標高1000メートルを超える長野市郊外の飯綱高原。
自然豊かなこの場所に1軒のパン屋さんがあります。
店の名前はオーストリアで修業をした夫婦が日本では珍しいライ麦パンを作っています。
店主の鈴木寛さんは妻と2人で信州に移り住み4年前に店を開きました。
薪でパンを焼く事に強いこだわりを持っています。
やっぱり…。
この人ご飯党なんですよ。
ハハ…。
だからなんでまた?って思ったんですけどでもそんなに…すごくびっくりしたとか絶対反対とか全然思わなくって。
アウトドアが趣味でもともとたき火が好きだった鈴木さん。
地産地消と里山の再生を目指してたどり着いたのがこの薪窯パン。
今週の『日本!食紀行』は森を思い人と繋がる薪窯のパン屋さんに学びます。
薪窯でパンを焼いているベッカライ麦星は長野市郊外の飯綱高原に店を構えています。
店主の鈴木寛さんは静岡県出身の44歳。
一念発起してパン屋を志したのは7年前の事でした。
大学卒業後自然保護団体で編集の仕事をしていた鈴木さんは各地で環境保全に取り組む人々に出会い影響を受けていました。
やがて転職をきっかけに信州の最北端の集落に移住。
過疎と高齢化で荒れていく畑や森を目の当たりにした時自分たちに出来る事は何かと考え始めたのです。
今日本はね輸入材が入ってきてしまって結局山の材が使われないって状況があって…。
材として使えないんだったら…。
パンを通して…。
趣味で始めていたパン作りを本格的な仕事にするために鈴木さん夫妻はオーストリアへ渡りました。
半年間チロル地方でパン職人の修業を積み帰国後再び信州へ戻ったのです。
窯は耐火レンガなどを積み上げて自分で作りました。
熱量が高いため電気オーブンの半分ほどの20〜30分で焼き上がります。
薪窯の周りはじんわりと温かくたき火のエネルギーがもたらした香ばしい香りが立ち込めます。
(パンがはじける音)
(佳子さん)ベルク…チャバタ4。
お店は正午に開店します。
焼き上がったばかりのパンを棚に並べ準備は完了。
よいしょ…。
じゃあ開店しまーす。
頑張りましょう。
よいしょ。
開店早々街から上がってきた常連さんが訪れました。
(お客さん)それだけじゃあ…。
(佳子さん)よかったら…ひまわりとチャバタと…切りました。
ご一緒にどうぞ。
(お客さん)切ってもらったよ。
(お客さん)噛む時の…。
うん。
カウンターでの販売だけでなくカフェの営業もしています。
おすすめは地元産の野菜を使ったサンドイッチとスープのセット。
この日は旬のアスパラをポタージュにしました。
ライ麦パンは栄養価が高くまろやかな酸味が魅力ですが薪窯で焼くとさらにふんわりうまみがぎゅっと詰まっています。
パンは8種類ありライ麦の配合が少しずつ異なります。
ナッツやドライフルーツが入ったものが人気ですが看板商品はこちらのチロル。
オーストリアでライ麦パン本来のおいしさを実感したという思い出のパンです。
酵母も毎日ライ麦から起こします。
この出来栄えがパンの味を左右します。
(鈴木さん)うちは酵母を温かく育てていくっていうオーストリアのやり方なので同じ酸味でも乳酸菌が増えていくんですよ。
だからよく皆さん食べてなんかヨーグルトみたいとかチーズみたいって言うのは本当にまさにそのとおりでそういうオーストリアでは品質の安定したパンを日々変わらずに提供する事が大切だと教わりました。
そのため扱いの難しい天然酵母だけに頼るのではなく生地の発酵にはイーストも併用しています。
それよりも鈴木さんがこだわっているのは信頼出来る国産の粉を使う事。
小麦だけでなく手に入りにくいライ麦も北海道産のものを使っています。
そして今年は地元の飯綱高原でこのライ麦を育ててみようと栽培に挑戦しています。
知り合いの農家に借りている畑にやってきました。
(佳子さん)やっぱり伸びてる。
(則子さん)伸びてるね。
この間より…。
(佳子さん)すごい。
ちゃんと出たね。
ねえ。
(鈴木さん)うん。
やあ本当に全部雪で覆われちゃったのでちゃんと芽が出てくれるとは思わなかったんですけど無事に出てくれました。
去年の11月にまいたライ麦です。
芽を出す前に厳しい冬を迎えましたが雪解けと同時に畑を貸してくれた藤原さんから嬉しい知らせが届きました。
今年は冬が…人間もつらかったからその分なんか…じわーっと力強さみたいなのが伝わってきたというか…。
(鈴木さん)僕らがやってるのはまね事なので…やっぱパン屋はパンを焼いてね農家の方がきちんと作ってくれるようになったらいいなと思って…。
寒冷地でも育つというライ麦がこの地域の遊休農地で作られるようになる事を鈴木さんは願っています。
飯綱高原の隣に位置するパンを焼く薪はここから調達しています。
かつて盛んだった林業は衰退してしまいましたが今は木材をエネルギーとして利用してもらおうと地元の人が薪ステーションを運営しています。
それが今は本当に切っても…。
鬼無里の皆さんに僕は知り合ってすごく感動したのは自分たちのふるさとを諦めていないっていうかね本当俺たちが生きている…あと10年は頑張れるって言ってこの10年のうちに取り戻せるところまでねやっぱりやりたいと。
人の手が入らず荒れていく里山の保全に少しでも役立ちたいと鈴木さんはこの薪を使い続けているのです。
森の奥の木を伐採した場所へと案内してもらいました。
ここで切り出したナラの木がパンを焼く薪になったのです。
(鈴木さん)ここ切ってもう何年ぐらい…?
