大手メディアから独立したテックメディア「re/code」の成功譚

大手メディアから独立したテックメディア「re/code」の成功譚

Pocket

こんにちは、nanapiマーケ室です。

今回は新興テックメディアである「re/code」を紹介していきます。

このメディアは、2014年1月1日に創業されたばかりでありながら、月間のユニークユーザー数が既に700万人を超えています(Quantcast調べ)。

これほどまでの人気を誇る一番の原因は、なんといっても創業者の2人の知名度にあります。創業者は、「ウォルト・モスバーグ」(Walt Mossberg)と「カラ・スウィシャー」(Kara Swisher)で、シリコンバレーでは最も有名といっても過言ではないコラムニストとライターの2人です。

下の写真を見たことがある人も多いのではないかと思いますが、これは2007年のカンファレンスでの一場面を写したものです(左からウォルト、カラ、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ)。彼らは2003年から「D Conference」というイベントを企画しており、そこではこのように名だたるシリコンバレーのスター達が参加していました。

jobs, gates

»“An Interview With Walt Mossberg And Kara Swisher, The Most Powerful Media Duo In Silicon Valley”

これほどまでの知名度を誇っていた2人がなぜ既存のメディアを辞め、新しくテックメディアを立ち上げたのか?

また、その新興メディアにはどのような特徴があるのか、をこの記事では見ていきます!

名前の由来

なぜ「re/code」という名前を付けたのでしょうか。テクノロジー業界は、流れがはやく状況がすぐに変化するため、ニュースもそれに合わせて変化させなくてはなりません。

そこで、”Re”という名前からもわかるように、記事を何度も「再創造」(Re-imagine)することを目指してこの名前を付けたようです。

re/codeの沿革

次に、「re/code」がどのように誕生したかについて見ていきます。

上でも書いたように「re/code」は「ウォルト・モスバーグ」と「カラ・スウィシャー」の2人によって今年の元日に立ち上げられました。2人は去年までは、The Wall Street Journalの看板記者であり、その時も共同で「AllThingsD」と呼ばれるテクノロジー分野のニュースなどを集めたサイトの運営に関わっていました。

「AllThingsD」はWall Street Journalの姉妹サイトでありながら、本サイトの技術ページよりも人気が高く、ある程度独自の裁量でサイトを運営することを許されていました。

また、「AllThingsD」のスタッフが運営していた「D Conference」と呼ばれる定期的なカンファレンスも絶大な人気を誇っていました。上の画像にもあるように、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグなどのテクノロジー分野の著名人も多くこのカンファレンスに参加していました。

しかし、2013年に入りWSJが収益性を高めるため、「AllThingsD」への干渉を強める動きを見せます。その動きに反発して、ウォルトとカラは他に何人かの同僚を連れて独立し、Revere Digitalという会社を設立します。

そこで生まれたメディアが、「re/code」です。そのため、サイトの内容はほとんど「AllThingsD」と同じになっています。事実、創業者の1人であるカラがBusiness Insiderへのインタビューで、「All thingsD」から「re/code」に変わったものは、名前だけだと言っています(もちろん冗談ではありますが)。

ただ、本人たちは名前だけしか変わっていないつもりでも、なかなかスポンサーを見つけることに苦労したようです。結局は、NBC Universal News Groupと出版社のWindsor Mediaから出資を受けることになりました。出資額は、10億から15億円だといわれています。出資は受けてはいるものの、筆頭株主は創業者の2人であり独立系のメディアであることに変わりはないようです。

そこからは、2人の知名度や記事のクオリティの高さなどの要因が相まって、月間700万人のユニークユーザーを獲得しています。従業員も現在は36人まで増えています(2014年8月)。

編集方針

re/codeの記事は、大別すると4つに分けられます。「News」と「Reviews」、「Voices」、「Video」の4つです。以下、この4つを詳しく見ていきます。

1. News

新興のテックメディアと冒頭で紹介しましたが、ニュース全般を一応カバーしています。しかし、最も強いのはもちろんテクノロジー系です。トップページで「News」にカーソルを当てると、分類が表示されるのですが、「Gaming」や「Product News」などが出てきます。テクノロジー系のニュースに比重が置かれていることが、このことだけからもわかると思います。

recode news

2. Reviews

amazon phone

レビュー記事も非常に人気があります。

たとえば以下の記事内では、記者が実際に新製品を使ってみて、わかったことが書かれています。

»「Amazon Fire Phoneは、iPhoneとSamsungに勝てるのか」

このレビューコーナーは影響力が大きいと評価され、この記事で高評価を得た製品はヒットになる確率が高く、逆に評価が低いと、悲惨な結果になりやすいとまで言われることも。創業者であるウォルトも頻繁にレビュー記事を書いています(上の記事の執筆者はウォルト)。

3. Voices

ここでは、re/codeの記者以外の記事が掲載されていることが多いです。サイトを見てみるとわかるのですが、Voices内には4コマ漫画の形式の記事も配信されており、バラエティ豊かな「声」を届けていると言えるでしょう。例えば、以下のような記事。

»Facebook Wants to Listen In! (Comic)

comic articles

また、最近日本でも4コマ漫画形式でニュースを配信するWebメディアが出てきており、このタイプのニュースの効果は気になるところです。

4. 動画

re/codeは動画にも力を入れています。

やはり動画の内容もテクノロジーに関することが多く、製品レビューの動画バージョンやスタートアップの会社にインタビューした動画などが大半を占めています。

先ほど上で紹介したアマゾンフォンのレビュー記事にも動画が差し込まれており、製品の使い心地に関して動画でも報告されています。

収益モデル

re/codeの収益源はおもに2つあります。広告と「code conference」をはじめとしたカンファレンスです。広告は、普通のバナー広告と最近、ネイティブ広告を始めました。以下では、ネイティブ広告とre/codeの特徴の1つであるカンファレンスに絞って書いていきます。

