「起業家に定年はない」ミクシィに起業売却した平野未来さんが語るスタートアップからイグジットまでのリアル

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拠点を置く海外からSkypeでインタビューに答える平野さん

ITベンチャー「シナモン」の代表 平野未来さんは、東京大学在籍中に自身の研究がIPAの育成事業「未踏ソフトウェア創造事業」に採択されたエンジニアでもあり、自身が学生のときに創業した技術ベンチャー企業「ネイキッドテクノロジー」を2011年にミクシィに売却した経験を持つ連続起業家でもあります。

*ネイキッドテクノロジー…モバイルアプリをクラウド上で管理するプラットフォーム「Colors」などのサービスを有する技術ベンチャー企業。現在はM&Aコンサルティングや事業投資、海外進出支援も手がける。

そんな彼女率いるシナモンは、セルフィーメッセンジャーアプリ「Koala(コアラ)」を提供しています。セルフィー(自分撮り)で写真を撮影して一言メッセージを入れて送り合うことができます。

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平野さんは現在、グローバル本社を置くシンガポール、開発拠点のベトナム、マーケティング拠点の台湾などを飛び回り、各国のチームと連携しながら、アジアでのサービス拡大を図っています。そのためにまずは年内から2015年の早い時期にかけて、日本・台湾・タイにも進出する計画があります。

今年2月にはサイバーエージェント・ベンチャーズTBSイノベーション・パートナーズインキュベイトファンドGolden Gate Venturesから1億5000万円の資金調達を行いました。

平野さんのように自分も起業したいという人は多いですが、実際に行動に移せる人はほんのわずかです。そこで今回は、平野さんに自身の「起業観」について語っていただきました。

いろんなことをやろうとせず、一番大切なことにフォーカスする

—— 起業したいと考えるひとの多くが思い留まってしまうのはなぜでしょうか。

平野:初めからいろんなことを一遍にやろうとしてしまうからではないでしょうか。お金を稼ぎたい、海外に進出したい、まわりのひとにかっこいいと思われることをやりたい。どうすれば実現できるだろうと考えるうちに、自分にはとても無理なのではと思いはじめ、やめてしまうひとが多いように感じます。

そのときの自分にとって一番大切なことを決めましょう。まずはそれにフォーカスし、やり遂げることです。私が今回起業したときは、サービスをグローバルに拡大する起点として「アジアでビジネスをする」ことを第一に考えていました。一つ目のスタートアップ(ネイキッドテクノロジー)のときは、グローバルに事業を展開したいという思いはあったものの全く実現できませんでした。そのため、シナモンでは絶対にグローバルに行きたかった。

また、大学生の頃にアジアでバックパッカーをしていたこともあり、アジアの文化や日本との差分を理解しやすいと感じていたので、C(Customer)向けサービスをするのであれば絶対アジアだな、と。また、これから伸びていく市場はアジアですから。お金などは二の次でした。そのおかげで、現地でチームを作る難しさなど、アジアならではの苦労も受け入れることができました。

やる気のリミットである二週間で、PDCAを回す

—— 一番大切なことを決めても、それをやり遂げるまでに冷めてしまうこともありそうです。

自分のテンションは自分で上げるしかありません。だけど、残念ながら一度上がったとしてもそんなに長くは持ちません。私もそう。ですから、まず直近の二週間のうちにやることを決め、やってみましょう。会社を作る、社員を雇う、なんでもいい。二週間のうちに、かならずアウトプットを出しましょう。

もしビジネスプランを書いてみて、違うと思ったらまた違うビジネスプランを書けば良い。そうやって二週間でアウトプットを出すサイクルを繰り返すうちに、自分の頭が回りはじめ、リズムが作られていきます。私にとって最初のアウトプットは、国外に出てみることでした。すると、自然と日本に帰りたくなくなっていました。

