日本の話芸 落語「藪入り」 2014.10.11

どうもお話ありがとうございました。
ありがとうございました。

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(三遊亭好楽)私が昭和41年八代目林家正蔵の所へ弟子入りした時上野の稲荷町という長屋に住んでおりました。
いい所でございましたね。
まぁ前座修業しまして兄弟子とテレビを見てましたら事件のニュースが流れてきましてね「ひでえ事する奴がいるんだね」こんな話をしてます。
おかみさんが「どうしたの?どうしたの?何かあったの?」。
「おかみさん。
ひどいじゃありませんか。
若い夫婦が子供を産んでね育てられないからってんで亭主は逃げちゃって母親になる若い人が私も育てられないってんでロッカーに捨てちゃったっていうんだ」。
「ええ!」。
その時のおかみさんの言葉今でも覚えてる。
「ええ!何でそんなひどい事するのよ。
どうせ捨てるんなら家の玄関に捨ててちょうだいよ」ってこう言ったんですね。
昔の人の心の広さが分かるでしょ。
ね〜。
他人の子供も自分の子供も同じように育てようという気持ちがあるからそういう言葉がポンと出るんじゃないかと思いますけども。
でも昔の人たちの苦労ってなぁ今じゃ考えられませんね。
みんな奉公に行ったんだ。
「奉公は公を奉る」。
昔の人はねうまい事言いましたよね。
「親には孝を尽くせ主には忠を尽くせ」ってんでねみんな7つ8つでもっておっ放り出されるんですよ。
丁稚奉公とも言いますけれども7つ8つがね10年間ただ働き。
でもまぁ食べ物は食べさせてくれるし着ている物はちゃんとおかみさんが用意してくれるしね〜まぁ仕事もちゃんと教えてくれるし読み書きも教わるからまぁ大変に得は得なんですけどもね。
で10年でもって一人前になって別の所へ奉公に行ってもいいしそこへ残ってもいいんですけども1年間はお礼奉公といういい言葉がございましてねまぁ11年間は一生懸命ただで働くというのが当たり前だった。
で小僧さんになりますと7つ8つですからあんまり算盤を弾く帳面をつけるって事はありませんから何をしたかと申しますってぇと使いっ走りですね。
使いっ走りですよそれはね〜何だかんだ言いながら。
あと掃除でしょあとランプのホヤ磨きって昔はこういう結構な明かりはございません。
ランプという物がございましてねそれが曇ってくると磨くというランプのホヤ磨きというのも小僧さんの仕事。
もう1つございました。
鼠を捕るのが仕事だったんですね。
鼠を捕って交番に持っていきますと当時2銭もらえたそうです。
まぁ大したもんじゃありませんけどもねまぁ少しね貯めていけばいくらかになりますから小僧さんは仕事だと思って交番へ持っていく。
そうすると2銭もらえた。
それが唯一の小遣いになったんでしょうね。
でペストという病が流行りますってぇとこれは鼠が病原菌だからってんで「みんな捕れ捕れ」ってんでもう騒ぎます。
でペストが流行った途端に鼠の値が上がりましてね。
鼠1匹持っていきますと交番で4銭くれた。
ね?2銭だったのがペストが流行ると4銭にはね上がっちゃう。
ですからペストの事をばい菌
(倍金)と言うんですけど。
まぁあてにはなりませんけどもね。
(笑い)唯一楽しみがございましてね鼠の懸賞というのがあった。
この懸賞がまぁ大変なもんでしたね。
1等当たると15円2等が10円3等が5円。
2銭3銭4銭の時代に15円10円5円これは大金でございますね。
「どこの子供なんだい?どこの坊やだい?」なんてんで名前を付けといて発表されるとそこへ知らせが来るという。
まぁほとんど当たった事ありませんけどそうやって鼠を捕るのが唯一の仕事だったそうですな。
で一人息子が丁稚奉公に行く。
3年間は帰ってこられません。
これはもう里心がついてね近くに寄るってぇといけないってんで3年間はジ〜ッと我慢しなきゃならない。
