セウォル号沈没:「日韓共通の問題」…韓国研究者が説く
毎日新聞 2014年10月27日 16時00分(最終更新 10月27日 16時17分)
◇韓国で初めて事件題材の「降りられない船〜」の邦訳本
韓国・セウォル号の沈没事故から半年。事故から3カ月後に韓国で緊急出版された経済学者、ウ・ソックンさん(46)の「降りられない船 セウォル号沈没事故からみた韓国」(クオン、1620円)が日本で刊行された。韓国で初めて事件を題材に書かれた本の邦訳。ウさんは「今や国全体がセウォル号のようになった」と話す。
なぜ多くの高校生が犠牲になったのか。格安航空・高速鉄道の発達や石油の高騰を背景にした価格競争のなかで、フェリーの修学旅行という需要が掘り起こされたという。過度の民営化で、安全が後回しになったと説く。事故後の政府の対応も「責任回避」のシステム作りに終始していると指摘する。セウォル号は2年前まで日本で別名で就航していた。「船が同じなら、事故は人の問題だろうというのが根本的な問い。胸が痛みます」
自国に厳しい内容だが「事故はどこの国でも起こりうる。日本と韓国は社会構造が似ている。共通の問題として考えてほしい」と述べた。韓国では先日、野外コンサートで観客の転落死傷事故が起きた。引き続きその安全対策が問われている。
ウさんは、ワーキングプアなどをテーマに研究を続け、行きすぎた新自由主義経済に警鐘を鳴らしてきた。今後、日韓の原発についての著書を出す予定。【棚部秀行】
◇セウォル号沈没事故
2014年4月16日、韓国南西部・珍島(チンド)沖で、仁川(インチョン)港から済州(チェジュ)島へ向かっていた客船セウォル号が沈没、294人の犠牲者を出した。修学旅行中だった檀園(ダンウォン)高の高校生5人を含む行方不明者10人の捜索活動が続いている。