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2014-05-27

すぎやまこういち×植松伸夫  植松:今回そのアイルランドのリールっぽい曲を入れたのって初めてなんですけど、あれを入れますとユーザーの意見なんかのハガキに「アイルランド行ってきて帰ってきたらもうこれだ」というのがあるんですよ

http://www.geocities.jp/bgrtype/gsl/words/sugiyamaxuematsu/sugiyamauematu.html

すぎやまこういち×植松伸夫



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・すぎやまこういち(1931年東京都生。作曲家。日本バックギャモン協会会長)

・植松伸夫(1959年高知県生。神奈川大学外国語学部英語科を卒業後、TVCM等フリーで

       活躍し、1986年スクウェア入社





(要約)

すきやま: だんだんドラクエ関連のスケジュールだけで1年終わっちゃうみたいな有様になってきちゃって、

      あんまり他のことができなくなってきてるんだよね。困ったもんだよ。ドラクエやると、やれCDブックだ

      アニメだときて、レコードもブラスバージョンやエレクトーンバージョンやピアノバージョンが出て、

      そうなると色んな出版社がピアノ譜やエレクトーン譜を出す。そんなことやってるから1年潰れちゃう

      もんね。

植松: そんな忙しい中で「半熟英雄」やって頂きましたからね(笑)

すきやま: どうしても大変だと思いながら、「このゲームが好きだなあ」ってことになるとついね。

植松: まさか本当にやって頂けるとはね。言ってみるもんだなとつくづく思いましたよ(笑)

すきやま: でも楽しかったね、あれは。FFVも大変だったね。やっと僕も上がったんですけどね。

      植松君は働き者だなとつくづく思いましたよ。何曲あるの、あれ?

植松: 60近くはあるかもしれないですね。

すぎやま: 60曲あのゲームの中にあるということは、実際作った曲はその裏にもっとあるでしょう。何曲ぐらい?

植松: 1コーラス作ったという感じで言ったら100曲ぐらいいってるかもしれないですね。

すぎやま: 働き者だなあ(笑)

植松: 数撃って当てようという方向でいってますからね(笑) 曲数が多いというのも一既にいいとは言えない

     とも思ってるんですよね。1曲1曲のイメージが薄らいじゃいますからね。

すぎやま: それはあるよ。IVのときのがVより曲数少なかったでしょう?

植松: そんなでもないんですけどね、それでも10曲ぐらいは少ないかな?

すぎやま: そうでしょ。やってる時はこの曲面白いなと思うんだけど、終わったあと覚えてる数が少ない感じ

      がしたね。その原因は何だろうと思ったんだけど、多すぎるというのがあるのかもしれないな。

      でもやっぱりどんどん意欲が湧いて、ここはこういう曲にしちゃおう、ここはこうしようっていうのが

      出てきちゃうものだよね。

植松: 作ってる方としてはまだ足りないんじゃないかという気もするんですよね。完成したあとに自分でやって

    みますよね。そうすると、こことここの音楽変わってないやっていうところがいくつかあるんですよ。

    だから作った本人は全部曲覚えてるから別に問題ないんですけど、自分以外の一般の人にとっては

    多いかなとは思ってるんですけどね。

    30曲に抑えようとしたんですよ。IVのときもちょっと多いと思ったんです。今回は絞り込んでやろうと

    思ってたんですけど、欲が出てしまいますね。

すぎやま: 僕も曲を絞り込むときは断腸の思いでね。切る作業が大変ですよ。前にも言ったと思うんだけど、

       むこうのミュージカルなんかを見ると本当に曲数少ないんだよね。 でも植松さんのやり方でいいな

       と思うのは、1つの曲をシーンに応じてアレンジを変えて出すケースが多いでしょう。それでカバー

       していくともっと絞り込めるかもしれない。

植松: なんであんなに増えちゃったんだろう(笑)