8つの子が11歳になる。
ね〜。
でまぁ藪入りというのがございましてねこれが正月の16日と7月の16日年に2回しかない。
でまぁ宿下がり自分の家へやっと帰れるのが3年目に1つえ〜藪入りでございましたね。
「さぁ明日お父っつぁんおっ母さんに会える」一人っ子。
待ち受けるお父さんお母さんこれはもう首を長くして待ってるでしょう。
ね〜「今頃何してんだかな〜?」なんてな事言って。
さぁ枕元にね履き物だとかね鼻紙だとかね手拭いだとかそんな物を置いてね寝てる訳です。
待ち受けるお父っつぁんおっ母さん。
そりゃ寝られなかったそうですね。
「藪入りや何も言わずに泣き笑い」という句がありますけど。
「おっ嬶おっ嬶おっ嬶。
おっ嬶カア〜カア〜」。
「カラスだねお前さん。
何だよ?」。
「何だじゃねえ何してんだよ?」。
「繕い物してんだよ。
あの子が帰ってくるからさこういう物着せようと思ってさ」。
「ああ。
いい物じゃなくともな子供はな着替えにいろいろあるからな。
うん。
いやよくまあ〜辛抱したよ」。
「本当だねお前さん。
3年あっという間だね〜。
あの子が帰ってきたら褒めてやっとくれ」。
「やっぱりね強情っ張りだからなあいつは。
ああいう所は俺に似たんだな」。
「また始まった。
いい所があるってぇと『俺に似た俺に似た』ってんだよ。
で何か悪い事すると『お前の躾が悪い』ってこっち回るんだから」。
「そうじゃねえんだよ。
強情っ張りだようん。
頑固じゃなくちゃいけねえんだ男の子は。
な〜アハハ。
おっ嬶ところで今何時だい?」。
「12時回りました」。
「12時回ったのかまだそんなもんか」。
「お前さん。
ゆっくり寝ててちょうだい。
ね?あの子が帰ったら起こすから」。
「お前はのんきだなお前。
奴だって寝てねえよ。
俺だってお前ガキの時分に奉公に行ってさ初めての宿下がり藪入りになったら寝られやしねえや本当。
そういうもんなんだよな〜ハハハ。
だけど本当にな辛抱したよ。
偉えもんだ本当にな。
おっ嬶そこで何やってんの?」。
「さっきから言ってるだろ繕い物してるのね?針の邪魔をしないでおくれ。
そこでね煙草でも吸っててね?。
寝るなら寝るね?手水に入るなら手水に入る。
好きな事しておくれ」。
「うるせえ俺だってお前あいつがすぐ帰ってくると思って待ってるんだ。
な?向こうも寝てねえんだ。
こっちも寝なくていい。
な?おっ嬶おっ嬶」。
「うるさいね」。
「今何時かな?」。
「うるさいね〜本当に。
もう2時だよ」。
「2時になっちゃった?2時になっちゃったってな〜。
確か昨日の今時分は夜が明けてたよな?」。
「ばかな事言ってんじゃないよ。
そんな事ありゃしないからさもう寝ておくれもうイライラするから」。
「うるせえな本当に。
あっそうあいつが帰ってきたらさ七兵衛さん所連れてかなくちゃ悪いよ」。
「あっそうだね」。
「そうだよ今度の奉公先は七兵衛さんが決めてくれたんだから。
いい旦那様いいおかみさんいい番頭さんばっかりであいつは幸せだよ本当にね〜。
朋輩の人にもかわいがられてんだろう?友達づきあいだからありがてえや本当にな。
だから七兵衛さん所挨拶に行ってね…。
そうだそこへ行くんだったらさ赤坂のお豊さん。
しばらく会ってねえんじゃないかお祝いもらいっきりだから。
お豊さん子供好きだから会わせてやりたい。
ええ?『家の亀もこんなに大きくなりました』アハッいいじゃねえか。
な?あっそこまで行くんだったらさ品川のお婆ちゃん所連れていこう。
品川のお婆ちゃん。
お婆ちゃん喜ぶよ。
『亀坊かい大きくなったね』なんてんで入れ歯吐き出して喜ぶよあの婆。
そこまで行くんだったら海見せてやりてえな。
品川まで行くんだろ?な?だったらお前江の島とかそういうもの見せてやりてえじゃねえか。
鎌倉の大仏様なんてぇな出世前の男の子見せると喜ぶよ。
