今年6月パリ郊外で開かれた武器や警察の装備を展示する世界最大規模の見本市。
戦後初めて日本のブースが設けられ世界の軍事市場に日本の技術をアピールしました。
日本の装備を輸出してほしいという各国の軍関係者からの問い合わせが相次ぎました。
日本の企業に出展を呼びかけたのは防衛省です。
(砲声)日本の武器の輸出はこれまで戦争放棄を掲げる憲法の理念の下武器輸出三原則によって原則禁止とされてきました。
今年4月政府は新たな方針防衛装備移転三原則を打ち出しました。
武器や部品などの防衛装備の輸出を紛争当事国などでなければ厳格な審査の下認める事にしたのです。
歴代政権が例外的に武器の輸出を認めてきた方法を見直したものでした。
その目的に掲げているのが国際社会への平和貢献や同盟国などとの防衛協力の強化です。
新たな方針の下具体的に戦略を立て各国との協議を進める防衛省。
その役割は様変わりしようとしています。
既に装備や技術の輸出に関して各国との具体的な検討が進められていました。
新たな原則では輸出先の国から第三国に日本の事前同意なしに移転する事も一定の条件の下認められています。
一たび海外に出ればどこの国で使われるか追跡できないケースもあるといいます。
知らないうちに自社の製品が紛争地域で使われる事はないか戸惑う企業も出てきています。
政府が武器輸出三原則を見直してから6か月。
今日本の防衛装備を巡って何が起きているのか。
現場からの報告です。
今年6月フランスのパリを一人の防衛官僚が訪れていました。
各国の武器や警察向けの装備などを集めた世界最大規模の見本市ユーロサトリです。
58の国と地域から1,500社が出展。
装甲車や無人機など最新の武器や装備が展示されていました。
会場を訪れた防衛省の堀地課長。
目的は日本の防衛装備を世界にアピールする事でした。
防衛省の呼びかけで戦後初めて日本から民間企業が参加し日本のブースを設けたのです。
いいです。
すばらしい。
ブースには自衛隊の装備を作ってきた大手企業など合わせて12社が出展しました。
地雷を処理する重機や装甲車の模型などが展示されていました。
自衛隊向けの市場が伸び悩む中経済界は武器輸出三原則の見直しを政府に求めてきました。
堀地課長のもう一つの目的は最新の装備を展示した各国のブースの視察でした。
戦後一度も戦闘を行っていない日本とは異なり各国は実際に装備を戦場で使ってきました。
やっぱりこの大きさが…。
日本の技術開発に役立つ国はどこか。
堀地課長が足を止めたのがイスラエルのブースでした。
イスラエルは世界有数の軍用無人機の製造国です。
堀地課長が関心を持ったイスラエルの無人機「ヘロン」。
数々の軍事作戦に投入されてきました。
防衛省が新たに動き出した背景には今年4月武器輸出三原則に代わり防衛装備移転三原則が閣議決定された事があります。
新たな三原則の下では企業が武器の輸出を申請した場合NSC国家安全保障会議が厳格に審査する事になっています。
NSCには防衛省や外務省経済産業省などの大臣や官僚が参加します。
相手国との関係強化など日本の安全保障に役立つ場合には許可されます。
紛争当事国などへの輸出は禁止されているため不許可となります。
防衛省は審査や運用において重要な役割を果たす事になったのです。
新たな三原則の下各国との防衛協力を強化している防衛省。
その戦略を立てているのが堀地課長が責任者を務める装備政策課です。
これまでは国内の業務が中心でした。
各国と協議を行う事になった国際関係業務班です。
アジアやヨーロッパなど地域ごとの担当が新たに決められました。
現在13の国や地域と防衛装備の輸出などについて協議を進めています。
今重要視しているのが東南アジア諸国です。
日本の防衛技術を提供する事で安全保障関係を深めようとしています。
日本が初めてブースを出した国際的な武器見本市。
堀地課長の最大の目的は日本の企業とフランスの軍事企業の間を国が橋渡しする事でした。
向かったのは会場から離れた場所にある特別な会議室。
日本とフランスの企業関係者以外立ち入りが禁止されています。
ここでの撮影は認められませんでした。
8時間にわたった両国の企業の会議。
互いの技術について情報を交換していました。
無人潜水艇やレーダー航空機などテーマは11に上ったといいます。
(取材者)表に出せるものってあるんでしたっけ?フランスと具体的に何を…。
この日の夜。
出展した企業の懇親会が開かれ日本から防衛副大臣が駆けつけました。
政府は防衛装備を通じて各国との関係強化を推し進める新たな戦略を打ち出しています。
(武田)このように考えている次第であります。
乾杯。
(一同)乾杯。
どうもありがとうございます。
翌日堀地課長が会談に臨んだのはフランス国防省の幹部でした。
