみ
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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