そこまで行くんだったら浜松行って本場の鰻食わせてやりてえじゃねえ」。
(笑い)「そこまで行くんだったらな〜『尾張名古屋は城でもつ』ってえからさ鯱見せてやりてえじゃねえ。
そこまで行くんだったら京大阪大和巡りさせてさ船でもって金比羅様…」。
「お前さん何考えてんだよ」。
(笑い)「一体いつ行くんだよ」「明日一日」。
「無理だよ」。
「双六で」。
「双六なら行かれるよ。
本当にくだらないねお前さん」。
「そうだあいつが帰ってきたらさうまい物食わせてやりてえな」。
「そりゃ何か支度するよ」。
「いやあいつはガキの時分何が好きだった?納豆かけて食ってた?あ〜いけねえいけねえ。
納豆なんぞいつでも食える。
鰻取ってやんなよ。
中串2人前。
いいじゃねえそのぐらい贅沢はいいや。
たった1日なんだからな。
あとな鮪もな赤身のほうじゃねえ。
中トロ取ってやってうん構わねえからな。
それからあとなあいつは大福が好きだ大福。
あれもな取ってな。
寿司も寿司も取ってやって。
いいんだ天ぷらだって何だって食わせてやりてえんだからさ。
ね?うん。
あとね雑煮なんてえのがあいつ好きだったなそうそうそう。
お赤飯そうああいう物は好きなんだよ。
うんもち米なそうそうそう。
うん。
それからあとお稲荷さん。
「お前さん何考えてんだよ。
そんなに食べさせたら食傷を起こしちゃう」。
「食傷を起こしてもいいぐらい食わせてやりたいのが人情だってんだよなハハハ。
おっ嬶。
今何時?」。
「うるさいねこの人は」。
(笑い)「4時回っちゃったよ明るくなるよ」。
「ええっ?4時?喋ってるうちにこんななっちまうか。
ヨッシャエヘヘこんな事してられねえや早速やろう」。
「お前さん。
立ち上がってどこ行くの?」。
「おうおっ嬶。
あれ出せあれ出せ」。
「何を?」。
「何をじゃねえんだよ。
家の前をあいつが帰ってくるんだから清めるんだよ。
ほら箒だ箒」。
「外の箒?」。
「そうだよ」。
「外の箒家にありません」。
「そりゃそうだ。
竹箒はどこにあるんだい?」。
「庭の塀にね立てかけてあると思うよ」。
「立てかけてあっちゃいけねえんだよ。
お前は知らねえな物の扱いは。
しなっちまうんだよ竹箒ってなぁね?ひっくり返しとくとか紐でもってぶら下げるんだこのばか。
あったよ。
ええ?いいんだよ家の前を掃除するだけなんだから。
ええ?何をグズグズしてやんだ本当に。
みんなでもって『では行って参ります』ってお辞儀したらパ〜ッと帰ってくりゃいいんだ。
足が速えんだから本当に。
こっちの気にもねかけねえで本当に。
冗談じゃねえや本当にこうやって掃除してるだろ?あいつがね帰ってくるんだよ。
そこの横丁曲がるってぇと俺が掃除してるから『お父っつぁ〜ん』て涙ボロボロこぼしながら駆け出してきて俺の首ったまつかまるよハハハハ。
ちょっと意地悪しようかな。
『お宅はどちらの子供ですか?』」。
(笑い)「ハハハ驚くだろうな本当にな。
何をしてやんでえグズだな。
早く帰ってくりゃいいじゃねえか」。
「おはようございます」。
「おはよう」。
「おはよう」。
「あっどうもおはよう。
何ですか?この騒ぎは。
ええ?熊さんの家の前で誰か掃除してる?ヘエ〜誰だい?熊さんの家の前で掃除…。
本人だよ」。
「熊さんかい?」。
「熊さんだよ〜」。
「珍しいね」。
「そうだよな〜。
俺はこの長屋に長いこと暮らしてるけど熊さんが朝掃除してるの見た事無えや。
ええ?冗談じゃねえ変わった事をするってぇと白い物が落っこってくるってぇけどさ冗談じゃねえな本当にええ?余計な事しないでほしいな。
うん。
何でやってるか知ってるかって?何が?熊さんがあそこで掃除してるの何でだかって?知らねえやそんな事は。
『今日は幾日だと思う』って?今日はお前正月の16日藪入りか?」。
「そう藪入りだよ」。
「あそこの家の亀ちゃん?もう3年経った?帰ってくるんだ。
