ご機嫌いかがですか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第一週の選者小島ゆかりさんです。
今日もどうぞよろしくお願い致します。
今日の冒頭の一首は?これは詠み人知らずのような歌を作りたいなという事で最後の「人よ」という呼びかけは愛する人を思ったり家族を思ったりお友達を思ったりそれぞれの方が思って下さる晩秋の豊かさを詠みたかったという事です。
紅茶の香りがまゆげに沁みるって何かいいですね。
さあそれでは今日の「NHK短歌」お迎えしたゲストをご紹介致します。
杏林大学客員教授詩人で版画作家のピーター・マクミランさんでございます。
ようこそお越し下さいました。
よろしくお願い致します。
マクミランさんはアイルランドご出身です。
88年に来日され日本文学の翻訳あるいは詩の研究など幅広くご活躍でございます。
「百人一首」を英語に翻訳されて6年前にアメリカで出版されました。
こちらのご本です。
元の歌と英語がこうして書かれているわけですけれどもこれを日本語でも解説をされましてこうしたご本をお作りでございます。
「英詩訳・百人一首」「香り立つやまとごころ」という副題がついておりますね。
さあマクミランさん「百人一首」に興味をお持ちになったのはどういういきさつですか?若い時に就職を探した時にたまたま日本に就職があって地図を見たら日本はアイルランドの真反対だったので日本に来るとすごい冒険ができるかなと思って冒険できましたけれど私も詩人であるから日本の詩を読みたいなと思っていたら「百人一首」と出会いました。
では小島さんとの出会いは?これはほんとに私幸運なんですが昨年たまたま「百人一首」に関する座談会があったんですね。
そこでマクミランさんの日本と和歌への熱い情熱に心打たれて座談会終わっても2人でいつまでもいつまでもしゃべっちゃったっていうそんな出会いです。
そんなマクミランさん詩人でいらっしゃいますが日本の短い詩にも挑戦をなさいました。
短歌のご実作を今日はご披露頂けるという事で一首お願いを致します。
よろしくお願い致します。
とっても品のいい歌ですね。
どんな時に出来た歌ですか?ニューヨークにね2年間住んだ時に春になったらライラック咲き始まった頃にそれを見て香りを感じて自分の少年の時代のアイルランドを思い出しました。
「ほのかに薫る」なんていかがですか?本当に日本のある情感の最も古風な優雅な出し方ですよね。
マクミランさんゲストにお迎えしている方に短歌についてどんなイメージをお持ちなのか短い言葉にいつもして頂いておりますがどういうお言葉になりました?私にとっては…まさに私どももそう思っているんですがマクミランさんはどういうふうにお考えなのか後ほど詳しくお聞かせ下さい。
よろしくお願い致します。
さあそれでは今週の入選歌のご紹介にまいりましょう。
題が「街
(町)」または自由でございましたね。
小島ゆかり選入選九首です。
一首目。
地域の呼び名そのものは大きくビッグになっていくんですがそれと反比例して過疎化が進んでいくっていうんですね。
上の句は今日本全国こんな地域がたくさんあるかと思うんですがその厳しい現実をこの作者はちょっとほのかなユーモアにくるんで「おこげのように」という比喩で表現された。
そこがとてもすばらしいと思います。
おこげはおいしいですもんね。
おいしいものですもん本当にね。
では二首目です。
マクミランさんに伺いましょう。
今ちょうど「伊勢物語」を翻訳し終えたところなんですが。
あら舞台に近い。
そうですね。
そのためにいろいろ見物に生駒山へ伺ったところですね。
そこへ高安の里とか淡路という地名がその近くにいっぱい「伊勢物語」が関係してる所出てまいりました。
遠い昔の生駒山のあるこの歌を読んでとても味わい深いと思ってましたですね。
それと寂れた商店街の雰囲気をとてもユーモラスに謙虚な気持ちで表している事が大変すばらしい歌だなと思いました。
とてもいい鑑賞をして頂いて「傘が要ります」なんていう話し言葉の用い方ですね。
話し言葉の調子というかこれが一首を生かしたと思います。
読者のえっじゃあ雨漏り?じゃあ寂れてるの?というこんなふうな展開ですね。
では三首目です。
マクミランさんどうでしょう?これは大変すばらしい歌ですね。
