乃木坂46のメンバーに期待することは? レイチェル×さやわか×香月孝史が徹底討論(後編)
リアルサウンド 10月27日(月)10時6分配信
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乃木坂46『何度目の青空か?(DVD付C)』(ソニー・ミュージックレコーズ) |
ライター・物語評論家のさやわか氏、『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』の著者で、AKB48グループや乃木坂46に詳しいライターの香月孝史氏、講談社主催の女性アイドルオーディション企画「ミスiD2014」の準グランプリであり、乃木坂46の熱烈なファンとして知られる、わたしがレイチェル氏による、乃木坂46についての対談。前編【乃木坂46は今後どこに向かうのか? レイチェル×さやわか×香月孝史が徹底討論(前編)】では、乃木坂46の魅力やライバルグループであるAKB48との差異などを語り合ったが、後編では、これまでのシングル10枚についてのチャートアクションやセンターを巡る物語、注目のメンバーや今後への期待について、話が展開していった。
――乃木坂46は、セールス面でも徐々に伸びてきました。
さやわか:『夏のFree&Easy』のみ、前作比で初週の売上を落としているんですが、それ以外は基本的に右肩上がりです。その中で、『君の名は希望』のみが、“オリコン200位以内に65回ランクイン”という数字を叩き出しています。一般にロングヒットになる曲というのは単純なアーティスト人気に頼らない、本当に楽曲に力のある「名曲」でして、この曲はその条件をしっかり満たした優れたものだと言えます。ちなみに、それまでの曲が32回(『ぐるぐるカーテン』)、33回(おいでシャンプー)、23回(『走れBicycle』)、31回(『制服のマネキン』)と遷移していくなかで、急に65回にまで伸び上がったわけで、これによってグループの注目度が上昇したものと思われます。ただ、32回、33回というのも相当すごい数字で、最初から安定したグループだったというのがわかります。しかし、その『君の名は希望』でグループの方向を一つ決め、注目を集めたと思いきや、次がセンターを白石麻衣に替え、楽曲もこれまでと全く違い、疾走感のあるロック調になった『ガールズルール』が来るんですよね。想像ですが、これは名曲の後にコマーシャルなことをやってドーンといくという意図がしっかりあったんだと思います。それをやったことによって、実際に『ガールズルール』はちゃんと40万枚以上売れる結果を生みました。
香月孝史(以下、香月):コマーシャルなことをやって世に届ける役割になったんですね。
――5枚目の『君の名は希望』を基点に、グループの構図も変化しています。それまでのセンターは生駒里奈で、これ以降は白石麻衣、堀未央奈、西野七瀬、生田絵梨花と、センターを巡る乃木坂46の物語が大きく動き出します。
さやわか:『ガールズルール』はあくまでもピンポイントでドーピングしたかったんじゃないですかね。その分を『バレッタ』『気づいたら片想い』という2曲で、本来の楽曲イメージに戻そうとした。
わたしがレイチェル(以下、レイチェル):『バレッタ』で堀さんがセンターになったときは、かなり「おぉ!?」ってびっくりしました(笑)。ぬくぬく見てきたので、「これからは気を引き締めて見ないと」と(笑)。
香月:それまではぬくぬく見られてたんですね(笑)。
レイチェル:いちファンとして、自分の推しの子が選抜に入れるか入れないか、と気にするんですけど、「センターは生駒さん」という絶対的な感覚があったので驚いたんです。でも、堀さんは黒髪で清楚で、何となくベクトルが生駒さんと似ているところがあるからそうでもなかったんですけど、西野さんがセンターになったときは、全然タイプが違うのでびっくりしました。
香月:西野さんは『気づいたら片想い』『夏のFree&Easy』の2作でセンターを任されています。複数回センターを務めたのは生駒さんの他には西野さんだけですよね。一方で、次の『何度目の青空か?』は、生田さんがセンターとして活動に復帰して、いつになく期待度が高まっている。楽曲としても今作の注目度が高くなればなるほど、その直前にセンターだった西野さんが可哀想な役回りをしているように見えてしまう面もある。