(米山さん)去年と今年休んでるんでこんなに藪になっちゃったけどね。
2年…2年。
2年?
(女性)これはナラ。
(米山さん)ここにある…こんなに大きいんですよ。
(鈴木さん)こんな大きい…。
(佳子さん)ね大きな木だね本当にうん。
これでパンを焼いてるんだと思ったらなんか泣けちゃったっていう…。
なんかその…燃料のもとを見る機会っていうのはないじゃないですか。
灯油とか電気とかどこから来てるってわかんないけどここから来たのかっていう…。
それをこんな奥から運び出してくれてまた細かくしてくれて届けてもらっているっていうそのありがたさというか…。
それでまあちょっと感動したっていう…。
厨房には「息」と書かれたメモが貼ってあります。
書いてみてハッとしたのが自らの心なんですよ。
だから自分が焦っている時とか息してないし…。
それで自戒の念を込めてこれ息って書いた…。
薪窯は初めに500度まで熱します。
置き火を取り出し窯の余熱が300度から250度の頃を見計らって8種類を順番に焼いていきます。
温度管理は自然任せ。
時間との戦いです。
1人で仕込んで作れるのは一日にせいぜい70個。
生地の発酵時間を計算して朝の5時から作業を進め正午の開店に間に合わせます。
パンが焼きあがった瞬間はまさに至福の時。
薪のエネルギーを使い自らの手で生み出したライ麦パンをおいしいと言ってもらえる事がやはり何よりの喜びです。
(佳子さん)これをまた半分に切っておいたほうがいい…?
(お客さん)そのまんまで。
(佳子さん)いいですか?はい。
(お客さん)いつも気になってたんですけどお休みで…。
ありがとうございます。
日曜でしたかね。
(お客さん)日曜でした。
はい1000円お預かりです。
この日鈴木さんは冬の間にたまった薪窯の炭を運び出していました。
はい。
(佐藤さん)はい。
引き取りに来たのは隣の戸隠地区で農業をしている佐藤隆音さんです。
毎年春にこの炭を畑に入れています。
ってのが一番…。
飯縄山と戸隠連峰を一望する佐藤さんの畑にやってきました。
(鈴木さん)隆音さんこれたっぷり入れたほうがいいんですか?森の木はおいしいパンを焼きそして土に戻っていきます。
(鈴木さん)えーすごい。
(佳子さん)すごいな。
すごいねこれ。
こんな伸びてると思わなかった。
6月。
久しぶりにライ麦畑の様子を見に来ました。
青々とした背丈の高いライ麦が花を咲かせています。
やっぱりこれはこれでパンを作らないといけないですね。
ここまで大きくなっちゃったらちゃんと食べないと駄目だ。
すごい力ですよね雑草も…。
ライ麦ももちろんだけど…。
いやあ…。
お百姓さんの苦労が身に染みますね。
よいしょ。
夏。
薪窯の炭を入れた佐藤さんの畑も青々としてきました。
豆類を中心に10種類以上の野菜が育っています。
(佐藤さん)これが金時です。
こんないいのがなってるの。
(佐藤さん)ねえ嬉しいよ。
いっぱい出来た。
(鈴木さん)本当だ。
(佐藤さん)うんほら。
ねえ。
炭の力で土壌改良になる。
(鈴木さん)うーん…。
実感ありますか?変わるなって。
うん変わる。
要は…。
(鈴木さん)すごいな。
(佳子さん)すごいよね。
(佐藤さん)ないようだけどあるんですよ。
薪窯の炭が豊かな実りをもたらしてくれました。
採りましたね。
(佐藤さん)ああ結構な量になったね。
(佳子さん)すごい量ですよ。
へえ〜濃い色になるんだ。
(佐藤さん)その皮がねさやがね枯れてくるのよ。
(鈴木さん)抜いちゃったほうがいい。
抜いちゃったほうが…。
店を開いて4年。
残念な事になりました。
店舗を貸してくれている大家さんの都合で店を閉める事になったのです。
しかし諦めたわけではありません。
どこか別の場所で薪窯のパン屋を必ず再開するつもりです。
7月下旬。
ライ麦は黄金色に色づき刈り取りの時を迎えました。
去年の秋芽を出す前に雪が降り積もり発芽自体が心配されましたが9か月がかりでなんとかここまで成長してくれました。
本当…芽が出て本当に実るんだなっていうのはこうして束で持つと実感しますね。
あの…でも雪が残ってる時の感動ってすごかったですよね。
芽が出た時。
それがこんな…なるんですね。
初めての麦刈り。
収穫の喜びを噛み締めながら自分たちの手で丁寧に刈り取っていきます。
(藤原さん)倒れない?大丈夫?畑を貸してくれた藤原さんが様子を見に来ました。
重力かかったら倒れる?倒れそうもない?
