3      ルパンの冤罪2
 
 
 
 
数日後。
 
 
「警部!ルパンからの予告状です」
 
 
ビッキーが銭形のいる、高層階の特別誘拐捜査班指令室に飛び込んできた。
 
壁に貼った、赤い点だらけの地図の前。
 
銭形はそれを見ながら無線と携帯で、児童の誘拐された区域を捜査している部下達に、指示を与えてる最中だった。
 
 
「何。どっちのルパンだ。盗みか、誘拐かっ」
 
 
銭形は無線を切り、ツカツカと大股でビッキーに歩み寄る。
 
 
「そ、それがどっちも・・・二通来てるんです」
 
 
ビッキーは報告書を広げた。
 
 
「外交官のK氏宅です。そこの金庫室の宝石を狙う予告状と・・・そこの5歳の子供を誘拐し、身代金に1千万円要求した電話と。どっちが本物なんでしょう」
 
「ばかもの!そんなの、誘拐犯の方が偽と決まっとる!」
 
 
銭形は怒鳴り上げた。
 
 
「ルパンめ・・・どういうつもりだ。誘拐犯と同時に盗み入ることで、自分の冤罪を証明するつもりか?」
 
 
顎に手をやり歩き始める。
 
 
「いや、確かにそれもあるだろうが奴はそれを機に自分を騙った犯人に近づき殺すつもりだ」
 
 
立ち止まった銭形にビッキーが質問する。
 
 
「今までのルパンならこういう時、警察の一員に化けて探りを入れそうなものですが」
 
 
ビッキーはルパンのデータを処理と同時に頭に叩き込んでいた。
 
 
「いつもならな。しかし、今回は誘拐犯を相手にするのに主要な場所には私服警官しか配備してねえ。内部に潜入しても動きにくいだろう」
 
 
犯人は生きたまま捕まえよとの命令だ。
 
行方不明の子供の居場所を突き止めなくてはならない。
 
その為にもルパンには犯人に手を出して欲しくないのだが。
 
あのプライドの為なら恐ろしく非情になれる男が果たして敵である警察の事情まで汲んでくれるものだろうか。
 
仮にも予告した以上、奴は盗みはそれはそれでやり遂げるだろう。しかし・・・。
 
 
 
 
 
銭形は腕を捲って時計を見た。
 
ルパンの予告まであと3時間。異例の短さ。
 
 
 
 
宝石もその保管金庫室も一流ではあるがルパンには迫力に欠ける。
 
やはり目的はスリルではなく他にあるのだろう。
 
 
「ルパンは義賊じゃねえ。悪党さ。だが・・・非道はせん。子供の命を巻き添えにする事はないと信じるしかねえ。盗みをする本物より、今は子供の命を預かるニセの方が先決だ。ルパンの予告時刻まで時間はある。誘拐の方に主導をとらせてもらおう」
 
「何故そういい切れるんですか警部」
 
 
データによればルパンは自分の名を騙る者には容赦しない。
 
とまどうビッキーに銭形は言い聞かせた。
 
 
「ルパンを一番知ってるのは俺だ。いいか、データも大事だが、いざとなると自分を救うのはデータじゃねえ。犯罪者といえど人間だ。特にああいう気まぐれでへそ曲がりな奴を相手にする時、判らなくなったら肌で相手を読め。ルパンという犯罪者ではなく、いち人間として対話しろ。空気を読めない奴は理屈だけだ。それだと命を落とす」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
現場に着くと既に配置の指示をしていた私服警官があたふたと、しかし目立たぬように銭形に目配せした。
 
 
「た、大変です。すみません警部」
 
 
どうした、と内心暗雲を感じつつ、努めて冷静に問う。
 
 
「母親が子供に持たせた携帯電話のGPSから拉致されてた場所確認が出来たんですが・・・・警察を呼んだ事がばれたら犯人に息子を殺されるからと、母親が単独で車でそこへ向かったそうなんです」
 
 
銭形とビッキーは息をのんだ。
 
 
「何をやっとるんだ!判った。今から母親を追跡する。いいか、誘拐現場の方へは俺とビッキーが向かう。GPSで判別した地図をよこせ。それから母親の車の特徴とナンバーを調べろ。俺が連絡したらK氏宅のへは、第1隊が動け。サイレンは使うな」
 
 
きびきびと、常に大またで進む銭形をビッキーは追う。
 
 
「ビッキー、お前が俺の車を転がせ」
 
「はい」
 
 
 
 
 
 
銭形の車は平凡極まりない、どこにでもみるような地味な一般車。
 
それが追跡には適していた。
 
 
「あ、あれです警部」
 
 
母親の車は、派手な外車だった。
 
 
「よし、そっと・・・気付かれないよう距離をとれ」
 
 
ひょっとして、とビッキーは思う。
 
銭形が、警部の割りに安い車と笑われても車を買い替えないのはそういう事に拘りないのもあるだろうが、この実用性を知る為なのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
母親の車が止まる。
 
