性同一性障害:自分偽らない…男から女に、記者から僧侶に
毎日新聞 2014年10月27日 12時18分(最終更新 10月27日 13時04分)
長年、性同一性障害に悩んできたが、阪神大震災(1995年1月)を機に新聞記者から高野山真言宗の僧侶に転身し、性別も変えた人がいる。四国八十八カ所巡りを通して「自分を偽らずに生きていい」と思えるようになったという柴谷宗叔(そうしゅく)さん(60)=和歌山県高野町=だ。2010年に性別適合手術を受けて戸籍上の性別を男性から女性に変更。性的マイノリティーのための駆け込み寺を作ることを目指している。
幼い頃から性別に違和感を抱いていた。大学卒業後、読売新聞大阪本社に入社。「周りに知られると仕事を続けられなくなる」と思い、男性として振る舞い続けた。
旅行で西国三十三カ所の一番札所、青岸渡寺(和歌山県那智勝浦町)に行ったことがきっかけで、四国八十八カ所巡りを始めた。病気や障害、家族の自殺など、さまざまな苦難を乗り越えた巡礼者に出会った。脳性まひの若い女性は「笑顔に励まされる」と同行する人が増加。霊場を開創したとされる弘法大師になぞらえ、「笑顔の大師」と呼ばれていた。
そんな頃、阪神大震災が起きた。当時神戸市東灘区に住んでいたが、発生した1月17日は大阪府内の実家に帰省していた。会社に泊まり込んで仕事を続け、1週間後に自宅に戻ると全壊。東灘区の死者は1471人に上り、自分も捜索対象になっていた。
がれきの中からずたずたになった四国遍路の納経帳を見つけた。その瞬間、「助けてくださってありがとうございます」と弘法大師に手を合わせた。「生かされた恩返しとして、苦しんでいる人の力になりたい」と考えるようになった。
弘法大師について学ぶため03年、高野山大学に入学し、僧侶になろうと決めた。2年後に会社を退職。得度して僧名を与えられた。10年に戸籍上の性別を変えると同時に、高野山真言宗では初めて僧籍簿の性別も変更した。
昨年、高野山真言宗の教えを説くことができる「本山布教師心得」の資格を取得。今年4月には、約10年間の集大成として「江戸初期の四国遍路」(法蔵館発行)をまとめた。高野山開創1200年の来年、本山で説法する。柴谷さんは「社会に合わせれば周囲とのあつれきはなくなるが、自分の中に葛藤が生まれる。それを解決できるのが宗教。人知れず悩んでいる人に寄り添いたい」と話す。【谷田朋美】