お父っつぁんうれしくて寝られねえんだ。
ね?やっぱり熊さんも人の親だね。
大したもんだハハハハハ。
ちょっと声かけてやろうじゃないか。
せっかくね3年ぶりで帰ってくるんだから俺たちさね?朝湯連れてって背中流しっこしてやろうじゃねえかよ。
ね?やっぱり子供はかわいいもんな。
俺たちが喋ってるの聞こえてんだ。
だけど知らん顔してんだ。
恥ずかしいんだよてれてんだよ。
熊さん熊さん」。
「聞こえてんだよ」。
「熊さんおはよう」。
「アハ〜ッちっとも早かねえや」。
「おっ?そんな言い方無えじゃねえかよ。
亀ちゃん帰ってくるんだってね亀ちゃん大きくなったろうね」。
「小さくなりゃ無くなっちゃうばか野郎」。
(笑い)「そんな言い方無えじゃねえかよ。
あのさ〜みんなでもってさ背中流してやりてえんだよ。
ね?町内のつきあい。
ね?出世したっていうよりも出世前の男の子の背中なんか流せるのはおつなもんじゃねえかよ。
ね?流してもいいかい?」。
「当人が行くかどうか分からねえよ」。
「そんな言い方しねえでいいじゃねえか」。
「あっごめんなさいねすみません家の人でしょ?そうなんですよ。
てれくさいんですよ。
亀が帰ってくるもんですからズ〜ッと寝てないです。
どうもすみません。
ええ。
お風呂ですか?是非お願い致します。
お前さんもうやめとくれよ。
本当みっともないじゃないか。
私があと片づけするからお前さんこっち入っちゃって。
すみません皆さん。
お前さん」。
「うるせえ本当に。
俺が一生懸命いい気持ちで仕事してたらばか野郎あいつらパアパアパアパアくだらねえ事言いやがって冗談じゃない」。
「お前さんはそこでもって落ち着いて煙草でも吸ってりゃあの子は帰ってくるんだから」。
「うるせえ冗談じゃねえや本当にな。
ええ?あいつがまたグズなんだよ。
もう夜が明けちゃってるんだよ。
お天道さん上へ来たらお前すぐに来てまた帰っちゃなきゃならねえんだよ。
あきれ返ってものが言えねえな。
本当にな何か無えかな。
おっおっ嬶何か変な臭いがするよええ?何か焦げてるよ」。
「こ…あらっいけないいけないお飯お飯焦がしちゃったかしら」。
「おうどうした?蓋を取った?ええ?少し焦がしちゃった?困ったね本当に。
焦げた飯なんざお前家の亀に食わせたくねえな。
焦げたほうは俺が食うからいいいいいい。
うん。
あとは食えるんだろ?大丈夫か?そうかそうか。
はいはいはい。
おっ嬶忙しいよ誰か来たんだ。
朝っぱらから誰か来たんだ。
知らねえよ誰だか。
誰だ〜い?用があるんだったら開けて入れ。
構わねえから。
パッと開けて喋ってパッと帰れ。
誰だ〜?」。
「ウフッお父っつぁん相変わらずだ」。
「お父っつぁんおっ母さんただいま戻りました。
めっきりお寒くなりました。
お父っつぁんおっ母さんお達者でおめでとうございます。
ただいま戻りました」。
「誰だ?あらっまあ〜立派な挨拶ができるから誰かと思ったら亀じゃないか。
まあ〜他人行儀だけどいい言葉でもってお礼が言えるようになったんだね。
お前さん。
何やってんだお前さんお前さん下向いちゃって。
待ちに待った息子が帰ってきたんですよ。
分かってんの?」。
「分かってる分かってる。
分かってるけどあんまり立派な挨拶されたから顔が上がらなくなちゃったよエヘヘヘヘ。
ええ?何?」。
「あんなに立派な挨拶できたんだからあなたもね?早く早く言葉を返してやっとくれ。
立派な言葉を」。
「立派は言えねえけどさ言うよ分かってるよ。
これはこれはご遠方のところをようこそ」。
(笑い)「これからは兄弟同様のおつきあいをよろしく」。
(笑い)「お前さんばかになっちゃったんじゃないのかい?よく見なさいよ」。
「分かってるよ。
顔がまた上がらなくなっちまったんだから。
ね〜大きくなったろ?大きくなったろ?そうだろうな。
うん。
亀か?ご苦労さんでした。