すきやま: 働き者なんだよ。FFVの曲は植松さんの趣味趣向がはっきり出てるから、それがある意味でいい

      個性になってていいなというのがありますね。スコットランド民謡をはじめとして、民族音楽への傾斜

      というのがあるでしょ。

植松: 今回そのアイルランドのリールっぽい曲を入れたのって初めてなんですけど、あれを入れますと

    ユーザーの意見なんかのハガキに「アイルランド行ってきて帰ってきたらもうこれだ」というのがあるん

    ですよ(笑)。別にアイルランドから帰ってきて、その影響受けてやってるわけじゃないんですけど。

    以前から凄く民族音楽に興味がありまして、入れたかったんですけどファミコンのときとかって難しい

    じゃないですか。

すぎやま: ちょっとやりにくいよね。

植松: いつかやってやろうと思ってたんですけど、あんまり興味本位で民族音楽好きだから入れるというのも

    安っぽく見えてイヤかなと思ったんですけどね。

    先日、すぎやま先生がうちの職場にいらした時にお話ししたんですけど、今トルコ音楽を習いに行って

    まして、そういう教室へ行くと民族楽器とかいっぱい売ってるんですよ。

すぎやま: なんか君の部屋に不思議な楽器が置いてありましたよね。

植松: 日本人だったら日本の音楽ルーツとして民瑶とかがあるはずだと思ってるんですよ。

    日本に昔からある音楽が自分の血の中にあるはずだって自分では思ってるんですけど、

    一度「雅楽(古来の宮廷音楽の総称)」の"ひちりき"(雅楽用の竹製の管楽器)を習いに行ったことが

    あるんです。そうすると自分の中に流れている血というよりも、逆にそれがすごく新しい、ブライアン・

    イーノのシンセサイザーの音楽に近い印象があったんですよね。

すぎやま: 笙(雅楽用の管楽器)のハーモニーなんかは音の響きが非常にシンセサイザー的な新しさがある

       よね。

植松: そうなんですよ。だからこれはものすごく面白いけど、自分にとっての血ではない気がしたんですよ。

    雅楽は朝鮮からのものですけどね、そういうルーツみたいなものを考えていったら、逆にヨーロッパ

    民族音楽がすごく自分にピンとくるものがあったんです。だったらそんな日本人のルーツとかいって

    ないで自分にとってピンとくるものを追っかけていく方が面白いんじゃないだろうかと思って、最近は

    自分が日本人だから日本古来の音楽をどうのこうのという考えはなくなってきてるんですよね。

すぎやま: 僕ら日本人で日本の文化の中で暮らしていると、いつかは三味線音楽や琴の音楽が耳に触れて

      るわけ。和風喫茶やレストラン、エアラインなんかでもいつの間にか聞 こえてくる。

      アメリカで生まれ住んでるとそれは耳に触れないで大人になっちゃうでしょう。僕らは耳に触れてる

      から、知らない間にそういう音感は身についてると思うの。

      僕が植松さんの音楽でこの人やっぱり日本人だと感じたのは、町の音楽「ミーファー」ってメロディ

      がいくときに、もう1つの声部が「ミーミー」とそのまま引っ張って、ミとファが平気でガチャーンと使って

      るのがあるでしょう (トゥールの村などの音楽)。あれって西洋音楽で育った人では絶対やらないこと

      なんですよ。

植松: バッテンなんですよね。

すぎやま: 植松さんはあれにある種の美しさを感じるからやってるわけでしょう。で、僕も日本人だから

       聞いて「あ、ここいいな」と思ったんですよ。「ソーミーファー」というのと「ソーミーミー」というところ

       でミとファがぶつかっているのは、西洋音楽のエフメジャーセブンの中のミとファのぶつかりの

       意味とは全然違う意味のミとファでしょ。それは江戸時代の三味線や琴の音楽でしょっちゅう

       やってることなんだよな。「ラファミミファミミファファミ」といってるときに、1は「ミミミ」といって

       ミとファがぶつかってるという、そういうテンションに美しさを感じるという江戸時代の音楽家らの

       伝統みたいな感覚の流れがあるんだよね。あの部分を聞いて植松伸夫もやっぱり日本人だと

       思ったんですよ。で、

       僕もアレをイヤだと思わずに、あぁこれいいなと感じて、僕も日本人だなと再確認したんです。

       意識的にやらずに自然にやったんでしょう?

