藤本健のDigital Audio Laboratory
第611回
スマホからWi-Fi操作できるPCMレコーダ。TASCAM「DR-44WL」で録音した
(2014/10/27 14:08)
TASCAMから新しいリニアPCMレコーダ、DR-44WL(実売価格35,000円前後)とDR-22WL(実売価格18,000円前後)が発売された。「Wi-Fi接続対応」を前面に打ち出したこれまでにないタイプのリニアPCMレコーダだが、実際どんなことができるのだろうか? 上位機種のDR-44WLを入手したので、実際に試してみた。
高耐圧マイクやXLR/TRS搭載。録音は4chとMTRの2モード
TASCAM、ズーム、ソニー、オリンパス、ローランド、ヤマハ……と各メーカーからリニアPCMレコーダが発売されているが、どれも96kHz/24bit対応となり、差別化が難しくなってきている。これまでも各機種の性能チェックを行なってきたが、それぞれマイク性能も非常によくなってきたため、あとは大きさ、デザイン、価格で決めるといった状況になってしまっている。もちろん安く高性能な機材が入手できるという意味では、ユーザーにとって嬉しいことではあるが、新製品としての魅力が薄らいでいるのも事実だ。
そんな中、今回TASCAMが出した2製品は、これまでの機器とは異なる機能をふんだんに取り入れられ、差別化されたユニークな新製品といえそうだ。無線LAN(Wi-Fi)対応によってスマートフォンからのリモートコントロールやデータ転送ができたり、PCとの接続も可能になる。また、XYマイクを搭載しているほか、外部入力用のコンボジャックを2つ搭載し、さまざまな入力にも対応した上で最大同時4chでの入力が可能、さらにMTRモードも装備して重ね録りができるなど、かなり多くの機能を満載しているのだ。
では、まずは外観、入出力部から見ていくことにしよう。
DR-44WLはリニアPCMレコーダとしては大きめな機材であり、iPhone 6 Plusと並べてみると、縦横はかなり近いサイズであることが分かる。もちろん、コンボジャックを2つ搭載しているだけに厚さは結構あり、外形寸法は155×52.2×36.6mm(縦×横×厚さ)となっている。また、単3電池4本で駆動し、電池を入れた重さは170gあるため、持つと結構ズッシリとくる。その電池はリアパネルに入れる形になっており、設定によってアルカリ電池、ニッケル水素電池が使える。バッテリーの持ち時間はモードによっていろいろ異なるようだが、Wi-Fiがオフで、WAVの44.1kHz/16bitステレオでの内蔵マイクで録音を行なった場合、Eneloopで約13.5時間、EVOLTAで約17.5時間持つ仕様となっている。また、microUSB端子に電源を送ることで、電池なしにバスパワー駆動させることも可能だ。
その内蔵マイクは2つの単一指向マイクユニットを90度に交差させる形で組み合わせたXY方式。マイクユニットを見る限り、結構大きな径のもので、音圧132dB SPLまで耐えられるとのことなので、爆音でもしっかりと捉えることができそうだ。また物理的なノイズを軽減するために、カプセルと本体の間に設けられたゴム素材が効果的に振動を吸収するショックマウント構造になっているのも特徴だ。
ボトムパネルには2つのコンボジャックが装備されている。ここにはXLR、TRSそれぞれの接続が可能であり、コンデンサマイクを接続した場合には+48Vのファンタム電源の供給もできる。さらにLINE接続の場合は+4dBuの入力レベルに対応しているため、業務用のPA機器との接続もできてしまう。どの入力に接続するかは右サイドのスイッチで切り替えるようになっている。ちなみに、オーディオコーデックICにはシーラス・ロジックのCS42L52を採用しているとのことだ。
この外部入力、内蔵マイクに共通しているのは、入力レベル設定を右サイドのINPUT LEVELのところで調整するという点だ。あらかじめ、どの入力を調整するのかを選択した上で、まずINPUT LEVELのボタンをプッシュ。これによって入力レベル調整が可能なモードに入るので、ボリュームつまみを回していくのだ。やや重めのこのつまみは、ロータリーエンコーダーではなく、アナログ感覚の連続可変タイプ。微妙な調整が可能になっているのがポイントだ。
続いて、メニュー設定からわかるDR-44WLの機能についても見ていこう。バックライトによってオレンジ色に光るモノクロ液晶ディスプレイは、通常はプレーヤー画面になっており、再生させると、レベルメーターが動くようになっている。画面からも分かる通り、4ch分を同時再生できるようになっているが、ここでMENUボタンを押すと、各種設定画面が出てくる。操作自体は中央にあるホイールとENTERボタン、また早送り・早戻しボタンで操作できるため、マニュアルなどなくても特に戸惑うこともない。
