この夏注目を浴びたアイスバケツチャレンジ。
このチャリティーイベントの目的は難病ALSの治療を支援する事です。
物理学者ホーキング博士をはじめ全世界で12万人の患者がいるというALS。
徐々に全身の筋肉が衰えていく病気です。
進行すれば会話も困難となります。
患者が恐れるのは愛する家族にさえ気持ちを伝えられなくなる事だといいます。
どうすれば心の声を伝える事ができるのか。
今最先端の脳科学を用いた研究が進んでいます。
BMI。
脳と機械をつなぎ意思を伝えるシステムです。
(みゆき)もうちょっと選んでみて。
極限の状況に直面してもよりよく生きようと格闘する人たち。
変わりゆく難病ケアの最前線に迫ります。
こんばんは「ハートネットTV」です。
今治療困難とされてきた難病のケアやリハビリが脳科学によって変わりつつあります。
今日からお送りする「シリーズリハビリ・ケア新時代脳からの挑戦」ご覧の4回のラインナップで最前線の現場をお伝えしていきます。
第1回のテーマは…略してBMI。
脳の情報を読み取って機械を操作するシステムの事です。
さまざまな病や障害での利用が考えられますが今回は神経難病の一つALSの患者のための研究をご紹介していきます。
ALSは全身の筋肉が徐々に衰える病気です。
病が進行するとさまざまな補助的な器具を使い生活をします。
その中で最後に大きく立ちはだかる問題それはコミュニケーションがとりにくくなる事です。
ここにBMIを活用しようというのです。
症状が進んでも生活の質を保ち自分らしく生きたい。
その可能性を信じ病と闘う一人の患者と家族や医師たちに密着しました。
兵庫県養父市にある公立八鹿病院です。
ALSの先進治療施設として知られるこの病院で入院生活を送る衣川昌一さん。
40代半ばに発症して以来20年にわたりALSと闘ってきました。
暑い?大丈夫?大丈夫?ALSは運動をつかさどる神経が異常を来し体の自由が利かなくなる病気です。
全身の筋肉が衰えていく一方感覚や判断力は正常のまま保たれます。
末期でなければ意思疎通も可能です。
衣川さんは僅かに動く顔の筋肉や目の動きを使って会話をします。
「さ」…「き」…「むらさき」?村崎さん?あっそっか。
村崎さんな退職しなはったんや。
うん。
えっ去年?この春ですかね。
この春で退職して。
残念。
衣川さんの闘病生活を支えてきたのは妻のみゆきさんです。
足の置き場は?いいですか?変えるん?夫をよりよくケアしたい。
みゆきさんは自ら介護福祉士の資格も取りました。
20代半ばにお見合い結婚した2人。
自由奔放な夫の帰りを毎晩待つ日々でした。
2人の子どもに恵まれトラック運転手の仕事にも熱心に励んでいた昌一さん。
45歳の時突然体が動かなくなりました。
医師から受けた診断はALS。
足から始まったまひはやがて上半身に広がり字を書く事も話す事もできなくなりました。
間もなく闘病生活20年。
僅かに動く頭でパソコンを操作し発症当時の思いをつづっています。
「ALSの診断を受けたときは絶望しました。
ALSは治る見込みもない難病です。
希望を失って目の前が真っ暗になりました」。
絶望する昌一さんを支えながらみゆきさんは家を守り子育ても一手に引き受けました。
しかし着実に進行するALSは2人を追い詰めていきます。
だんだんそれがなってきた時に一番…「進行がこの方遅いです」って言われた時にはだいぶかかるのかなとか…衣川さん夫婦が抱える不安。
主治医の近藤清彦さんはそれに正面から向き合ってきました。
どうですか?ゆうべよく眠れました?進行性の難病であるALSが患者の心に与える影響は計り知れないといいます。
ひとつきに1回病院に通院されてる方であれば…全身の筋肉をむしばんでいくALS。
まひはいずれ呼吸をつかさどる筋肉にまで達し息ができなくなります。
命をつなぐには気管を切開して人工呼吸器をつけるしかありません。
しかし日本の患者の7割以上が人工呼吸器を選択せず死を迎えるといいます。
それからもう一方で…そういったような思いももしかしたらあるかもしれませんね。
衣川さんも人工呼吸器はつけず死を受け入れようとずっと心に決めていました。
しかしその覚悟は思わぬ事態に遭遇して揺らぎます。
風邪をひいて入院している時だったんですけど…心の底からわき上がる恐怖に直面し人工呼吸器をつけた衣川さん。
命を長らえた経験を手記につづりました。
「死の直面に立たなければ命の大切さをわかってもらえないでしょう。
『もっと生きたい』という気持ちから人工呼吸器を受け入れる決断をしました。
命綱の人工呼吸器を選択しなければ死を待つ怖さのみです。
命の重さがひしひしと身にのしかかってきます。
私は生と死の境目を右往左往しながらいつも心の中で死と戦っています」。
現代医療によってつないだ命。
衣川さんたち患者と家族をどうやって支えていくのか。
この病院ではさまざまな模索を続けてきました。
食事摂取の時の…。
その一つがさまざまな専門家が連携するチーム医療です。
