大学入試をてこに、高校や大学の教育、さらには社会の意識を変える。文部科学相の諮問機関の中央教育審議会が、そんな大胆な答申案をまとめた。

 ポイントは3点ある。

 高校では基礎的な知識が身についているかを見る「高等学校基礎学力テスト」を導入する。

 大学入試では、センター試験を廃止し、知識の活用力を問う「大学入学希望者学力評価テスト」を始める。大学の個別試験では、面接や志望理由書など「人が人を選ぶ」入試をする。

 答申案は言う。「試験の点数のみに依拠した『公平性』の観念という桎梏(しっこく)は断ち切らなければならない」

 たしかに、高校生や大学生の学力を担保する新たな仕組みは必要だ。18歳人口が減って「大学全入時代」を迎え、受験を勉強の動機づけにすることが難しくなった。学力試験を経ない推薦やAO(アドミッション・オフィス)入試を、入学者確保の手段とする大学も増えている。

 答申案は、こうも訴える。これからの社会では知識を覚えるだけでなく、自ら課題を見つけて解決を探り、多様な人々と協働する力が必要だと。その方向性にうなずく人も多いだろう。

 だが問題は、描いた理念をどう実現するかである。その点で答申案はまだまだ生煮えだ。

 まず入試で見ようとする「主体的に生きる力」「協働する力」などの新しい学力は抽象的なままだ。評価手法の具体的な検討もこれからだ。高校の学習内容を定め、テストの土台となる学習指導要領は、中教審にまだ諮問さえされていない。

 「学力評価テスト」に「合教科・科目型」「総合型」の問題を盛り込むともいうが、その問題例は示されていない。

 「基礎学力テスト」は高校2、3年生に年2回ほど行うというが、部活動や行事への影響はどうなるのか。

 個別試験も、一般入試だけで5万人も受ける大学で、どこまで記述や面接など、きめ細かな選抜ができるのか。選抜の基準をどうつくるかも問われる。運営の負担も並大抵ではない。

 改革は、高校や大学の協力なしには進まない。子どもや保護者を不安にさせないよう、具体案を示し、実現可能な制度設計をする必要がある。

 入試は過熱する競争の弊害が問題になり、日本の教育問題の焦点であり続けた。特に大学入試は小学校からの教育のありようを一変させる影響力を持つ。

 国は専門家会議を設け、答申後1年をめどに具体化するという。拙速ではない議論を望む。