政府レベルでも今後技術の輸出や開発に向けた協議を本格的に進めていく事を確認するためです。
数か月に1度のペースで定期的に協議を重ねる事になったといいます。
そういう意味では…今年3月まで原則武器の輸出を禁止してきた日本。
武器輸出三原則が示されたのは日本が輸出大国への道を歩み始めていた昭和42年の事でした。
共産圏や国連で輸出が禁止されている国そして紛争当事国となるおそれがある国への武器の輸出は禁止されました。
それを途中から用途を変更して外国へ出す。
こういうものでない事を申し上げております。
武器輸出三原則のきっかけとなったのは日本のロケット技術の軍事転用が問題となった事でした。
日本の宇宙開発の第一人者の一人です。
秋葉さんが開発に携わった大気観測のロケット。
昭和30年代後半海外にも輸出されました。
しかし輸出先のユーゴスラビアで軍事ミサイルに転用されていたのです。
更にインドネシアでも武器転用が懸念され国会で大きな問題となりました。
秋葉さんがロケット研究に携わったのは戦後間もない頃でした。
日本人だけで310万人の命が奪われた先の大戦。
武器の輸出は認めないという思いの背景には社会に刻まれていた戦争の記憶があったと言います。
その後三原則は更に厳格化されます。
戦争放棄を掲げる憲法の理念の下国際紛争を助長しないとした日本。
武器輸出を原則禁止としたのです。
日本が紛争に加担しないよう掲げられた武器輸出三原則。
外交上重大な局面で何度も輸出に歯止めをかけていた事が明らかになりました。
今回NHKが外務省から情報公開請求で得た極秘電報。
昭和54年11月イランに駐在する大使から外務大臣に送られたものです。
イラン政府が日本に武器の輸出を求めてきた事が記されていました。
「イランの外務次官より従来アメリカより輸入していた電子部品タイヤ等を極秘に日本から緊急輸入したいとの要請があった」。
「これは軍用機のタイヤである」。
「政府部内で早急に日本側の対処振りを御検討いただきたい」。
こうした要請が来た背景にはイランが戦闘機の部品をアメリカから購入できなくなった事にあります。
当時長年親米国家だったイランで革命が勃発。
アメリカを敵視する体制に転換したからです。
原油の13%をイランに依存していた日本。
アメリカとの関係上難しい対応を迫られました。
この時政府はどう判断したのか。
当時の通商産業省で武器の輸出規制に当たっていた畠山襄さん78歳です。
(取材者)外務省から入手した文書です。
(畠山)そうですか。
どうもありがとうございます。
情勢が不安定な中東地域から公式な外交ルートで打診された武器の輸出。
「一度認めてしまえば歯止めがかからなくなる」。
畠山さんの意見を基に政府はイランへの輸出を認めませんでした。
その2年後畠山さんが鈴木総理大臣の秘書官となっていた時アメリカからも輸出の要請を受けます。
当時装備の輸出は安保条約を結ぶアメリカにさえも認めていませんでした。
海外に輸出する事で紛争に加担するおそれもあるとしてこの時認めなかったといいます。
政府が新たな三原則を示してから3か月がたった7月防衛省では輸出に向けた動きが本格的に始まっていました。
この日防衛装備の輸出第1号がNSCで決まった事を陸海空の自衛隊幹部に説明しました。
7月の18日に…パトリオットミサイルは上空の戦闘機などを撃ち落とすためにアメリカが開発したミサイルです。
今回の輸出はアメリカとの同盟関係を更に強固にするためのものでした。
輸出が決まったのはジャイロと呼ばれる部品です。
全長僅か6cm。
飛行中の姿勢を正確に計測します。
ミサイルが目標を追尾するために欠かせないとしてアメリカから輸出を求められたのです。
新たな三原則の下今回の部品はアメリカから更に第三国に輸出される事が想定されています。
日本から輸出するジャイロはアメリカでミサイルに組み込まれます。
完成したミサイルはアメリカとの関係が深い中東のカタールへ更に輸出される見通しです。
こうした第三国への輸出は紛争当事国などへの流出に歯止めをかけるため日本の事前同意が原則義務づけられています。
しかし今回の取り引きで日本は事前同意を求めていません。
新たな三原則では同盟国などで適正な管理が確保される場合は必要ないとしているからです。
アメリカ国務省の日本部長を務めてきたケビン・メア氏です。
長年日本に武器輸出の緩和を求めてきました。
今はコンサルタントとして日米の政府と企業の橋渡し役をしています。
日本がミサイルの部品の輸出を決めた事を高く評価しています。
メア氏は日本の部品を組み込んだパトリオットミサイルはカタール以外の第三国にも輸出される可能性があると言います。
政府が進める防衛装備の輸出。