3年よくもったな。
泣いて帰ってくるのかと思ってたよ。
いや〜偉えもんだ。
強情っ張りは俺によく似てらぁ。
本当になアハハ。
この間なお前の所の前通ったんだ。
そうなんだよええ?そうしたらさお前がさ太った男の子とチャンバラごっこやってんだよ。
仕事中にあんな事するんじゃねえよ。
太った子何だ?新どん?あっよく手紙に書いてくる友達ってのは新どんってあれか。
いやいい子じゃねえか。
うんあれ番頭さんに見つかったら怒られちゃうよ本当に。
俺が声をかけようと思ったんだ。
そうしたらそこからな一つのね出来事があったんだよ。
大八車が飛ばしてきやがって俺の所ぶつかったんだよ。
いつもの俺なら『とんでもねえ野郎だこの野郎』ってんでね喧嘩売っちゃうよ。
だけどそうやって騒ぎを起こすってぇとお前に迷惑かかるじゃねえか。
ね?『亀ちゃんのお父っつぁんが喧嘩してる』ってぇと嫌だろ?だから俺はジ〜ッと我慢して『どうもすみませんでした』って謝っちゃったんだよ。
そんな事があったアハッアハッアハッ。
やっぱりねお前の顔見てえから時々あそこ覗くんだよ。
おっ嬶おっ嬶傍にいてくれ顔を上げるってぇとなとてつもなく涙が出そうな気がしてならねえからさそこにいてくれよ。
野郎大きくなったな」。
「何言ってんだいお前さん。
ちゃんと顔を上げてやっとくれ立派になって帰ってきましたよ」。
「ウッあっウッ…。
あ〜目が開いたアハッアハッ。
大丈夫大丈夫。
もう見られる大丈夫だよ。
お〜亀いつの間にかお前3年経つとこんなに大きくなるのかな。
俺よりズ〜ッと高えじゃねえか。
な〜」。
「お前さんさっきから座ってんだよ」。
「座ってたか。
座ってりゃお前のほうが大きいやなエヘヘ。
後ろ向いてごらん。
背中見せろ。
そうかええ?肩広になってきたね。
男の子ってこんなに大きくなるのかな〜。
ええ?死んだ親父に似てきた?そうかな?ヘエ〜。
おう亀亀こっち向け。
ええ?お前お祖父ちゃんに似てきたってさやっぱりね血は争えねえもんだ。
アハハハ〜。
いいやそこへ座りな。
足投げ出しな自分の家帰ってきたんだから正座しなくていいから」。
「いえ。
このほうが楽なんです」。
「おっ嬶ええ?生意気な事言うじゃねえかよ。
ええ?そうかそのほうが楽なのか。
それじゃいいやな。
うん。
何だい?それは」。
「これはあの〜おかみさんが皆さんにって私だけじゃないんです。
皆さんにくれたんです。
あの〜お父っつぁんおっ母さんにお土産で渡しなさいってこれあの〜おかみさんから頂きました」。
「えっ悪いねおいそんな物もらっちゃ。
ヘエ〜おかみさんってのは大変だよな。
また親切だからなあそこの家の人は本当に。
頂くよありがとうございます。
まだあるのかい?」。
「番頭さんに教わったらとってもおいしいって分かったから今度のお土産はこれにしようって決めたんです。
私がお小遣い貯めて買ってきたの。
私が帰ったら召し上がって下さい」。
「よせこの野郎!お小遣いが無くなっちゃうじゃねえかよ。
お父っつぁんおっ母さんの事まで心配しなくたっていいんだよ。
ええ?どうしても?食わせたくて?買ってきた?エヘヘヘヘそんな気が利く男になったのかお前はアハハハハ。
ありがとう頂くよ頂くエヘヘヘヘ。
おっ嬶…。
何やってんだ?お前。
ええ?伜がこういう物買ってきたって?うれしくて泣いてるの?泣くんじゃねえ」。
「お前さんだって泣いてる」。
「俺泣いてんじゃないのね?暑いから目から汗が出てるだけだ。
これな神棚に上げて神棚に。
そうそうそう。
ね。
そうだええ?俺たち二人で食っちゃもったいないやな。
近所の連中長屋の連中に食わせてやりてえなええ?『家の伜が持って参りました。
家の伜のお供物でございます』アハハハそんな事言われねえけどさ。
な?うん。
そうそう今な町内の連中と喧嘩しちゃったんだよな?だからさ『背中流してあげたい』ってんでねお前を風呂に連れていきてえって待ってんだ行ってこい。