ここでまず重要になるのがMODEの設定。4CHモードとMTRモードがあり、どちらを選ぶかで、DR-44WLの機能は大きく変わってくる。4CHモードのほうが、普通のリニアPCMレコーダとしての機能であり、MTRはその名の通りマルチトラックレコーダとしての機能。後者を選ぶと、1トラックずつ重ね録りが可能で、さらにミックスしたり、パンを振ったり、センドでのリバーブ設定ができるなど、なかなか高機能なものとなっている。ただ、MTRモードでの機能を追っていくと、かなり多岐に渡ってしまうため、ここから先は4CHモードを中心に見ていくことにする。ちなみに4CHといっても、必ずしも4CHである必要はなく、2CHでのレコーディングも可能。正確にはステレオ×2、ステレオ×1+モノ×2、モノ×4の3種類のパターンがある。
次のREC SETTINGを見ると、まずはフォーマットの設定ができるBWF、WAV、MP3から選択でき、それぞれ16bitと24bit、またMP3の場合は32〜320kbpsの間での選択が可能だ。サンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHzからの3択であり、MP3を選んだ場合は44.1kHzか48kHzの2択だ。PRE RECは録音待機状態にすると、すぐに録音スタートし、録音ボタン操作2秒前から記録する機能、SELF TIMERは録音ボタンを押した後、一定時間後から録音スタートするというものだ。
またDUAL REC機能も非常に強力な機能だ。これはWAVファイルで録音しながらMP3ファイルでも録音するという2つのフォーマットに対応するモードと、フォーマット自体は同じだがメインのレコーディングよりも少しレベルを落とした音量で録音するモードが選択できる。レベルオーバーで歪んでしまったという場合でも、後者のモードで録っておけば、大きなバックアップとして機能してくれる。
スマホとのWi-Fi接続でリモート操作や録音チェックが可能
通常は、これでレコーディングへと行くわけだが、冒頭でも触れたとおり、DR-44WLには従来のリニアPCMレコーダにはない、まったく新しい機能が搭載されている。それがWi-Fiによるコントロール機能だ。レコーディングで重要とされるマイキング(マイク位置の選定)が自由に行なえ、手の届かない場所や、観客が触れない場所などにも設置して録音できるというメリットがある。
もう少し具体的にいうと、Wi-Fiを使ってiPhoneやAndroidに接続し、リモコンとして利用しようというもの。確かにこれまでもリニアPCMレコーダのリモコンというものは存在した。有線でのスイッチであったり、赤外線を利用して録音ボタンを押せるものなどだが、これはWi-Fiを使いスマートフォンをリモコンにしてしまおうというものなのだ。iPhone、AndroidそれぞれにDR-CONTROLというアプリが無料で公開されているので、これを試してみた。
まずは、Wi-Fiでの接続方法だが、これはWi-Fiルータなどは使わず、DR-44WLとスマートフォンを直接Pear-to-Pearで接続するというもの。これによって、Wi-Fi環境が整っていない場所でも問題なく使えるようになっている。手順としてはDR-44WLの左サイドにあるWi-Fiボタンを押すと、DR-44WLが親機としてWi-Fiの電波を発信するので、スマートフォン側からこれを見つけて接続する。SSIDやパスワードは自動的に決められるが、これを確認したりパスワードの変更はできるようになっている。通信が確立したところで、アプリを起動すると、DR-44WL風の画面が出てくる。これを操作すると、録音、再生、ストップ…といった一連のリモコン操作ができるのはもちろんのこと入力レベル、フォーマットの設定など、一通りのことができてしまうのだ。
再生時に画面にはレベルメータ表示までされ、並べてみると完全に連動しているのがわかる。ただし、iPhoneなどから音が出てくるわけではなく、あくまでもリモコンなので、音が出るのはDR-44WL側。とはいえ、BROWSE機能を用いることで、DR-44WL上にあるデータを手元にダウンロードして再生するといったことはできる。ただ、現在この機能が使えるのはiPhoneだけであり、Androidは現在のところ対応していない。TASCAMに確認したところ、今後のアップデートでiPhoneと同等の機能に進化するとのことだったが、現在のところ、リモコン機能のみの提供となっているようだった。