植松: 僕はフラットナインのぶつかり具合とか、ミとファの半音でメロディと伴奏が平気でぶつかることが

    しばしばあるんですよね。自分でもああぶつかってるな、クラシックの音楽のテストなら絶対にバツだな

    と思っても、その響き欲しいしと思ってそのまま残すこともあるんですよ。

すぎやま: それが間違いか間違いじゃないかというのは、感覚的にそのぶつかりが許せるかどうかなのよ。

       いいと思うかどうかなのね。だから西洋音楽なんかも近代音楽以降はガンガンぷつかるでしょう。

       それが前後の関係や音楽全体の姿からいって、感覚的にこれが美しいと思えるものはマルなのね。

       ミとファのぶつかりあいが美しいと思える感受性があってやったものであれば間違いじゃないんだよ。

       ただそれが自分一人でいいと思ってるだけで、世の中全員が気持ち悪いと思ったらこれは単なる

       ひとりよがりでしかないんだよね。

植松: 難しいですよね。音楽を学問にした人というのは、かなり強引だと思ってるんですよ。

    どうやって音楽の点つけるんだろうって未だに僕思ってるんですよね。小中学校を通して音楽というものを

    学校の教育に取り入れて100点取った人は偉い、50点取った人はしっかりしなさいという教育を受けてる

    から、大人になって楽器を手にしなくなっちゃう人が多いんじゃないでしょうかね。

すぎやま: 音楽教育というのがどうあるべきかというものは、これはもっと考えなくてはいけない問題で、

       文部省や現場の教師の考え方に反省点は多々あると思いますよ。

植松: すごい話してますよね(笑)、文部省がどうだって。

すぎやま: 笛を吹いたことについて点数つけることよりも、笛吹く楽しさをわからせるのが大事だよね。

       音楽の楽しさを感じてもらうというのはとても大事なことでね。だからファイナルファンタジーとか

       ドラゴンクエストの音楽というのは大事なんですよ。

植松: 最近は音楽に全然興味ない子供達でもゲームとかで遊んでて、ドラゴンクエストの音楽が好きになって

     コンサート行きますよね。すぎやま先生なんかのコンサートはフルオーケストラでやってらっしゃるでしょう。

     それはものすごい影響力だと思うんですよね。子供がオーケストラを生で聞くチャンスが普段あるかと

     いうと、少なくとも僕は子供の頃そんな経験はしてないんですよ。そうすると、ある意味ですごく羨ましい

     んですよね。小学校2-3年という頃に、N響の音が年に1回、生で聞けるわけでしょう。

すぎやま: 他のオケなんかのコンサート数えると、20-30回やってるよ。全部ドラクエじゃないにしても、

       1コーナーとかね。だから、あちこちに頼まれて棒振りに行く仕事もやってます。それは大事なこと

       だからね。ドラクエの棒振りは何はなくとも行くようにしてますけど。

植松: 教育の一環ですよね(笑)

すぎやま: しかし、いつもゲームの音楽作るときに、昔の大作曲家の作品聞くじゃない。とてもかなわないなと

      思うことが多いね。

植松: すぎやまさんがそんなこと言ったらこちらの立場はどうなるんですか(笑)

すぎやま: 昨日久しぶりにバレエ見ようと思って神奈川県民ホールに「くるみ割り人形」見に行ったの。

       チャイコフスキーのド天才めって感じだよ(笑)。とんでもない天才だね。

植松: チャイコフスキーは僕もすごく好きですね。音楽は誰が好きなんですかなんてインタビューとかで

    あるじゃないですか。そのときは一番最初にチャイコフスキーを挙げますね。

すぎやま: とんでもない大天才だよね、あの人は。あの時代で20世紀の音楽家が考えて書くような

       ヴォイシングやってたりするわけよ。オーケストレーションのうまいこと。

植松: この前、西田敏行ロシアに行ってチャイコフスキーの足跡を辿るという番組をテレビでやってたん

    ですよ。僕もチャイコフスキー好きだから見てたんですけど、チャイコフスキーはホモであるというのを

    聞いて、「ああ良かった」と思ったんですよね(笑)

すきやま: その良かったというのはどういう意味なの?