な?いいだろ?うんうん梅の湯梅の湯。
いつも子供の時行ってたろあそこだよ。
うん。
おっ嬶。
支度させて支度させて。
あ〜大丈夫大丈夫。
心配する事ないよ。
桶にな…。
手拭いは古いの入れるんじゃねえ本当に。
出世前の男の子ね?いい手拭い新しい手拭いをポンと入れてシャボンを入れて。
そう湯のね金も全部そっくりチャリンと入れときゃいいんだよお前。
貸せ本当に。
あっお前そのその着物よしなそれ。
あのな近頃はねせちがれえのかね風呂屋でもって悪い事する輩がいるんだよ。
床荒らしとか床荒らしとか言うのかね着物持ってっちゃうんだみんな。
履いてる下駄まで持ってっちゃう奴がいるんだ。
本当なんだよ。
だからさ盗まれてもいいような服だからそれは駄目だな。
あっほらあそこにお父っつぁんの長半纏が折れ釘に引っ掛かってるだろ?あれ着ていけあれ。
三尺締めりゃキリッとするよ。
長くたっていいじゃねえか。
『あれは熊さん家の伜だ』って分かりやすくていいじゃねえか。
な〜。
そうそうそれでいい。
はい。
じゃあ行っといではいこれ持ってな。
おうあっあのな履物もな今日履いてきた履物それも盗まれそうだから盗まれてもいいような下駄あったかい?おっ嬶の下駄?あっそう。
おっ嬶の下駄が立てかけてあるんだ。
ええ?赤い鼻緒?いいじゃねえかよ。
おっ嬶のなんだからさ。
ああ?うん分かった。
おっ嬶が言うにはその下駄な前壺が緩んでんだって。
足の指突っ込んだらね足の指立ててねえっとね歩けねえからずっこけちゃうから。
な?じゃあ気を付けて行っといで。
近所の人にな?よろしくな。
お〜っとそのどぶ板どぶ板乗るんじゃないよ腐ってる腐ってるの。
家の大家は不思議だね。
どぶ板直す事知らねえ。
店賃取る事は知ってんだから嫌な奴だ本当に。
またいで行け。
そうそうそう。
その犬構うなその犬構うな。
お前のいた時分と違ってな子供産んでからやたらにな『子供いじめられるんじゃねえか取られるんじゃねえか』と思ってやたらに噛んだりするんだよ。
だからやめなって。
やめなって言うのに傍へ寄ってきやがって。
ヘエ〜ッ偉いもんだね3年ぶりに会っても犬は恩を忘れないね。
あいつよく食い物やってたからね。
尻尾振って…。
ア〜アあいつの手ペロペロなめてるよ。
あいつも平気で…。
アア〜ハッ頬っぺたまでなめさせてやがらばかだね〜。
まぁいいや湯に行くから。
うん気を付けて行きな。
いやいや。
そっち行くよりこっちのほうが早えから。
その横丁入っちゃえ。
うんそう。
あ〜っと納豆屋ばか野郎!何だってそんな所突っ立ってんだい。
こっち入ってきちゃ駄目なの家の伜が湯に行くから」。
(笑い)「お前スッと避けてね?湯に行ったらお前入ってきていいから。
な?気を付けて行っといで。
あいよ行ってきたら一緒にお飯食おうな。
分かったよ」。
「おっ嬶」。
「何?」。
「行っちゃった」。
「ええ?」。
「行っちゃったよ」。
「そうよ」。
「帰ってくるかな?」。
「何言ってんだお前さん。
帰ってくるに決まってるじゃないお湯行くだけなんだから。
ね?」。
「いや驚いたよ。
俺がね急に頭が上がらなくなっちゃったの分かるだろ?『お父っつぁんただいま〜』ってんで戸を開けて下駄履いたまんま俺の所へ首ったまへつかまるってこっちは思ってたんだよ。
『めっきりお寒くなりました』って言いやがる。
あれには俺は参ったねおい。
ええ?いやあれだけの事を言えるなんてなかなかだ。
やっぱりね言う事方々で聞いてるからいい先輩がいて旦那様とおかみさんにねかわいがられるからあんな言葉が出るんだろう。
感謝の気持ちがいっぱいなんだろう。
ハハハありがてえ本当にな。
おい。
やっぱりここが子供だな。
やっぱり脱ぎっ放しだもん。
普通だったら畳むだろうな〜?あ〜いい着物だな。
それ何?おかみさんが?ヘエ〜。
