サイエンスZERO「完全養殖マグロ 大量生産に挑む!」 2014.10.11

今日のテーマは日本人が大好きな「マグロ」です。
中でもホンマグロとも呼ばれる高級魚の…大きさも値段もナンバーワン!すごい。
でもこんなニュースありましたよね。
そう絶滅も心配されているんです。
しかしこのお店のクロマグロは違います。
違うのは味だけではなくてこのマグロならいくら食べても絶滅にはつながらないんです。
それは…完全養殖だから。
卵から全て人の手で育てます。
天然のクロマグロは取りません。
初めて成功したのは12年前。
今ではぐっと身近になりましたがここにたどりつくまではとっても大変だったんです。
特に難しいのは赤ちゃんの時。
相次ぐ…更にエサをやっても大きくならない事も!研究者たちはクロマグロの謎の生態を解明する事でそれを乗り越えてきました。
今日は大量生産に成功したクロマグロ養殖の舞台裏に密着します!
(テーマ曲)頂きま〜す。
早速奈央さんと竹内さんに食べてもらっています。
これ完全養殖のクロマグロですよ。
おいし〜い。
僕大好物なんですよ〜。
う〜ん幸せ。
番組の最初においしいもの食べちゃった。
最先端の養殖技術の結晶ともいわれてるんですよ。
養殖の技術ってこんなに進歩したんですかね。
そうなんです。
日本の養殖技術は世界一といわれているんです。
完全養殖されているのはマダイブリヒラメにトラフグなど。
でも…ウナギの完全養殖は以前番組でもやりましたけど卵から育てるって事でしたよね。
そうなんです。
そこでおさらいしてみましょう。
普通の養殖は天然の幼魚を取ってきて育ててそして出荷しておしまい。
それに対して完全養殖は卵から育てて大人になってからまた卵を産ませる。
この完全養殖が増えてきたら一体どうなると思いますか。
そうなんですよ。
うれしいですよね。
ただこの完全養殖メチャメチャ難しいんですよ。
繊細ですぐに死んでしまう。
難しい魚なんですね。
大変なんですよ。
クロマグロ完全養殖に成功したのは2002年なんですがその時の生存率はたった0.1%。
低い!低いですよね。
どうしてそんなに生存率を上げる事ができたのでしょうか。
まずは完全養殖の現場から見ていきたいと思います。
お〜。
出てきました。
大きいですね。
これ実物大。
3mありますけれどもこんな大きなクロマグロですが養殖の成功の鍵を握っているのはこんな小さな時の飼育方法だったんです。
うわっこれ?ちっちゃい!赤ちゃんですか?クロマグロが卵を産むのは主に梅雨明けから夏にかけての夜。
午後8時ごろ研究者たちはマグロの卵を取りに出かけました。
到着したのは湾内に作られた直径30mの生けす。
生けす1つに数十匹の親マグロが飼育されています。
水面を網ですくってみると…。
直径およそ1mm。
クロマグロの卵です。
一度に数十万から数百万粒の卵を産みます。
あっきれいですね。
卵は翌日和歌山県に運ばれました。
ここは世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した研究所です。
産卵から30時間後卵からかえりました。
体長およそ3mm。
クロマグロの赤ちゃんです。
仔魚と呼ばれます。
ヒレなどが完成しておらず泳ぐ力がとっても弱いんです。
飼育担当の…勝負はふ化からの10日間だと言います。
10日で9割も死んでしまう?それは大変だ。
翌日本領さんを悩ませる最初の現象が起きていました。
死んだ仔魚がたくさん浮いていました。
どういう事かと言うと…。
泳ぐ力の弱い仔魚はエアポンプの影響で押し上げられていきます。
すると…。
あっ潜れない!これ実は水面の表面張力などに邪魔されているんです。
仔魚の周りの水面はへこんでいます。
水の表面積が最小であろうとする力表面張力の影響です。
仔魚が潜ろうとすると水の表面積は広がります。
押しのける水も増えるので浮力も増えます。
そこに表面積を元に戻そうとする表面張力なども働くため仔魚は結局潜れないのです。
この理由に気付いてとった対策はこの油。
