クローズアップ現代「“がんリハビリ”最前線〜社会復帰への挑戦〜」 2014.10.06

がん患者がみずからがんへの理解を呼びかけるイベントです。
医療の進歩によって日本のがんの生存者は500万人を超えるといわれています。
しかし命は助かったものの社会復帰がかなわず苦しむ患者も少なくありません。
その大きな要因が治療の後遺症や副作用です。
食道がんと診断されたこの男性。
手術で声を失ったうえ肩や指に障害が残り仕事を辞めざるをえませんでした。
こうした患者の声に応えようと今、広がり始めたのががんのリハビリテーションです。
後遺症や副作用の苦しみを和らげたり未然に防ぐ効果があることが分かってきました。
患者の社会復帰への切り札として期待されるがんのリハビリテーション。
その最前線からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
がん治療の成績が向上し5年生存率は6割近くに上昇しています。
その一方で、がんの治療手段手術、化学療法そして放射線治療に伴う後遺症や副作用によって患者の生活の質が大きな影響を受け家庭や社会への復帰の妨げになる場合も少なくありません。
例えば、乳がんや子宮がんでは腕や足がむくむリンパ浮腫大腸がんでは排尿や排便がうまくできなくなる機能障害胃がんの場合胃を切除することで食べ物がとりにくくなり痩せ細る栄養障害に陥ることもあります。
このほか体力の低下、けん怠感しびれや痛みなどが日常生活に支障をもたらすことが珍しくないのですけれどもがんになったのだからしかたがないと諦めている患者も多いと見られています。
今、がん患者の社会復帰を推進する方策として注目されているのががん患者へのリハビリテーションです。
がんと診断されたときから障害を予防したり機能を維持することを目的にリハビリを行い日常生活や仕事への支障を減らしていこうというものです。
国内外のリハビリの実践をもとに去年、初めてがんのリハビリテーションのガイドラインも作られました。
しかし、その重要性は医療現場や患者に十分浸透しているとはいえずまた退院後、リハビリを継続的に受けられる態勢もまだまだ、ぜい弱です。
初めにがんのリハビリテーションの最前線からご覧ください。
東京に住むこの女性は28歳のとき子宮けいがんと診断されました。
手術は無事に成功し2か月後に退院。
正社員として働いていた住宅メーカーの職場に復帰しました。
ところが半年ほどすると足がむくんで腫れ上がり激しい痛みに襲われるようになったのです。
手術でリンパ節を切除したことで起きる後遺症リンパ浮腫です。
主治医に相談したものの具体的な処置はありませんでした。
仕事も休みがちになり精神的にも追い詰められた女性は退職を余儀なくされました。
今はむくみを抑える医療用ストッキングを常に着用しなんとか日々の暮らしを続けています。
都内にある、がん専門の相談窓口です。
年間に寄せられる相談は9000件。
中でも、後遺症や副作用に悩む患者の声が年々、増えています。
肺がん、食道がんなど手術による痛みがいつまで続くのか。
抗がん剤や放射線治療による副作用で体がだるい。
命が助かったあとも続く苦しみ。
こうした声に医療機関が十分に対応できていないのが現状です。
この状況をなんとか改善したい。
今、注目されているのががんのリハビリテーションです。
この大学病院ではいち早く、がんの治療にリハビリを取り入れてきました。
がんの専門医とリハビリの医師や理学療法士などがチームを組み患者の後遺症や副作用を軽減するリハビリのプログラムを立てていきます。
先月、食道がんの手術のため入院した盛岡利彦さんです。
会社の経営に携わる盛岡さんは早く仕事に復帰したいと考えています。
盛岡さんがこの病院で驚いたのは手術の前からリハビリを行うことです。
後遺症などを未然に防ぐためのリハビリを3か月前から受けてきました。
盛岡さんの手術では食道のがんを切除し胃をのどにつなぎます。
その際、後遺症として声を出す機能や食べ物を飲み込む機能に障害が出る可能性があります。
さらに、こうした手術では肺活量が落ちるためたんをうまく吐き出せなくなることも多く肺炎などの合併症を起こし命に関わるケースもあります。
これらのリスクを未然に防ぐために行うのが肺活量など心肺機能を高めるリハビリです。
盛岡さんは手術の前から後遺症や合併症について詳しく説明を受け備えてきたことで安心できたといいます。
手術当日。
12時間に及ぶ手術は無事、成功しました。
翌日、盛岡さんは集中治療室にいるうちから術後のリハビリを開始します。
すぐに立ち上がる訓練です。
筋力の低下を防ぐうえ心肺機能を高め後遺症や合併症を防ぎます。
がんの進行や治療による副作用そして傷口の痛みなど全身状態を見極めながらリハビリを進めていきます。
手術から8日後。
こんなもんやね。
そうです、そうです。
リハビリの効果もあり飲み込む機能の低下など後遺症もなく順調な回復です。
この病院ではリハビリを導入したことで食道がんの場合命に関わる合併症の発症率はおよそ4分の1に減少しました。
ほかにも、乳がんや子宮がんのリンパ浮腫をはじめ胃がんや血液がんなどにもリハビリを導入。
症状を改善したり入院期間を短縮するなど効果が実証されています。
今のリポートに登場されました、食道がんの手術を受けられた盛岡さんですけれども、土曜日に退院されて、そして、これから徐々に職場復帰をされていくそうです。
今夜は、がんの専門医で、いち早くリハビリの導入をされてきました、都立駒込病院院長の鳶巣賢一さんをお迎えしています。
今の食道がんの前に、心肺機能を高めるための訓練をされていた盛岡さん、本当に元気で、退院ということになったわけですけれども、やっぱり効果は大きいんですか?
