2013年6月10日OA

Vol.03 流出する日本の農産物

日本で開発された「レッドパール」という品種のイチゴがあります。
しかし、あるきっかけをもとに、かつて、このイチゴの不法栽培が、韓国中で横行したことがありました。

安倍政権が掲げる「攻めの農業」で懸念される、ある死角を取材しました。

福岡県・筑紫野(ちくしの)市にある農業総合試験場。

東京ドーム29個分程の敷地内で猛暑に強い稲など、福岡オリジナルの農作物を開発している。
有名なイチゴ「あまおう」も生みだしたこの試験場。

現在、力を入れているのは10年という長い年月をかけて開発した世界初の種のない柿「秋王(あきおう)」。

しかし今年4月、農家に提供していた125本の苗木のうち、19本が盗まれるという事件が起きた。
世界初だけに国外での不法流通が懸念されている。

福岡県農業総合試験場 冨永修子氏
「国内の対策は監視の目も徹底しているし、情報もすぐ入ってくるので、即対応する態勢をとっている。国外の場合、時間的なものとか、そこは国内ほどはできない」

一旦、国外に流出すると取り返しがつかない事態になる。
その実例が過去、起きていた。

一時期、韓国のイチゴ市場で8割を占めるようになったイチゴがある。
それがこの日本の品種、レッドパールだ。

愛媛県のイチゴ農家、西田朝美(あさみ)さん、90歳。

「中まで真っ赤になるんですよ」

「レッドパール」を6年かけ開発したまさにその人だ。

実は西田さん、およそ20年前、ある韓国人の農業研究者だけにレッドパールの苗を5年間、有料で栽培できる条件で渡す契約をした。

西田さんは最初は全く取り合わなかった。だが…
「絶対渡せないと言ったけどなんとかしてくれと拝むようにして、あまりに熱心なもので…」

西田さんの持つ契約書には「その人物以外とは許諾契約しない」と確かに書かれている。

なぜ、韓国で一時8割を占めるまでになってしまったのか?
西田氏が契約したキム氏を韓国で直撃した。

「日本よりもおいしいよー」

日本語が流暢な金重吉(キム・チュンギル)氏(80)。
韓国南部にある晋州(チンジュ)市で「レッドパール」を現在も栽培している。
日本の農業技術をこれまで研究してきた。

キム・チュンギル氏
「この品種(レッドパール)は良いと思って、育成者である西田さんに会って栽培させてほしいとお願いし、契約をして(韓国に)持ってきた」
西田氏と契約をしたことを認めた上で、こう証言した。

キム・チュンギル氏
「(私が苗を譲った人が)無分別に分け与えたり、売ったりしたため、広まってしまった」

知り合いなどに苗を譲り渡した結果、韓国国内でレッドパールが広まってしまったと説明するキム氏。

日本では“農作物の著作権”を守るべく、「品種登録制度」が法律で整備されており、通常25年間は使用料を取ることができるが、韓国国内で不法に栽培されてしまったレッドパールについては、西田さんの元に使用料は入らなかった。

西田朝美さん
「日本人の考えでやったものだから私も迂闊でした。良心的にやってくれると思っていたんですけどね」

現在は韓国でも「品種登録制度」ができた。
キム氏によれば、韓国の当時の制度上、使用料を支払う仕組みがないまま苗が広まってしまい、キム氏自身も法制度を整えるよう、韓国当局に訴えたこともあるという。

このレッドパールの権利は2008年11月で切れた。
そして、新たな問題も発生している。

今野記者
「韓国のイチゴで最も多く出回っているのがこちら「ソルヒャン」という品種です。元は日本のイチゴ同士を掛け合わせて作られたものだということです」

「レッドパール」と同時期に「章姫」など日本の他の種類のイチゴも流出しており、それらを掛け合わせることで韓国国内では「ソルヒャン」という“韓国産”のイチゴが作られていた。

「ソルヒャン」は現在、およそ1000億円の韓国のイチゴ市場で7割を占めているが、掛け合わせた品種のため品種登録の対象外で日本側にお金が入る仕組みが無い。

こうした問題は日本の農産物・食品の輸出倍増戦略を発表している安倍政権にとっても見過ごせないものだ。

現在、日本は農作物の知的財産権を守るために、「ユポフ91年条約」と呼ばれる国際条約を、51の国や地域と結んでいる。

韓国も、2002年にこの条約を批准して、猶予期間を経て、イチゴなど全ての植物が保護対象になったのは2012年、つい最近のこととなる。

農水省によると、「この条約に加盟していない国へ一度農作物が流出してしまうと打つ手がない」ということで、安倍首相が掲げる「攻めの農業」には、緻密な戦略も求められる。