まずは「ぶつかる出会い」というのは田舎に暮らしている立場から見た都会の生活。
実際は私たちぶつかっていないんですけれどもそのように見えるんですね。
それと「田んぼの向こうに」という事で婉曲的にすごくおっしゃってるんですけれども憧れを逆に強く感じる。
とても日本的だと思いますけれども最後の「君は見えとる」という方言の使い方が非常に見事ではないかと思っておりますね。
本当に十分に言って頂いてやっぱり場面の広やかさと「見えとる」という方言ですよね。
これがいいと思います。
では四首目です。
なるほどな〜と思いました。
確かに言われてみると合鍵とか家族の鍵とかね鍵穴に対して鍵は多いんですね。
ところがこういう事を意識した事がないですから改めてこう表現されると何か空間に鍵とか鍵穴だけが見えるようなあるいは作者の心の世界かもしれないと思われるような不思議な感覚の作品だと思いました。
では次五首目です。
マクミランさん。
これもとても日本的な歌だと思ってましてまず深夜のラジオで聴いている一人の姿がとても視覚的にすばらしい歌だと思ってまして上手に発音を分けていく事に対する敬意の気持ちとか安心感とかそういうような事がとてもすてきな歌だと思います。
これは「震度告げをり」ですから緊急事態なんですよね。
その時に上手に読み上げてる。
日本語難しいですから栄町である所と栄町である所とあるんですね。
マクミランさんおっしゃったようにそのアナウンサーの方への敬意深夜という時間帯ラジオという聴覚に訴えるバランスがあっていいと思いますね。
それでは次は六首目です。
ああそうか〜と思いましたね。
町が違うとごみ収集車の音楽も違うんだなという事を教えてもらった。
そういえば…。
そういえばという事ですね。
上の句の「違う」は漢字で書かれ下の句の「ちがう」は平仮名で書かれている。
これは恐らく上の句は知識としての「違う」であって下の句は耳で聞いた柔らかい聴覚としての「ちがう」ですね。
配慮のある作者だなと思って感心しました。
次が七首目です。
マクミランさん。
これもとても楽しいユーモラスな歌ですね。
昭和を代表する寅さんと今現代には就職活動をしている若い人との対比がすごく見事に表現されてますね。
本当によく日本の事をご存じでいらっしゃる。
楽しさと切なさが絶妙な配分で歌われていると思いました。
最後の「僕を着ながら」ってスーツに着られているその慣れてない感じですよね。
何となくまだしっくりきてない。
とてもいい歌だと思いました。
さあ次は八首目にまいりましょう。
大変風が強い時まして渦巻くように吹いている時とかあるいは豪雨の時とかというのは視界がちょっとゆがんで見えたりする事がありますよね。
恐らくそんな事から発想を得られて「街」という題詠で「街角の角を奪っていくように」となかなか鮮やかな一首だと思いました。
さておしまいの一首九首目です。
これもシンプルで大変いい歌ですよね。
十代の思い出とか記憶って言うんじゃなくて「私の呼吸」と言ったところで俄然体の身体感覚が出てきてそれと九月ですね。
四月ではちょっと当たり前で九月という清新な空気の固さも感じられるようなね秋の始まりでもある。
そこがとてもいいと思いました。
故郷へのいい思いがありますねこれね。
十代のありますか?十代ってまた何とも言えずいろいろあったじゃないですか。
もう遠い昔でございますが…。
目がこうなってしまいましたね。
はい。
以上入選九首でした。
この中から小島ゆかりさんが選ばれた特選三首の発表です。
まず三席です。
三席は小笠原啓太さんの作品です。
二席です。
二席は大武千鶴子さんの作品です。
いよいよ一席です。
一席は今北紀美恵さんの作品です。
いいですよねこの歌。
街角でぶつかる出会いというのは都会的なドラマのような出会いって事だと思うんですがそれはないけれども作者は実はご自分の地域あるいはそういう君が見えとるというような所を愛していらっしゃるんですよね。
それが歌からよく分かって懐かしさと親しさと相聞歌でありますよね。
なるほど。
本当に「見えとる」が効いてますね。
すばらしいですね。
以上今週の特選でした。
今回ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品こちら「NHK短歌」のテキストにも掲載されております。
