なぜ私たちは誤った選択をしてしまうのか? コロンビア大学のSheena Iyengar(シーナ・アイエンガー)教授は、その原因として現代の生活における選択肢の多さを指摘します。「選択」を研究し続けた同氏が、後悔しない決断をするためのコツを語りました。(TEDより)
【スピーカー】
コロンビア大学ビジネススクール教授 Sheena Iyengar(シーナ・アイエンガー) 氏
【動画もぜひご覧ください!】
Sheena Iyengar: “How to make choosing easier”
選択肢の過多という大きな問題
シーナ・アイエンガー氏(以下、アイエンガー):皆さんは通常の1日で、何回の選択をしていると思いますか? では、1週間ではいかがでしょうか?
最近実施された2,000人以上のアメリカ人を対象に行った調査では、私達は1日平均約70回の選択をしていることが明らかになりました。また企業の最高経営責任者(CEO)を対象に、1週間のタスクと、それに関わる選択に費やす時間を追跡調査したところ、通常CEOらは1週間で約139個のタスクをこなしていることが分かりました。
もちろんそれぞれのタスクには、数えきれない数の小さなタスクも出てくることはお分かりかと思います。結果50%の決定は約9分以内に行われていました。そして、決定に1時間以上費やしたケースは、たった12%でした。
皆さん自身について考えてみましょう。選択にかける時間は9分くらいでしょうか? それとも1時間くらいですか? そもそも選択に費やす時間を自分自身でコントロールしていますか?
というわけで本日は、現代社会の大きな問題である「選択肢の過多」についてお話したいと思います。また、この問題に対する解決策もお話ししたいと思います。つきましては、皆さんにいくつか質問があります。私は盲目なので、手を挙げて答えてもらいます(笑)。
これは、カロリー消費をしたい人だけ行ってくださいね。
(会場笑)
それ以外の人達については、質問に対する答えが「はい」の場合は拍手をして下さい。本日の最初の質問です。皆さん、選択過多の問題について、聴講する準備はできていますか?
(会場拍手)
ありがとうございます。私がスタンフォード大学の大学院生時代、Draeger’sという高級スーパーへよく買い物へ行っていました。今では分かりませんが、当時は高級スーパーの1つであったはずです。
そしてこのスーパーへ足を運ぶのは、遊園地に行くような感覚でした。250種類のマスタードとビネガーの取り扱いがあり、果物と野菜も500種類常備、また当時はまだまだ水道水を飲む時代であったにも関わらず、ここではミネラルウォーターも24種類販売していました。私はここへ行くのが大好きでした。
選択肢の多さと商品を購入する割合の関係性
しかしある日、「そういえば、なぜ私は何も買わないのか?」と考えました。この写真をご覧ください、このスーパーのオリーブオイルのセクションです。
75種類のオリーブオイルの中には、鍵付きのケースの中に保管されている1,000歳のオリーブの木から獲れる貴重なものも含まれています。そこである日、この店のマネージャーへ直接質問をしてみることにしました。
「こんなにたくさんの選択肢を店頭に置くことは、売上向上につながっていますか?」と聞いてみると、マネージャーはスーパーにいるカメラをもった、いわゆる「観光客」を指さし、微妙な反応をしました。
そこで、この店のマネージャーと共同で、ある調査をしてみることにしました。実験対象となったのはジャムです。この写真がジャムのコーナーで、全部で348種類のジャムが並んでいます。
まず私たちは、スーパーの入り口付近にジャムの試食コーナーを設置し、調査を開始しました。6種類のジャムと、24種類のジャムを置く場合に分けて、お客さんの反応の違いを2つの視点から観察することにしました。
1つ目は、お客さんは試食コーナーに足を止めて、試食をするかどうか? 結果、24種類を試食として並べた場合、6割の人が足を止め試食をしました。一方6種類の場合はお客さんの4割にとどまりました。
次に、お客さんは実際に試食をした後、ジャムを購入するかどうか観察してみると、まったく別の結果となったのです。24種類のジャムの試食を実際にしたお客さんのうち、3%の人が購入へ至りました。そして6種類のジャムの試食の場合は、試食をしたお客さんのうち30%もの人が購入へ至ったのです。
この結果を簡単に計算するだけで、お客さんの選択肢が6個であった場合の方が、24個あった場合より6倍ジャムを買う傾向にあると言えます。ジャムを買わないという選択肢は、少なくともウエストサイズにとっては良いことでしょう。
選択肢の過多は決断をにぶらせる
自分にとって重要な決断の場合も、興味の有無に関わらず、選択をしないことを選んでいることがわかりました。
さてここで、将来の貯蓄についての調査を紹介します。グゥール・フゥバーマン氏、エミール・カメニカ氏、ウェイ・ジャン氏らと行った、100万人近くのアメリカ人を対象に約650種類のファンドを提供する、確定拠出年金についての調査です。
調査目的は、たくさんのオプションを提供することが、人々のファンド加入へつながるかどうかです。結果として、おおよその相関性が見られました。しかし、約657個あるプランの中に、約2~59種類のファンドの利用が可能であったのですが、ある程度の数を超えると、加入率は低くなったのです。
