JFN『ラジオ版 学問ノススメ』公式書き起こし、今回のゲストは京都大学総長の山極寿一さんです。
ラジおこしでは2014年10月第1週放送分を数回に分けて全文掲載いたします。
著書『「サル化」する人間社会』を踏まえつつ、山極先生の今の人間社会の見方について、そして家族の必要性についてお伺いしてまいります。
放送の音源はこちらからお聴きいただけます!
しゃべるひと
ゲスト:山極寿一さん(京都大学総長)
聞き手:蒲田健さん(ラジオパーソナリティ)
(以後、敬称略)
人間の祖先も元は熱帯雨林に住んでいた
山極:元をたどれば、人間が豊かで安全な森林を出たってことに起因するわけだ。
蒲田:豊かで安全じゃないところに行っちゃった?
山極:そうそう。人間に近い、オランウータン、ゴリラ、チンパンジーってのは、すべて「熱帯雨林」という場所にしか住んでないんです。
蒲田:はい。
山極:人間の祖先も熱帯雨林に住んでたと思うんだよね。それが、あるとき熱帯雨林を出ることを余儀なくされた。多分、追い出されたと思うんだけど。
で、熱帯雨林ってのはふたつの利点があって、ひとつは年がら年中食べるものがある。青い葉っぱがあるし、果実が実るし。
蒲田:はいはい。
山極:もうひとつは、木の上に登れば安全なんです。地上性の大型の肉食獣は木の上に登ってこれないからね。
蒲田:なるほど。
山極:でも、熱帯雨林を一歩出ちゃうと木もない、食べ物もない。2つ困っちゃうわけだ。
蒲田:困りますねぇ。
山極:そこで、まず編み出したのが直立して二足で立って歩くという、歩行様式。
蒲田:うんうん。
山極:こんなことをするサルや類人猿はいませんからね。これは、長い距離をゆっくり歩いて、いろんな食べ物を集めるということに適していたわけだ。手が自由になるしね。
蒲田:なるほど。
環境に適応するための「多産」と「共同保育」の関係
山極:もうひとつは、多産なんです。
つまり、逃げこむ場所がないと安全な隠れ場所に困っちゃうわけでしょ。そうすると、肉食獣に子供を狙われて殺されたと思うんだよね。
蒲田:はい。
山極:今の肉食獣だって幼児を狙うからさ。そうすると、少なくなった幼児を補強するにはたくさん子供を産まなくちゃいけない。
蒲田:なるほど。
山極:ところが、哺乳類として子供をたくさん作る方法は二通りある。一度にたくさんの子供を産むか、短期間に何度も子供を産むか、なんだよ。
で、人間の祖先は後者、つまり短期間に何度も子供を産むっていう方法を選んだ。
蒲田:1回に産むのは1~2人だけど、ってことですね。
山極:1人しか産めないけどね。
で、どういう風にしたかっていうと、離乳期間を縮めたわけ。授乳していると、お乳の出がよくなるプロラクチンっていうホルモンが出るわけ。それが排卵を抑制するから、次の子供を妊娠できない。
子供をお乳から話せば排卵が回復するわけですよ。
蒲田:ほーほー。
山極:だから、子供をお乳から早く引き離して、離乳させたんだよね。それで、次の子供を産むようにした。
でもさ、引き離したって大人と同じものが食べれるわけじゃないから、特別な食べ物を運んできてやらないといけないんだよ。
蒲田:はい。
山極:それは母親にはできないから、周囲が協力して子供に特別な食物を運んできたってことになったんだと思うんだよね。それが共同保育のはじまり。
蒲田:はぁ。
山極:共同保育ってのは、非常に由来の古いものであって、人間性の根本にあると思うんだよね。
蒲田:なるほど。まわりが一緒になって育てるって、「倫理」とかの問題なのかなって思ってましたけど、もっと前の話なんですね。
山極:人間の持ってる生物学的な性質によるものなんですね。
だから、類人猿の住んでいた、豊かで安全な森から離れてしまったことによって人間は新たな環境に適応するために特質を持ったわけだ。
蒲田:否応なく。
山極:だから、人間は繁栄したわけだ。たくさん子供を産んで、しかもだんだん安全性を高めていったから、子供が死ななくなった。だから、人口が増えていったわけだよね。
蒲田:はい。
山極:で、地球上のあらゆる場所に進出できるようになった。
「多産」ってのは人間がもっているすごく重要な特徴なの。
蒲田:人間は多産かあ。そこも、若干意外な感じがしていましたが。
山極:だって、ゴリラは5年に1回、チンパンジーも5年に1回、オランウータンなんて7年に1回しか子供を産めないんだよね。
蒲田:はぁ、そうですか。
山極:ただ、人間は年子を産めるでしょ。普通に、年子を産んだり1年おきに子供を産んだり。こんなの、ゴリラから見ればとんでもない話ですよ。
蒲田:(笑)
山極:「あんなにごろごろごろごろ子供を産みやがって」っていう(笑)
蒲田:「こちとら、きょうだいはだいたい5〜7歳離れてるのに」って(笑)
山極:そう。
もうひとつの特徴、「脳の肥大化」
蒲田:そうですか(笑)それが人間たらしめているっていう。
山極:そうです。子供をたくさん持っちゃったがために、単独では暮らせなくなったわけだよ。
なおかつ、もうひとつ重要な特徴がある。それは、森林から出たのは700万年前で、すごく古い時代で多産になった。だけど、200万年前になって、頭が大きくなりはじめた。脳が肥大化し始めた。
ところが、直立二足歩行が始まってるから、骨盤の形が変形しちゃったんだよね。
蒲田:はいはい。
山極:お皿状の骨盤になって、産道の大きさが制限されるようになった。
そうすると、頭が大きな子供が埋めなくなったのよ。予め脳が発達した子供を産んで、チンパンジーやゴリラと同じ速度で発達させれば短期間で脳が大きくなりました。だけど、小さな頭の子供を産んで、それから脳を発達させるわけだから時間がかかるわけ。
蒲田:はい(笑)
山極:しかも、脳ってすごくエネルギーを食う機関だから、身体の発育に使うエネルギーを脳に持って行っちゃたわけだよね。そのために身体の発育が遅れた。だから、人間の子供はゴリラやチンパンジーの子供と比べて身体の発育が遅いわけ。でも、脳だけはどんどん大きくなるわけですよ。
蒲田:はいはい。
山極:頭でっかちでなかなか成長しない子供をたくさん抱えることになったので、人間はますます共同保育をしなくちゃいけなくなった。
蒲田:めちゃくちゃ必然性があったんですね。
山極:そうです。
山極寿一さんのプロフィール
1952年、東京生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。専門は霊長類学、人類学。ルワンダのカリソケ研究センター客員研究員。 日本モンキーセンターリサーチフェロー。
京都大学霊長類研究所助手を経て、現在、京都大学大学院理学研究科教授。 1978年からアフリカ各地で ゴリラの野外研究に従事。類人猿の生態や行動をもとに初期人類の生活を復元し人類に特有な社会特徴の由来を探っている。著書多数。
最新刊は集英社インターナショナル『「サル化」する人間社会』
『ラジオ版学問ノススメ』について
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