大きいと思います。
食道がんの手術は、その典型だと思うんですが、術前から呼吸訓練してることによって、術後の肺炎を予防して、重篤な合併症を防ぐという意味では、非常に効果があると思います。
食道がんの手術では、術後の肺炎で、実は命を落とす方が以前はかなり多かったんですね。
それが、ああいう呼吸訓練をしっかりやること、それから手術直後から、早期離床をやっておりましたが、ああいういくつかのリハビリを組み立てることで、すっかり元気に、大きなトラブルを起こさずに、無事退院できる、結果的には在院数が短くなる、そういうことが実現できていると思います。
一方で、乳がんや子宮がんの患者さんも多いわけですけれども、リンパ浮腫、なんとなく腕の稼働域が悪くなったりとか、指先が動きにくくなったりとか、苦しんでらっしゃる方、少なくないですよね。
そうだと思います。
最近の自意識も変わりましたから、足がむくむ症例というか、患者さんは、少しは減ったと思います。
でも乳がんは、まだきっちりとかくせいする患者さんもおられますから。
リンパ節を取るということですよね。
リンパ節のかくせい、このわきの下のリンパ節をすっかりきれいにする手術がまだ、なされていますから、手のむくむ患者さんは、おられると思います。
こういう患者さんも実は術直後からきちんとケアをしていけば、ある程度は防げるし、たとえなったとしても、その程度は軽く済むと思います。
ただ注意するべきは、在院日数が短くなったので、入院中にやったとしても、そういうむくみが出てくるのは、退院してから1か月、2か月たってから始まる現象ですから、ずっとその後もやり続けないといけないんですね。
でも残念ながら、そこまでしっかりカバーしきれていないという現状があると思います。
がんのリハビリテーションを行われているがんの拠点病院は8割程度ということで、拠点病院でさえ行われてない所もある今、全体として状況は、どういうふうに捉えたらいいんでしょうか。
がんのリハビリがある程度注目され始めたのは、2005年、6年ぐらいからだと思うんですね。
そして現在では、その8割ある程度、なされているといっても、恐らくごく一部の疾患、一部の手術だと思います。
ですから、まだまだ拠点病院を認定するときの必須要件にも挙げられていませんから、決して十分に、たとえ拠点病院でも、十分な体制が整っているという現状ではないと思います。
ましてや拠点病院ではないところですと。
そうですね。
まだまだ、日本全国全体のレベルということを考えると、残念ながら、十二分なカバーができているとはいい難いと思います。
がんと共に生きる人たちが増えている中で、リハビリテーションをどう広げていくのか、新たな模索も始まっています。
2年前から、外来診療でもがんのリハビリを進めている大学病院です。
がんリハビリの第一人者辻哲也医師です。
働きながら治療を続ける患者が増える中、外来での対応が重要だと考えています。
この女性は退院後にリンパ浮腫の症状が見られたため週に1回通院しリハビリを受けています。
ちゃんと関節の位置を考えて巻かないと。
この日は足のむくみを抑える圧迫療法の指導を受け15分間、運動します。
外来でリハビリを続けることでリンパ浮腫の症状が抑えられこれまでどおりの生活ができているといいます。
患者にとって大きなメリットがある外来のリハビリ。
しかし、普及には課題があると辻医師は言います。
実は現在の制度ではがんのリハビリは入院中しか保険が認められていません。
そのため辻医師は外来にも保険を適用してほしいと国に訴えています。
そこで今、辻医師が力を入れているのが在宅医療などに携わる専門家との連携です。
この日のセミナーには訪問看護師や理学療法士などおよそ50人が参加しました。
辻医師が考えている構想です。
患者が退院したあとリハビリが必要な場合は在宅医療や介護を担っているスタッフと連携。
がんリハビリの知識を学んだ理学療法士などが自宅を訪問。
地域の人材を生かしてリハビリを進めるというものです。
在宅の場合なら医療保険や介護保険を使うことができます。
がんリハビリのセミナーに参加した作業療法士の佐治暢さんです。
地域の訪問看護ステーションに所属する佐治さんは、今がん患者へのリハビリに力を入れています。
こんにちは。
この日、佐治さんが訪ねたのは、3年前食道がんの手術を受け後遺症に悩んできた男性です。
ちょっと動かしますね。
佐治さんは週に2回1時間かけて丁寧にリハビリを指導します。
ちょっとグーにして。
親指外側に。
はい、パーにして。
診断された当時建築建具の仕事をしていた男性は退院したら、すぐに働けると考えていました。
ところががんが進行していたため手術で声帯を切除。
声を失ったうえ後遺症による痛みや、腕や指に障害が残りました。