おかみさんも大変だな〜その子に合った柄でもって着物作ってあげるんだからな。
あ〜なるほど。
おいおい。
それよしな。
お前はそれがいけねえんだよええ?他人の家の子供じゃなくて自分の家だからっていいってもんじゃないんだそれは亀のがま口なんだろう?お前が渡したがま口。
何でそうやって覗くんだよ」。
「いや。
そうじゃないんだよほらよく言うじゃないかね?子供がね?お父っつぁんおっ母さんに無理してお土産を買うってぇとお小遣いが無くなっちゃうとよく言うじゃないか。
だから私がさ少し入れてあげようと思ったの」。
「やっぱり母親は考える事が違うんだな。
入れてあげたのか?」。
「入れるどころじゃないよ。
こっちがもらいたいくらい」。
(笑い)「嫌な母親だね何が?」。
「何がじゃないんだよ。
5円札がきれいに畳んであって1枚だけじゃないの。
3枚も入ってんのしめて15円。
こんな大金お前さんどうしたんだろうね?」。
「何を言って。
お前が渡したがま口だろ?あいつのがま口そこから15円入ってあいつの銭に決まって…」。
「銭じゃないよお前さんええ?お札だよ?よくこんな物が…。
お前さん何とも思わない?」。
「何とも思わないってそうじゃねえか。
お前が渡したがま口からあいつの金だよ決まってるだろ」。
「男の人って何も考えないんだね〜。
お前さん2銭3銭4銭の時代に15円なんて大金はね3年経ってももらえません」。
「いや。
あいつは気が利くから方々からお小遣いもらうんだよ。
お駄賃だとかそれが貯まった…」。
「貯まる訳ないだろうお前さん。
しっかりしておくれよ。
15円いいかい?お前さんあの子は一人っ子わがままで育ったんだよね?他人にいじめられた事なんかないんだよ。
みんなお前さん助けてしまうから。
向こうへ行って一人ぐらい悪い人だっているんじゃないの根性の曲がった人が。
『亀ちゃん…』一緒に暮らしてんだから逆らえないよ。
『亀ちゃん。
あれやれこれやれ』『いや。
そんな悪い事』『やらないと承知しねえぞ』なんて言われたらお前さんあの子だってフラフラッと」。
「お前何が言いいてえんだよ?」。
「だからね?旦那様とおかみさんが出かけた時に『留守になったからあそこの手文庫か何かでもってお金が入ってるからあれを盗め』と言われたら嫌とは…」。
「何言ってんだこのばか野郎!俺のガキだよ。
そんな事する訳ねえじゃねえか」。
「お前さんは正直一徹な人だけどさね?傍にひっついてる訳じゃないんだからね?だからもしかしたら魔がさすって事あるだろ?そこからス〜ッと忍び込んでその15円…」。
「いいかげんにしろこの野郎張り倒すぞこの野郎。
家のガキはそんな事しねえよばか」。
「お前さんね15円という大金っていうのお前さん分からないのかい?10銭50銭とか1円だってもらうの大変なのに何も考えないのかい?お前さん。
15円よく考えてごらん」。
「15円たってお前大した事…。
大した事ねえって事はねえな。
15円だな。
ちょっと多すぎるか?あ〜多すぎる。
あ〜駄目だ。
そうか野郎やりやがったな」。
「お前さん単純だね〜」。
(笑い)「そうじゃなくてよ〜く話を聞いてからお仕置きとか…」。
「うるせえ。
冗談じゃねえや。
どうもおかしいと思った。
普通泣きながら入ってくるのに『めっきりお寒くなりました』てあれからおかしいと思った。
あっおっ見ろ見ろ見ろ。
しゃあしゃあとしてるよおい。
ほら見ろあの目つき。
嫌な目つきだね家のガキは。
泥棒猫がサンマ狙うような目つきしてるよ本当に。
お前手出すな向こう行ってろ」。
「お前さん手を出しちゃ…」。
「うるせえから向こう行ってろ男と男の勝負だ本当に。
おい亀。
帰ってきたか?」。
「お父っつぁん。
行ってきました。
誠に結構なお湯でした。
ご近所の人にみんな背中流して頂きました。
お父っつぁんも出かけたら如何ですか?」。
「騙されねえ騙されない。