一方、このWi-Fi機能はPCとの間でも利用可能。こちらはDR FILE TRANSFERというソフトを利用するのだが、接続の基本的考え方はスマートフォンの場合と同様で、DR-44WLが親機となって接続する。ただし、こちらはリモコンではなく、ファイル転送用。ファイル転送であれば、USB接続で簡単にできるから、あえてこれを使う必要もないが、USBケーブルが手元にない場合などには有効に使えそうだ。
現場では気付かなかった音までしっかり収録
さて、ここからは実際にレコーディングをして、その音を検証していこう。録音ボタンを押すと待機モードとなるとともに、TRACKのところが赤く点滅する。内蔵マイクでステレオで録るという場合は1と2のボタンが点灯するようにすればOKだ。ここで右サイドのINPUT LEVELボタンを押すと、画面は入力レベルの調整用のものとなり、ここで初めて右サイドのレベル調整のつまみが有効になるので、音量がオーバーしないように設定するわけだ。
この状態にして、ヘッドフォンでモニターできる形で、外に持ち出した。500mほど歩いたところにある神社でマイクを上に向けて鳥の鳴き声を96kHz/24bitで録ってみた。
ちょうど録音していたら右のほうから神社の方で、ホウキを使って落ち葉掃きを始めたのだが、その様子もしっかりと分かる。またスズメやカラス、ヒヨドリなどが頭上で鳴いているのも、その方角も含めてよく聴き取れるのではないだろうか? 録音していたときは、飛行機が飛んでいたことにまったく気づかなかったが、改めて聴いてみると、ジェットエンジン音がかなりのっている。
| 録音サンプル(96kHz/24bit) | |
|---|---|
| 野鳥の声 | bird2496.wav(22MB) |
| ※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
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ちなみに、この日は、ほぼ無風状態であったため、付属のウィンドスクリーンを持たずに外に出たのだが、ほかのレコーダと比較しても、風によるノイズを拾いやすい機材である印象だった。ガガガガガっとなる、ピークメーターが点灯するほどの風切り音ではないものの、小さい音量ながら非常に低い音でボボボボボっとなるノイズで、風が吹いているとは感じない程度のものでも拾ってしまうのだ。そこで、INPUTボタンを押して、LOW CUTをオンにしてみた。このLOW CUTは40Hz、80Hz、120Hz、220Hzと4段階あるので、一番低い40Hzをカットした結果、先ほどの低い音のノイズは完全に消えたのでDR-44WLを活用していく中で、使えそうな機能だ。
続いて室内に戻り、いつものように44/1kHz/16bitによるサウンドをモニタースピーカーで再生したものを録音した結果がこれだ。さらに、その音を周波数分析にかけた結果がこのグラフである。いまのレコーダはどれも優秀なので、極端な差はつかないが、これを聴き比べてみると、音の雰囲気の違いは見えてくる。やっぱりTASCAM製品だけあって、TASCAMの音になっており、過去に比較したものの中では、TASCAMのDR-2Dに近い音。他のメーカーでいえば、ズームやローランドよりもソニーのレコーダに比較的近いサウンドといえそうだ。もちろん、この辺は好みの問題でもあるので、ぜひ過去記事なども振り返りながら比較してみると面白いのではないだろうか?
| 録音サンプル(48kHz/24bit) | |
|---|---|
| CDプレーヤーからの再生音 | music2448.wav(11MB) |
| 楽曲データ提供:TINGARA | |
| ※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
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以上、DR-44WLについて見てきたが、いかがだっただろうか? Wi-Fiによるリモコン機能やMTR機能、DUAL REC機能など、ほかのリニアPCMレコーダにはない機能がたくさん用意されている機材だ。決して奇をてらったものではなく、非常に便利に使える機能ばかりだし、操作も分かりやすい。ただ、中には「外部入力は入れないので、もっと小さくしてほしかった」という人もいるはず。そんな場合は下位モデルであるDR-22WLを選ぶのも手。DR-22WLも96kHz/24bit対応であり、Wi-Fi機能も同じように利用できるので、検討してみる価値はありそうだ。
| Amazonで購入 |
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| DR-44WL
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