私のブログ記事へのコメントありがとうございました。最初に、先生が実名で、私が匿名という形での応答に関してはお詫びしておきます。
以下に、先生のコメントに対する私の考え、および、先生への質問を書かせていただきますが、まず今回のSTAP騒動について、先生の関与した部分や私のブログ記事も含めて、私の理解している概要を述べさせていただきます。なお、私からの質問に対して解答するかどうかは先生のご判断にお任せしますので、必ずしも解答していただく必要はありません。
STAP騒動は、マスコミを集めて大々的に成果発表をした1月に始まりました。直後から他研究者から再現できないクレームが出ていましたが、ネットブロガーによって画像に不審な点があることが指摘され、2月下旬には不正調査委員会が設置されて大騒ぎとなりました。再現性に対する批判に対しては、3月初旬にNature Protocol Exchangeに手技解説の論文が発表されました。そこでは、STAP細胞が分化細胞由来であることの証拠とされていたTCRの組換えが、STAP幹細胞においては起こっていないことが報告され、疑惑は更に深まりました。その頃、「先生はkahoの日記」においてSTAP細胞が存在しないことを、論文で報告された次世代シーケンサーのデータ解析を基に主張されていました。存在しない細胞の作製法を記載した論文には、先生もよほど腹にすえかねたのでしょう。この論文に対して、「なめてますね、これ」と先生は述べています。そして3月7日には「残念ながら政治的には勝てそうにありません」と危機感を募らせますが、11日には「とりあえず論文が撤回の方向に進んでいるようでいくらか安心しました」と述べています。
4月1日に理研調査委員会が不正に対する最終報告書を提出・発表し、論文において画像の改ざんやねつ造(小保方氏の主張では取り違え)が認定され、論文の撤回が勧告されました。これに対して、小保方氏は4月9日に不服申し立てを行いましたが、5月7日に却下されています。小保方氏は論文撤回については、「論文を撤回すると、国際的にはこのSTAP現象は完全に間違いと発表したことになる」という理由でずっと拒否していましたが、6月4日には撤回に同意し、7月2日に正式に撤回されました。私がこのブログを始めたのは4月後半ですが、研究成果の是非は置いても、「信用性を失った論文は直ちに撤回すべき」と主張していました。5月5日付けのブログでは、論文の即時撤回と「公開実験」を提唱しています。遠藤先生は6月20日に論文をGene to Cellsに投稿し、その論文は9月21日にオンラインで発表され、10月1日に論文についての記者会見を行っています。
先生は、3月7日には「残念ながら政治的には勝てそうにありません」と述べていましたが、その状況は大きく変わりました。6月12日には、先生も少し関与した理研改革委員会の答申が出されCDBの幹部の交代が提言され、8月26日にはCDBの改組、縮小が決定されています。CDB内で非常に影響力のあった笹井氏に対しては、NHKがこの騒動の黒幕と思わせるような報道を7月末に行い、笹井氏は8月5日に自らの命を断っています。
STAP現象の検証(再現)実験は、4月7日に相澤、丹羽氏らによって開始されましたが、6月30日に、小保方氏が7月1日から11月30日まで検証(再現)実験に参画することが公表されると、7月4日には理事長を初めとする数名の分子生物学会理事が「小保方氏の実験参画の凍結」を学会ホームページ上で強く主張しました。この分子生物学会の対応については、私はこのブログで批判し、阪大の近藤理事からもコメントをいただいています。8月27日の検証(再現)実験の中間報告では、実験はまったく進んでいない状況が報告されました。
SATP騒動に関する私の立場は、8月2日の記事に以下のように書いています。
===================================
STAP騒動に関しては、科学に関与する人間の一人として、科学的合理性に基づいた手順と手法によって解明され、できるだけ早く決着することを願っている。また、その過程を通じて科学研究への信頼が回復されることも願う。
小保方さんに関しては、私は擁護派でもないし、また批判派でもない。そして、小保方さんに限らず、誰であっても不適当と思われる行為が行われれば批判するし、一方、改善されればそれ以上は批判しない。また適当な行為が行われれば敬意を示す。人の「身分」によって態度を変える気はないし、また私との「身近さ」によっても態度は変えない。
私が嫌う我が国の風潮は、「善」となるとすべてが良いということで批判が許されなくなり、その逆に、一旦、「悪」や「灰色」のレッテッルが貼られると、コンプライアンスが無視され、徹底的に叩かれるということである。この傾向をマスコミが煽っている。私が「小保方さん寄り」とも思われる意見を書いているのは、現在、彼女に対してフェアな状況が損なわれているように思うからであり、それと彼女が行った実験あるいは不正の解明はまったく別次元の話である。7月13日に「推定無罪」という言葉を使った時に、「研究界とはかけ離れた言葉の投下」という批判があったが、研究の場でも、社会の場でも、我々は「法」や「規程」を基にして活動をしているわけであり、コンプライアンスは重んじなければならない。
