無敵な姉さんが実は変態的なブラコンでした (ガスキン)
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第一話 彼女がブラコンになった理由
私は生まれた時から特別だった。高い魔力を持つ両親から生まれた私は、その両親を超える魔力と、世界にある六属性の魔法の内、四つを扱える才能を持っていた。
「天才だ!」
「この子は我が国の誇りだ!」
周りの大人達はみんな私を褒めた。けれど、それは私ではなく、私の魔法の才能を褒めているだけで、私自身を褒めてはいないと幼いながらもわかっていた。だから、嬉しくは無かった。
それに、褒めるのは大人だけ。私の力を見た同じくらいの年の子ども達はみんな私を怖がって近づかなかった。
「志乃ちゃん怖い・・・」
「近づいたら危ないよ」
いつしか、恐れは暴力に変わり、イジメとなって返って来た。無視され、髪をつかまれ、叩かれ、蹴られた。魔法は使われなかったけど、そんなのは何の慰めにもならなかった。
「痛いよ・・・止めてよぉ・・・」
何度も止めてと言った。けれど、一度始まったいじめは簡単には止まらなかった。そんな私を守ってくれたのは、両親と、その親友の夫婦の四人だけだった。
「ウチの志乃を泣かせたのはどいつじゃーーーい!」
「待て慎二! 俺にもやらせろ! 志乃ちゃんは俺にとっても娘と同じ! その子を泣かせるなんざ神が許しても俺が許さん!」
私はそんな四人が大好きだった。お父さんやお母さん達と一緒にいる時だけが幸せだった。
けれど、その親友夫婦はある日事故でこの世を去った。その時の両親の泣き叫ぶ姿は今でも記憶に焼きついている。
・・・その子が現れたのはそのすぐ後だった。
「志乃。この子は広人君。今日から家に住む事になった新しい家族だ」
玄関先でその子はお母さんの後ろに隠れていた。お母さんが優しく微笑みながらその子を私の前に立たせる。
「志乃。あなたからご挨拶しなさい」
お母さんに言われ、私は自己紹介した。
「黒川 志乃です。えっと・・・よろしくね」
私が手を差し出すと、男の子は慌てて名乗りを返して来た。
「さ、佐藤 広人です」
佐藤・・・それは、亡くなった親友夫婦と同じ苗字だった。
「はい、よく出来ました」
お母さんが男の子の頭を優しく撫でた。嬉しそうに笑みを見せる男の子を見て、何故か私も嬉しくなった。
「志乃」
お父さんが小声で話しかけて来た。
「お前も気づいてるだろうが・・・。この子はあいつらの子どもだ」
あいつら・・・きっと親友夫婦の事だ。お父さんは私にだけ真実を教えてくれた。
両親が死んだなんて知ったら、きっと生きていけない。だから、それを受け止められる年齢になるまで秘密にしておこうというらしい。
「広人君はあまり体が丈夫じゃなくてな。今までお前に会わせてやることが出来なかったんだが、まさかこんな出会いになるとはな・・・」
「そうだったんだ」
「いいか志乃。親友の忘れ形見は絶対に守らなければならない。すぐには無理かもしれないが、あの子を本当の家族として扱ってくれ。お父さんの一生のお願いだ」
お父さんの顔は真剣そのものだった。だから私は同じように真剣な顔で頷いた。
「ありがとう。さすが俺の娘だ」
お父さんの大きな手が私の頭を優しく撫でた。もし、こんなに優しいお父さんとお母さんが死んじゃったら・・・きっと私だって生きていけない。だから、あの子・・・広人君をちゃんと家族として迎えてあげなきゃ。
「さあさあ、そろそろリビングへ行きましょう。今日は広人君の為に美味しいご飯を作らないとね」
「お、それは楽しみだな!」
お父さんとお母さんが仲睦まじくリビングへ入って行った。
「私達も行こう」
「うん、お姉ちゃん」
「え?」