植松: どこかプラマイゼロじゃないとダメということです(笑)。チャイコフスキーも人間だったんだなというね。

    ま、噂なんですけどね。

すきやま: モーツァルトなんか完全にいってるよね。大天才でも大欠点があるという。

植松: チャイコフスキーにしろモーツァルトにしろ、メロディが非常にわかりやすいんですよね。

    クラシックって難しいから嫌いという人が多いですけど、そんなことないと思うんですよ。

すきやま: ベートーベンとかブラームスあたりはみんなそうだよ。いいメロディもってるよ。

植松: やっぱりメロディなんじゃないかという気がするんですよ。

すぎやま: 全くそうだと思いますよ。

植松: だからドラクエなんかはオーケストラでやっても子供が聞けるんですよ。

すぎやま: ドラクエにしてもFFにしてもメロディ大事にしてるからそこに強みがあるでしょう。

      他にもFFでは民族音楽的なのがありましたな。デデンッデデンッ…てやつ(笑)

植松: 民族音楽というか黒魔術の呪術の音楽のようなやつですね。

すきやま: だからそのうちトルコも出てくるぞ(笑)。FFでは吟遊詩人というジョブがあるじゃない。

      吟遊詩人がマップの中のトルコやアイルランドみたいなところへ行ったりするとそこの音楽を覚えて、

      それを戦闘中に唄うと何かが起こるみたいなことがあれば面白いんじゃない。

植松: また曲数増えちゃいますよ(笑)

すぎやま: 増えるね(笑)。でも吟遊詩人というジョブがあるから使えそうな気もするね。

植松: 一度何かに絡めてやってやろうと思ってるんですけどね。どうしても容量がそういう余分なところまで

    回らないんですよ。

すぎやま: 他を減らさなきゃならないからね。町の音楽全部一緒にしたり。

植松: でも町は2個だけですからね。マップの曲も3つだし。

すぎやま: ダンジョンも違う?そんな気もしたんだけど。

植松: いや、ダンジョンという曲は1曲しか用意してないんですよね。他で使ってるのを使いまわしてるんです。

すぎやま: でもなんかすごく多い気がしたな。

植松: 実際多いんですよね。飛空艇は1曲ですし、チョコボは2曲だし。

すぎやま: チョコボはまた面白いね。あの音楽と動きを見事にシンクロさせてて良かった。

植松: あそこらへんはプログラマなんかと楽しんで作ってましたよ。

すぎやま: ピアノのお稽古も面白かった。

植松: あれも最後は何の曲にしようかということで、うちの坂口が、ヘタクソなやつが最後はコンサートピアニスト

    ぐらいにしてくれと言われたんで、最初はメトロノームにも合わせられないようなところから始めて、最後は

    ドビュッシーまで弾けちゃうんですけど、あのドビュッシーの曲(月の光)をみんなあんまり知らないんで、

    ガッカリしちゃったんです。

すぎやま: グリークとかチャイコフスキーのピアノコンチェルトみたいな方がコンサートピアニストみたいな気が

      するからね。僕に相談してくれれば良かったのに(笑)

植松: そうですよね。最後のが弱かったのが残念だったな。

すぎやま: でもああいう遊びの部分も楽しかったよね。

植松: 息抜きというやつですね。でも結構一生懸命やっちゃうんで、息抜きできなくなっちゃうんですけど。

すぎやま: 作ってる本人はいいんだよ。遊ぶ方は息抜きできるんだから。植松さんはドラクエは上がったの?

植松: 実は最後のダンジョンの手前でFFVのアレンジCDの仕事に入っちゃいまして、まだなんですよ。

すぎやま: 上がってないの!?