さやわか:乃木坂46の場合は箱推し的に見るファンが多いせいか、「あいつがセンターになったから駄目になった。下ろせ」という感じではなく、「このタイミングでセンターやらされるのはちょっと可哀想だね」という雰囲気になるのは面白いです。
レイチェル:でも新曲を見ると、そういう役回りを経て西野さんが逞しくなっているのが見て取れて、白石さんと双璧をなす存在になっていると感じました。だから損ではあるかもしれないけど、その流れにもちゃんと意味があったんだと感動しました。
さやわか:ここ最近は、ちゃんとメンバーの面白さや強さなどを見せる方向にシフトしているような気がします。たしかに最初は曲も良くて、トータルコンセプトも含めてクオリティが全体的に高いアイドル、という感じではありましたけど、そういう部分だけではなく、個人個人に注目させることができるほどにグループとしての知名度が上がって、しかもメディアを効果的に使っているように見えます。
香月:今年の“笑い”をテーマにした『16人のプリンシパル』は、正直上手くいかなかった部分もあったと思っているんですが、よりパーソナリティを見せるような結果になったということは間違いないと思います。
さやわか:それが彼女たちの課題だという見方もあります。というのも、近年のアイドルの多くは、握手会のような接触や人の力で初動を売るというやり方をしていて、「初動は伸びるけどロングヒットにならない」というケースが多い。そんな中、今までの乃木坂46の場合は安定して30回以上チャート200位以内に残っていたんですが、『気づいたら片想い』は18回、『夏のFree&Easy』は13回と、次第に残れる回数が減ってきている。
香月:パーソナリティ優先になってしまうと、そういう人柄に触れて繋ぎ止める文脈から外れた途端すぐにチャートから落ちてしまうと?
さやわか:そうです。本人たちの露出度と曲の売れ行きがイコールになるので。「曲が良いから売れている」もの、俗に言う「名曲」って、その人が露出していてもそうでなくても、ずっと売れるんです。なので、乃木坂46にはアルバムで、「曲が良い乃木坂46」というイメージを取り戻して欲しいですね。アルバムって結局、音楽の良さが問われるものですから。ちなみに『何度目の青空か?』の今のところの推移は、初週が47万枚で、今までで一番ですね。うまく舵取りをしながら、名曲路線で初動を更新したのはうれしいですね。
――現在注目しているメンバー、これからに期待しているメンバーを教えてください。
レイチェル:基本的にはみなさん好きなんですけど、握手に一番行くのは衛藤美彩さんです。最初に握手に行ったのは、結成してまだ日が浅いころの、日替わりで5-6人のメンバーが出て来るクリスマスイベントでした。そのとき私はアイドルに全然詳しくなかったんですけど、衛藤さんに会いに行って、得意の話術に一発で釣りあげられました(笑)。
さやわか:僕はベタに生駒里奈さんです。
レイチェル:私も生駒さん好きです! 「ファン宣誓書」には生駒さんの名前を書いています。
さやわか:「公式ライバル」というだけあって、秋元康さんも差別化にこだわっていましたが、ああいうフワッとしていながら細やかで芯が通っているというタイプはあんまりAKB48にいない。彼女は漫画やボカロが好きですけど、そこが「アニメ大好き!」みたいにキャラとしてアピールする感じじゃなくて、それが単に「普通」なところがいいんですよ(笑)。もちろん、そういうものにすごく詳しい人は他のアイドルにもたくさんいるけど、生駒さんの場合はフェイバリットに『NARUTO』とかピコとかが単に並んで来るような「普通さ」が好きなんです。ただ僕としては生駒さんが兼任などの重圧に耐えていけるのか心配なんですが、AKB48グループの競争社会の中でだんだんと眉間にしわが寄っていくようなタイプでもないので、杞憂に終わると信じています。
香月:今やAKB48の選抜でもありますからね。
レイチェル:そう言われてみるとすごいですね。
さやわか:選抜に今までの総選挙などを経験していないメンバーがいきなり入り込んでいくのって、見ていて痛快ですよね。今まではAKB48グループに対するアンチテーゼ的な役割を担っていたのは島崎遙香だったと思うんですが、あれはあくまで「AKB48のメンバー内における逆張り」として存在するキャラみたいなところがあります。それに対して生駒さんは、AKB48グループの外部を感じさせるアンチテーゼになっていて、とても面白い。