===================================
撤回されたSTAP論文については、以下の見解を笹井氏が亡くなった直後の8月6日のブログに記載しています。この考えが今回の先生への論文批判の考えの基本にあります。
===================================
論文撤回によって生じた疑いの無い事実は、「論文はもはや存在しなくなった」という事だ。NHKスペシャルにおいては、「もやは存在しない論文」を再度持ち出し、専門家たちは「笹井先生はデータを見る目がまったくない」と酷評したのだ。論文撤回は、特に笹井先生のようなトップクラスの研究者にとっては極めて屈辱的な出来事であり、後悔の念と責任感に苛まれただろう。その論文を再度取り上げ、一方的にそして、多くの人が視聴するNHKの番組で公然と酷評することは「死者に鞭打つ」行為に等しい。
===================================
以上が騒動の経緯ですが、次に、小保方氏の今後について私の勝手な推測を述べさせていただきます。小保方氏は11月30日まで検証(再現)実験を行うことになっていますが、それが終わる頃には、4月1日に出された調査報告書に基づいて懲戒処分を受けるでしょう。9月3日には、4月に認定された以外の不正を調査するための委員会が設置されていますから、その報告書も年内には提出されるでしょう。おそらく検証(再現)実験の結果の如何にかかわらず、来年度の契約はないでしょう。早稲田大学の博士号については、再度指導を受けた後の審査で認められる可能性はある程度あると思いますが、彼女が博士号を持っていたとしても、国内で彼女を雇用する機関はないでしょう。ハーバード大のヴァカンティ氏も麻酔科の科長職を退任し、サバティカルを取っているような状態なので、小保方氏を呼び戻す可能性はそれほど高くないでしょう。笹井氏も亡くなり、若山氏は小保方氏とかかわり合うことはもうないでしょう。つまり、彼女は博士号を失わなくても、孤立無援であり、研究する場所はおそらくないだろうということです。
さて、STAP騒動は、メディアが関わったことで騒動が大きくなりました。センセーショナルなSTAP論文の記者会見から始まった理研の何回もの記者会見。報道ステーションの古館伊知郎氏から「理研っていうのは実験回数より記者会見の回数のほうが多いんじゃないでしょうか」などと揶揄されるほどでした。そして、報道が行われる度に、社会や科学コミュニティが騒ぎました。8月の中間報告後に報道がされなくなり、やっと騒ぎが収まって冷静な雰囲気が出てきたところで先生の記者会見が開催されました。その会見の内容は、先生の論文の主題ではなく、STAP細胞の有無についてでした。科学ライターを初めとして、小保方氏に批判的な人たちは「これで決着がついた」と声をあげました。私は「研究不正」に対しては、人権を考慮しながら、ルールに従って粛々と進めることが大切だと思います。報道によって周りが騒ぎ出す事で悪影響があると思います。
さて、先生の論文に対する批判ですが、上に述べましたように、論文撤回は「研究成果は発表されていない」ということと同等だと私は思います。「発表されていない結果」を引用されて論文を発表することに問題はないのかでしょうか?また、論文撤回は著者にとって屈辱的な出来事であり、後悔の念と責任感を感じていることが普通です。笹井氏は亡くなりましたが、責任著者の一人の若山氏は今も後悔していると思います。私たちが書いているブログの勝手な意見はそのうちに消えますし、そもそも影響力自体がありませんが、先生の論文はアカデミアの中で永久に残ります。つまり、若山氏は自分のミスにずっと直面していくことになります。最近、ネット上での「忘れられる権利」に関して議論されています。小保方氏についてもGoogleサジェストが変更になったらしいことが噂されています。「論文撤回」は「忘れられる権利」の行使でもあるのではないでしょうか。
二番目は、先生の開発した手法の「有用性」についてです。記者会見で先生は「広く使用する価値があるものである」と答えていますが、私には具体的にどのようなところで使われるのかよく分かりません。その点をご教授願えればと思います。ただし、「iPS細胞化の過程で遺伝子が不安定化する可能性」の検証にはおそらく有用だろうということは、10月25日付けのブログで述べましたので、その点は私も気づいています。ただし、遺伝子型が純系のマウスの交配では利用できますが、今後問題になるであろうヒトにおいて利用可能かどうかは私にはわかりません。
