エボラ防衛のハードル
「偽陰性」と「自己申告」

エボラ疑いの発熱男性 検査結果をどう見るか


村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ライター。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機構)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。

【緊急特集】エボラ出血熱

(画像:iStock)

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エボラ出血熱流行拡大を受け、国立国際医療研究センターの視察を行った塩崎恭久厚生労働相(10月22日、時事)

 10月27日午後4時ごろ、羽田空港の検疫でリベリア帰りのジャーナリスト(45歳)に37.8度の発熱が認められ、エボラ出血熱感染の疑いで隔離されたとの報道があった。現段階では、ジャーナリストは日本人とも外国人ともいわれ、情報が錯綜している。

 エボラ出血熱の初期症状は発熱だけ。数日後に下痢や嘔吐(おうと)といった症状が出るころ、急激に感染力が高まる。現段階の発表によれば、症状は熱だけなので、仮に感染していたとしても、飛行機の同乗者が感染を心配する必要はまずない。空港に居合わせた人ももちろん心配無用だ。

 現在、国立感染症研究所(感染研)に検体が送られ検査が進められているというが、ここで行うPCRという検査で陽性が出れば、エボラとの確定診断がつく。一方、エボラの発症(通常は発熱)から72時間以内は、血液中のウイルス量が少なく、感染していても陰性とでる「偽陰性」が多いことが知られている。シエラレオネにある「国境なき医師団」のエボラ患者管理センターからの報告では、発症直後にPCRの検査を実施した14例中8例が偽陰性であったという(注:文末参照)。そのことを考えれば、最初の検査で陰性であっても、72時間は引き続き隔離し、検査を繰り返す必要がある。

「まずは保健所」の意味

 アメリカでは感染しているが症状の無い「潜伏期」のリベリア人患者が、検疫をすり抜けて入国し、国内で発症した。今回、ジャーナリストは機内で発熱し、検疫で発見でききただけ、日本はさいわいだったと言える。今後も、検疫を通ってから発熱する症例や、機内で発熱する症例が出てくるだろうが、改めて気を付けたいのは渡航歴や接触歴などの情報が自己申告に基づかざるを得ないこと。アメリカで発症したリベリア人男性は最初に訪れた病院で、最近リベリアへ帰国したことも、そこで患者との接触があったことも申告しなかった。今日、羽田でエボラ疑いとされたジャーナリストの自己申告によれば「現地での感染者との接触は無い」。しかし、欧米でもこれまでに数名のジャーナリストの感染者がいる。「接触」の解釈と申告には個人差があるので、今後も自己申告の接触歴や渡航歴の扱いには注意する必要がある。

 感染研の10月16日の速報によれば、沖縄でも先日、60歳の男性がリベリアから帰国後10日してから発熱し、最寄りの医療機関を受診している。検査の結果、マラリアと判明したが、診断がつくまでの間、医療従事者たちは防護服を身に着けていなかったとして、院内感染対策の甘さが指摘された。27日夜、塩崎恭久厚生労働相は、流行地への渡航歴のある人が発熱した場合には、通常の医療機関を受診せず、まずは保健所に報告することを呼びかけた。

 エボラ出血熱の潜伏期間は長い。帰国直後の発熱であればエボラかもとすぐさま不安になるかもしれないが、時間が経てば、体調不良と渡航歴とを関連づけて考えられないことも多い。また、実際、帰国してから別の理由で発熱することの方が圧倒的に多く、受診してもきかれなければ「アフリカに行っていた」とは答えないこともあるだろう。エボラの潜伏期間は最長で21日。帰国後21日以内に始まった発熱はエボラの可能性があることを心にとめて、すみやかに報告してほしい。

(注)G Fitzpatrick et al., Describing readmission to an Ebola case management Centre(CMC), Sierra Leone, 2014, Eurosurveillance, Volume 19, Issue 40, 09 October 2014

  
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村中璃子(むらなか・りこ)

医師・ライター。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機構)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。

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