植松: 申し訳ないっす(笑)。今日までに終わらせるつもりだったんですけど。

                                                       (1993)



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・すぎやまこういち(1931年東京都生。作曲家。日本バックギャモン協会会長)

・植松伸夫(1959年高知県生。神奈川大学外国語学部英語科を卒業後、TVCM等フリーで

       活躍し、1986年スクウェア入社)





(要約)

すぎやま: 僕は対談頼まれたときに、12月中だと聞いてそれまでにFF5を終わらせる自信ないって言ってた

       んだけど、元祖プロゲーマーを称してるからには面目にかけても上がろうと、しゃにむにやって

       上がりましたよ。途中でやんなっちゃうゲームだと上がれないけど、やってて楽しかったから相当

       寝不足になりましたよ。

植松: 今回はアマチュアの勝利ですかね。スクウェアのメンツって、単独で独立して音楽で食っていけるか、

     絵で食っていけるか、企画で食っていけるかという連中がまだ1人もいないんですよね。

すぎやま: 植松さんは大丈夫じゃない。

植松: いえいえ。平均年齢がまだFFチームでいうと25ぐらいなんですよね。

すぎやま: ドラクエチームもそうですよ。皆さん若い。僕1人だけ飛び抜けてるんだ。

植松: 結局若い、何かやってやろうという奴らが集まってるんですよね。そいつらが泥まみれになって一緒くた

    になって限度知らずの頑張りをするんですよね。全てのプロの人がそうというわけじゃないんですけど、

    中にはお金と割り切って仕事をする方もいらっしゃいますよね。そうするとある程度から先の気力とか

    頑張りを越すというのは難しいというのがたまにあるじゃないですか。そういうことが5のチームには

    無かったんですよ。とにかく最後の最後まで、メ切のマスターを任天堂に送る朝まで、どこまでできるか

    ということをみんながやったので、そこらへんの適当なプロの人を集めて作っても、ああいう気合いの

    入った作品は出来なかったんじゃないかなと思うんですよ。今になってやってみると、あそこをこうした方

    がいいというのはうのはいっぱいあるんですけど、終わった時点ではもうこれ以上はできない、とみんな

    が思ってるんですよね。僕もあのときはそうでしたしね。

すぎやま: 結局世の中を見てると、FFにしてもドラクエにしてもそうだけど、好きで好きでとことんまで頑張る

       という人が集まってるところのゲームがヒットしてるんだよね。

植松: その気合いみたいなものが通じるんですかね。シナリオとか音楽とかを比べると、やっぱりドラゴン

    クエストというのはファイナルファンタジーよりもプロっぽいですよ。何がと言われても困るんですけど、

    とにかく違うんですよね。スクウェアのゲームって不器用だけど、一生懸命やってるというように感じます

    よね。

すぎやま: 甲子園プロ野球みたいなね。

植松: いやあ、あれはやっぱりプロの仕事ですよ。うちの音楽のプログラムやってる奴らとかはちょっと驚い

    ちゃいましたね。オーケストレーションは勿論、ストリングスの音が僕は個人的にショックで。

すぎやま: あれはドラクエの音作るときにまず最初に試行錯誤したのがストリングスなんだよ。

       まずストリングスを完成させてそれに必要なだけのメモリを全部使ってもいいから作って、

       ストリングスの音が完成したらそれからあとを考えるという順番を立てたんだよね。

       あれは相当試行錯誤しましたよ。そういう方針をしっかり立ててから始めるというのがプロっぽい

       仕事なのかもしれない。だからといって僕がお金だけの仕事をするかということでもないんだよね。

       仕事といってもゲーム大好きだし、ドラクエ好きだからね。

植松: すぎやま先生に限ってはそんなことは思ってませんよ。半熟のときはなんと夜中の2時までスクウェア

    でやってもらいましたからね。うちの社員が先に帰ってる(笑)

すぎやま: 一度入ったらのめり込んでやるからね。他の人の退社時間を遅らせて申し訳なかったですよ。

       でも、じゃあドラクエはほとんどしまいまでやってるわけでしょ?

