[写真]地活性化の施策にもかかわらず、地方の現状は厳しい(写真はイメージ。 木下斉氏提供)

 安倍政権は、今国会を「地方創生国会」と位置づけ、国会では地方活性化に向けた政策についての議論が始まった。「地方創生」という考え方に大きな影響を与えたとされているのが、「2040年までに896の自治体が消滅する」と予測した日本創生会議(増田寛也座長)の発表である。これに対し、数々の地方都市の街づくりのプロジェクトにかかわる、木下斉(きのした・ひとし)氏は、「地方消滅という言葉が一人歩きしている」と警鐘をならす。地方が抱える課題とは何か。木下氏に聞いた。


 元総務大臣の増田寛也氏が代表を務める、日本創生会議が「地方消滅」を唱えたことで、「人口減少社会」、そして「消滅可能性自治体」の議論が大きくクローズアップされています。そして、安倍政権は、今国会を「地方創生国会」と位置づけ、地方活性化に向けた政策について議論するとしています。

 大筋として「地方が消滅する可能性がある」という話は自体は間違っていないのです。しかし、一連の「地方消滅」の議論では、「地方そのものの衰退問題」と、「地方自治体の経営破綻の問題」、さらに「国単位での少子化問題」、この3つが全て混在して取り扱われてしまっています。しかも、東京から地方への人口移動を中心に据えれば、地方も活性化、地方自治体も存続、さらに少子化まで解消するという話になっています。

 そんなうまい話はないわけです。

1 . 消えるのは、「地方そのもの」ではない

[写真]地活性化の施策にもかかわらず、地方の現状は厳しい(写真はイメージ。 木下斉氏提供)

 まず「地方消滅」という表現には大きな問題があります。地方消滅と言えば、地方そのものが消滅してしまうようなショッキングな印象を与えますが、正確には、増田氏は、人口減少により「今の単位の地方自治体が、今のまま経営していたら潰れる」ということを唱えているに過ぎません。あくまで人口減少が続き、半減したら、その自治体は今のままでは立ち行かないから消滅してしまうと言っているわけで、その地方から人そのものが消し飛んでしまうなんてことは書かれていません。つまり、地方消滅ではなく、「地方自治体の破綻」を彼なりの人口統計分析から警告を発したにすぎません。

 しかし、この「地方消滅」という言葉はマジックワードとなってひとり歩きし、今の「地方創生」論議の発端となり、その内容を規定しています。

 ここに問題があります。まず、「自治体消滅=地方消滅」というように、地方自治体と地方を同一視していることが問題です。あくまで自治体はその地域における行政のサービス単位であり、その単位は常に組み替えを含めて環境に対応して再編され、人々の生活を支えていくのが基本。人々は、自治体が人々の生活を支えるという「機能」のために納税をしているのです。自治体のために地方に住んでいるわけでも、自治体を支えるために納税しているわけでもありません。

 もう一つの問題は、「地方が消滅してしまう」という危機感を煽り、少子化問題や、地方自治体の経営問題などを全て人口問題に置き換えてしまうこと。合計特殊出生率を急激にあげ、さらに大都市から地方へ人が移動すれば、地方問題が解決するといった議論になっています。人口統計だけを軸にした「地方消滅」論は、地方が抱える様々な問題を棚上げし、本質から目を背けさせてしまうことにも繋がりかねないミスリードを引き起こす可能性があります。

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