ご覧下さい。
さあそれでは「うた人のことば」です。
牡丹の花が九つ咲くともう匂いがねすごく爽やかないい匂いが庭中に広がるんですね。
虻がね飛んでくるんですね。
それが牡丹の中に入る前にね空中に静止したままブ〜ンってうなってるのは何かすごい弾丸のように強い感じがするのね。
大地から吸い上げて咲いている花の力とそれからやっぱりこれも大地から生まれた虻の生きようとする力と両方ともの命が引き合っている向かい合っている。
そういう力っていうのはとてもすばらしいと思うんですよね。
太平洋戦争の末期に学徒動員をされていましてねほとんど勉強はなく本を読む暇もなく夜寝る時に本読むくらい。
そういう中で長塚節の歌集歌に出会ってすばらしいなと思って本格的に歌を作りたいと思いだした。
さあそれでは続いて「入選への道」のコーナーです。
たくさん頂戴するご投稿歌の中から一首取り上げまして小島ゆかりさんがちょっと手を入れられます。
どんな歌でしょう?はい今日はこの作品です。
「街」という題詠で大変いい場面を捉えられていると思うんですね。
1か所だけ「秋へと急ぐマネキンの」「急ぐ」がマネキンに係っていくような不安感がちょっとあるんですね。
ですからこのようにしてみました。
最後も「急ぎ」となりましたから「脱がす」と直しました。
「秋へと急ぎ」とマネキンに不用意に係っていくところが改善できたと。
改善して…で入選と。
どうぞ皆さんも歌作りの参考になさって下さい。
さあでは次の投稿のご案内を致しましょう。
今回は申し訳ないのですが「行く」という動詞でお願いします。
例えば「吟行」なんていう事も入ってしまうと大変幅が広がってしまいますので動詞の「行く」でお願いします。
さて選者のお話です。
小島ゆかりさんの「うたを読む楽しみ」今日は「春秋優劣論」です。
今読んで頂いたのは額田王の長歌の後半の部分なんですね。
これは時は7世紀の後半です。
天智天皇の宴での事なんですが皆の者…と言ったかどうか分かりませんが春の匂いやかな花々と秋の黄葉とどちらが優れていると思うかどちらが好きかというような事を詩歌で競わせたんですね。
宮廷に仕える男たちが盛んに漢詩でもってそれを競ったんです。
その中で一人額田王が宴の華でありますが和歌でもってこの長歌そして反歌を詠んだんですね。
長歌の前半の方では春山はこんなにすばらしいわよごめんなさい春の花ですねこんなにすばらしいわよという事を歌っていてそして後半で色づいた黄葉を取って慈しむ。
残念ながらまだ青いままのはそのままに置いておくわ。
そこだけがちょっと恨めしいけど残念だけれどもでも秋山が好きよ私は。
こう言ったんですね。
だから春の花なの?秋山なの?とずっと思わせておいて最後に私は秋山よと。
こんなとてもパフォーマンスですね。
この歌が評判になりましてその後の時代にも「春秋優劣論」というのが宴の場ではよく行われたんですね。
今日の選者のお話「春秋優劣論」でした。
さあそれではゲストにお迎えしている「百人一首」を英語に翻訳されましたピーター・マクミランさんにまたお話を伺ってまいりましょう。
先ほどの短歌のキーワードもう一度お見せ下さい。
「短歌は日本のこころ」とお書きでございますがどういうふうにマクミランさんお考えなんでしょう?外国人から見た日本文化なんですけれどもやはり皆さん歌との深い関わりをすごく感じるんですね。
先ほど「万葉集」が出ましたけれど万葉の時代から現代に至るまで日本人はやっぱりどなたでもすぐ歌人になれるわけですね。
私授業もやりますけれども即座に学生でもすぐに歌は書けるわけですね。
型がありますからね。
それであとは七五調という事もありますよね。
それは日本人にとっては魂のようなリズム感があるわけでそういう事で日本人は短歌は歌のこころではないかと思ってますね。
いや〜うれしいですね。
海外では俳句もよく知られてますけれども本当は短歌の方がより素直に日本の気持ちが表れているのかなと思います。
よく言って下さいました。
そうおっしゃるマクミランさん「百人一首」に惹かれたという事でございますけれども特に「百人一首」の中で一首今日はご紹介頂きましょう。
紹介致します。