極端な例に注目してみましょう。2種類のファンドが提供された際、70%ほどの加入率でした。理想的にはもう少し高い参加率でありたいところですが、対して60種類の提供があった場合、この数字はさらに60%台まで下がったのです。
すなわち、たくさんの選択がある場合、加入したいと思っていても、選択肢がありすぎることで、実際の決定に対してはマイナスに影響することがわかりました。
ファンドや株を購入すると決定した場合でも、選択肢が多くある場合はそれ自体を避ける傾向にあり、すべての貯金を地道に貯めていくことを選ぶようです。このような極端な決定は、どう考えても将来の安定したマネープランとして人に勧められるものではありませんね。
選択肢の過多がもたらす3つの問題
さて、私達はこの数10年間、選択の過多が原因となり3つの負の結果を生みだしていたようです。
1つ目は、選択の決定の遅れです。その決断が最善のものと分かっていても、決定を先延ばしにする傾向にあること。
そして2つ目は、金銭面、医療面を含め、選択において最悪の決断をしてしまうこと。
そして3つ目は、客観的にはしないような決断を、自分自身で納得がいかないまま選択をしてしまうこと。
このような負の結果を生み出す大きな原因は、私達はマヨネーズやマスタード、ビネガーやジャムがきれいに並んだ棚を見ることは楽しめても、実際に比較し、違いを見極めることまで計算できないからです。
そこで本日、私から4つの簡単な提案を致します。この提案は、私たちが様々な実験にてテスト済みのテクニックで、皆さんのビジネスにも役立つことでしょう。
1つ目のテクニックは、選択肢をカットすること。昔から言われていることで、皆さん自身もおそらく何度も聞いていることかもしれません。しかし、選択肢をカットすることは、現代においてさらに大切な事実となりました。選択肢は、少ないほうがよいのです。
私達は、カットすることに対してはあまり好意的にとらえられず、余分なスペースが無くなることに不安を覚えます。しかし実際には、カットすることで、より多くを得ることが可能です。
余分なもの、重複している物はすべてなくしましょう。それにより、セールスは上昇し、コストは下がります。選択をする内容が充実するからです。
例えば、P&G社が26種類あったh&s (シャンプー)を15種類に減少させたところ、セールスは10%上昇しました。また、ゴールデンキャット社が取り扱うワースト10位の猫用トイレの販売をやめたところ、利益が87%へ増加しました。
これはセールス上昇、コスト低下、両方の成果です。典型的なスーパーマーケットでは約45,000種類の製品を取り合っていることを知っていますか?また、ウォールマートは10万種類の製品を取り扱っています。
しかし、世界で9番目に大きなリテーラーであるアルディ社で扱う製品はたった1,400種類です。さらにトマトソースに関しては1種類のみの取り扱いです。
数多くの選択肢に違いはあるのか
それでは今度は貯金と資産運用について考えてみましょう。1番分かりやすい例として、デビッド・レイブソン氏が関与したハーバード大学のプログラムの紹介をします。まず、ハーバード大学で雇用されている職員全員は、ライフサイクルファンドへ自動的に加入されます。もし自分で内容を選びたいという場合には、300種類もの長いリストからではなく、このように20種類から選べる仕組みになっています。
私はよく「重要なものが多すぎて、削減が難しい」という言葉を耳にします。その際は必ず、「それぞれの違いを教えて下さいませんか?」と聞き返します。もし社員自身が違いを理解していなければ、消費者も同じく違いがわかるはずがないのです。
そういえば今日の講演を始める前に、私はゲリーと話をしていました。ゲリーは親切にも今日のお客さん全員へ、すべての経費を負担して、世界で最も美しい道路への旅行を提供すると言いました。こちらがその場所の説明です。
皆さん読んでみてください。少し待ちますので読んでみてください。どうでしょうか? もしゲリーの提案に参加したいと思った方は、拍手をお願いします。
(会場から少しの拍手)
これだけですか? では、こちらスライドをご覧ください(笑)。
皆さんもしかして、私が何をするか分かっていましたね?(笑)
(写真の表示とともに車のクラクション)
では、今度はどうでしょうか? 旅行の提案に賛同して行ってみたい方、拍手をお願いします。予想に反して、たくさんの拍手が聞こえますね!(笑)
私からあえて何が起こったか説明すると、始めの文字だけのスライドでは後の写真と比べ、かなり多くの情報が含まれていました。しかし皆さんは、2枚目以降のスライドの写真をみて、その場所をより現実的に感じたことでしょう。
選択によって得られる成果を伝える
ここで、選択の過多に対する解決法として2つ目のテクニックの紹介をしたいと思います。たくさんの選択肢がある場合、それぞれの選択肢の違いを具体的に理解する必要があります。
またその選択によって得られる成果までも、具体的に理解をする必要があるのです。実際に人は、現金よりもクレジットカードやデビットカードの使用で15~30%多くの消費をするといわれています。それはなぜでしょうか?