噓でもいいから「自分はこんなビジネスで起業してみたい」と他のひとに話してみるのもいいです。たとえ60%ぐらいしかそう思っていなかったとしても、誰かにアポを取ってアイデアをぶつけてみる。そうするとそのアイディアがどんどん洗練されていきます。他のひとに話すためにはある程度ロジックが通っていないといけませんから、自分で考えるようになります。自分の中に違和感がある場合はうまく話せませんから、自分にフィットしなかったアイディアは自然に脱落していくんです。また、話した相手から思わぬフィードバックが返ってきて、それについて考えるうちにさらに磨かれてもいきますね。いつのまにか「このビジネスをするのは自分しかない、今やろう!」となっていますよ。

自分なりの判断基準で100点を目指す

—— ビジネスアイデアに自信が持てずに諦めることもありそうです。

仮にいくつかアイデアがあるとして、どれで勝負をかけるのかを決めるためには、自分なりの判断基準を設けて、それらを評価するのがよいでしょう。例えば、C(Customer)向けなのかB(Business)向けなのか、黒字化するまでの期間が短いのがいいか、長くてもスケールしやすいのがいいのか、資金調達しやすいのがいいかなど。

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私がKoalaのアイデアに決めたのは、「ユーザーに週一、月一ではなく毎日使ってもらえるものか」「一ヶ月で飽きるサービスではなく長期間使ってもらえるものか」「グローバルで使ってもらえるものか」「スケールするのか」といった基準を設けていたからです。

そもそも誰が評価しても100点のアイデアなんてありません。ですから、まずは自分の100点を満たすことにこだわりましょう。そして頭にアイデアが浮かんだら、ターゲットユーザーに聞いてみる。10人中3人がいいねと言ってくれて、1人でも自分と同じくらいのパッションを感じてくれたら十分です。

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ネイキッドテクノロジー時代の平野さん(左から2番目)

だけど、「自分なりの判断基準」なんて言いましたけど、自分で自分のことを理解するのが一番難しいんですよね。初めて創業した会社であるネイキッドテクノロジーのときは、今考えると自分自身のことがまだ分かっていなかったと思います。やってみないとそれが本当に自分のやりたかったことだったかなんて分かりません。まわりの人に言うなり、実際にやってみたりして、「自分なりの判断基準」をより正確にしていけば良いと思います。

これから起業するひとへのアドバイスは?

もっとも大事なのはパートナー選びです。スタートアップという感情のジェットコースターの中をそのパートナーと四六時中行動を共にすることになるわけです。パートナーとコンフリクトが起きることだってあるし、相手に不満が出ることだってある。そんなときに、相手の判断を信頼して、正直に自分の考えを伝えられて、相手を幸せにするために自分の人生をコミットしたいと思えるひとでないと乗り越えることが難しいんじゃないかと思います。

また、起業するのに最適な人数は2人だと思います。3人でも多い。2人だと考えていることのすり合わせや、自分の正直な考えをさらけ出すのがしやすい。3人になると、それがいきなり難しくなります。それは、たとえ3人だったとしてもその中での人間関係が難しくなるからです。3人だと1対1の関係でなくなりますよね。AとBは仲がいいけど、AとC、BとCは関係がそこまで濃くないということはよく起こります。すると、Cのひとが自分が仲間外れになっていると感じやすい。そうやってお互いの本当の気持ちが分からなくなると、物事を進めていくことが難しくなります。

—— でもそれだと、会社は大きくなっていきませんよね。

そうですね。もし会社を大きくするなら、関係者が増える前にコアメンバーが誰なのか、やりたいことは何なのかをフィックスさせ、それをまわりのひとにも意識させた方がいいと思います。

起業家に定年はない。平野氏の今後の展望は?

—— そんな難しいことがあっても起業家であり続けたいですか。

スタートアップは精神的にきついときもありますけど、それをやっていないといられないというか、もはや病気なんですよ。起業家として成功してエンジェル投資家になるというキャリアもありますけど、私はずっと起業家でありたいです。

起業家に定年ってないですから。年を取れば若いひとの気持ちが分からなくなることはあると思いますが、起業家は経験を積めば積むほど価値は上がっていく職業だからです。起業家はまわりを巻き込んで自分の夢を実現していける、という最高の職業だと思います。