今月1日から営業を始めた弘前市大町のホテルナクアシティ弘前。6年前、同ホテルの前の経営体であったベストウェスタンホテルニューシティ弘前が営業を開始した2008年は、同市に大手ホテルグループの進出が相次ぎ、競争の構図が一変した年でもあった。収容客数が倍となり、大手の低料金プランにより価格競争も発生、地元資本のホテルは経営の見直しを余儀なくされた。6年を経て、弘前のホテル業界を取り巻く環境はどう動こうとしているのか、関係者に聞いた。
08年は東横イン、ルートインホテルズ、ホテルドーミーインの3グループが同市に進出。これまで約1000室だった収容客室数は約2000室となった。「旅客を受け入れる分母が倍になり、さらに(11年の)震災があってダブルパンチ。現在も客足は震災以前の水準までには回復しておらず、ホテル運営は難しい状況になっている」と弘前市旅館ホテル組合の亀尾隆事務局長は話す。
来弘の旅客数に依存する宿泊部門が「外向きの需要」とするならば、店舗・バンケット(宴会)部門は「内向きの需要」である地元客の比率が大きい。ホテルニューキャッスル(上鞘師町)は宿泊客の減少に対応して元来、経営の軸であった店舗・宴会部門をさらに強化した。施設内のベーカリー・スイーツ店の改装やホテル内で居酒屋店舗の新設、ディナーショーや食のイベントを積極展開。大手進出で落ち込んだ宿泊部門の苦戦をカバーしてきた。
しかし今春の消費増税で急ブレーキが掛かった。依然として宿泊客の単価と数が共に落ちている現在の状況を、土田剛社長は「ボディーブロー」と例え「状況が変わらなければどんどん苦しくなる」と話す。外向き需要を喚起しなければ、各社の疲弊に歯止めは掛けられない。
弘前市の観光客の動向として特徴的なのは、祭り時期などの繁忙期とそれ以外の差が大きいことだ。シーズンオフでの各ホテルの空き部屋率は、部屋数が半分だった6年前と単純比較すると、ほぼ倍になっていると考えられる。現状での供給過多を埋めるには、もはや旅行客の母数が増えるしかない。
外向きの需要はビジネスとレジャーに大別されるが、ナクアシティ弘前の橋浩康総支配人は「通信網の発達、交通網の高速化で出張などのビジネス需要に伸びはない」と指摘する。狙うのは観光目的のグループ客だ。
天然温泉岩木桜の湯ドーミーイン弘前(本町)など全国のホテルドーミーインを運営する共立メンテナンス(東京都)の担当者は「北海道新幹線開業や東京五輪を控えたインバウンド観光など、弘前には追い風になる要因があり、これから宿泊客が下がることはないだろう。その意味で現在の部屋数が多すぎるということはない」と話す。
観光客増加の好材料はあれども、あくまで地域の滞留客を増やすための観光振興を進めることが前提だ。昨今は旅行客のニーズが細分化され、大人数のツアー客は減少し、少人数のグループ客が増加している。ホテルとして取り組むべきことについて、橋総支配人は情報の共有化を挙げた。「旅行者が何を基準に目的地やホテルを選ぶかを分析しなければならないが、現状はそれぞれで模索している状態。ホテル間で情報を出し合う体制を構築しなければ」。
弘前市では津軽域内に加え、函館市を中心とした道南や秋田県北地域などとの連携が進む。それは観光誘致が都市・県単位から地域間での競争へと変化したことによる。その意味では弘前の宿泊業界でも、各ホテル単独ではなく、地域全体での集客策を編み出す―という1点で、同業者間で結束する局面を迎えているといえよう。