香月:僕はグループ自体に興味を持ったのは、シングルに付いてくる個人PVを見たのがきっかけでした。「一人一人にこんなに手間を掛けたことをやるんだな」というところから見始めて、伊藤万理華さんが気になるようになりました。もちろん曲もずっと好きなんですけど、乃木坂46は、そういう演者としての素材を見せるような機会をそれなりに用意していて、代表的なのが舞台『16人のプリンシパル』です。その『16人のプリンシパル』で存在感を発揮しているという意味で、これから期待したいのは斎藤ちはるさんです。彼女は見た目も華やかで演技もできるんだけれど、選抜というところではずっと不遇でした。乃木坂46がより役者方面の仕事を打ち出していくと、存在感が強まるメンバーだと思います。
10月〜11月は乃木坂46メンバーの外部の舞台出演がけっこう重なっているんです。上旬に生田絵梨花さんが『虹のプレリュード』で主演を務め、若月佑美さんが前田司郎作・演出の『生きてるものはいないのか』の再々演に出演、スーパー・エキセントリック・シアターの『Mr.カミナリ』には桜井玲香さんと衛藤美彩さんが出演します。前田さんの『生きてるものはいないのか』は、出演者のキャラや知名度ではなく戯曲と演出の方に比重が置かれる、いわゆるスターシステムからは離れたもので、そういうところで活躍する人を輩出するようになったというのは48系のグループに今までなかったことなので、新鮮ですね。
さやわか:マスメディアを通じて人気を支え、CDを売っていくためにいろいろな試みをやってきましたが、小演劇場的な方向に行くというのは、マスメディアと結び付かない動きで面白いですね。そこで力をつけたら必ずテレビなどにも帰ってきますし、前田さんは旬の若い役者さんを使うのがすごく上手いので、きっと面白くなるでしょう。
レイチェル:私も斎藤ちはるさんです。見ていて華がある子で、個人PVを見ていても絵になります。あと、川村真洋さんは、ライブを見ていると「どれだけ練習しているんだろう?」と思うくらいダンスと歌がすごいので、それをどう活かしていくのか、どういうふうに開いていくのか考えたりします。それこそミュージカルをやってみたらすごいんじゃないかと感じています。
――この後、いよいよアルバムへと向かうのですが、秋元氏も『755』で情報を流しているように、新曲も一定数入るそうです。
さやわか:本当にアルバムですね! 変な言い方ですが(笑)、しかしシングルのベストアルバムみたいなものじゃなくて、ちゃんと新曲が盛り込まれるというのは今どき珍しい。
香月:シングルを10枚出していますから、アルバム分のストックはあるわけですけれど、新曲もそれなりに入るんですね。他の48グループに見られるような、同一タイトルのアルバムを何タイプか出して、タイプごとに収録曲を変えるという手法になるのかもしれません。
さやわか:なるほど。複数アイテム売りは最初からやっているので、あるかもしれませんね。ちなみに、これまではずっと4種売りでやってきてるんですけど、『制服のマネキン』と『バレッタ』だけ5種でした。それぞれ、その次の曲が『君の名は希望』と『気づいたら片想い』で、何かが起きそうな直前に5種類になっているんですよ。おそらく本当にいろいろ考えながら細かい工夫をしていて、それがこんな妙な形で数字に表れているように思います。
香月:全部試行錯誤なんでしょうね。
――いろいろと伺っていると、「AKB48公式ライバル」という看板を、ある時は使い、ある時は降ろし、という良い立ち位置を維持していますね。
香月:デビュー直後から順調に売れたのは、その謳い文句が機能したからでしょうね。ただその後、同じ形、同じベクトルを目指すという意味でのライバルでは全くないことがわかりました。その観点で言うと「何がライバルなの?」という風にも見えますが、一方で、役者として育てようとしたりしていることを考えると、AKB48と全く違う形で成功を収めることが乃木坂46にとって、公式ライバルとしての成功であるような気もします。
さやわか:同じことをやって成功するならばAKB48と同じ、ということになってしまいますからね。公式ライバルの看板をうまく使いながら、時にはおだやかに、時には実験的で目を惹くような面白い活動を見せていってほしいです。
中村拓海
最終更新:10月27日(月)10時6分
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