植松: ええ。

すぎやま: じゃ、だいたい一通りの音楽は聞いてるね。どの部分が印象に残ってます?

植松: 僕はゲームオーバーレクイエムをアレンジして使ってあったのが上手かったなと思いましたね。

    お城の中の音楽なんかはすぎやま先生の十八番のような作り方だと思ったし。あの王宮のトランペット

    の音なんかはいいですよね。

すぎやま: ソロでならす曲というのは、いい音作らないともたないじゃない。あれも普通の作り方をすると

       普通のB管のトランペットになっちゃうから、B管よりはC管とかA管のピッコロのトランペットとか、

       そっち寄りの音色を作るのに結構苦労したし。でもそれを作っちゃうとその音色は戦闘なんかに

       使えなくなっちゃうという、かなり賛沢なことになるんですよ。

植松: ただ、あのトランペットの曲は全体通してよくかかる曲なんで、あれだけかかると別にあのために音色を

    もっても惜しくはないなというのはあるんですけどね。僕もやってて、すぎやま先生は曲数少ないって

    気がついたんですよ。FF5は多かったかなと思ってやってたんですよね。

すぎやま: お城の音楽でもスケッチまで入れると5、6曲あって、きっちり完成させた曲が2曲あって、そのうち

       1曲は切り捨てて1曲に絞ったんだよ。結構断腸の思いで切ったんですよね。

植松: プロですね。そのへんの計算とかをこっちは何にも出来てないんですよ。とにかくがむしゃらにやる

    だけ、余裕がないんですよ。

すぎやま: 第三者に切ってもらうというのはどう?ディレクターとかに。

植松: ディレクターが曲増やせって言ってくるんですよ(笑)

すぎやま: 僕の場合も山名ティレクターと随分やりとりして、切ったり追加したりしましたよ。ドラクエの山名

       ディレクターというのはとても音楽に感受性を持ってて、レクイエムを使いましょうってまず言い出し

       たのが山名ディレクターなんです。で、やってみたら凄く良くって、ユーザーの評判も良かった

       ですよ。

植松: 普通、ゲームオーバーの音楽って聞かないですからね。全滅したらリセットしちゃうから。

    あと、スライムレースは面白かったですよ。

すきやま: あれは逆に絵ができてから僕が見てやったんだよね。あとからこっちが申し出て作ったんだよ。

植松: ついあの曲とあの絵を目当てにやっちゃうんですよね。絶対勝てないんですけどね。そういうふうに

    できてるんでしょうか?

すぎやま: 僕もなかなか勝てなかったんですけどね。雑誌の裏技でやったら勝てましたよ。

      よくああいうのユーザーは見つけるよ、ホントに。半熟はやった?

植松: もちろんですよ。やってる最中からモニターとかやってるでしょう。戦闘の音楽だったかな、半熟の

    音楽担当のところから聞こえてくるんですよね。なんか僕あの曲が悔しくてね、やられたっと思ったん

    ですよ。転調の仕方なのかなあ?

すぎやま: 同じメロディを転調して繰り返して先へ行くというね。

植松: すぎやま先生にしてみれば、さりげなく作った曲だと思うんですけど、僕はあれは驚いてしまいました

    ね。僕が作りたいような曲だったからかな?こういう曲できればいいなと思ってたのが、いきなり隣の部屋

    から聞こえてきましたからね。

すぎやま: 植松さんのFFの仕事見てると、自分の感性に忠実に仕事してるから、これでずっといけば60歳

       まで長もちできるなと思いましたよ(笑)。是非その姿勢は守っていって欲しいですよね。

植松: 不器用だからということもあるんですが、今の流行りの音楽を取り入れるというのは苦手だし、あんまり

    そういうことはやりたくないというのがあるんですよね。自分の中で、なんで音楽をやってるかというのが

    明確な言葉では表せませんけど、基本的に動物と子供というのが頭の中にぼんやりとあるんですよ。

    動物と子供達のための音楽を先々できるといいなというのがあって、それに向かった自分なりのスタイル

    でいきたいんですよ。今から新しい童謡なんかができてもいいんじゃないかと思ってるんで、新しい童謡

    アルバムなんかを作ってみたいなと考えてるんです。

すぎやま: やってくださいよ。

植松: すぎやまさん1曲書いてくれませんか(笑)

