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竹信三恵子×深澤真紀 「家事ハラ炎上!」爆走トーク(1) 何が言葉の意味をねじ曲げるのか

まとめ:WEBRONZA編集部

2014年10月17日

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 WEBRONZAは9月、トークセッション『「家事ハラ」炎上! 女たちは何に怒っているのか』を都内で開きました。和光大学教授で、ジャーナリストの竹信三恵子さんと、「草食男子」という言葉の生みの親である深澤真紀さんが対談し、フロアとの活発な質疑応答もありました。

拡大活発な議論が続いたトークセッションの会場=東京・神田神保町の東京堂ホール

 そもそものきっかけは、この夏、大手ハウスメーカーの研究所が展開した「家事ハラ」キャンペーンです。

 その広告では、「家事ハラ」という言葉を、夫の家事のやり方に文句をつける妻の言動を「家事ハラ」としていました。でも、竹信さんが昨秋出版した『家事労働ハラスメント〜生きづらさの根にあるもの』(岩波新書)で初めて使った「家事労働ハラスメント」は、家事労働を蔑視・軽視・排除する社会システムによる嫌がらせ」と定義し、こうした蔑視によって、家事労働の担い手とされる女性が、貧困や生きづらさへと追い込まれていくことを訴えていました。意味がまったく違っていたのです。それは、かつて深澤さんが世に送り出した「草食男子」という言葉のもつ意味合いの変化とも通じるものでした。

 どうしてこんなことが繰り返し起こるのか。セッションでは、今回の騒動を詳しく振り返ったうえで、メディアにおけるこうした言葉の歪曲や無力化の問題とともに、いま女性が日本社会で働くこととはどういうことなのか、いかなる困難を伴うことなのか、徹底的に話し合っていただきました。その詳細を連載でご紹介します。

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竹信三恵子(たけのぶみえこ)ジャーナリスト・和光大教授
東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授。NPO法人「アジア女性資料センター」と、同「官製ワーキングプア研究会」理事も務める。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント〜生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代〜就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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深澤真紀(ふかさわ・まき)コラムニスト・淑徳大学客員教授
1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。在学中に「私たちの就職手帖」副編集長を務める。卒業後いくつかの出版社で働き、1998年企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役就任。2006年に「草食男子」「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテン受賞。著書に、『女はオキテでできている―平成女図鑑』(春秋社)、『輝かないがんばらない話を聞かないー働くオンナの処世術』、津村記久子との対談集『ダメをみがく――”女子”の呪いを解く方法』(紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。

 

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 竹信 本日は「家事労働ハラスメント」についてのトークセッションにお越しいただきまして、ありがとうございます。この「家事労働ハラスメント」、略すと「家事ハラ」ですが、今日はこの夏、私が体験した、この「家事ハラ」をめぐる思いがけない騒動の顛末をお話しして、家事労働と社会の関係や、これからの課題、メディアや社会の中での言葉のもつ意味などについて、深澤さんとともにお話をさせていただけたらと考えております。深澤さんは今回の「家事ハラ」の出来事に直接的な関係はありませんが、ご自身がつくった言葉、「草食男子」で同じような体験をなさっています。

 まずは、家事という仕事を取り巻く状況について私なりの理解、考えをお話しします。家事ということについて、これは「生」を支える労働と言ってくださる方もいるのですが、今日でも世の中全般では、そういう労働がまったく無視されている。暮らしを支える必要不可欠な労働の時間として認知されていません。そのために、会社勤めの人たちが家事をする時間がないほど、ものすごい長時間労働をしないと正社員をやっていけないという異様なことになってもいます。家事を前提としない働き方です。しかも、その家事的な仕事はほぼすべて、女性に押し付けられ、女性がやるような了解が堅固に存在しています。

 私はこの状況を「押し入れ」と言っています。女という押し入れに家事の一切合財を全部そのままボコボコとぶち込んでしまう、まあ、男性にとって都合のいい装置ですね。

 深澤 家に人が来た時、片付いてないものをとりあえず放り込んじゃう、あれですね。

 竹信 そうそう、一見、部屋がきれいになっていると何か解決している気分になってしまうんですね。ベッドだとなかなかそうはいかなくても、お布団とか押し入れにしまうと、すっきりきれいには見える。

 深澤 そうですね。

 竹信 なので、私はかねて「主婦は押し入れです」と言っていたんですけど、そういうような状況なんですよね、はっきり言って。

 そうなると、本当は押し入れの中はごたごたで、もう満杯になって死にそうになっているのに、ふすまを閉めちゃうときれいになっているかのように見えて、何もなかったような顔をされるわけですよ。

 そして、何かあるとすぐに、「それは妻が」とか、子供が非行に走ると、すぐにお母さんたちを動員して夜回りさせるとかになっている。で、お父さんは何をやっているかというと、相変わらず会社に行っているんですねみたいな。そういう話なんですよね。

 そんな状況がいろいろなところで問題を起こしています。まず、さきほども言った長時間労働がそうです。子育てや子どもの教育なども、「何でもお母さんが何とかしないさい」となる。それも十分な社会的な支援なしにやるものだから、結局子供にとってもマイナスなことになってしまう。

 そもそも、保育とか介護とか、家事的な労働の賃金がなぜあんなにも安いのか。それも「家事は無償だから、家庭外でやってもカネにならなくて構わないという家事蔑視が背景にありまず。「主婦が家の中でただでやっている介護のような仕事に、何でそんな金を払うんだ」という発言を、しばしば聞いてきました保育士についても、同じようなことが言われてきましたました。

 そういう認識が染み付いている結果、介護の職場で何が起きているかというと、「男性の寿退社」です。介護の仕事をしている男性が結婚するとなると、介護の仕事が好きでも家族を養えないからと、辞めざるを得なくなる。