こっち来い」。
「おっ母さんは?」。
「おっ嬶はどうでもいい。
そこへ座れ」。
「お父っつぁんどうしたの?。
はい座りました」。
「俺の目見られるか?俺の目」。
「はい。
見てます」。
「白状しろ。
もうねたは割れてんだ」。
(笑い)「お父っつぁん何の事?」。
「とんでもねえ野郎だなこいつ。
ええ?お前の親父はな他人様の物と名が付いた物は塵っ葉一本自儘にした事は無えのが自慢だよ。
な〜長え物を短くして世間様に頭の上がらねえ商売かもしれねえけど正直一徹できたんだこの野郎。
その伜があんなにお世話になってる大事な大事な旦那様の部屋に飛び込んでこの野郎金盗んだな?」。
「お父っつぁん何の事?さっぱり分からねえ何の事?」。
「とぼけんじゃねえこの野郎!お前のがま口覗いたんだよ。
15円が出てきた15円。
こんな大金お前が持ってる訳ねえんだよ。
手前旦那様の物盗んだろ?」。
「盗む訳ないじゃないか。
何だって他人のがま口覗くんだよ。
いくら親でもやっていい事と悪い事があるのに。
だから貧乏人は嫌になっちゃう」。
「この野郎!とんでもねえとんでもねえとんでも…」。
「お父っつぁんやめなさい」。
「うるせえコンチクショー」。
「待ちな。
「お前さん手が早いんだから。
何て言い方するんだい。
お父っつぁんに謝りなね?お父っつぁん正直一徹でお前を育ててきたんだから。
何?何が言いたいの?泣かないではっきり言ってごらんお父っつぁん今止めとくから何だい?」。
「アア〜ンそれは頂いたお金なんです。
頂いたお金だ」。
「この野郎頂いた?ばか野郎そんな大金…」。
「お前さん聞いてあげよう…。
何だ?どうしたの?どこで頂いたの?言ってごらんお父っつぁん怒りゃしないから言ってごらんどうしたの?」。
「あそこの家へ奉公に行ったら鼠を捕るのが仕事なんですよ。
ある日新どんがニコニコ笑いながら私の肩叩いて『奥の旦那様とおかみさんが用があるからおいでって呼んでるよ』。
みんなニコニコ笑ってるから悪い事した訳じゃないなと思ってこっちも喜んで行ったら『お前は運のいい子だね』って旦那とおかみさんがニコニコしながら『さっき知らせがあった。
鼠の懸賞が当たって15円当たったんだよ。
ね?今渡すと落とすといけないから今度の宿下がり藪入りの時にお前に持たせるからあとでお父っつぁんおっ母さんに見せて喜ばせてやるんだよ』って。
あとでゆっくり帰る間際に渡そうと驚かそうと思ってたのにお父っつぁん先に見ちゃうんだもん」。
「だから言わねえこっちゃ…」。
「お前さんがやった」。
「何言ってんだ本当に。
お前がいけねえんだ覗くから。
ね〜。
そうか鼠の懸賞か〜。
ヘエ〜俺の子供だからそんな事する訳ねえと思ったんだよ本当におっ嬶。
お前の心配している事ばっかりじゃねえんだぞ本当に。
見ろ家の伜!清らかな目をしてるじゃねえか本当にな〜アハハ。
鼠の懸賞で当たったのか。
それ言ってくんなきゃ困るじゃねえか。
な〜。
ご主人様が『お父っつぁんおっ母さんにあとで見せて喜ばせろ』ってそう言ったのか。
ありがてえこったな。
これからもね?旦那様を大事にするんだぞ。
それもこれもみんな忠
(チュウ)のおかげだ」。
(拍手)2014/10/11(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「藪入り」[解][字][再]

落語「藪入り」▽三遊亭好楽▽第662回東京落語会

詳細情報
番組内容
落語「藪入り」▽三遊亭好楽▽第662回東京落語会
出演者
【出演】三遊亭好楽,斎須祥子,金近こう,瀧川鯉○,三遊亭遊松,柳家緑太

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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