    あと、イルカの言葉を研究してる博士とかいるじゃないですか。ああいうところに弟子入りさせてもらって、

    イルカに音楽がわかるんだろうかっていうのも試してみたいですし(笑)。やりたいことはいっぱいあるから

    ヘビメタとかラップやってる場合じゃないんですよ。

すきやま: 慌てることはないよ。僕の歳になるまでまだ何十年もあるんだから。まだたっぷり時間ありますよ。

      僕だって君の歳に戻れたら、さらに色んなことできるんだけどね。

植松: それは困りますよ。先生に戻られたら、そんな強力なライバルが同年代に現れたら 出る幕なくなっ

    ちゃいますからね(笑)

すぎやま: FF5の場合はスーパーファミコン上の音色はどのへんから手をつけたの?

植松: 実はストリングスなんですよ。

すぎやま: やっぱり。

植松: ただ今回は色んなタイプの曲入れようと思ってましたので、当初プログラマーとどんな音色入れるかと

    話したときに、結構数が多くいっちゃったんで、ストリングスに大きく取るわけにはいかなかったんです

    よね。「ウッ!」っていうのも入れたかったですからね(笑)

すぎやま: チョコボのあれはどうしても入れたいよね(笑)

植松: そういうのを割り振っていくとストリングスはまだまだなんですよ。ストリングスの音色は凝りたいんです

    けど、結局上から下までバイオリンからコントラバスのパートまで全部一緒の音色でやっちゃってます

    しね。そうすると低域の迫力なんかが足りないんですよ。だからエンディングテーマのところでは、

    コントラバスのゴリゴリしたサウンドで出したかったところが、そんなちゃちなストリングスのサンプリング

    使ってやってるんで、どうしても前に出てこないんですよね。しょうがないからコントラバスのラインと

    一緒にティンパニーを音階で鳴らしたりして、少しでもベースっぼく聴かせるようにしたりとか、そういう

    ところで色々アイデア出してやらないと難しいですよね。僕なんかのストリングスの作り方は、すぎやま

    先生なんかのああいうカチッとしたオーケストレーションと違って、もうちょっとポピュラー音楽寄りです

    ので、エレキベースがあってベースドラムやスネアがあってという曲が多いですからね。

すぎやま: そっちにメモリ取られるしね。

植松: そうですね。でもストリングスは綺麗にとりたいというのが常にあるんですよね。

すぎやま: 普通の世の中にあるオーケストラでも、弦のセクションのいいオーケストラっていうのはいい音に

       聞こえるものね。「半熟英雄」なんかの場合、例えば音楽作るときに演奏家のとこに頼むときに、

       凄くシロホンのうまいプレイヤーがいると。じゃあそのシロホンのうまいプレイヤーをフィーチャー

       して曲を書こうとかね。このオーケストラはファーストバイオリンのトップ、コンサートマスター

       ソロが素晴らしいというのなら、曲書くときに折角だからそれを活かそうという考え方で作ることが

       あるでしょう。

植松: えっ?じゃあ、曲を作曲するときに既にオーケストラまで頭の中にあるわけですか?

すぎやま: いや、それは「スーパーファミコンオーケストラ」ね。「スクウェアオーケストラ」ですよ。

       スクウェアの今まで持っているスーパーファミコンの音色を一通り聴いて、ああシロホンいい音して

       るねということになったら、これをソロフィーチャーすると。だから半熟はシロホニストが活躍してるん

       だ。で、シロホンという音色が「半熟英雄」というゲームのクラシック系の音楽の中でのコミカルさや

       明るさといったものを表現するのに凄く良かったからね。

       FF5は、最初わからずに色んなことやってね。最後は結局すっぴんで上がったよ。でもすっぴん

       の他に「ものまねし」っていうジョブがあるんだって?とうとう手に入らなかったんだけど。聞こうと

       思ってたんですよ。

植松: 僕はものまねしでは上がったことないんですよね。でも見つけるのはそんなに難しくないですよ。

    結局は行かなくても最後までいけるし。他にジョブ関係だと、青魔道士は使いませんでした?

