[写真]10月9日に開かれたG20ではドイツに財政支出拡大を促す声も聞かれたが、ショイブレ財務相は財政再建が最優先との立場で耳を貸す気配はない(G20にて。2014年10月10日撮影、ロイター/アフロ)

 このところ世界経済に対する減速懸念が高まっていますが、これまで順調だったドイツ経済に陰りが見えていることが市場心理をさらに悪化させています。ドイツはなぜ今まで好調な経済を維持することできたのでしょうか。またこのタイミングでドイツ経済が減速しているのはどうしてなのでしょうか。

 IMF(国際通貨基金)は2014年10月に最新の世界経済見通しを発表したのですが、2014年における世界の実質GDP成長率はプラス3.3%となり、前回見通しから0.1ポイント引き下げられました。特にこれまで絶好調であったドイツの見通しが0.5ポイント引き下げられてプラス1.4%になったのが目を引きました。

 ドイツは日本と同じように製造業を基盤とする国です。ドイツ経済における個人消費の割合は日本より低く、輸出への依存度が高いことで知られています。ドイツは米国とは少しやり方は異なりますが、基本的には徹底した競争主義を採用しており、製造業は高付加価値分野へのシフトが進んでいます。このため、日本よりも製造業の利益率が高く、これがドイツ経済の原動力となっています。

 もっともドイツが製造業で成功しているのはEU(欧州連合)のおかげという見方も有力です。ドイツは東欧など近隣の欧州諸国から安価な労働力や材料を調達し、ユーロのメリットを最大限生かして、欧州全域に為替リスクを負わずに製品を輸出することができます。

 また金融ビジネスも非常に発達しており、南欧諸国に資金を貸し付け、その資金で自国製品を買ってもらうという戦略も採用することが可能です。もともとEUは政治的にドイツを封じ込めるために立案されたものですが、ドイツ経済にとって大きなメリットをもたらす結果となりました。

 米国の株価が大きく下落したことから、欧州経済の不振がクローズアップされていますが、南欧を中心に欧州経済はずっと低迷しており、この状況は今に始まったことではありません。しかし、景気低迷が長引いてきたことから、欧州全域に輸出することで好調さを維持してきたドイツ経済にも影響が出始めたというわけです。

 ドイツは、好調な経済を維持する一方、頑ななまでの緊縮財政主義の国としても知られています。ドイツは法律(厳密にはドイツ基本法=憲法)で財政規律を義務付けており、来年度の新規国債発行はゼロとなる見通しです。

 10月9日にワシントンで開かれたG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)では、ドイツに財政支出拡大を促す声も聞かれましたが、ドイツのショイブレ財務相は、財政再建が最優先であるとの立場で、まったく耳を貸す気配はありません。今後、よほど大きな成長率見通しの引き下げがない限りは、ドイツは現状維持を続ける可能性が高いでしょう。

(大和田 崇/The Capital Tribune Japan編集長)

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