その町並みは旧市街を中心に世界遺産に登録されています。
どうです?ぶらりと散歩したくなりますね。
落ち着いた佇まいに古都の風格。
そんなリヨンのもうひとつの顔が…。
三ツ星レストランから大衆食堂まで1,000軒以上の店が競い合っています。
オススメはなんといっても…。
いわゆるハラミですね。
あぁ待ってました。
これですよこれ!おやあなたは絵画警察のカントナ巡査じゃないですか?ということは…。
この街に事件の予感がします。
おそらく舞台はここ。
リヨン美術館作者は踊り子の華麗な舞台を描きその稽古風景まで追いかけ…。
市井に生きる人々の仕事や動作まで鮮やかに描いた画家です。
ところが今日の一枚はちょっと様子が違うのです。
華やかな舞台の情景なのに。
色はなんだかぼやけてところどころに引っかいたような傷まで。
これはひょっとして未完成?非常にもろく傷つきやすいためふだんは厳重に温度管理された倉庫に保管されています。
今回は『美の巨人たち』のために特別に。
今日の一枚。
縦37センチ横26センチの小さな作品です。
タイトルはザンバサドゥールというカフェで行われている夜のコンサートという意味です。
舞台の上には4人の女性たち。
淡く柔らかな色彩がちりばめられています。
喝采に応える赤いドレスの女性歌手が今夜の主役でしょう。
画面の上部には緑の枝葉が生い茂っています。
どうやら屋外のようです。
客席へと目を転じてみると演奏が終わった直後なのでしょうか?シャレた帽子を被った淑女とシルクハットの紳士が何やら談笑しています。
2人の女性客も舞台から視線を外しうつむきかげん。
その前に座るのはオーケストラの楽団員たちです。
演奏の合間の小休止といった感じ。
コントラバスの長い棹が女性歌手の衣装にかぶるように伸びています。
主役の歌手はまだ客席に応えています。
コンサートの余韻が残るカフェの情景をみごとに描きあげた一枚。
この作品はそれまでのフランス絵画にはない大胆な構図で描かれています。
ドガはなぜこの一瞬を捉えたのか。
他の画家では気づくことができない瞬間です。
この一枚にはさまざまな謎が隠されているようです。
彼らに真相を探ってもらいましょうか。
う〜ん!んっ!今料理を堪能してるところなの。
邪魔しないで。
えっ?誰?アズナブール警部は病気療養中。
キリー警部は研修旅行中。
で私が今回担当のえっ!?警部ってそんなにいたの?ナントカ巡査いやいやカントナ巡査食事中すまない。
あぁいえいえ自分はただ今有給休暇中であります。
そのようだな。
で事件だ。
えっ!?パリへ戻れっていうんですか?キミは実に運がよい。
舞台はここリヨンだ。
なんてこった…。
あらゆる名画が画家のダイイングメッセージならばその謎を解くのが絵画警察。
今回はパリ警察リヨン出張編。
ベンゼマ警部どこです?どこに隠れてるんですか?ここですよ!そんなところにいたんですか!どうです何か気づきませんか?えっ?舞台の上で女性歌手が歌っている。
それを聴く観客。
何の事件性も感じませんが。
ドガは実に巧妙な画家です。
もっと注意深く見ないと。
ほら右端と左端の観客。
途中で切れていませんか?右上の照明も半分しか描かれていませんよ。
でも警部それって別に普通のことじゃないですか?そうですか?ではこの丸いのは何でしょうね?コントラバスはどうです?はぁ何か邪魔しているような感じもしますね。
うん色の塗り方が全体的にムラがあるのはなぜなんでしょう?う〜んところどころにある引っかき傷のようなものは何ですかね?警部謎だらけですね。
う〜んこれはやっかいな事件になりそうだ。
カントナ巡査まいりますぞ。
えっどこへ?19世紀末のパリですよ!パリッと!エドガー・ドガは独自の技法を編み出す実験的な画家でした。
今日の一枚にはどんな秘密があるのか?その斬新な技法には画家のある意図が隠されていたのです。
いったいどんな?更にこの作品を読み解いていくと意外な人物が浮かび上がってきました。
進化論で知られる生物学者…。
いったいどういうことなのか?今日の一枚はエドガー・ドガが描いた夜のカフェのむせ返るような情景です。
実はこの作品の下がきはこんな感じでした。
わかりますか?キャンバスではなく紙を使っており実に細かく描かれています。