「え、えっと・・・そう呼んだら喜んでくれるって。・・・駄目?」
「う、ううん! いいよ」
「よかった」
思えば、この時から私はこの子に惹かれていたのかもしれない・・・。
広人は私によく懐いてくれた。どこに行ってもついて来るし、暇さえあれば一緒に遊んでいた。それに何より、広人は私の魔力を怖がらないでくれた。
「お姉ちゃん凄い! 僕じゃそんな事出来ないよ!」
一度だけ魔法を見せた時、広人は目をキラキラさせて私に抱きついて来た。大人達と違い、魔法じゃなく、私自身を褒めてくれた。
けど・・・私が広人を意識するようになったのはそれからもう少し経った頃だった。
その日も、私は数人からいじめられていた。
「化物がいたぞ!」
「みんなでやっつけろ!」
そこへ、広人が現れた。
「止めろ! お姉ちゃんをいじめるな!」
「何だよお前。俺達は今、化物退治をしてるんだぞ」
「僕のお姉ちゃんは化物じゃない!」
広人はリーダー格の男の子に掴みかかった。けれど、体格も違うし、多勢に無勢。広人は滅茶苦茶に殴られ、蹴られ、全身ボロボロになった。
「止めて! 私を叩いていいから広人は叩かないで!」
私が必死に止めようとしても、いじめっ子達は広人を傷つけ続けた。ようやく終わった頃には広人は地面に横たわっていた。
「はあ・・・はあ・・・・まいったか」
「・・・・まだだ」
それでも、広人は立った。いつものような優しい目じゃなく、私が見た事ない鋭い目で
いじめっ子達を睨みつける。
「な、なんなんだよお前・・・」
「お姉ちゃんは化物じゃない・・・謝れ・・・謝れよ!」
「ひっ・・・!?」
広人の形相と怒鳴りに、いじめっ子達は慌てて逃げていった。広人がその場に崩れ落ちる。
「広人!」
「お姉ちゃん、怪我は無い?」
「私より広人の方が!」
私はすぐに魔法を唱えた。
「生命の源たる水よ。その恵みを以て彼の者に癒しを。ウォーターヒール!」
宙に描かれた魔法陣から透き通った水が出現し、広人の傷を包む。直後、傷が瞬く間に塞がった。
「これでどう?」
「うん。どこも痛くないよ。ありがとうお姉ちゃん」
「よかったぁ」
ホッとしたのも束の間、私はすぐに悲しくなった。
「・・・・ごめんね広人。私の所為で・・・」
「お姉ちゃんは何も悪くない。悪いのはお姉ちゃんを化物なんて呼んだあいつらだもん」
私を励まそうと笑顔でそう言う広人に、私は嬉しさを感じた。それと同時に、今まで感じた事のない不思議な気持ちになった。
いや、本当はずっと前からそうだった。私に懐いてくれた広人。私の魔力を怖がらないでくれた広人。そして・・・傷だらけになってまで私を守ってくれた広人。
トクン・・・。
一歳年下の可愛い義弟・・・それが異性に変わった瞬間だった。
「もしまたお姉ちゃんを化物って呼ぶヤツがいたら僕が許さない。お姉ちゃんは僕が守ってあげるからね!」
「・・・うん!」
広人負けないくらい、私も満面の笑みを浮かべた。
「ねえ広人」
「何、お姉ちゃ―――」
チュ♪
私は広人の頬にキスした。これが私のファーストキスだった。
「お、お姉ちゃん!?」
「えへへ、広人大好き♪」
・・・・・・・
・・・・・
・・・
それから数年後。高校二年生になった私は・・・
「おはよう姉さん」
「おはよう広人! さあ、今日もいっぱいラブラブしましょうね!」
自他共に認めるブラコンへと成長していた。けれども、私はこのまま姉で終わるつもりは無い。卒業までに広人と結ばれて(もちろん体も)、最終的には結婚するのが目標・・・いや、決定事項だ。
「お父さんとお母さんが海外に出て、広人が同じ高校に入学した今年こそ、本当のスタートよ! 広人の心と体は私が手に入れてみせる!!」
こうして、私と広人の愛の性活・・・もとい生活が始まるのだった。