この歌は?この歌はですねとても普遍的だと思ってましてですねどなたでもとても共有できる恋の思いの歌ですね。
特に「梶を絶え」という隠喩が展開が見事であるかなと思っております。
このよく知られた「百人一首」の歌を英語に直されたこちらがこの歌でございます。
ご紹介下さい。
ああすばらしい。
ありがとうございます。
私はちょっと英語はそんなに詳しくないんですがそれでもマクミランさんの翻訳で一番心惹かれるところは言葉の直訳ではないんですね。
いったん日本語の歌をご自分の中で感動して下さってそれを詩的に意訳するというんですかねそれがすばらしいと思いますね。
例えば今回驚いてしまったのはrudderのあとにピリオドありますでしょ?これは非常によく働いていて…。
rudder…梶ですね。
「由良の門を渡る舟人梶を絶え」ここまでは「ゆくへも知らぬ」を引き出してくる序詞なんです。
だからここに一つセンテンスのまとまりがあるんです。
それがきちんとここでピリオドで言われていてそして「theboat’sadrift」というふうにこれ全体を受けながら次のところへ行くでしょ。
それから最後ですよね。
「lovelikethis?」ってこの漂うような儚さは私の恋の思いと恋の行方と同じではないかしらという。
すごくいいですよ。
すてきにおっしゃってますね。
若い女性なら「これって恋みたいなんじゃない?」って。
そして今皆さん伺って分かったと思うんですが音が気持ちいいんですね。
例えば「adrift」で一回小さな小休止が入ってそのあと「notknowing」と柔らかい「の」の音で続いていくという訳し方ですね。
マクミランさんこの歌は比較的意味がとりやすいかと思いますが「百人一首」は他にもちょっと難しい歌もございましょう?どういうところに苦心されましたか?この歌はわりと普遍的で翻訳しやすかったんですけれど歌によってそれぞれ違う挑戦を与えてくれるんですよね。
とても翻訳しづらい歌もありますし。
掛けことばとかね折句とかねいろいろありますよね。
だからいろいろ苦労は致しましたけれども世界にすばらしい歌の世界を発信したいと思っていますので大変でありながらとても楽しい作業であります。
これはこのように解釈した読まれたという事でもありますねマクミランさんがね。
実は来年の今頃ですかね「伊勢物語」の英訳の本をお出しになりますのでこちらも楽しみです。
「伊勢物語」また大変すばらしい世界観ですね。
歌物語ですね。
大変難しかったんですけれどもいろんな解釈あるんですけれどもとても分かりやすい英語に致しましたので英語をお読みになると分かりやすくなっている方おられると思いますので。
若い方はそっちの方がずっと分かりやすいと思います。
英語の方が。
日本の古典ってそのまま読むと垣根が高い事が…。
何のこっちゃ?みたいな。
英語で読むとあっすごい。
今の時代の日本人の方ほとんど英語お読みになるわけですから「百人一首」を英語で読んで初めて意味が分かったとよく言われるんですね。
日本文化を英語国に広く紹介して頂けてありがたいですね。
こういうすばらしい世界をどんどん世界に広めていこうと思います。
今日はピーター・マクミランさんをお迎え致しました。
どうもありがとうございました。
小島さん次回もどうぞよろしくお願い致します。
ではごきげんよう。
2014/10/07(火) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「街(町)」[字]
選者は小島ゆかりさん。ゲストは詩人で版画家のピーターマクミランさん。百人一首の英訳を手がけたマクミランさん。原歌よりも、むしろ意味が明快と評判となっている。
詳細情報
番組内容
選者は小島ゆかりさん。ゲストは詩人で版画家のピーターマクミランさん。百人一首の英訳を手がけたマクミランさん。原歌よりも、むしろ意味が明快と評判となっている。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】ピーター・マクミラン,小島ゆかり,【司会】濱中博久
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
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