娘さんも心配されていてその娘さんの力で2人を介護していく形になりますのでなるべく介護負担が軽い形が相談できればと思うんですけど。
医療と介護それぞれが専門知識を持ち寄り患者一人一人に合わせたケアプランを練っていきます。
失礼します。
ALS患者に生きる喜びを感じてもらうためのアイデアも生まれました。
今日のメインは豚のしゃぶしゃぶです。
豚肉をさっとゆでてから上からネギと一緒にポン酢もかけました。
一品一品を見せながら献立を丁寧に説明します。
目と耳で食事を楽しんでもらう工夫です。
すり潰した食事を胃に開けた孔からとっている衣川さんは味を感じる事ができません。
だからこそ別の形で食べる喜びを実感してほしいと考えたのです。
物語の書き換えという事を言う人もいますけどもね自分にとって…そういう事ができると…長きにわたる闘病生活の中でどうしたら前向きに生きられるのか。
衣川さんの場合最も大きな力になったのが家族でした。
衣川さんは時折一時退院して自宅に帰ります。
私にしたらちょっと水場が遠くなるのでその今通ったすぐ上がってもらった部屋って思うんですけどやっぱり本人ここの部屋がいいって言うのでもう最初からこの部屋ですね。
懐かしい我が家に帰り家族と水入らずの時間を過ごした衣川さん。
ふとした瞬間みゆきさんに誰にも言えなかった胸の内を明かしました。
「このままでいいの?」とか「生きとっていいんやろか?」とか…。
病院ではないですけど…。
帰ってきた時には話しますね。
(取材者)生きとっていいのかみたいな?そうですね。
娘や息子にお父さんがこう言うとったやから思いを伝えてあげてって…言いますけどね。
絶望の中で見つけた家族との絆。
自分の生きざまをありのまま見せよう。
衣川さんは生きる意欲を取り戻しました。
「家族の励ましで生きる望みを見つけました。
19年間妻はひと言も愚痴をこぼさず献身的に介護をしてくれています。
ありがとうの気持ちで胸がいっぱいです。
これからどれくらい生きられるかわかりませんが、息が続く限り、生き続けたいです」。
いくつもの危機を周囲に支えられながら乗り越えてきた衣川さん夫婦。
今更なる壁が立ちはだかっています。
このまま衣川さんの病が進行すれば感覚や思考力は正常のまま一切の意思疎通ができなくなるかもしれないのです。
だからそれが一番…患者と家族が最も恐れるコミュニケーションの問題。
どうしたら病が進行してもなお意思を伝えていけるのか。
衣川さんは今脳科学を活用したコミュニケーションの研究に参加しています。
研究チームをリードするのは脳科学者の神作憲司さんです。
脳と機械をつなぐこのシステムブレインマシンインターフェースBMIと呼ばれています。
画面に並んだ3つの操作ボタン。
このうち1つを選び作動させるのは脳波です。
鍵となるのは上部にあるLED。
それぞれ異なるサイクルで点滅しています。
LEDの一つを衣川さんが見つめ意識を集中します。
すると脳の後部にある視覚野が刺激され点滅サイクルに応じて固有の脳波が発生します。
別のLEDを見つめると異なる脳波が出ます。
脳波を見分ければどんな操作をしたいのか分かる仕組みです。
このシステムの実現にはさまざまな課題がありました。
身の回りの機器が発生するノイズ。
その中で正確に脳波を見分けるためプログラムの細かな調整を繰り返しました。
更に脳波が伝わりやすいゲルを用いた電極を開発。
着脱が容易で日常生活での使い勝手が向上しました。
衣川さん好きな曲ありますもんね。
この日の目標は脳波を使って音楽を再生する事。
真ん中のLEDが音楽を再生するボタンと対応しています。
衣川さんがそこに集中すると…。
(「川の流れのように」)見事脳波だけで音楽が再生できました。
好きなんですね。
すばらしい。
衣川さんできた。
すごい。
すばらしい。
患者の意思を正確に読み取り機械に伝えて生活を支援する。
何個か聴いてみましょう。
困難な目標に挑むため5年にわたって試行錯誤を重ねてきた研究チーム。
こうしたBMIの技術は今大きく広がろうとしています。
研究チームが開発した日本語入力プログラム。
アイコンに意識を集中するだけで文字を選ぶ事ができます。
たとえ全身の筋肉がまひしても脳波だけで意思を伝える。
ALS患者の夢に実現の可能性が見えてきました。
対応していくっていう。
そういう事から…どうしても避けたがるんですけども…こんにちは。
(みゆき)こんにちは。
医療者と患者そして家族の希望をつなぐBMI。
この日みゆきさんが見学に訪れました。
今日音楽が聴けるの結構上手にできたんですよ。
まずそれちょっと見てもらったらいい。
衣川さんそれ奥さんに見てもらいます?今日やった成果。
(「襟裳岬」)今「襟裳岬」を選んだんで…。
カーテン閉めたりとかテレビつけたりできればね…・「遠慮はいらないから」「か」「ん」「へ」「ぺ」…。
(笑い声)「研究成果に胸を膨らませ、BMIに寄せる期待は大きくなっています。
長い長いトンネルをくぐればその先には新しい世界が広がっています。
私は、光と希望を信じています」。