三番目は「未発表」という件についてです。先生が今回論文として発表された内容は、私の理解している範囲では具体的なデータを除けば、日経サイエンスの記事とほとんどまったく同じです。日経サイエンスの記事は「理研内部資料」となっていますが、古田記者だけでは記事を正確に書くのは難しかったと思いますので、実際には内容をよく理解している人がサポートして書かれたものと推察します。総説等で未発表論文を引用することは多々ありますが、日経サイエンスの記事は詳細で正確であり、内容を「公表」しているとも受け取れますが、先生の見解はどうでしょうか?これについては、私もブログの中で「公表」「未公表」両方の可能性に言及しています。
図1Bの件で「難癖をつけられているな」とお考えのようですが、私にはそのような意図はありません。その日のブログの最初で述べていますが、「遠藤氏の解析結果の妥当性については、まったく異議を唱えていない」です。ただし、「細胞が初期化される時に、B6系統へ遺伝子の発現パターンが偏る可能性」がiPS細胞で示されているので、FI-SC作製時に「起こりうるという可能性」があるのではないかと推測しただけです。「起こりうる可能性」と、二重に「可能性」の言葉を使っていますので、表現としては極めて弱いですし、さらに直後に「勿論、これは「可能性」だけの話であり、私はそれが起こっていたとは推測していない」と否定をしています。記事の最初で「解析結果の妥当性については、まったく異議を唱えていない」と述べ、「可能性」を言及した後で、「それが起こっていたとは推測していない」と書いているわけですから、そこを読んでいただければ「難癖をつけている」ことにはならないかと思います。
「酸に晒すのがiPS化よりも過酷な条件だというのが何の根拠も示されていません」についてですが、これはSTAP現象の概念に由来します。以下は撤回されたArticleからの引用です。Holtfreter hypothesized that the strong stimulus releases the animal cap cells fromsome intrinsic inhibitory mechanisms that suppress fate conversion or, in his words, they pass through ‘sublethal cytolysis’ (meaning stimulus-evoked lysis of the cell’s inhibitory state).つまり、「細胞が破壊されそうになるほど強い刺激が加わると、それまで抑制されていた初期化機構が起こる」です。実際、酸処理後にはほとんどの細胞が死んでしまいますので、細胞にとって「強い刺激」です。
「ある簡単な処理だけで100%に近いインプリンティングが起きるのだとしたら、それこそとてつもない現象を見つけたこと」と述べられていますが、これについては、STAP現象自体が「とてつもない現象」なので、もし本当にその現象があれば起こっていてもよいのかもしれません。ただしこれは純粋に「理屈」だけの話です。
「見出した新しい現象(iPS化における対立遺伝子間のバランスの問題)について発展的に研究を進めることは一研究者として当然だと思いますが、それを私がしていないと思われた(と解釈できる)理由」と述べられていますが、私は「この問題を「将来の問題」とせずに、iPS細胞の解析を詳細に行えば、科学研究論文として十分な価値があった」とだけ述べていると思います。
“Gene to Cell”誌での論文発表についてですが、上にも述べたように分子生物学会の幹部たちは、私からは過剰に小保方バッシングを行っているように見えます。7月4日の「再現実験への参加を凍結せよ」といった理事声明や、7月末のNHKで撤回論文をやり玉にあげて細かく批判することが「日本のサイエンスの信頼を取り戻す」ために貢献するとは思えません。また深く考えた上での行動でないことは、「小保方氏の実験参画は「権利」として認められている」とある人から指摘された大隅理事長は「したがって、本人参加の実験には正当性があり、11月末までそれを見守るしかないということのようです」とブログで書いていることからもわかります(8月30日の記事を参照ください)。
時系列を確認しましたが、先生が論文を投稿されたのは6月20日であり、分子生物学会の理事が「再現実験への参加を凍結せよ」というコメントを出したのは7月4日でしたので、先生は分子生物学会の理事の考え方を知らなかったことはわかりました。
ところで先生にお聞きしたいのですが、なぜ日本の雑誌に投稿されたのでしょうか?このSTAP問題は、日本の科学者コミュニティを揺るがす大きな問題であったわけであり、ほとんどすべての人がバイアスを持つ状態になっていました。遠藤先生も、当然、それをご存知だったと思います。それゆえ、純粋に学術的な目的でSTAPに関連した論文を発表しようと思えば、外国の雑誌に投稿し、STAPについてほとんどまったくバイアスを持たない審査員に審査してもらった方が客観性を示せたのではないかと私は思うのです。前のコメントが少し攻撃的な表現だった点は謝罪します。
最後に話は変わりますが、理研は「論文は撤回されたが、STAP細胞の存在は完全に否定されてはいないとし、検証実験も続けていることから、特許取得の手続きを進めることにした」とのことです。おそらく先生も残念に思われていると思います。