装備の生産に関わっている企業には戸惑いの声も上がっています。
長野県にある部品メーカーです。
従業員は30人。
モーターやセンサーに使われるコイルと呼ばれる部品を製造しています。
防衛省と取り引きがあるメーカーにも下請けとして部品を納入してきました。
(発射音)この会社の製品は人工衛星を打ち上げる最新ロケットの部品として採用されています。
(歓声)万歳!万歳!社長の小林延行さんです。
これだよこれ。
三原則が見直された今出荷した部品が知らないうちに紛争地域で使われる事はないか心配しています。
下請けの立場では最終的にどう使われるか把握しきれないからです。
この日小林社長は社員を集めて会社として今後どう対応すべきか意見を聞きました。
会社としては海外の軍に関わる疑いがある場合には取り引きしない事を確認しました。
海外に広く流通する可能性が出てきた日本の防衛装備。
防衛省は輸出先でも適正に管理されるよう十分に確認するとしています。
日本の企業が作る部品が海外の戦闘行為に使われるかもしれないという現実。
防衛省と取り引きしているほかの企業はどう受け止めているのでしょうか。
今年7月。
自衛隊の装備を作っている企業の幹部と自衛隊のOBなど関係者が集まり新たな三原則について意見を交わしていました。
経済界はこれまで三原則の見直しを求めてきました。
NHKが入手した音声記録には見直しによるメリットがある一方で企業イメージへのリスクを懸念する声も上がっていました。
一方三原則の及ばないところで紛争地域に流出するリスクも出てきています。
それを懸念しながらも既に輸出に乗り出している企業もあります。
従業員20人のレンズメーカーです。
匿名を条件に取材に応じました。
10枚以上のレンズを手作業で組み合わせ高い精度の望遠レンズを製造しています。
10km以上先も赤外線フィルターによって鮮明に捉える事ができます。
レンズは三原則の対象ではない民生品として出荷しています。
しかし軍や警察と取り引きする海外の企業からの受注も相次いでいると言います。
この会社のレンズは輸出されたあと一体どこでどのように使われているのか。
追跡する事にしました。
軍事企業と取り引きをしている仲介業者…日本のレンズメーカー4社の製品を扱っています。
案内されたのは自宅の地下室でした。
ここに届いたばかりのレンズがありました。
段ボールに入っていたのは30km先まで見える超高性能のレンズでした。
軍事企業からの注文が絶えないと言います。
日本製のレンズは無人機に搭載されるカメラなどさまざまな用途で使われていると言います。
十数km先の人の動きまで見える高性能のレンズを作る技術は日本が最先端だとされているからです。
日本のレンズはウォルク氏から別の会社に送られそこから各国の軍にも流れていると言います。
軍事に関わる会社とは秘密を守る契約を結んでいるため詳細は明らかにできないと言います。
日本のレンズメーカーでは夏以降海外との取り引きが更に増えていました。
今力を入れているのが中国市場の開拓です。
人民解放軍との関わりが懸念される仲介業者もいましたが実態は把握できないと言います。
水面下で進んでいた軍事転用も可能な民間技術の海外への流出。
政府は新たな三原則の中でこうした技術の管理も強化する考えを示しています。
防衛装備移転三原則の下政策の中心となって動いてきた防衛省の装備政策課。
来年度には新たに発足する官庁の中核を担う事になっています。
1,800人が配置される予定です。
各国と防衛装備を通じた関係強化を図っていくとしています。
戦後日本が掲げてきた武器輸出三原則の見直しから6か月。
防衛装備を巡り今日本は新たなステージに入ろうとしています。
2014/10/05(日) 21:00〜21:49
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「ドキュメント“武器輸出” 防衛装備移転の現場から」[字]
国際情勢が厳しさを増す中、日本の安全保障政策は転換点を迎えている。4月、政府は新たに防衛装備移転三原則を閣議決定した。今現場で何が起きているのか、最前線に迫る。
詳細情報
番組内容
国際情勢が厳しさを増す中、日本の安全保障政策は転換点を迎えている。4月、政府は新たに防衛装備移転三原則を閣議決定した。これまで例外とされてきた防衛装備品の輸出や各国との共同開発が一定の条件のもと認められることになった。6月には武器や警察向けの装備を集めた世界最大規模の国際見本市に初めて日本ブースを設けるなど新たな動きが始まっている。今、現場で何が起きているのか、最前線に迫る。
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