Updated: Tokyo  2014/10/28 06:20  |  New York  2014/10/27 17:20  |  London  2014/10/27 21:20
 

日銀「年度後半の物価上昇」撤回検討、15年度2%達成は維持

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  10月28日(ブルームバーグ):日本銀行は31日に公表する経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、消費増税の影響を除いたベースでみた消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の前年比が「今年度後半から再び上昇傾向をたどる」という見通しを取り下げることを検討する。

関係者への取材によると、短期的な物価上昇見通しの撤回は、原油価格が6月のピークから25%下落し、これによる物価下押し圧力がこの間に進んだ円安(6%)による押し上げ効果を上回ることが主因。今年度と来年度の物価見通しを小幅引き下げるかどうかも議論する。

原油価格下落は日本経済にとってプラスであり、中長期的には物価の押し上げ要因になることから、「2014年度から16年度までの見通し期間の中盤頃に、2%程度に達する可能性が高い」との見通しは維持する。もっとも、その前段で繰り返してきた「今年度後半から再び上昇傾向をたどる」という見通しを撤回することで、2年で2%の公約に疑問符が付き、追加緩和観測を一段と強める可能性もある。

黒田東彦総裁は17日、都内で講演し、コアCPI前年比(増税の影響除く、以下同じ)は「しばらくの間1%台前半で推移した後、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、14年度から16年度までの見通し期間の中盤頃に、物価安定の目標である2%程度に達する可能性が高い」と述べ、4月の展望リポート以来一貫して示してきた見通しを繰り返した。

しかし、5月に1.4%まで上昇したコアCPI前年比は8月に1.1%まで鈍化。原油価格の急落で9月は一段の伸び率縮小(ブルームバーグ調査の予想中央値は1.0%)が見込まれている。黒田総裁は7月15日の会見で「1%台を割るような可能性はない」と言明したが、1%割れの可能性を指摘する向きも増えている。

原油下落が日銀シナリオの下振れリスクに

JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは27日のリポートで、消費税増税後の日本経済に対する悲観的な見方が高まり、原油価格の低下もあって、コアCPI前年比の「1%割れがほぼ確実になってきた」と指摘する。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは「原油価格の下落、それを受けた石油製品の価格上昇鈍化により、10月以降のコアCPIが一段と鈍化する可能性が出てきた」と指摘。「15年度を中心とする期間に物価安定の目標である2%に近づくとする日銀シナリオの下振れリスクを一段と高める」という。

日銀の7月中間評価の見通し(委員の中央値)は、実質成長率が14年度1.0%増、15年度1.5%増、16年度1.3%増、消費増税の影響除くコア消費者物価は14年度1.3%、15年度1.9%、16年度2.1%のそれぞれ上昇。4-6月の成長率の落ち込みと長引く消費増税の影響、外需の停滞から、14年度の成長率は大幅に下方修正されるとの見方が強い。

小幅下方修正なら追加緩和必要なし

菅野氏は「原油価格の低下や成長率の下振れを受けて、14年度と15年度のコアCPI見通しも全く下方修正しないわけにはいかないだろう」と指摘。下方修正が大きいと、「必要なら適切な調整を行う」という約束と齟齬(そご)を来すため、15年度は1.7%程度にやや下方修正されるだけで、15年度中に2%に達するとの見方は維持されるとみる。

シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストも24日のリポートで、展望リポートでは「15年度のコアCPI予想は現在の1.9%から1.8%へ、0.1ポイントの下方修正にとどまる」と予想。その上で「経済の好循環が続く下で、15年度中に2%のインフレ目標が達成されるという楽観的なシナリオが維持される」とみている。

ブルームバーグ・ニュースがエコノミスト32人を対象に10月20日から27日にかけて行った調査で、3人が31日の金融政策決定会合で日銀が追加緩和に踏み切ると予想した。追加緩和の予想時期は「年内」が6人(19%)と前回(24%)から減少したが、「年明け以降」は16人(50%)と前回(42%)から増加。一方で、「追加緩和なし」は10人(31%)と前回(33%)から減少した。

公約通り追加緩和を行うべき

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎シニアエコノミストは原油安が「物価下落圧力の高まりを通じて日銀の物価シナリオにマイナスの影響を及ぼすことになるだろう」と指摘。「会合と同日に発表される9月のコアCPIが1%を割る可能性があるなど、日銀の物価目標から逸脱する動きが強まっており、公約通り追加緩和を行うべきタイミングにある」という。

キャピタル・エコノミクスの日本担当エコノミスト、マーセル・ティエリアント氏(シンガポール在勤)は「原油安がインフレ率を引き下げるのは一時的であり、中期的には成長率を高める」としながらも、同時に「期待インフレ率を引き上げることは難しくなる」と指摘。「日銀は15年度の2%達成を固く約束しているが、原油安が続くほど目標達成は危うくなるので、日銀は追加緩和に踏み切るべきだ」という。

東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「10月下旬に米国に出張したが、黒田総裁の説明に対する批判が彼の地の投資家の間でかなり高まっているのが感じられた。CPIの上昇に暗雲が漂っているのに、『問題はない』と言い続けて追加緩和策を行わない理由が理解できないという声が増えている」と指摘。

その上で「物価を押し上げるためなら何でもするという『マネタリー・シャーマン(金融政策の呪術師)』の役を演じ続けることの限界が来ている」としている。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 藤岡 徹 tfujioka1@bloomberg.net

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 藤岡 徹 tfujioka1@bloomberg.net記事についてのエディターへの問い合わせ先:Brett Miller bmiller30@bloomberg.net淡路毅, 中川寛之

更新日時: 2014/10/28 00:01 JST

 
 
 
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