そこに画家の驚くべき狙いが隠されていたのです。
若い頃のドガは肖像画を多く描いていました。
でも普通の肖像画ではありません。
例えばこの作品。
家族の状況を象徴するようにその視線はバラバラです。
心ここにあらずといった母親。
娘は不安げにこちらを見つめています。
そして途方に暮れる父親。
ドガの肖像画は人物の内面までをも描き出してしまうのです。
彼の画風が大きく変わり出すのは30代半ばの頃。
舞台の踊り子ではなく手前のオーケストラの団員に焦点を当て客席から見ているような構図で描く斬新さ。
真下から見上げるような視点で描いた曲芸師の躍動感。
こんなにも変わりますかね?いったいドガに何があったんでしょうね?警部聞き込みですね。
うむ。
こちら絵画警察。
ちょっとお話を。
1870年頃ドガは日本の浮世絵と出会い大きな衝撃を受けました。
特にその大胆な構図に魅了されたのです。
なかでもドガは浮世絵の視覚効果にひかれました。
例えば北斎のこの船。
あえて途中で切り取ることによりその大きさを見る者に想像させています。
広重のこの絵では手前に人物の一部を大きく描くことで奥の風景へと視線を誘導しています。
今日の一枚も浮世絵に学んだ視覚効果を取り入れた独特な構図で描かれているのです。
レ・ザンバサドゥールはかつてシャンゼリゼ通りにあった歌や演奏を楽しめるカフェでした。
テラスの舞台で行われるコンサートを目当てにドガもたびたび訪れていたといいます。
手前から客席オーケストラ・ピット舞台へと続く構図がまるで客席から舞台を見上げているような臨場感を生み出しています。
画面両端の客や楽団員は途中で切り取られ舞台を照らす照明も半分しか描かれていません。
それが画面の外にも広がる会場の広さを感じさせるのです。
そしてコントラバスの長い棹。
女性歌手に少し重ねることでそのすべてがドガの意図。
なんか会場の熱気まで伝わってきますね。
すべてが計算し尽くされています。
まったく恐ろしい画家です。
ところでカントナ巡査気づきましたか?え…なんですか?この作品が油絵の具で描かれていないということにですよ。
そうこの絵は油彩画ではなく版画の一種モノタイプで刷ったあとその上からパステルで描いているのです。
その技法をフランス国立美術学校のデュラン准教授に実演していただきました。
まず原版となるそれを紙に転写したものがモノタイプです。
これが作品の下がき。
ではなぜドガはモノタイプ版画を用いたのでしょうか…。
まずモノタイプは修正しやすい技法だということです。
失敗したらすぐにインクで埋めればいいのですから。
そして白と黒のコントラストがはっきり表現されます。
ですから暗がりの観客席と照明に照らされた舞台という明暗がはっきりしている場面を表現するためにドガはモノタイプを用いたのです。
ドガはその下がきにパステルで描いていきます。
パステルは色を重ねていくとかすれた間から下の層の色がところどころ顔を出し独特な色彩を生み出します。
暗がりに浮かぶ観客や楽団員の顔には濃淡の違う黒をうっすらと重ねています。
壇上の女性たちの体や衣装には白や黒を重ねることで照明で白く飛んでしまっている部分と光が当たらない影の部分を描き分けているのです。
パステルだからこそ可能で繊細な表現。
警部ところどころにあるひっかき傷はなんでしょう?う〜んこれはおそらくモノタイプの版画をする際にドガがあえてつけたものでしょう。
ドガはモノタイプの原版を作る際さまざまな道具を使っています。
それぞれの筆跡の特徴を利用して衣装のシワや陰影そして光のきらめきまでも表現するためだったのです。
実に手が込んでいますね警部。
う〜む…何かがおかしい。
何がですか?女性歌手の顔を見てください。
は?警部いったい何が言いたいんですか?そうか!ドガは単に夜のカフェの情景を描きたかったわけではなかったのですよ!さあこれは大変なことになってきましたよ。
え〜?ドガが本当に描きたかったものとはいったい何か?ヒントは舞台の上の女性たち。
その光の当たりかた。
エドガー・ドガという画家は人物のフォルムを追求するために解剖学や生物学にまで興味を抱いていた男です。
とりわけ大きな刺激を受けたのがダーウィンの人と動物の感情表現を比較した論文でした。
ドガはダーウィンの論文を読んで例えばカフェで歌う女性歌手を描いた一枚。