(藤原さん)なんたって
(藤原さん)まあしかしよく出てきたよ。
うん本当に。
植物は強い。
(2人の笑い声)暑い中数日かけて広さ3アールを刈り取りました。
天日に干して脱穀のタイミングを待ちます。
店を閉めてから2か月が経ちました。
この日も食卓には藤原さんや佐藤さんが作った野菜が並びます。
(佳子さん)今日は秋なので炊き込みご飯にしました。
パン屋だけどパンじゃありません。
(佳子さん)じゃいただきます。
(佐藤さん)いただきます。
焼き立てのパンの香りとお客さんの笑顔が恋しい日々ですが2人は焦る事なく納得のいく移転先を探そうと決めています。
不服申し立てはなさそうだね。
ない。
自分たちが本当に何を目的としてパン屋を始めたのかって事をもう一度見失わないようにやらないといけないなって事を思い出した時間ですよね。
やっぱりパン屋をやってると日々の仕込みとか製造とか販売に追われちゃって…なんて言うんですか?日々過ごすのが精一杯な感じになっちゃってたので…。
とりあえず走ってるっていう感じだったからね。
立ち止まれたのはいいチャンスかなという事はよく…今でも話すね。
うん。
刈り取りから4週間。
不順な天候に泣かされましたがライ麦の脱穀が始まりました。
どのぐらい収穫出来るのか期待が高まります。
脱穀したライ麦は全部で20キロほどありました。
しかし8月の長雨は思いのほか大きな影響を及ぼしパンを作れる品質には届きませんでした。
安心して食べられる作物を安定的に作る事の難しさを身をもって実感した夏でした。
(鈴木さん)目の前で麦が食べれないっていうこの悔しさというかね。
それはもう本当に悲しいけれどじゃあこれで無理だねって言ってやめようとは思わないので…。
なんかこう出来る方法を探したいなと思いますね。
森を思い人と繋がり薪窯でパンを焼く。
鈴木さんの地産地消への挑戦はこれからも続きます。
次回の『日本!食紀行』は宮城県南三陸町。
震災から復活を遂げたレストランに学びます。
2014/10/05(日) 06:00〜06:30
ABCテレビ1
日本!食紀行[字]
大自然に囲まれた長野県・飯綱高原。ここに薪窯で焼く、こだわりのパン屋さんがあります。香ばしくふっくら焼かれたライ麦パンが大人気!その秘密に迫ります。
詳細情報
◇番組内容
信州に移住してきた夫婦が作るのは、ヨーロッパで主食として食べられているライ麦パン。薪を焚き、その余熱で焼きあげたパンは香ばしく、中はふっくら、ライ麦酵母特有の旨味が詰まっています。一度食べたらやみつきになるリピーターも。店主がこの道を志したのは、過疎や高齢化によって荒廃していく里山や、増え続ける遊休農地を何とかしたいと思ったことがきっかけでした。
◇番組内容2
自分の理想を実現するために東京やオーストリアでパン職人の修行をした店主は、再び信州に戻り、薪窯を自作。国産のライ麦を使うことにこだわり、日々パンを焼いています。地元の間伐材を燃料としてパンを焼き、日本では珍しいライ麦の地産地消を目指して奮闘する日々を追います。
◇番組内容3
日本全国各地の「食」を通して、地域の歴史や文化、人々の英知や営みを学び、温かいコミュニティーなどを四季折々の美しい風景とともに描き出す教育ドキュメンタリー番組。
◇ナレーション
牛山美耶子(信越放送アナウンサー)
◇音楽
エンディングテーマ曲
Bom Dia ! / 柏木広樹
◇制作
企画:民間放送教育協会
制作著作:信越放送
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.minkyo.or.jp/
この番組は、朝日放送の『青少年に見てもらいたい番組』に指定されています。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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