無人のビル。
 
この辺一帯朽ち果てた工場跡らしかった。
 
男の居る場所はそれでも比較的新しい。
 
電気もまだ通ってるようだ。アジトにはもってこいだろう。
 
車から母親が降りる。
 
陽の傾き始めた空に向かって子供の名を呼ぶ。
 
犯人に聴こえたら。
 
落ち着かないビッキーと銭形は工場内の駐車場に気付く。
 
 
 
 
 
 
そこにちらりと見えた人影が止めてあった乗用車に乗り込んだ。
 
ライトがつくとそれはゆっくりと動き出し、突然スピードを上げた。
 
 
「危ない!」
 
 
車が母親を轢こうと突進する。
 
石の様に母親は動けない。
 
銭形は銃を抜いた。
 
タイヤを撃ち抜く。
 
車は急ブレーキをかける。
 
ドアから男が飛び出した。
 
コンクリートの壁に強かに顔をぶつける。
 
銭形は衝撃で倒れた母親に駆けつけると抱きかかえ母親の降りた車に寝かせた。
 
 
「今は動かすな。気を失ってるだけとは思うが、万が一って事もある。容態が回復するまであんたはそこに居ろ。すぐに戻る」
 
 
真っ青になって震えている年配の運転手は、かくかくと首を縦に振った。
 
 
「行くぞ」
 
 
銭形の一言にビッキーは思わず一歩下がった。
 
 
「どうした」
 
「実践、はじめてなんです。どうしたら・・・」
 
「俺の言うとおりに動け。そうすれば大事な体もそんなに痛まんさ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
男がよろめきつつ工場内へ入ると、ガタンという大きな音の後エンジン音が続いた。
 
荷物を運ぶ為のエレベーターが作動したらしい。
 
音が上へ登ると2階の電気がついた。
 
ビッキーと銭形は頷きあうと階段へまわった。
 
エレベーターの音を立てないためだ。
 
先ほどの明かりのついた窓を目指す。
 
 
 
小部屋。
 
 
 
厨房と食堂跡らしかった。
 
窓ガラスが一部外れてる。
 
頭を覗かせないよう注意しながら銭形は目線を部屋へ送る。
 
男は台所のシンクに両手で寄りかかっていた。
 
その片方が顔に伸びる。
 
びりびりと男の顔がむけて違う男の顔が現れた。
 
 
 
顔一面に血。
 
 
 
台所で水を流す。どうやら洗い流してるらしい。
 
 
「くそっ。てめえ面を見やがったな」
 
 
その声にぎくりとする。
 
しかしそれが二人とは別の人間に向けられた言葉と知る。
 
 
(子供だ!)
 
 
ビッキーの口を銭形の手が塞いだ。
 
男は早足で奥の部屋へと消えた。
 
手当てをしに行くらしい。
 
タイヤを撃った人物が居るのはばれてしまってる。
 
男から見つからない内に子供を連れて逃げなくては。
 
男が母親の車に戻ったら、運転手もろとも危険だ。
 
 
 
 
 
 
「顔を見たか」
 
「はい」
 
「よし、お前は車へ戻れ」
 
「平気です、僕も行きます」
 
「俺にもし何かあっても、犯人の顔を見たのはお前がまだ残ってる。いいか、その為にもお前は安全な場所でその情報を守るんだ。ここで二人討ち死にする可能性だってあるんだぞ。それと子供の母親を守ってやれ。それも警官の大事な仕事だ」
 
 
ビッキーは無言になった。
 
だが短く頷くと足音を殺して急いで階段を下りた。
 
 
 
予告まであと1時間40分。
 
 
(誘拐犯を捕まえてから本物のルパンを相手にしてやる。どんなに憎くても、お前にこの犯人を殺させる訳にはいかんのだ)
 
 
そっと犯人の様子を確かめた銭形は、そろりと引き戸を引いて小声で子供を呼ぶ。
 
 
「坊や」
 
 
目を合わせた子供に向かって口元に指を当てる。
 
 
「恐かったか。おじさんは警察官だ。もう大丈夫だよ、さあ、逃げよう」
 
 
縄を解き、ポケットから菓子を取り出す。空腹の子はたちまちそれをむさぼった。
 
 
「坊やだけか。他にお友達はいなかったか」
 
「うん。僕ね、ずっと一人だったよ」
 
「そうか・・・」
 
 
他の誘拐された子供達は別の場所に居るらしい。
 
悔しげに銭形の口がゆがむ。
 
 
「お水・・・」
 
「咽が渇いてるのか。よし、待ってろ」
 
 
台所に向かおうと立ち上がったとき
 
 
「おーーっと、そこまでだ」
 
 
冷たい金属の気配を感じて銭形は両手を挙げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
続.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こういうとき、結果としてはそうなってもルパンは正義の立場には立たないと思います。正当な悪対正義は銭形の仕事。むしろこういう時にこそ、銭さんには憧れの警官の姿であって欲しい。ルパンには悪党としてのけりのつけ方がある。銭さんのお株を奪わないのも彼なりのけじめじゃないかしら。それが出来る男と判ってるから任せてる。だからあえてこの事態ではルパンを絡ませません。必ずしも援けるのは美少女である必要もないですね。2005.2.3
 

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Last updated: 2011/5/24

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