ネイティブ広告

recode native ad

今年の8月25日に新しくネイティブ広告を始めました。この広告のことをre/codeはスポンサーコンテンツと呼んでいます。下の写真にもあるようにスポンサーコンテンツにはしっかり青色のラベルで「Sponsor Content」と記され、著者の場所にも企業の名前が表示されます。上の写真だとSalesforce社の広告ということになります。(オレンジの枠は筆者による強調)

re/codeの編集者はスポンサーコンテンツ制作には関わらず、広告の枠だけを企業に提供するようです。

このように、しっかりとスポンサーコンテンツを自社の記事と区別することで読者に混乱をあたえたくないようです。

Code Conference

re/codeは、年間多くのカンファレンスを開いているのですが、年に1回大きなカンファレンスが開かれます。そのカンファレンスのことを、「Code Conference」といいます。このカンファレンスは、2003年から続いていた「D Conference」を継承するものだと言えるでしょう。

今年の5月末に、カリフォルニアで第1回目が開かれ、Googleの共同創業者であるサーゲイ・ブリン(Sergey Brin)やIntelのCEOであるブライアン・クルザニッチ(Brian Krzanich)、そしてSoftbankの孫正義社長も参加しました。孫さんはこの場でウォルトと対談し、アメリカの電波状況などについて持論を展開しました(以下参考記事画像、対談の動画もリンク先より見れます)。

son masayoshi recode

»“This Is Bull#%*t”: The Full Code Conference Video of SoftBank’s Masayoshi Son

この他にも、UberやNestのCEOなどが登壇したため、チケットはすぐに完売となりました。チケットの値段は、6500ドル(約65万円)と高価ではありますが、名だたる著名人の話が聞けるとあって購入希望者は少なくないようです。

また、年1回の「Code Conference」に加えて、月1回をめどに小規模なカンファレンスも開かれています。テーマは、「mobile」や「media」などに分かれており、直近では、2014年9月4日にニューヨークで「Code/Media」というカンファレンスが開かれ、Time社のCEOとESPNの社長などが登壇しました。なお、チケットは、1人当たり100ドルと「code conference」に比べ、リーズナブルな値段になっています。

海外ではメディアのビジネスモデルの1つとしてこのようなイベント・カンファレンスは重要視されています。日本でも少しづつ増えてきましたが、今後はますます増えてくるのかもしれません。

テックメディア業界の動向

アメリカでは近年、新興テックメディアが数多く登場しています。代表的なものでいえば、The VergePando Dailyなどがあげられます。

The Vergeは2011年に出来たメディアであり、一番大きな特徴としては「Long Form」と呼ばれるコンテンツです。このコンテンツ内では、読み応えのある長文記事を扱っています。Pando dailyはおもにスタートアップ関連に強く、徐々に人気を獲得してきています。また、Pando Dailyの創業者はもともとTechCrunchのライターでした。

終わりに

大手メディアから独立してメディアを作った2人。大手メディアに在籍していた時と今では、何がどのように違うのでしょうか。

ウォルトはBusiness Insiderへのインタビューで「AllThingsD」と「re/code」の違いについて以下のように語っています。(以下筆者訳)

見えない違いの一つに、我々は自分たちの製品に完全集中した事業を作り上げることが出来る。ダウジョーンズ(=以前の職場)、また他の大手メディアカンパニーでも同じだと思うが、従業員は自分たちが担当する製品に加えて、その他すべての製品にも影響を受ける。それは大きな違いだね。

そして、カラは

私たちは、以前とは違ったことをやっている気がするわ。以前はできなかった方法でニュースを作ることができるわ。(re/codeでは)多くの方法で少しばかりクリエイティブなサイトを作れるわね。

と言っています。

ソーシャルメディアの発展などにより、良い記事はソーシャルで拡散されることが多く、ディストリビューションの形式が変わってきました。従来の新聞社などが持っていたユーザへのリーチは独占的なものではなくなってきています。

そのため、今回のように大手メディアのブランドがなくとも、多くのユーザに読まれるメディアは増えてきています。今後、メディアから独立し、自分たちが本当につくりたいニュースメディアを運営したいと思うジャーナリストの人たちはこれからますます増えてくるでしょう。その時に、今回の「re/code」は参考になるのではないでしょうか。

参考記事

»新聞ブランドを切り捨て、記者ブランドで成功した「Re/Code」
»ニュースメディア産業は斜陽の時代に入ったのか
»マーケティング担当必見!海外WEBメディアTOP10まとめ
»AllThingsDのメンバー、新ITメディア「Re/code」を立ち上げ 5月にカンファレンス開催
»シリコンバレーで最も強力なメディア・コンビ、ウォルト・モスバーグとカーラ・スウィッシャーに聞く「Re/code」のこと
»Re/code:ベテランジャーナリストがはじめたテクノロジーメディア
»Masayoshi Son at Re/Code’s Conference Talking T-Mobile Acquisition and More
»Walt Mossberg and Kara Swisher launch Re/code news site, Code Conference series
»An Interview With Walt Mossberg And Kara Swisher, The Most Powerful Media Duo In Silicon Valley
»Re/code Gets Social With Kurt Wagner
»Re/code – New site launched by AllThingsD founders
»A New Advertising Format for Re/code

お知らせ

  • ★「nanapiマーケティングブログ」をフォロー:twitterFacebook
  • ★ nanapiの採用職種一覧。エンジニア、デザイナー、編集、マーケターなどなど

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>