カード払いというのは現金に比べて現実味がないからです。すなわち人は、お金を使うという体験をし、現実的に体験することでスムーズに貯金ができる良いきっかけとなるのです。
次にシュロモ・ベナルチ氏とアレッサンドロ・プレヴィテロ氏が共同で行った調査についてお話しします。ING社の社員全員を対象に、確定拠出年金の講演会を行ったのですが、ある講演では1つだけ内容を付け加えました。
もしより多くの貯金をした場合、自分の人生がどんなにポジティブな方向へ向かうと思いますか? と聴講者へ問いかけたのです。これにより、確定拠出年金への加入率は20%も増加しました。また、貯金額の増加、預金することへの意思も4%増加しました。
カテゴリーで分類することの効果
3つ目のテクニックは、物事をカテゴリーに分類することです。私達は選択することは苦手でも、それぞれのカテゴリーを扱うにことは思った以上に簡単にできる様です。例えば、Wegmansというスーパーマーケットにて、雑誌の棚の調査を行った例をご覧ください。スーパーの北東側に位置するこのエリア、331~664冊の雑誌がところ狭しと並んでいます。
ところがこう思うのです。
もし600冊の雑誌が10カテゴリーに分かれている場合と、400冊の雑誌が30カテゴリーに分かれている場合を比べてみた場合、きっと皆さんは後者の400冊の場合のほうが、たくさんの種類があると感じるし、買い物がしやすいと思うでしょう。これがカテゴリーに分類することの効果です。
次にこちらの2つのジュエリーを見てみましょう。
ひとつは「ジャズ」という種類で、もう一方は「スイング」という種類のジュエリーです。さて、どちらが「ジャズ」でどちらが「スイング」でしょうか? 左側が「スイング」だと思う人は拍手をお願いします。
(会場拍手)
そうですか。それでは逆だと思う方、拍手をお願いします。
(会場拍手)
先程より少し拍手が多いですね。正解です。左のジュエリーが「ジャズ」、右が「スイング」です。しかし、このカテゴリー分けは全く意味がない分け方ですよね(笑)。カテゴリーに分別する理由としては、分別する理由がなければなりません。
その理由は選択を提供する側にあるわけではなく、選択する側が必要としているのです。よくある問題として、金融ファンドを購入する際の、多岐にわたる長いリストが挙げられます。 このリストの提供者は、情報を誰に向けているのでしょうか?
選択肢の数を徐々に増やす
4つ目のテクニックです。難しい選択に慣れること。私たち人間は思ったよりも多くの情報を処理できるのです。ただし、そのプロセスを少し簡単にする必要があります。
具体的には、選択肢の数は少しずつ増やしていくべきです。1つ例をご覧いただきます。誰しもが悩むであろう車の購入についてです。こちらはドイツ某メーカーの車です。
ここでは購入者が車をカスタムメイドすることが可能です。選択肢は60種類に上り、購入者が自分の好きなようにいろいろなパーツを選択し、デザイン出来るのです。例えば車体や車内の色の種類は56種類。また、ギアについては4種類から選択します。
私はここで選択をする順序を変えてみました。顧客の半数は、56種類の色からの選択から開始し、最後に4種類からの選択であるギアの決定をします。もう半分の顧客には、逆の順序、4種類のギアの決定から開始し、最後に56種類から色の決定をしてもらいました。
ここで注目したのは、顧客が選択する過程でどの程度積極的かどうかです。選択をせず、標準設定を選ぶこともできますが、これは選択肢が多すぎて圧倒されてしまっていると捉えます。
また顧客は、選択への興味を失っているとも言えます。ここでの発見は、多くの選択肢から少ない選択肢へ進んだグループのほうが、標準設定ばかりを選ぶ傾向にありました。
すなわち顧客は選択することへ積極的でなくなってしまったのです。逆に少ない選択肢から始め、多岐にわたる選択肢へと進んだグループでは、どうにか積極的に選択を続けることが可能でした。
この2つのグループは同じ情報、同じ数の選択肢が提供されていたのは言うまでもありません。1つだけ違うのは、選択肢の提供の順序が異なりました。少ない選択肢で簡単な選択から始めることで、選択をする方法を学び、そして慣れるのです。
車のギアの選択と、色の選択は何の関連性もありませんが、頭の中で選択を決定することに慣れ、最低限の準備ができます。また選択する準備ができることで、1つ1つカスタムメイドをすることへ前向きになり、選択をすることが楽しくなり、興味を失わず積極的に選択を続けることができるのです。
良い選択をする秘訣は「選択方法」を改善すること
最後に今日のまとめとして、選択過多である現代の問題に対する4つのテクニックを復習したいと思います。
選択肢をカットする、意味のないものは削減しましょう。
具体的にする、物事を明確にし、選択に現実味を持たせましょう。
分類分けをしましょう、カテゴリーに分けることで選びやすくなります。
そして複雑な選択肢に対しては、手順を踏む。
本日紹介したこれらのテクニックは、選択する過程を上手にコントロールできるように自分にとって役立てるだけでなく、顧客に対しても同じように役立ててください。
最大限の良い選択をするには、私は選ぶ方法を選ぶべきだと考えています。選択肢を決定する過程にこだわりをもち、選択方法をえり好みすることで、その決定はより良い意味を持つことが可能なのです。本日はありがとうございました。