ここからは先端科学と社会をつなげる活動を行っているサイエンスコミュニケーターの内田麻理香さんそして文部科学省の脳科学研究プロジェクトで委員も務めた室山哲也解説委員と進めていきます。
よろしくお願いします。
まずは内田さん今の衣川さんの姿どうご覧になりましたか?まずこれだけコミュニケーションが重要だって事を切に感じました。
人間の尊厳を支える存在なんだなという事が分かりました。
私はサイエンスコミュニケーションの仕事をしているんですけどその仕事でもいろいろ難しさを感じているのにもかかわらず衣川さんのような立場になったらどうなるんだろうというふうな事は想像もつかないですね。
その中で伝えられるというのは患者さんにとっては本当に大きい意味があると思うんですがALSといいますと進行性で不治の病という中だからこそ医療や介護の在り方が問われている。
その中でBMIの役割というのは非常に大きいと思うんですよね。
衣川さんもどかしいでしょうね。
自分が言いたいつながりたいけどなかなかできない。
だけど積極的にやろうとしてらっしゃる。
すばらしいと思いますがこのもどかしさはちょっと分かる気もするのは私眼鏡かけてますね。
これ外すと近眼なのでよく見えない。
だから自立できないんです。
だけどこれがあるとちゃんと見て一人の人間として自立できるようにねやっぱり人間の能力を補助して自分に戻していくという技術の最先端のものの一つがBMIだと言っていいと思うんです。
だから人間中心でそれを補助する科学技術の一つの典型だと思いますね。
そのBMIなんですが今その発展を支えているのが脳科学の進歩といえると思うんですがどんな研究の状況なんでしょうか?世の中でも脳科学の重要性は認識されておりまして政策的にも脳科学を重点的に研究していこうというふうな事になっています。
そのおかげでどんどん脳科学の機能まだ難しいところもありますけれども脳の機能が随分分かるようになりましてそのおかげでBMIだけでなくほかの治療や支援などが可能になってきたといえると思います。
このほかにもBMIはさまざまな応用の可能性が考えられると思うんですが一方で課題もあると思うんです。
BMI今開発途上でこれから大きく発展していくんですが例えば私たちがものを考えたりする時脳からいろんな信号が出てるんですね。
脳波もそのうちの一つなんですけれどもそれを使って例えば念じるだけでカーテンを開けたり閉めたりテレビをオンオフしたり車椅子を移動したりするような研究ももう既に始まってますし。
動かなくてもいい。
そうですね。
それからロボットの義手を脳の信号で動かすような研究にも成功しているしこれからは自動車だとかそういう産業化ですね。
こういう理屈を使って広く産業化していくような可能性があると。
こういう技術だと思うんですがやはり今後そういうマシンが動く時は安全性それからノイズの除去先ほど言ってましたね。
それから精度を上げる。
コンパクト化。
安くすると。
だからこれからの課題はまだ山積していてそれをクリアーしていかなければいけないと思います。
その中でBMIの研究に患者さん自身衣川さんが当事者として関わっている。
これ意味としては大きいと思うんですよね。
まさに衣川さんのようにBMIの可能性を信じて下さって積極的に関わって下さる患者さんたちの存在が本当にありがたいと思いますね。
室山さんどう感じますか?やっぱり衣川さんが決めているという事が重要で主体性を大切にして思いを遂げさせる科学技術という意味でねすばらしい研究だと思います。
生きる意欲を支えるそして取り戻す技術。
皆さんどうご覧になったでしょうか。
明日もどうぞご覧下さい。
今日はどうもありがとうございました。
2014/10/07(火) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV リハビリ・ケア新時代 脳からの挑戦(1)心の声を届けたい[字][再]
脳科学の進歩で変わりつつあるリハビリやケアを伝えるシリーズ。第1回はBMI(脳と機械をつなぐ技術)を、難病ALS患者の意思伝達支援に活用する取り組みを紹介する。
詳細情報
番組内容
いま、脳科学の進歩により、障害や難病当事者の生活の質を高める新たなケアや、リハビリの可能性が広がってきている。そこで番組では「福祉×脳科学」の可能性とそこから見える課題を特集。第1回はBMI(脳と機械をつなぐ技術)を意思伝達困難なALS患者たちのコミュニケーション支援に活用しようという臨床研究を紹介する。極限状態でも希望を持ち生きがいを追求する患者自身と、支える家族、脳科学者、医師らの姿を見つめる
出演者
【出演】サイエンスコミュニケーター…内田麻理香,NHK解説委員…室山哲也,【司会】山田賢治
ジャンル :
福祉 – 障害者
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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