裁判員裁判:遺体写真など…衝撃的な証拠、排除広がる

毎日新聞 2014年10月27日 12時25分(最終更新 10月27日 12時59分)

 ◇裁判員のストレスや心理的負担を考慮、イラスト代用も

 事件被害者の遺体写真など見る人にショックを与えるような証拠を裁判員裁判の法廷から除外する動きが強まっている。裁判員の心理的負担を考慮し、裁判所が検察側にイラストなどに置き換えるよう求めることが多いが、イラストの提示さえ認めない例も出ている。裁判員の負担軽減は制度の導入時から議論されていたが、福島県で裁判員経験者がストレス障害となった問題をきっかけに広まりつつある。

イラスト・堀内まりえ
イラスト・堀内まりえ

 「遺体の写真は出ません。ご安心ください」。9月に死刑が言い渡された東京地裁の強盗殺人事件の公判では、検事が繰り返し裁判員に声をかけた。検察側は当初、被害者夫妻の遺体写真を証拠請求したが、地裁が難色を示し、モノクロで描かれたイラストが使われた。

 判決後の記者会見では、男性補充裁判員が「イラストでも十分残虐」と話す一方、別の男性裁判員は「イラストではイメージになる。もっとリアリティーをつかみたかった」と感想を語り、意見が分かれた。

 東京地裁で28日に初公判が予定されている傷害致死事件の公判では、遺体写真だけでなくイラストの提示も認められなかった。遺体はかなりやせた状態で、裁判員にショックを与える恐れがあったという。地裁は、解剖医が遺体の状況を口頭で説明すれば被害状況を裁判員が理解できる、と判断したとみられる。

 契機になったのは最高裁の昨年4月の通知だ。福島地裁郡山支部で同3月に死刑が言い渡された強盗殺人事件を巡り、裁判員の女性が判決後に急性ストレス障害と診断された。女性は、遺体のカラー写真を見せられたためなどとして国を提訴し、論議を呼んだ。最高裁はこうしたケースを受け、裁判員の心理的負担を軽減するため白黒写真を使うなどの方法を参考にするよう通知。東京地裁は同7月から、遺体写真が示される予定の裁判では、裁判員の選任手続きの段階で候補者に予告する取り組みを始めた。辞退が認められた例もあり、各地に同様の動きが広がっているという。

 ベテラン裁判官は「遺体写真が立証や量刑判断に本当に必要なのかを考え、裁判所はより厳密に制限するようになった。裁判員制度の開始時に懸念していた心のケアを、現実的な問題としてとらえなくなっていなかったか。福島の問題は教訓になった」と話す。

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