魚から作った魚油です。
油には実は不思議な働きが。
表面張力で浮いている針で実験です。
水面に油を垂らしてみると…。
針が沈みました。
表面張力が弱まったのです。
この原理を応用し水面に油の膜を張る事で表面張力を弱めます。
そうすれば水面に張り付かなくなるという考えなんです。
実際にこの方法をとってからクロマグロの浮上死が大幅に減ったんです。
マグロの赤ちゃんよかったね!でもこれで一安心とはいきません。
ふ化後3日目ぐらいから夜間に発生するのが沈降死と呼ばれる現象です。
今度は底に沈んで死んでしまっています。
夜間に遊泳活動が弱まった仔魚が水槽の底で体を傷つけて死んでしまうと考えられています。
これに対して本領さんある装置を水面に仕掛け始めました。
水面に風を送る装置で油膜を1か所に集めます。
スキミングという作業です。
せっかく張った油を取り除いてしまうんです。
見て下さい。
仔魚が水面で口をパクパクしています。
これは空気を吸い込んでいるんです。
すると浮き袋が膨らみ浮力が強くなります。
底まで沈みにくくなるんです。
この銀色の部分が空気の入った浮き袋。
生まれた時は未発達で閉じている状態なので一度空気を吸い込んで膨らませる必要があるんです。
でも油膜がないとあの浮上死が起こってしまうのでは?この矛盾を解決したのは飼育員たちの観察力でした。
仔魚が浮き袋を作るタイミングを見抜き3日目だけ油膜を外し4日目からはまた魚油を張る事で…最も困難なふ化後の10日間を乗り越える事で10年前0.1%だった生存率は100倍の10%ほどにまで上がったんです。
う〜ん本当デリケートな魚ですね。
浮いたり沈んだり対処が大変ですよね。
3日目がポイントなんですね。
完全養殖に携わっている方にお話を伺いましょう。
近畿大学水産研究所の澤田好史さんです。
クロマグロって大人を見るとすごい立派じゃないですか。
なのに赤ちゃんだとかなり繊細なんですね。
繊細な時期は小さい時期だけではないんですね。
大人になっても非常に繊細で…浮上死と沈降死というのは自然界では起きないんですか?起きないと考えられます。
浮上死は油をまく事で防ぐ事ができましたけれども天然の海には油のような物質が表面に浮いてます。
それで守られているしそれから沈降死に関しましては彼らが生まれる所というのは何百mも深い海ですから底についちゃうっていう事はないんですね。
(竹内)浮上死と沈降死のほかにも難しい問題というのはあったんですか?
(澤田)例えば…うわ〜丸飲みですよ。
すごい。
(澤田)ふ化後14日ですと普通の魚は…早く大きくなろうとするんです。
なるほど。
え〜…。
分けるというのは一つの方法でした確かに。
私たちが大きな水槽の周りに20人も30人も並んで一匹一匹小さい魚を取り出して別の水槽に入れるという事もやりました。
ああ一匹一匹。
(澤田)なかなか難しいのでもう一つ対策として考えたのは小さい魚をエサにやってみようという事なんです。
それをマグロに与えると。
そうすると共食いするという事が減りました。
なるほど。
また更に25日目以降から…。
えっ突き刺さってる。
(竹内)これ本当ですか?これはあまりにも衝突死が多いのでこれは水槽あるいは生けすの壁面なんですがそれを防ごうと思ってビニールシートを張ったんですね。
でもそれを突き破ってしまうんです。
そんな…。
どうするんですか?じゃあ。
え〜逆に?夜に光にビックリするというのは光の急激な変化にビックリしてるんですね。
ですからあらかじめ光をつけておいてやる事によって急激な変化を少なくすると。
すごい。
本当に…その後もまだまだ苦労があるという事ですね。
そうですね。
本当にいっぱいあるんですけれどもまず1つ目…ほかの魚はこれを食べさせて育てます。
これは配合飼料です。
なぜだと思いますか?わがままなんですよ。
好き嫌いはっきりしてて生の魚じゃないとやだみたいな。
奈央ちゃんそれでは正解をお教えしましょう。
成長しないのに成長力?どういう事だろう。