大きく開いた口に暗く鋭い目つき。
歌手というより雄叫びをあげる動物のような野性的な一瞬を表現しています。
では今日の一枚の歌手はどう見えるのか?ベンゼマ警部何をそんなに考え込んでるんですか?女性歌手の顔ですよ。
彼女には失礼だがどう考えても美しく見えないのですよ。
むしろわざと美しく描いていない。
ドガは踊り子や歌手など舞台で演じる女性たちを多く描いています。
でも彼の興味はその美しさにはなかったのです。
いったいなぜか?謎を解くカギは下からの光。
ふだん我々は上から照らされた光のもとで生活していますね。
太陽の光照明の明かり。
確かに全部上からですね。
女性歌手に明かりが当たっている部分をよ〜く見てください。
下あごと二の腕…。
あっ!ふだん影になっている部分に光が当たっている!そうです!ドガはそこに魅了されたのですよ。
下からの光で照らされたことで浮かび上がった女性歌手の思いがけない表情。
そこにドガは独自の美を見い出したのです。
更に…。
カントナ巡査。
女性歌手の背後に5つの明かりが描かれていますね。
何のために描かれていると思いますか?えっ?そこに照明があったからじゃ…。
そこから右のほうへ辿ってみてください。
右って…えっ?何があるっていうんですか?あれ?彼女の左手が途中で消えてる!なんで?ドガは女性歌手が観客の喝采に応えるその動作の途中を描きとめたのですよ。
そうだったのか…。
ドガが描きたかったのは下からの照明で照らされた女性歌手の生々しい姿です。
それはドガという画家は女性が見せる野性的な瞬間思いがけない美を追い求めたのかもしれません。
街の女がふと気を抜いたとき。
湯浴みする女の無防備な姿。
スポットライトを浴びる歌い手が垣間見せた野性的な美。
まるで動物の感情表現そのままに。
ドガはその姿に神秘を感じカメラで写し取るように描きとめたのです。
モノタイプとパステルを併用するという斬新な技法を使って。
大胆な視点と構図で切り取ったのです。
思いがけなく発見した美を永遠のものにするために。
う〜ん!これはうまい。
警部ドガの奥さんってどんな人だったんですか?うん?彼は生涯独身でしたよ。
えっ!?あんなに女性を描いてるのに?女性ばかり描いていたからでしょうねきっと。
えっ…どういうことですか?うん?これ食べないんですか?あっちょっ…。
それ最後に食べようと思っ…。
もう…お勘定頼みますよ。
リヨンへ行ったらぜひ訪ねてみてください。
運がよければ見られるかもしれません。
美術館秘蔵の一枚を。
エドガー・ドガ作『カフェ・コンセールレ・ザンバサドゥールにて』。
思いがけない野性の美。
パステルの夜は更けて。
ここにある一本の渋い地味と言ったほうがいいように思える帯。
2014/10/04(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち エドガー・ドガ『カフェ・コンセール レ・ザンバサドゥールにて』[字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の一枚はドガ作『カフェ・コンセール レ・ザンバサドゥールにて』
詳細情報
番組内容
今日の一枚は、リヨン美術館秘蔵のエドガー・ドガ作『カフェ・コンセール レ・ザンバサドゥールにて』。小さな絵の中に描かれているのは屋外らしきコンサート会場。舞台上には4人の女性が立ち、客席は演奏が終わった直後なのか淑女と紳士が談笑中。余韻が残るカフェの情景を見事に描き上げていますが、その中に実はドガらしい斬新な技法が隠されていたのです。
番組内容続き
独特な構図や色彩の秘密、そして進化論で知られるダーウィンとの繋がりとは?
ナレーター
小林薫
音楽
<オープニング・テーマ曲>
「The Beauty of The Earth」
作曲:陳光榮(チャン・クォン・ウィン)
唄:ジョエル・タン
<エンディング・テーマ曲>
「India Goose」
中島みゆき
ホームページ
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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