内科医・酒井健司の医心電信
2014年10月27日
秋も深まってまいりました。そろそろインフルエンザワクチンの季節です。
私の勤務する病院では、希望する職員はインフルエンザワクチンの接種を受けることができます。医師はほぼ全員が受けます。医師自身の防御のためでもありますが、患者さんに感染させないためという意味合いが強いです。若くて元気であればインフルエンザに罹ってもほとんどが回復しますが、高齢者の患者さんは死亡につながることもあります。
さて、インフルエンザの患者さんから、診断書を書くよう求められることがしばしばあります。その理由の一つは、診断書があれば欠席扱いにならないから、というものです。皆勤賞を狙っていた場合、欠席扱いになるかならないかは重要な違いです。患者さんが求めたら診断書は書きますが、最近、皆勤賞って必要なのかどうか疑問に思いはじめました。
無遅刻・無欠席を表彰することには、病気にならないように心掛けるようになる、ズル休みを抑制するなどのメリットも確かにあるでしょう。一方で、小学生のころから皆勤が素晴らしいと教えられることが、少々の体調不良では仕事や学校を休むべきではないという風潮の一因になっているのではないでしょうか。
過剰な勤勉さは有害です。体調不良のときは学校や仕事を休んでいいし、むしろ休みなさいと教えられるべきです。診断書も必要ないと思います。普通の風邪、インフルエンザ、胃腸炎は家で安静にしていれば治ります。症状が酷かったり、他の重篤な病気ではないかと不安に思っている場合は別ですが、診断書のためだけにわざわざ医療機関を受診するのは、医療資源の無駄使いです。
一週間程度であれば医師の診断書なく自己申告で簡単に休めるような社会が望ましいと私は思います。それではズル休みする人がでてくる? そうかもしれません。でも、ズル休みぐらいいいじゃありませんか。ズル休みを抑制するために医師の診断書を義務付けることに、コストに見合うメリットがあるでしょうか。
ちょっとした発熱でも仕事を休める社会と、頑張って働くことが美徳とされる社会。どちらが感染症に対して頑健でしょうか。インフルエンザならまだしも、エボラ出血熱のような致死率の高い感染症を考えてみてください。エボラウイルスに感染した人が、熱を我慢して電車に乗って出勤などしたら、どうなるでしょう。
軽い病気で休むことに寛容であるほうが、結局のところ、全員の利益になると思います。
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