マダイと比べてみると…成長が10倍近く早い事が分かります。
もちろんエサも10倍以上。
一日で体重の5%ものエサを食べるんです。
この成長を支えるのがクロマグロの持つ幽門垂と呼ばれる器官。
胃と腸の間にある巨大な消化器官です。
酵素を大量に分泌し消化効率を大幅にアップさせます。
ただし…つまり若い稚魚の消化能力はまだあんまり高くないんです。
実は通常の配合飼料は生のエサに比べて消化吸収率は劣ります。
これは配合飼料を加工する工程で乾燥のために加熱するのが原因です。
主成分の…このデメリットが幽門垂が未熟なクロマグロの稚魚には大きな壁になっていたのです。
そこで研究チームは海外からある特殊な魚粉を取り寄せました。
その名も…魚粉の主成分のタンパク質に酵素を使い加熱する前にあらかじめ分解しておきます。
すると加熱しても消化吸収率はあまり下がりません。
実際に酵素処理魚粉で作った配合飼料を与えたところ生のエサに遜色のない成長率を達成しました。
へえ〜そうか。
配合飼料に変えるってだけでかなり一苦労な訳ですね。
この研究には5年10年という月日がかかってるんですね。
エサというのは養殖魚にとっては非常に重要な要素です。
それをコントロールできるようになるといろんなメリットがあります。
どんなメリットですか?まず一つは…こういう問題もあります。
ほかには安全性の問題というのもあります。
例えば生態系の頂点にいるようなマグロとか小さな魚を食べていますけれどもその小さな魚には汚染物質が薄く含まれています。
それを食べ続けるとどんどん高い濃度で蓄積されていくんですね。
例えばマグロですと水銀の量というのが問題になっています。
配合飼料で…安全というのはやはり大きいですよね。
そうですね。
やっぱり気になりますからね。
更にエサに関して今究極の目標としているのがこれを食べさせようとしている事なんです。
これちょっと色薄いですね。
先ほどのより。
(澤田)この配合飼料は…へえ〜。
これを使ってベジタリアンのマグロを作るという事を目標にしているんです。
ベジタリアンのマグロですか。
(澤田)はい。
実はクロマグロの体重を1kg増やそうと思うと生の魚に換算すると10kgから15kgぐらいのサバやアジやイカをやらなきゃいけないんですね。
という事は完全養殖をすると…そういう事ですね。
はあ〜なるほど。
(澤田)これであれば人間が栽培した大豆やトウモロコシを使って魚を育てる事ができると。
これって何か究極の完全養殖という感じですが本当にできるんですか?実はこの研究はほかの魚ではかなり進んでいてマダイでは実現されてるんです。
え〜!与えているエサは大豆の植物性タンパク質。
でも実際味ってどうなんですかね。
普通の養殖マダイと変わらない味になっています。
うわ〜よかった。
やっぱり研究者の方たちは天然資源を保護するという観点がすごく強いですね。
へえ〜。
クロマグロに至っては8割以上を消費してるんです。
そんなにですか。
ですからマグロ資源に対して責任がある訳ですよね。
なるほど。
竹内さんもよく食べるって言ってましたもんね。
ちょっと僕も責任の一端が…。
養殖を研究している人間も天然資源は考えざるをえないと思います。
特にマグロの研究者の責任として考えています。
そこで始めたのが…せっかく育てたマグロを海に返している!?なんてもったいない!もったいない。
実はこれ完全養殖マグロのサバイバル実験です。
ふ化後3か月の完全養殖クロマグロに目印となるタグを取り付け…。
和歌山県串本沖から1,862匹を放流しました。
クロマグロは1か月間何も食べないと餓死します。
1か月を過ぎて生きて発見されれば完全養殖マグロも自然界でエサをとれる証拠になるのです。
放流から35日後。
三重県島勝浦沖の漁船がタグのついたクロマグロを捕獲。
そして45日後。
今度は串本の定置網に掛かっていました。
人の手で育てたクロマグロでも自然界で自らエサを捕まえて生きていける事が証明されたのです。
つまり完全養殖クロマグロを放流すれば天然資源を増やす事もできるはずです。