次第に動くこともつらくなり寝たきりの状態になったといいます。
ところが、佐治さんと出会い状況は変わりました。
まず体を優しくもみほぐすリハビリを受けているうちに痛みが和らぎ、少しずつ体が動くようになったといいます。
今では自分で立ってストレッチができるほどになりました。
大丈夫?体重乗っても。
もう一度、外に出てみたい。
男性は再び生きる力を取り戻しています。
退院後、痛みが強くなって、動けなくなった方が、在宅でのリハビリで、また再び、自分で立って、ストレッチもなさっていたと。
在宅って大事ですね。
大事だと思います。
リハビリは継続しないと効果、なかなか出ないと思います。
今のような短い在院日数の状況では、結局、中途半端で終わっているんですね。
かつ退院されてから悪くなることも起こるわけですから、ずっと継続する必要があります。
申し送りっていうのはされないんですか?
一応、申し送り、やります。
もちろん全部ではありませんが、がん拠点病院の要件としては、地域の医療者と、退院に向けてカンファレンスをやるようにというふうにいわれています。
実際、一部ではやっていますが、その話の中で、今起こっていない障害に向けたリハビリの話までは、到底出ないんですね。
しかもそれを出したとしても、それをやってくれる受け皿が今の状況ではないと思います、残念ながら。
受け皿が乏しい、そして外来においても、診療報酬制度の下では、位置づけられていないそうですね。
そうなんです。
今のところ、がんのリハビリテーションは入院患者に限るということになっていますから、それも一つのネックになっていると思います。
しかも、そういう状況にある背景には、医療従事者自体の十分がんのリハビリテーションが、退院後も必要であるという認識にまで至ってないですね。
医療従事者も?
実は入院の患者さんに対しても、がんのリハビリが必ずしも必要かという疑問が、まだまだ日本中にあるんだと思います。
それはなぜでしょうか?
そうですね、そもそも、がんは病気をとりあえず治す、延命を図る、そういうことに集中してきたのであって、そのがんの患者さんが、その後も社会生活に戻って、ちゃんと生きていかないといけない、そのときの障害はどうだろうと、そういうところにまで配慮する、まだまだ、そういう時代が今、やっと来たってことなんですね。
だから、これからは少しずつ進んでいくとは思います。
がんと共に生きるという時代になってきたと思うんですけども、そういった全体のがん医療の中で、リハビリテーションをどう位置づけるべきでしょうか?
そうですね、非常に大きな話になりますが、実はがんでなくても、医療そのものがそうだと思うんですが、医療従事者は今、生き続けている人たちがさまざまな課題を背負って生きていくのを応援する、応援団であろうと思うんです。
そういう意味では、実はリハビリテーションの以前に、インフォームドコンセントということばでまとめられますが、よく状況を説明して、理解していただき、そして患者さんと会話することなんですね。
その会話の中で、患者さんのお仕事、それから人生観、これから先、どういうふうな人生を過ごしていくのがご本人のご希望か、そういうのも加味しながら、さまざまな選択肢の中から治療方針を決める、そういうプロセスが前提にあると思うんです。
その治療方針の内容によっては、いろんな合併症もあります。
失うもの、残される機能、たぶん差があると思うんです。
そういう一つ一つの内容を、お互いにディスカッションしながら、一緒に考える、その中で術前から、あるいは科学療法の前からのリハビリテーションを考え説明し、手術が終わってからまた一緒にやる、そういう共同作業と申しますか、患者さんも含めたそのチーム医療の実現こそが、大事なんだと思うんです。
2014/10/06(月) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“がんリハビリ”最前線〜社会復帰への挑戦〜」[字]

治療しながら働くがん患者が増える中、注目され始めた「がんのリハビリ」。合併症や後遺症を未然に防ぎ、社会復帰を早めると期待される「リハビリ」の可能性と課題を探る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】がん・感染症センター都立駒込病院院長…鳶巣賢一,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】がん・感染症センター都立駒込病院院長…鳶巣賢一,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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