 こんなことが何の不思議もなく、疑問ももたれずに通用してしまっているということが大問題なんです。「家事労働ハラスメント」は、そんな深刻な状況を、家事労働に対する嫌がらせというとらえ方をして、つくりました。ちょっと耳慣れない言葉ではあったんですけど、こういう言葉をつくって、これらの問題を広く認識してもらいたい、理解してもらいたいと思ったわけです。

 実は、そうした状況は男性も傷つけているし、介護の仕事の賃金がそんなに安かったら、誰も満足な介護など受けられないということなんですね。一部には妻がやってくれるという幻想をもっている男性がいますが、重度の介護はとても妻一人では担いきれません妻のいない男性だっています。どんな家族構成だろうが、適切な福祉サービスを受けられる社会をみな願っているはずですが、家事ハラは、そうした想像力も奪ってしまうのです。

 妻がやってくれると思っている男性たちの頭の中にあるのは、優しくてきれいで若いお嫁さんが白いひらひらエプロンを着けて、「おじいちゃん、おかゆ食べましょうね」なんて言って、日当たりのいい広いきれいな家の縁側で介護をしてくれる姿かもしれませんが、そんなのあり得ない夢物語ですから。

 深澤 その縁側にはネコがいたりしてね。

 竹信 ネコがいて。そうそう(笑)。小道具がちゃんとあるのね。

 深澤 そうですね、サザエさんのうちみたいなイメージですね。でも、嫁が先に倒れることだってありますよね。

 竹信 そう。「嫁」が死んだらどうするの。あるいは「嫁」がいない男はどうするの。そんな簡単な想像力すら働かず、日常的には家事はどこかに押し込めておいて、なくてもいいことのように扱う。これこそが、男性にも女性にも大変な弊害を与えているということなのですね。

 こうした状況を何とかできないかという思いで書いたのが、『家事労働ハラスメント』だったわけです。ところが、7月14日に、なんと「夫の7割が妻の家事ハラを経験」というプレスリリースが旭化成ホームズの研究所から出たんですよ。これはお手元の資料の中にあります。

 7月16日の夜になって、友人から電話がかかってきて、「見た、見た?」って言うんですね。「何を見たの」って聞き返したら、「家事ハラ、すごい話題になっているわよ」と言うんです。「えっ、いいじゃない」と言ったら、「とんでもない、旭化成ホームズが、妻から夫への家事のダメ出しを家事ハラと呼んでいて、つまり、かわいそうな夫を妻がいじめる言葉が家事ハラだとなってしまっている」と言われたの。「Facebook」でも女性たちが怒っているからと。読んでやってくれと。

 それを読んでみみたらこれなんですよ。この資料にありますように、「ダメ出しによる夫の家事意欲の低下」について「褒めなきゃできんとか、子供気取りもええかげんにせえよ」と、怒って書いています。そうですよね、一人前の大人が、持ち上げて、「頑張って」と言わないと家事もしないのか、と。「家事のやり方についての苦情さえ、言っちゃいけないのか」と思いますよね。さらに「そもそも家事ハラって何やねん!!! 『家事労働ハラスメント』by 竹信三恵子との混同が起きるやろう」と、しっかり書いてくださっていました。

 夫の家事へのダメ出しくらいで「ハラスメント」、嫌がらせだと言われてしまうこと自体にも怒ってはいますが、私が一番問題だと思ったのは、これが家事ハラだといわれたら、「家事ハラ」の本を書いた私は、「妻が夫をしかることを嫌がらせだと言ったひどい女」と思われてしまうということなんですよ。

 深澤 事実、私が今そういう目に遭っていますよね。

 竹信 ホントですよね(笑)。

 深澤 「草食男子」という言葉をつくった「男性差別するおばさん」といわれていますけど。

 竹信 当初はそういう意味じゃなかったんだよね。

 深澤 はい。

 竹信 それはまた、後でじっくり語っていただくとして。まずは家事ハラですが、私が本を届けたいと思っていたのは、女性への家事集中に疑問を抱く男女だったのに、こんな「家事ハラ」定義をはやらされたら、せっかく書いた本が届けたい読者に届かなくなってしまうじゃないですか。「家事ハラ? こんなもの読みたくないわ。夫をたしなめてはいけないという本でしょ」と、なるでしょう。まったく逆のことを訴えたかったのに、誤解されたら、本が売れなくなっちゃいますよ。

 それで何とかしようと思ったんですね。「Facebook」でも、みんないろいろ書いてきて、メールでも「こんなことされて、いいの」と、友人たちが聞いてくるのね。「いいの」と聞かれたら「よくない」と言わざるをえないでしょう。それで、「旭化成ホームズに抗議します」と「Facebook」で表明してしまった。ただ、問題は、何をどう抗議するかだったんです。言葉の誤用については、法的には問題にできないんだそうです。商標登録でもしておけばいいのかも知れませんが。

 深澤 そうですね。

 竹信 でも、いちいち本のタイトルを商標登録する人はいませんからね。

 深澤 そこで儲けようとしているわけではないので。

 竹信 そうなの。むしろ、その言葉を広くみんなに使ってほしいじゃない、本当は。

 深澤 そうなんですよ。

 竹信 誰が先にある言葉を使ったかなんて、私はどうでもよくて。言葉への権利を主張するより、みんなで使ってもらって、「家事ハラっておかしくない?」と考えてほしかったんですよね。でも、先ほど言ったように、ここまで逆用されると何か手を打たないと実害が出てしまう。弁護士さんにも相談したけど、「ちょっと法律では難しい」と言うことで、何が私にとって「回復すべき被害」なのか、考えた末に決めました。

 それは、「私は営業妨害をされたのである」ということです。だから・・・・・続きを読む

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