御嶽山噴火1カ月:足跡刻んだ遺品 あの日、夫に何が
毎日新聞 2014年10月26日 22時15分(最終更新 10月26日 22時28分)
御嶽山(おんたけさん)(長野・岐阜県境、3067メートル)が先月27日午前11時52分に噴火した時、山頂付近にいて犠牲となった長野県塩尻市、会社員、林卓司さん(54)の妻ひずるさん(53)は数日前、遺体と共に帰ってきた夫の所持品を初めて手に取った。登山前に寄った店で受け取ったレシート、登山マップ−−。噴火から27日で1カ月。ひずるさんは遺品から、夫の足取りをたどる。「最後に見た光景は何だったの?」【野口麗子】
卓司さんはあの朝、「山に行ってくる」と告げて1人で出かけた。御嶽山の7月の開山祭に合わせて同僚らと登っており、今回が3回目だった。王滝登山口(同県王滝村)から入山したとみられ、王滝頂上から剣ケ峰に至る登山道・八丁ダルミで、遺体となって見つかった。死因は外傷性ショックだった。
噴火をニュースで知ったひずるさんはすぐに、「今どこ?」と夫にメールした。返信はなかったが、当初は「気付いてないだけかも」と思った。数時間たって電話もかけたが応答がない。「もしかしたら」。夕方、ふもとの県警木曽署に向かった。物言わぬ夫と対面したのは翌28日夜だった。
「顔はきれいなままだったので、そのうち帰ってくる気がして」。葬儀が終わっても、しばらくは放心状態が続いた。現実を突き付けられるようで、透明な袋に入れられて戻った所持品の開封をためらっていた。
封を切ったのは、「どんなふうに亡くなったのか知りたい」との思いが強まったからだ。リュックの中には、道中のコンビニで買った未開封のおにぎりや菓子、山の地図には、黄色いラインマーカーで登山ルートが記されていた。「これまではロープウエーを使ったのに、今年は歩いて登ったのね」。行きしなに寄ったガソリンスタンドのレシートの時刻印字から、山頂を目指す途中、噴火に遭ったと推測できた。
卓司さんは東京都出身。大学卒業後、父の故郷の長野県の地方銀行に入行、御嶽山のふもとで支店長を務めるなどした。単身赴任生活が長かったが昨秋、関連会社に出向し、ひずるさんや今春、社会人生活を始めた一人娘との暮らしに戻った。