落語を世界に! 桂三輝さんの奮闘10月27日 17時18分
日本の伝統芸能、落語を世界に広げようと、カナダ人落語家が今、ワールドツアーに挑戦しています。人気落語家、桂文枝さんの弟子、桂三輝(サンシャイン)さん(44)、上方落語界で初めての外国人落語家です。
日本語だけでなく、母国語の英語、フランス語や、スロベニア語、の4カ国語で落語を演じています。ことばの遊びや話の「間」といった、繊細なことばの使い方を楽しむ落語は、外国での知名度が、歌舞伎や能といった、ほかの伝統芸能に及んでいませんでした。
しかし、今、人気落語家の下で本格的な修行をした三輝さんが、世界での落語の知名度を押し上げようとしています。
(科学文化部・添徹太郎記者)
上方落語会初!外国人落語家
桂三輝さんはカナダ・トロントの出身。
大学卒業後、ミュージカルの脚本を書くなど、劇作家として活躍していましたが、日本の伝統的な演劇の歌舞伎や能を勉強しようと、15年前に来日しました。
ところが、すっかり心を奪われたのが「落語」でした。
ミュージカルと落語の違いについて、三輝さんは、「ミュージカルの世界は『見てください。私はすばらしい!』というふうにやらないと、なぜ、みんなお金払って見に来るのか分からないという考え方ですが、落語は『皆様お忙しいなか、お越しいただいてありがとうございました。忙しいといっても本当に忙しい人は来てないと思います』というように、頭を下げて腰の低い冗談を言うんです。そこから落語のユーモアが生まれてくるんです」と語ります。
師匠・文枝さんの苦い思いを背負って
師匠は六代桂文枝さん。弟子入りして修行を重ね、3年後につけてもらったのは、「三輝」と書いてサンシャインと読む名前です。
文枝さんは、「三に輝く、太陽が昇るように、世界に笑いという明かりをともしてほしいと考えて付けました。世界を舞台に活躍する落語家になってほしい」と名前に込めた思いを語ります。
文枝さん自身、フランス・パリやアメリカ・ニューヨーク、ワシントンなど、海外で落語の公演を重ねてきましたが、肝心の話は字幕や、同時通訳で伝えるしかありませんでした。
「海外での公演で、すごいことばの壁を感じたんですね。三輝だったらカナダ人ですので、フランス語も英語も流ちょうにしゃべれる。どういうふうに海外に落語を伝えてくれるのかなという興味が沸きました。」(桂文枝さん)。
三輝さんは、師匠の思いを背負って、外国語での落語に挑むことになったのです。
世界で笑える落語にするには?
三輝さんは、落語をまず、自分で日本語から英語に翻訳します。どうすれば、世界で笑えるような英語に翻訳できるのか。
初めのうち、三輝さんは、固有名詞や話の内容の一部を、海外の人になじみの深い言葉に置き換えればいいのではと考えていました。たとえば、桂文枝さんの創作落語、「宿題」。
子どもに宿題を教えてほしいとせがまれた父親が悪戦苦闘する話です。
この落語の中に、「つるかめ算」が出てきます。
日本人なら誰でも知っているつるかめ算ですが、「ツル」は海外であまりなじみのない動物なので、三輝さんは文枝さんとも相談して、「ツル」を「フラミンゴ」に変えて演じましたが、観客の反応はいまひとつでした。
「見ている人は、おもしろい話も聞きたいけども、日本らしさも求めている。落語は300年以上かけて、どうやったら話がおもしろく聞こえるかを磨いてきた伝統芸能です。相手が海外の人だからといって、笑わせるためにわざわざ内容を変える必要はないと気づいたんです」(桂三輝さん)。
一方、工夫が必要なのは語り口です。
例えば登場人物がとぼけた調子で「なんぼいわれてもな、分かられへんのやから」と話すところを、ただ英語にしても、とぼけたおもしろさや、関西弁の雰囲気は伝わりません。
ことばの感覚を大事にして、わざとどもったり、つっかえたりして、日本語で伝える話の空気を再現するのが大事だと三輝さんは言います。
英語と日本語、両方の言葉のセンスを持つ三輝さんでなければできない技です。
夢はロングラン公演
海外で落語の公演に来る人は、日本の文化に興味があったり、日本語を勉強したりしている人が多いそうですが、三輝さんの公演には落語を全く知らない人も連日訪れたということです。
ちなみに外国で人気の演目は、子どもが長生きするように、長い名前を付けた結果、起きる騒動を描く「寿限無」、文枝さんの創作落語の「宿題」、それに、死んだ男が生まれ変わりの希望を聞く係に、何に生まれ変わりたいかを聞かれる「生まれ変わり」だったということです。
三輝さんの次の目標は、ロンドンやニューヨークで、落語の寄席を開き、ロングラン公演を実現することです。
「落語という単語が、相撲とか、寿司とか、カラオケみたいに、英語になったらいいですね。『Let’s go see Rakugo tonight』なんて会話が、ロンドンとかニューヨークとか、世界各地でされていたら、最高に幸せです」(桂三輝さん)。