資源の維持ですね。
更に放流が実現した未来を見据えてこんな研究も。
クロマグロが集まる築地市場で800匹のDNAを採取し世界中のクロマグロのDNAの特徴を解析したのです。
なぜこんな事をするかと言うと…。
近畿大学の養殖クロマグロを大量に放流する事になったら自然界のクロマグロが近畿大学出身ばかりになる可能性もあります。
養殖魚の放流は生態系を乱す危険性もあるのです。
将来資源回復のための放流が実現した時の生態系の影響を最小限にするため今のうちから手を打ち始めているんです。
本当にさまざまな角度からクロマグロの資源の保護の可能性を探っているって訳ですね。
でもどうしてそれが生態系を乱す事になっちゃうんですか?魚も人間と同じようにやはり家系というのがあって。
放流をして…それが乱すという意味なんですね。
つまり多様性がなくなっちゃうって事ですよね。
そうです。
いろいろな環境の変化とかに対応できる能力が減ってしまうので何かあった時にその家系が何かに弱いと全滅してしまうという事が起こるんではないかと危惧されてる訳です。
将来的に養殖マグロが海で泳ぐって事は本当に起こりうるんですか?それはまだ今のところ分かりません。
その必要が出てくるかどうかっていうのは今後の資源の状態によりますけれどもまあいざ資源が減ってしまって絶滅の危機にひんしているといった時にそういった技術を持っておくという事は非常に大事な事ではないかと思います。
やっぱり魚を…私たちは取って食べてる以上はそこまで手をかけて管理しないとやっぱり保てないっていう事なんですか?
(澤田)昔はよかったんですね。
だけれどもこれだけ人口が増えてしかも魚をどんどん食べたいという人が増えてくるとやっぱりそこを気を付けないと絶滅してしまう種というのがどんどん増えてしまうと思いますね。
この完全養殖ですが今後どのように進めていきたいと思われてますか?これは養殖技術として更に高めていくと。
例えば育種をやっていく。
品種改良をやっていくというような事もありますしもっと生き残りの率を上げていく。
早く成長するようにする。
おいしくするという事があります。
だけれどもそれはまだまだこれから長い道のりなんですね。
完全養殖に成功するのには32年かかりましたがここから先もまだまだ何十年と続きます。
ですから私たちはそれを可能にするようなそこで活躍できるような若い人材を育てていきたいと思っています。
マグロがあんな強そうなのに意外とデリケートっていうのはすごくビックリしました。
いろんな問題点を乗り越えて養殖されたマグロを頂く時は本当に「頂きます」って気持ちで食べたいなと思いましたね。
澤田さんどうもありがとうございました。
どうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに!2014/10/11(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「完全養殖マグロ 大量生産に挑む!」[字][再]

クロマグロ完全養殖成功から12年、いまや年間10万匹近い稚魚を出荷するほど大量生産が可能に。相次ぐ大量死、表面張力のワナなど様々な困難をどう乗り越えたのか。

詳細情報
番組内容
クロマグロの完全養殖の成功から12年たち、いまや年間10万匹近い稚魚を出荷できるほどに大量生産が可能になった。しかしその過程には、稚魚が大量死したり、共食いしたり、壁に激突したりと、さまざまな困難があった。マグロ研究者たちはいかにその困難を乗り越えてきたのか。さらに最近では、養殖技術を応用して、クロマグロの資源を増やすことにも貢献する研究も行われているという。8月24日放送分のアンコール放送。
出演者
【ゲスト】近畿大学水産研究所教授…澤田好史,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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