すぎやま: 最初のうちちょっと使ったけど結局あんまり覚えなかった。

植松: レベル5デスというのを覚えました?

すきやま: 強いの?

植松: 敵のレベルが5の倍数であれば死んじゃうんですよ。

すぎやま: でも5の倍数じゃないとダメなんでしょ。

植松: でもそれで倒せる敵の中でアビリテイポイントを5稼げる奴がいるんですよ。そいつらばっかを相手に

    してると、どんどんアビリティが上がってくんですよね。

すぎやま: ちょっとやってダメだったのは魔法剣士だね。あれはまず自分の剣に魔法かけるのに1ターン消費

       するし、やってみたらそのかけた魔法が効かなかったりね。だからあの魔法剣士は魔法剣使った

       ときに最低5倍以上の強さがないと、差引計算すると損だなというのがあってやめました。

植松: 魔法剣士を使ってる人少ないですねえ。

すぎやま: あれこれあれこれ、色んなジョブやって結局使いきれなかったよ。

植松: そこらへんが今回、面白いといってくれる部分じゃないですかね。シナリオなんかにしても相変わらず

    一本道ですからね。

すぎやま: 魔獣使いっていいの?

植松: 面白いですよ。最後の戦いでは使う気にはならないけど。"コルナゴの壺"って手に入れました?

すぎやま: 忘れちゃった。

植松: どこかの井戸で力エルが欲しいっていってるおじさんがいて、コルナゴの壺というものを売りつけてくる

    んですよ。買って、魔獣使いに装備させるとモンスターを捕らえる確率が高くなるんですよね。

すぎやま: あのおじさんの前でやたらトードを唱えて全員カエルにしたり、随分色々なことやりましたよ(笑)

       何やってもダメで、結局わからなかった。

植松: そのおじさんがいる村でケルプの名物料理は知ってます?あれ泊まらなくても名物料理を食べさせて

    くれるおじさんがいるんですよ。そうすると全回復しておまけにポーション8つもらえるんですよ。

すぎやま: ああ、それはやったよ。あんまり何回もやると、くれなくなっちゃうんだよね。

植松: あれね、出してくれなくなって外へ出てみると、今まで遊んでたヒツジが1匹もいなくなってるんです

    よ(笑)。1回食べるごとにヒツジが1匹ずついなくなってるんです。ちょっとブラックでしょう。僕も言われる

    まで気がつかなかったんですよ。企画の奴が勝手にそういうのを入れてたんですよ。

すぎやま: かなりシビアな部分もあったよね。砂漢っぽいところへ行くといきなりボスキャラ級の奴がどんどん

       出てきてね。まあ、そういうところがFFらしさでもあるからね。

植松: ところで、FF5のオリジナルCDにスペシャルサンクスで、すぎやま先生のお名前を入れさせてもらった

    のご存知ですか?

すぎやま: 知らなかった。なんで?

植松: なんでかといいますと、僕が作曲で行き詰ってるときに、先生がスクウェアにいらして、

    「植松くんどうだね」「最近スランプで作曲がなかなか進まないんですよね」「どうして?」「禁煙してて

    ですね…」という会話をしたとき、すぎやま先生が「そんなもの禁煙するのやめればいいじゃないか、

    タバコ吸って死んだ奴はいないんだから」って言ってくれて、その日からすっかり禁煙やめましてね(笑)

    おかげさまでスランプから脱出できたんですよ。それでスペシャルサンクスということで、お名前を

    入れさせてもらったんです(笑)

                                                        (1993)

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